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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第三十二話

 
前書き
明けましておめでとうございます。 

 
「かんぱ〜い!」

「乾杯っ!」

「……乾杯」

「ふふん……乾杯」

 普通、ここは合わせるところであろうに、十人十色ならぬ、四人四色な乾杯の音頭がNPCレストランの店内に響いた。

 まったく、なんなんだコイツ等は……とは思いつつ、俺も手に持ったジョッキ――雰囲気だけで中身はお茶だが――を目の前にある四つのジョッキに弱くぶつけた。

「乾杯」

 五つのジョッキがぶつかり合い、カラン、と小気味よい音が響いた。



 あのダンジョン内でのアラームトラップからの安全地帯への脱出から、俺たちは自己紹介もそこそこに共同でダンジョンを脱出した。
あそこはたかが中層ダンジョン、五人もいれば脱出は容易く、手早くダンジョン内から市街区への脱出に成功した。

 そして、彼女らのリーダーである武器なしの小柄な少女……《アリシャ》からお礼に奢らせて欲しい、という申し出をありがたく了承し、今に至る。

「……ぷはっ!」

 アリシャは豪快にジュースらしきものを飲み干し、机の上にジョッキを叩きつけた。
小柄な少女らしからぬ飲みっぷりであったが、不思議と明るい印象のアリシャには、とてもよく似合っていた。

「さてさて、宴もたけなわに……って、宴もたけなわって何だっけ?」

「……もっとも盛んな時期、という意味だ」

 アリシャの格好がつかない口上に、眼帯をつけた高身長の青年である《ヘルマン》が突っ込みを入れる。
……言った当の本人は、テンションを変えずにちびちびと飲んでいたが。

「まあそれはともかくとして! 私たちを助けてくれて、どうもありがとうショウキ!」

 言いながら、鍛えているのであろう敏捷値を無駄に使い、俺のジョッキにジュースを注いだ。

「どうもありが……っておい! 俺が飲んでたのはお茶だ!」

「え? あっはは、ごめんごめん。飲んだら美味いかもよ?」

 お詫びのつもりなのか、自分のジュースを入れたジョッキに、俺の横に置いてあったお茶をぶんどって迷いなく入れる。
お茶の色とジュースの色が混じり合い、何ともいえない禍々しい色になっていく。

 それを、先程のようにためらいなくグビグビと飲み干していくと、なんとも言えない苦い顔をした。

「うわ、まっず……じゃなくて、正式に自己紹介するね。私たちは商人ギルド《COLORS》!」

「おい、今まっずって……まあいい」

 俺の目の前にある、このお茶とジュースの混ざり合った飲み物の味の追求は後にするとして、気になったことを聞いた。

「商人ギルドって言ったけど、さっきはダンジョン内にいなかったか?」

「そうなのよ!」

 我が意を得たり、と言った様子で手を叩き、アリシャは商人ギルド《COLORS》について熱弁し始めた。

「私たち《COLORS》は、ダンジョン内に潜ってお宝をかっさらい、それを攻略組や中層プレイヤーに売りつける商人ギルドなのよ!」

 ババーン、という効果音が聞こえてきそうな叫びだった。
なるほど、それで商人ギルドなのにダンジョン内にいたのか。

「私がリーダーの《アリシャ》! 武器はないわ!」

「……はあ!?」

 今こいつはなんて言った!?
ダンジョン内に潜っている筈なのに武器が無い……?

「やっぱり驚くわよねぇ」

 壁にもたれかかってワイングラスで何かを飲んでいる女性から、クスクス、と忍び笑いが漏れた。

「私はスキルスロットに全部商人系と便利系で埋めてあるから、戦闘スキルは空いてないのよ」

 商人系スキルというのは言わずもがな、便利系とは《索敵》や《聞き耳》スキルのことだろう。
そういうスキル振りをしている人間は当然いるが、ダンジョン内に行くのにそんなスキル振りをしているのは聞いたことがない。

「強いて言えば、私の武器はこの大切な仲間たち。それを大切に使うのが私の戦いよ」

 そういえば、ダンジョン内でアリシャは仲間たちの指揮に専念していた。
武器もなく、《索敵》や《聞き耳》スキルなどの便利系スキルで仲間たちの指揮を行う……こんな、イカレた戦い方があったとは。

「それじゃ、まずは副リーダーの《ヘルマン》!」

「……ヘルマンだ。武器は両手矛」

 先のダンジョン内の戦いでは、しんがりを務めて最後に助けてくれた眼帯の青年。
最低限のことを言ってもくもくと料理を食べるその姿は、物静かを通り越して無愛想であったが、不思議とそこにいるという、落ち着いた存在感がその青年にはあった。

「次は、全身真っ赤な趣味の悪い仲間の《クラウド》!」

「るっせぇぞアリシャ! ……まあ、お前がくだらない自己紹介をしている間に料理は全て俺が食い尽くしてやったがな!」

「ああーっ!」

 机の上にあった山のような……は流石に言い過ぎではあるが、結構な量の料理が騒がしい真っ赤な少年の胃袋に納められていた。
先のダンジョン内での戦いでは、大剣を用いて大量の《モスブリン》をなぎ倒していた。

「おいテメェ。さっきは結果的に助けてもらったけどなぁ、あの程度の状況なら俺一人でなんとか出来たんだからな!」

 真っ赤な少年……クラウドが俺に詰め寄り、チンピラのように喋りかけてきた。
……そう問われれば、こちらも反撃とばかりにニヤリと笑って返さねばなるまい。

「見るからに駄目そうだったじゃないか?」

「ぐっ……これから逆転する予定だったんだよ!」

 クラウドが残っていたジョッキの中身をがぶ飲みし、更に騒ぎ始める。
やけ酒ならぬやけジュースであろうか。

「はいはい、クラウドの言いたいことは解ったわよ」

 壁にもたれかかって微笑んでいた女性が、やけジュースを始めるクラウドを面倒くさそうに相手をし始めた。

「やかましいわこの……」

「え?」

 クラウドが何か罵りの言葉を言おうとした瞬間、女性の微笑みが凍った。
いわゆる『目が笑ってない』状態で、何だろう、あの女性は罵り言葉を言われるのが嫌いなのか?

「あ、いや、何でも無いぜ!」

「そう? なら良いけどね……ああそう、私の名前は《リディア》よ。武器はチャクラムなの」

 こちらに振り向き、微笑みながら握手を申し込んできたリディアに握手を返す。
今度は目まで笑っていて、常に微笑んでいる女性であった。

「う~……私のご飯……」

 クラウドとリディアという、残る二人の自己紹介をしている間、ずっとアリシャは机に突っ伏していた。
クラウドに食事をとられたことが、そんなにショックだったのだろうか。

「ほらアリシャ、残っている俺のならいるか?」

「良いの!?」

 パァァという擬音が相応しいぐらいの喜びようで、アリシャは俺が差し出した皿を受け取った。
感情表現がオーバーにも程があるが、喜んでくれたようで何よりだ……若干、ペットに餌づけしているような錯覚に陥ってしまったが。

「それでね、ショウキ。ふぁなはにほのひるどにはひっへほひいのよ」

「食ってから喋れ……」

 分かりやすい食いながらの喋り方を実践してくれたのはありがたいが、残念ながら俺には聞き取れなかった。

「……『あなたにこのギルドに入って欲しいのよ』だそうだ」

 横で食後のお茶を飲んでいるヘルマンから、アリシャが言った言葉のフォローが入った。
なるほど、そう言ったのか……って、え?

「俺が、このギルドに?」

「ング……そう、その通り!」

 このギルドの目的は、攻略組があまり目を向けないサブダンジョンに潜ったり、クエストを受けたりしてアイテムをゲットし、それを攻略組に売りつけること……ならばそれは、間接的にゲームの攻略に携わっていると言えるのではないか?

 少なくとも中層ダンジョンに潜って、モンスター相手に八つ当たりするよりは……よっぽど。

「私たちは、みんなそれぞれ事情があって攻略には参加出来ないんだけど、この方法なら参加出来るわ……ショウキもそうでしょ? あんなに強いのに中層ダンジョンにいるんだから!」

 アリシャから太陽のような笑みがこぼれるが……その分見るのが辛い。
俺はただ……怖いだけなのだ。

「ね、だから……私たち《COLORS》に入ってくれないかな?」

 こうやって騒いでいても面白い連中で、悪い奴らじゃなそうだ……全員もちろんグリーンプレイヤーで、先のダンジョン内での戦いを見ていても全員信用に足る戦いっぷりだった……アリシャを除く、だが。

 どうせ別れても、中層ダンジョンで腐っているだけなのだから……この不思議な縁から入っても良いか――

「ちょおっと待ったぁ! オレはまだ認めて無いぜ!」

 話し合っている俺とアリシャの間に、クラウドの騒がしい声が挟まれた。

「ちょっとクラウド、邪魔しないでよ! 二人も何とか言って!」

 アリシャが残る二人……ヘルマンとリディアに助けを求めるが、ヘルマンは食事も終わって本を読み始め、リディアはクスクスと微笑みを返すだけだった。

「だったら、どうすれば認められるんだ?」

「へっ。聞いてくるたぁ、良い度胸じゃねぇか!」

 そう笑ったクラウドは、メニュー画面を操作し始めた。
そして、俺の元へ一つのシステムメッセージが届いた。
そう、デュエルの申請メッセージ……!

「入団テストだ! オレとデュエルしろ!」

 クラウドはそう言うと、デュエルをするためだろう、店外へ出て行った。
……まだ俺は、入るとも入団テストを受けるとも言ってないのだがな。

「クスクス……まったくクラウドはねぇ……で、どうするのショウキくん。受ける?」

「もちろん……アリシャ」

「へ?」

 突然矢面に立たされたアリシャは変な声で聞き返して来たが、別に構わずこちらの用件を伝えておく。

「さっきの申し出、嬉しかった。良ければ入団させてもらって良いか?」

「……もちろん、大歓迎!」

 俺の答えを聞いて、表情がまたも明るくなるアリシャが眩しくて直視出来ず、すっかり放置していた俺の分のジョッキを飲み干した。

「……まずっ」

 ……お茶とジュースが、混沌に混ざり合ったものになっているということを忘れていた……

 ちょっと口の中が嫌な感じに包まれたものの、気合いを入れて俺は店外へと向かった。

 
 

 
後書き
新年最初の投稿ですが……まあ、説明回です。

オリジナルキャラ、しかも複数の人物を同時に回しているので……誰が誰やら、という状況になっていないか心配です。

では、去年と同じく感想・アドバイス待っております。

今年もよろしくお願いします。
 
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