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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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35話 サイコミュニケーター 3.10

 
前書き
ちょっとずつ補正して参ります。 

 
* フォン・ブラウン アナハイム工場研究棟 カフェテリア

テム・レイとオクトバーは束の間のコーヒーブレイクをしていた。どちらも多忙だった。両者ともに席に腰かけては宙を仰いでいた。各部門で頻りにサイコミュについての改良について矢の催促で悩まされていた。

2人とも表情が暗い。寝不足のせいでもあるが、手元のナガノ博士からの資料がとても気分良い物でなかったことも原因の1つであった。

テムがコーヒーに口を付けてはぼやく。

「・・・あー。研究の継続をするにしてもこれは人が触れてはならない禁忌の領域に入りつつあるな・・・」

オクトバーもコーヒーを飲んではそれに答えた。

「全くです。ナガノ博士は強制的に企業より人体実験を行わされて発狂寸前だと」

テムは嫌悪な表情をして、再び資料に目を落とす。

「何もティターンズの真似をする必要は・・・」

「レイ博士!それはあくまで噂で・・・」

テムが手を挙げてオクトバーを制す。

「分かっとる。しかしながらこの資料を見ると奴らも満更噂以上の事をやっているように思える」

「・・・人が人を管制制御すると?」

オクトバーの問いにテムは頷く。

「ああ。こいつを科学で可能にされては使い道によっては人が滅ぶぞ」

「博士、どういうことですか?」

テムは立ち上がり、コーヒーを飲み切ってゴミ箱へ投げ入れた。そして座っているオクトバーを見下ろす。

「サイコミュが実戦配備されて、この地球圏どこでもありふれたインターフェイスとなった。通信電波の中継基地が既に地球圏全体に張り巡らされたと言ってよいかもしれん。それが危機であり、我らに矢継ぎ早の催促の終末点だ」

オクトバーがゴクリと唾を飲み込む。ナガノ博士の考える脅威をそのまま飲み込むと既に手遅れではあるとオクトバーは思った。追ってテムは言い付け足した。

「我ら科学を信じるものは事の起因が有って現状が存在する。仕掛け人がいるなこれは・・・」

オクトバーはテムの言に頭から汗が一筋こぼれた。我ら会社員は企業に従う。科学者は興味を満たせればどんな領域でも旅をする冒険者。本来はこんなことを考える必要などないはずなのだが。判断つくことなく複雑な想いだった。ただ経験からこれは危険だということだけは感じていた。

* ダカール上空 サイコアプサラス

サイコアプサラスの索敵モニター、そしてカメラ映像に近付くデルタプラスの映像が映っていた。
識別が製造されているほとんどのモビルスーツのデータが備わっていた。

エルランはそれを見て首を傾げた。

「ふむ。何故特務特機が・・・」

表記が特務機、その中でも特機。エルランは異様さを感じた。ダカールには何かが集結しつつあると感じていた。例えば、世界の動向を決める連邦議会。今回は特別なもので報道でもエルランは知っていた。大筋は合っているだろう。

自分を助けたコリニーが天下を獲り、スペースノイドを廃絶させて地球至上主義での統治下を目指していく。エルランは出世レースより外れ、ジオンに靡き失脚した。

心は連邦への憤怒しかなかった。だからエルランはシロッコの取引に応じた。シロッコはコリニーから適任役を探すように命じられていた。コリニーがエルランに欲することは究極の汚れ仕事だった。肥溜めに浸かりそこで一生を暮らすが如く、エルランの精神をより一層蝕んだ。

コリニーはこの戦争下で優れた人類が生まれていることに危惧していた。彼はとても用心深い。新発明が時代をいとも簡単に変えてしまうことは歴史上よくあることだった。コリニーはそれを信じていた。ひとが革新していくことは自分の分野、政治に関わる事。連邦はジオンダイクンを恐れた。消えない火はくすぶって現在のような事態が起きている。

「ならばそれすら支配できるような仕掛けをこの私に課した。それは忌まわしい人体実験・・・」

とエルランはこぼしたが、前部座席に座る女性は無反応だった。
エルランはその女性に命じた。

「たかが特務機だろうが単機。何ができるか。さあサハリン家の姫よ、己の役目を果たせ。目標は見えているだろう」

するとサイコアプサラスの中央の巨大な口径にエネルギーが集約し始めた。
アムロもそれを確認できていた。

「あれは北の防衛部隊を壊滅させた光。させるか!」

ウェイブライダー形態のデルタプラスにバイオセンサーの力を乗せて超巨体なサイコアプサラスへ突撃をかけていった。その場に白いクシャトリアが4体塞がった。

「やらせません!」

フィフスを始めとするムラサメ研究所のAIがアムロの往く手を阻むべくファンネルでのオールレンジ攻撃を仕掛けた。1機24個が4機分の火力飛行するアムロへ浴びせた。アムロは被害予想を感覚で読み取り、覆うサイコフィールドでは完全に防ぎきれないことを悟った。

「ちぃ。邪魔をするんじゃない!」

アムロは1機の立ち塞がるクシャトリアの目の前で飛行形態を解き、刹那ビームサーベルでクシャトリアを頭上より一刀両断にした。その動きにフィフスは目を見張った。

「早い!」

アムロは両断したクシャトリアを足場に一番近いクシャトリアへバーニアジャンプをした。
そのクシャトリアも2アクションで右肩と両足をサーベルで薙ぎ払われた。

フィフスはAIではこのモビルスーツは相手にならないと感じ、エルランへ帰投させるように願い出た。
エルランもその戦闘の様子は確認していた。

「よろしい。フィスフお前に任す」

フィフスは全てのAI機の支配をサイコアプサラスへ返した。返したといっても元々自身の周囲で自立した動きを見せるAIだった為、その受信塔を自分から離れた形であった。元々コンビネーションがあのAI機と生まれる訳ではないとフィフスも理解していた。

「ゼロは別方面で戦っている限り援護は望めないか」

フィフスは腹を括り、アムロへ全火力を持って攻撃を掛けた。ファンネルによるオールレンジ攻撃からその中心を貫くようにビームの応酬。その間にアムロに向けて一直線フルスロットルで詰め寄る。

「ハハ・・・最高のタイミングだ。仕留めたぞ特務機!」

フィフスが攻撃を掛けた目的物には攻撃が全て当たり爆発を見せた。しかしその瞬間手ごたえの無さをフィフスは感じた。

「バカな・・・残留思念だと。ここまで欺く程の能力・・・」

その直後、フィスフの背後に脅威を感じ取った。

「後ろ!」

そうフィフスが振り返った時、クシャトリアの首元をデルタプラスのビームサーベルが貫かれていた。
クシャトリアは首元部分が爆発し、フィフスのコックピット内にも尋常でない衝撃が見舞われた。

「キャア!」

フィフスはその叫びを最後に地表に向けて墜落していった。

デルタプラスは片腕が無く、ビーム兵器も持ち合わせていなかった。しかし攪乱用のダミーを持ち合わせていた。ただそれを放出して次なる行動を起こしていた。戦場は戦士が熱狂する場所。集中し過ぎて過ちを冒すことはアムロは常々経験していた。だから一つ一つの基本的な行動を大切に詰将棋の様に攻撃手順をこなしていく。その中での意思一つ一つが相手へ伝えることも大事にした。

ダミー放出するには目くらまし以上に自分が撃破されることを勘違いさせられたら最高だ。アムロは絶対にバレないマジシャンの様な技術を目指していた。理由は今の様な武装、サーベルしかない状況下での行動を想定してのこと。

アムロは呆気なく感じていた。撃墜した相手はそこそこ技量を持ち合わせていた。普通に相手にしたら手強いだろう。しかし・・・

「実戦経験の無さが助かったな」

アムロはそう呟き、サイコアプサラスへ向けて再び飛行形態になって向かって行った。
これがシャア、ランバ・ラル級の操縦者ならばこうはいかない。それがアムロにとって幸運だった。

サイコアプサラスからエルランはフィフス撃墜を見ていた。そして舌打ちをした。

「役立たずめ。時間稼ぎ以外はな」

サイコアプサラスの主砲充填が完了していた。エルランは前部座席のアイナに指示した。

「さあ姫よ。裁きの鉄槌を・・・」

アイナはその指示を無表情こなした。行為は単純だが結果が無惨だった。
アムロはサイコアプサラスを肉眼で捉えながらもその主砲の射撃も捉えていた。

「間に合わなかった・・・」

アムロは歯をきりきりした。目前を物凄いエネルギーの放出を見た。それは真っすぐダカールへとむかった。


* 連邦議事堂 予算委員会

コリニーは冷や汗をかいていた。エゥーゴ派閥の大体退出し、中立派閥、ティターンズ派閥が居残り、コリニーの独壇場になる予定だった。

ところがだ。ゴップの持ちだした連邦憲章から事態が変化した。ゴップの話と経済界と繋がり有る議員たちによる損得勘定がコリニーの持ちだした終戦へ向けての思想とその後の展開を座礁させた。コリニーは最初の内は忌々しい俗物らがと考えていたが、民主主義思想として以上以下でもない多数決の理論がコリニーを震えがらせた。

「人はシンプルに生きるのが一番なんだよ。コリニー君」

ゴップはそうコリニーへ語り掛けた。コリニーは慌てて反論した。

「それでは・・・戦争が終わらない。強権な統一連邦体制の構築を・・・」

「人が望んでいるのは今日の豊かさとほんの少し先の幸せだ。10年後までは良いだろうが、100年後までは予測など無為だよ。君らの活動は結果今日の事態を招いた。人は欲してあらゆる可能性を追い求めてこそ明日の糧となる。それを抑制しようとしたことがここにいる議員らやその応援者たちを無視したと同義なんだよ」

「あ・・う・・・」

コリニーは言葉にならなかった。コリニーは議員らの欲を利用した。そして彼らを黙らせて自分の思惑へと動かしていく。ゴップは彼らの自主性を重んじ、個人単位で考えることを促した。結果抑圧されていたフラストレーションが解き放たれて、反コリニーへと変貌を遂げた。

「極めつけはこの連邦憲章だ。将来に向けての期待。それはきっと考え方の多様化というものだ。旧時代沢山の国が存在し、それを絶妙な均衡で平和を維持していた。その時代はエキサイティングで且つフレキシブルだ。物事をシンプルに片付かない状況下が人を成長させていったのだ。」

コリニーは何とか言葉を選び、発言した。

「・・・貴方は戦争状態を容認すると?」

ゴップは首を横に振った。

「そうではないコリニー君。競争心理を抑制する君の行為が戦争状態を生んだのだよ。そこにいるマーセナス君も然りだ」

ローナンはずっと着席したまま下を向き青ざめていた。彼は親からの言い伝えで連邦が人類を管理していくことが使命と伝えられていた。その為の歴史的な連邦憲章の偽装に歴代延々と努めてきていた。それを意味することは人類への虚偽だった。まずバレることはない。何故なら証拠がないからだ。しかしゴップは何をどこまで知っているか、そのことで内心が落ち着かなかった。

バウアーもゴップの意見に賛同し、利権を求める各会派の議員たちも賛同していた。コリニーが孤立した。

「(ガルマ君も発言は立派だったが、政治とは良心で動かすものではない。最もコリニー君も彼と変わらず根底が青かったな)」

ゴップはそう解釈した。これからの宇宙・地球は様々な思想が主張し合い盛況することを彼は期待した。それが今までの人類進化の道理だった訳だから。

ゴップが連邦憲章に目を向けた時、予算委員会の会議室の壁が砕け弾けた。その瓦礫が会議室内全て圧迫し室内に居た議員らは全て圧死・蒸発した。一瞬だった。

原因は議事堂に向けた何者かの砲撃だった。それは防衛していた連邦の部隊全てが目撃できていた。
司令管制室にいたベン・ウッダーは呆然としていた。周りのオペレーター、高級士官も同様だった。

「なん・・・だと・・・」

ウッダーが何とか発した声がこの一言だった。司令管制はダカールの状況を全て捉えていた。
あの空に浮く謎の巨大な物体がまだ視認もできない遠距離からピンポイントに議事堂を炎上させた。
まぐれ当たりか偶然かはどうでも良かった。事実政治機能が損なわれた。

彼の頭の中が巡り巡った。政治機能がまず頂点で下に軍属。だから故にティターンズが特権で居られた。傍にいた副官がウッダーに確認を取った。

「我々は・・・どうすればよいのですか・・・」

「わからぬ。現状の議員の生存は?」

「エゥーゴら派閥議員は予算委員会から退席した為難を逃れておりますが、中立、ティターンズ派閥は全滅です」

ウッダーは理解した。事態が整うまでエゥーゴの天下になるということだ。しかしながら偶然ながら都合が良すぎる。あの攻撃した物体の正体は実はエゥーゴの新兵器で刺客ではないかと考えた。しかしその予想が即座に覆された。オペレーターからの知らせだった。

「ウッダー司令!あの砲撃した物体から通信です」

そうオペレーターから報告受けると強制的にメインモニターにエルランの顔が映し出された。

「お初お目にかかるかと思う。私はムラサメ研究所の所長のムラサメ博士だ。またの名を・・・」

エルランが話し続けようとしたところウッダーの怒号が聞こえた。

「貴様!ムラサメ研究所とは我々側の機関ではないか!お前のした所業が・・・」

「・・・エルランという」

エルランはそんな怒号を気にせず自らの名前を言い切るとウッダーの顔が赤から青に変わる。

「・・・エルランだと。あの味方殺しの・・・」

ウッダーがそう質問するとエルランは高らかに笑った。

「ハッハッハ。そうだ、そのエルランだ。ならばこの状況は理解できるだろう?」

「バカな!何故生きている!お前はオデッサで死んだはずだ」

エルランはクスクスと静かに笑った。

「私は私怨だが、それを互いに利用したというだけだ。私の存在はコリニーも知っていたが、奴は御しえると考えていたな。愚かなことだ」

ウッダーはブルブル震えていた。憤怒だった。

「全部隊!全火力を奴に集中させてこの世から塵一つ残すな!」

周囲の士官はその命令に素直に従った。ウッダーは首都防衛を失敗した。それも最悪な結果で。
最早その原因の排除しか彼の頭にはなかった。他の者はあの砲撃がここまで届く事実に恐怖し、目前の脅威を取り除くことに尽力しようとしていた。

* ダカール上空 デルタプラス

アムロは隙を見出せない戦闘の最中、首都部から移動中のカイからラジオ無線でサイコアプサラスの砲撃の被害を聞いていた。

「ジジジ・・・・あー、聞こえ・・・るか・・・アムロ・・・」

ミノフスキー粒子が戦闘レベルになっている為、通信がとぎれとぎれだった。しかし要点だけの会話なら問題ないため続けた。

「ああ、カイ。聞こえるよ。目の前のデカブツから砲撃を許してしまった。被害は?」

「ジジ・・・議事・・・堂の・・・一部・・・消滅・・・・ゴップと・・・・コリ・・・ニーが・・・揃って・・・殉職し・・・」

その報告にアムロが驚愕した。

「なんと!」

カイは無線を続けた。

「・・・事態は・・・急転・・・だ・・・ジジ・・・アムロ・・・・生き・・・て・・・」

「ああ、了解だ。情報の収集を頼む」

「ジジ・・・当・・・然」

両者の通信は終わった。政治機能が沈黙したことを知ったアムロは、目の前の敵をこれ以上何もさせないと心に誓った。

* ア・バオア・クー宙域 シロッコ艦隊旗艦ジュピトリス艦橋

サラがオペレーターよりある信号を受けたことをシロッコに報告した。それに頷き、艦隊の発進を命令した。

「さあ地球では政治機能が失われた。全ては愚かな現体制が招いた結果だ。これに終止符を打つべく我々も地球に向けて発進する」

ジュピトリスを含めた巡洋艦数10隻が核パルスエンジンに火が灯ったア・バオア・クーを従えて地球へと向かって行った。シロッコはその目線を艦橋窓ガラス向こうの宇宙へ馳せていた。

「(メシアがあの機体に乗っている限りは死角はない。後方にある球体の要塞が何の為なのかが測ることができなかったのが悔やむことだが・・・)」

シロッコはフロンタルの企みが十分読み切れていなかった。彼の今までの行動として、ジオンを崩壊させてサイド3を掌握した。そしてあの球体。彼があそこにいることはここまで届く気配からも確実だった。

「私はこの破壊から再生を望む。お前は一体何を望むのだフロンタル。ただ破壊だけか?」

そう呟き、傍にいたサラは尊敬する司令官に不安な面持ちで見つめていた。シロッコの見据えた先はサイド3の方面。その問いかけに答えは返ってはこない。シロッコは感じていた。その答えを彼が述べる時は人類の選択の時だと。

* ソロモン宙域 シーマ艦隊旗艦艦橋

コッセルがシロッコからの電信を受け取り、シーマへ伝えた。

「姐さん。来ましたぜ」

シーマは豪奢な艦長シートに座り、扇子を開閉していた。その動きがその報告と共にピシャリと止まった。表情には笑みが見受けられた。

「来たか。ソロモンの核パルスを点火させよ!」

シーマの指示に艦橋クルーに緊張が走った。忠実にその指示に従い、ソロモンに常駐している部隊に連絡した。

「ソロモン。エンジン点火!」

そうオペレーターが復唱すると、間もなくソロモンの核パルスエンジンに火が灯り、動き始めた。
シーマは立ち上がり、目標を指示した。

「艦隊目標は地球だ。シロッコに遅れるな!あたしらが時代を変えるんだよ!」

艦橋クルーは皆士気高揚し、艦隊は一路地球へと進路を向けた。

* ルナツー宙域 ジェリド艦隊旗艦艦橋

カクリコンがオペレーターよりシロッコからの電信を受け、ジェリドへ伝えた。傍にはエマとマウアーが控えていた。

「艦隊司令よ。来たぜ」

カクリコンがそう言うと、ジェリドはゆっくりと頷いた。ジェリドの艦隊はシロッコ、シーマと比べて小規模だった。不審な動きと見て取られれば地球軌道艦隊の一部にいとも簡単に各個撃破されていただろう。その意識を逸らすに十分だったのが連邦議会開催であり、エゥーゴ、ネオジオン、ティターンズの地球傍での睨み合いだった。

ジェリドは艦隊とルナツーへ指示を出し、シロッコ、シーマと同様ルナツーも地球へ向けて動き始めた。

その動きをみて息を飲んだ。エマ、カクリコンも同様だった。

「ジェリド・・・。私たち大丈夫かな・・・」

エマが不安そうに話し掛けた。カクリコンが息を吐く。

「はあ~。まあ悪行だな。だがこれを持ってして潮目が変わるのだ」

既にある程度は変わっていた。彼らはジェリドを信じるしかなかった。シロッコからのチャレンジに人がどう応えるのか。シロッコから言われていたことをジェリドは3人に伝えていた。

「・・・ある程度の作戦実行が済んだならば後は裁量を各々に任せるとシロッコから言われたことはお前たちにも伝えたな」

エマ、カクリコン、マウアー共に頷く。そしてジェリドはふと思ったことを口にした。

「シロッコは元々オレらを信用していない、いや期待していないようだ」

その発言にカクリコンが苦笑した。

「おいおい。期待されたからお前を艦隊司令で作戦の一翼を担っているんだろ?」

ジェリドは首を振った。

「シロッコ中将は作戦行動で最も遠い距離にある所をオレらの持ち場にした。お蔭でまだルナツーのエンジン整備が終わっていない」

ジェリドの話にエマが答えた。

「時間的に私たちが駆けつけた時は既に大勢が決しているかもしれないね」

「かもじゃない。試算したが既に終わっている。これはオレらが期待されないで外された理由だ」

マウアーが少し思案顔してぼそぼそ呟いた。

「・・・これも中将の計算だとしたら・・・」

その声をカクリコンがゾクッとした。

「おいおい・・・この大戦の後に何かあるとでも?」

「そうですよカクーラー大尉。ジェリド司令、まだあるんですよ」

マウアーの根拠のない発言にジェリドが暫し考えた。女性の感性は起こり得る事象の可能性を高く読み取ることが多いと。そしてシロッコは無駄な仕事を部下には与えない。何か理由がある。

「そうだな。オレらも準備して地球へ向かうか」

3人共頷き、各部署へ働きかけにブリッジを離れていった。

* エゥーゴ・ネオジオン混成艦隊 旗艦ラー・カイラム戦闘艦橋

ブライトは目の前の惨事に呆気にとられながらもそれに狂騒した地球軌道艦隊とエゥーゴ・ネオジオン混成艦隊が交戦を開始していたことに苛立ちと困惑をしていた。その緊張は傍に居た副長のメランも感じ取っていた。

「・・・事態が読めない。そんな状態で無駄な戦闘が続いていく」

「艦長。引き揚げることもできません。戦端が開いてしまい、当初より戦力比があるこの艦隊では何らかの機会が無い限りは・・・」

メランが戦闘継続を希望していた。現状あの爆発での地球軌道艦隊の3分の1が消滅しても尚凌駕している地球軌道艦隊の数。それを補っていたのはエゥーゴのロンド・ベルとネオジオンの熟練した兵士のお蔭であった。

それでも彼らは並列に押し寄せるさざ波を陸に上げない様に縦横無尽に飛び回って対処することがやっとだった。味方1機が10機を一度に相手をする。その弾幕は照準が合わなくても避け切るに多大なエネルギーを必要とした。

前線のケーラが唸った。

「艦長!部隊の半数がガス欠です。前線を持ちこたえる為に救援を!」

その要請を受け、メランは第2陣に出撃を促した。

「スレッガー少佐。聞いての通りだ」

「了解です副艦長。ケーラに飯を食わせて昼寝させる時間をやりますよ」

スレッガーは搭乗しているリ・ガズィの中で指令を受けた。後方にゲタを履いたジェガンが続いている。

「いいか。ここが瀬戸際だ。ネオジオンが風穴を開けるまでオレらで前線を食い止めるぞ」

「おお!」

7年通じての練達が自身の中隊の士気を高めていた。スレッガーは機体に火を入れるとワイプでアストナージが出てきた。

「少佐の注文通り、切り離し使い捨てのハイメガランチャーを乗せておきました」

「有難う。これで敵さんを驚かすことができる」

「生きて帰ってきてくださいよ」

「無論。お前さんみたいにオレも幸せを享受したいからな」

「少佐!」

「本気だぞ。フフフ、お前さんのケーラを帰還させてくるから安心して待ってな」

「頼みます」

モビルスーツの発進メインデッキの扉が開いた。目の前に闇とその奥に無数の爆発が見える。

「スレッガー・ロウ、リ・ガズィ出る!」

ウェイブライダー形態でスレッガーは発進して行った。

* ネオジオン混成艦隊 分隊 旗艦サダラーン艦橋

艦長席にランバ・ラルが着席していた。傍にはハマーンとガトーが立ち並ぶ。
ランバ・ラルがマイクを持ち、艦隊にオープンスピーカーによる指令を出していた。

「この分艦隊はネオジオンの8割を割いている。これより地球軌道艦隊本陣への中入りをする。激戦となるが、敵総旗艦ドゴス・ギアを沈めれば敵の指令系統が破壊され元より烏合の衆が更に混迷を極めるだろう。諸君らの善戦を期待する」

ラルは放送を終えると、席に背中を預け一息ついていた。傍にいるガトーが現状を報告していた。

「艦長、ここまでこちらを捕捉されず転進できております。敵の体たらくに助けられておりますな」

ガトーが微笑みながらラルに伝えると、ラルも笑った。

「そうだな。連邦正規軍などティターンズと比べれば危機管理が足りない。実戦経験の無さがモノを言う」

ハマーンがその判断に頷き、補足した。

「だがそろそろ連邦本隊の索敵圏内です。いい加減マニュアルに沿っていたスタッフが気付く頃合いですね」

ラルが頷いてハマーンを見上げた。

「先手必勝だ。我々は最大戦速で奴らの横っ腹を刺し抜く」

「成程。一撃離脱と言う訳ですね」

「唯の一撃でないぞハマーン。敵総旗艦を沈めてから通過するのだ」

「なら私のノイエ・ジールの出番ですな」

ガトーが高揚して発言した。しかしラルは首を振った。

「いや、戦艦を3体程ぶつけてやるつもりだ」

その発言にハマーンとガトーが驚いた。そしてガトーが答える。

「特攻ですか!」

ラルは笑った。

「ハッハッハ、バカな。無人にして突っ込ませるよ。兵士の命は戦艦1つでは買えんからな。そんな価値のないもので最高の結果を得られるのだ」

ハマーン、ガトー共に考え過ぎたことに反省していた。ラルはそんな2人に命令した。

「さて、君らにそろそろ先発してもらう。先陣はガトー中佐」

「はっ!」

「第2陣でハマーン」

「はっ!」

2人とも敬礼し、モビルスーツデッキへと走って出ていった。
ラルがそれを見送ると呟いた。

「しかしながら・・・」

かの出ていった2名のパイロットの他に昔ながら付いてきているクランプや妻のハモンも近くにいた。
その呟きをクランプは遠くながらもオペレーター席にて聞こえていた。それについて反応した。

「しかしながらとは?」

クランプは振り向きラルに問うた。ラルが古参の反応に素直に喜んだ。

「フフフ・・・クランプ。気付いておるだろう?」

クランプは微笑を浮かべ、ハモンも2人のやり取りに「成程」と呟く。

「戦場は動いております。そんな戦場で自動操縦で突撃など・・・」

ラルはクランプの言に頷く。

「その通りだ。古き悪しき、そして確実な戦術だ。あの若造共に大人のズルさを学んでもらうとしよう」

ブリッジのクルー全てに爆笑が起きた。このブリッジにいるスタッフが全てラルの昔ながらの部下、仲間たちだった。彼らはラルを慕い、同じ飯の窯を共にしてきた。ラルが往くところはなんとやらだ。

* ダカール上空

サイコアプサラスは攻撃してくるアムロのデルタプラスを軽くあしらっていた。
機体が擁するサイコフィールドの厚みが桁違いだった。アムロは幾度もデルタプラスでの突貫を掛けたが、バイオセンサーの開放でもサイコアプサラスの装甲まで辿り着いて薄皮1枚剥がしていける程度だった。

アムロは前進してくるサイコアプサラスのガス欠を一瞬待つことを考えたが、サイコアプサラスの攻撃軌道はすべて街へと向いていた。明らかに無差別攻撃だった。民間人は議会開催に応じて疎開済みで人的被害はないが、住む場所、働いて暮らす生活をこの攻撃で破壊される。その事を考えると心が痛む。戦時とはこうも非情なものであるとアムロは知っている。アムロはカミーユの言を思い出していた。そしていら立っていた。

「・・・確かに単機でどうのこうのできる相手ではない。だがお前みたいに損得勘定出来るほど大人に徹することはできやしない!」

アムロは考えていた。この世界は全員が良く考える。とてもいい傾向だと思っていた。しかし時に何か大切なものをないがしろにしていることがある。それは敵味方両方だ。

「友軍はどこに・・・」

アムロはサイコアプサラスの進軍を妨げながら周囲を見回していた。未だにゲリラと戦う連邦軍、エゥーゴ、ティターンズの姿が見て取れた。中にはサイコアプサラスに向けての地上からの砲撃も見て取れた。

「火力が足りなさすぎる。あの攻撃で指揮系統が壊れたのか」

そう思考しながらもデルタプラスをもう何度目か分からないぐらいのウェイブライダー突貫を仕掛けた。ガス欠を狙っていた考えを捨てたアムロがガス欠になりそうだった。

デルタプラスが再び赤い光に包まれた。巨大なサイコアプサラスの左翼に目がけ突撃を掛けた。この攻撃で左側に風穴を開けてやると意気込んでいた。その動きをエルランも見抜くと言うより、そもそも巨体な機体への攻撃はどこに仕掛けるかなど一目瞭然だった。それ故に防ぐ為の用意さえ周到ならば容易な話だった。

「また来たか。だから故の装甲なのだ。巨体の欠点を利点に変えることが難攻不落となる。今ならば核の攻撃すらもろともしない」

エルランはアイナに命じ、左翼のサイコフィールドとI・フィールドシステムのレベルを上げた。
アムロも承知で飛び込む。機体の至近で青白い光が弾け散っている。デルタプラスがサイコアプサラスの防護壁にめり込む。後方のスラスターは全開で火を噴いている。

「これでも・・・ダメか」

アムロが悲観していた時、無線が入った。アムロにとって待望の友軍だった。

「アムロ中佐!遅れてすみません」

「遅いぞ!カミーユ」

Zガンダムもウェイブライダーでアムロの後背より突撃を掛けてきた。更にあと2機カミーユの後方より続いていた。アムロにその2機より無線が入った。

「コウ・ウラキ、チャック・キース、後詰します!」

「ここで活躍し損ねた汚名返上だー」

ZⅡ2機もウェイブライダーで突撃態勢だった。アムロは燃料ゲージを見た。次のフルスロットルが最後となると理解した。

「さあ、行くぞ。3人とも!」

4機とも赤いオーラに包まれ、サイコアプサラスの左翼の防護壁へぶち当たった。4機の突貫力はサイコアプサラスの左翼の全ての防護フィールドを破り、サイコアプサラスの左翼に大きな穴を開けることに成功した。

貫いて行った4機はそのまま通過し、アムロはカミーユへ自機の燃料について伝えた。

「カミーユ、オレの機体はガス欠だ。一旦補給に戻る。お前たちはこのデカブツを足止めしろ」

「了解です。行くぞコウ、キース」

「はっ」

「アハハ・・・このデカいの穴開けてやったのにまだ余裕みたいだ・・・」

アムロはUターンして彼らの母艦ラー・アイムへと機体を向けた。
穴を開けられたサイコアプサラスは空中で一旦静止していた。エルランは現状を確認した。
あらゆる損傷データを元にエルランは戦闘継続を決めた。

「・・・大丈夫だな。損傷率10%ならまだいける。しかし・・・」

エルランは手を顎にやり、先ほどの攻撃を振り返った。

「束になるとあそこまでの威力。サイコミュとは未知数とは感じていたが・・・。我々も協力し合えねば連邦を敗北させることは困難か」

エルランは左の操作パネルで前線で戦っているゼロを呼び出した。

「お呼びですかマスター」

「ああ、このダカールを陥落させるにはこのサイコアプサラスの戦力が必要だ。お前のゼロたる所以を見せる時だ。この周りに這い回る蚊トンボを撃ち落とせ」

「かしこまりました」

ゼロのクシャトリアがダカールのいくつもの守備隊を壊滅させてからサイコアプサラスの空域へと戻っていった。

カミーユはサイコアプサラスの巨体に圧倒されていた。彼程の視点が有れば敵機体の特徴が良く理解できた。それ故に・・・

「弱点が見当たらない」

防御機能が完璧すぎた。アムロが仕掛けていた戦法が効果的と読み、コウ、キースへ伝達した。

「よし。ウェイブライダー突貫で行くぞ!」

「はっ!」

「了解です」

3機とも塊でサイコアプサラスへ突撃態勢を取ると、その3機に割ってエネルギー波を放たれていた。
ゼロがサイコアプサラスの空域に戻って来ていた。

「これ以上はマスターをやらせん。インド洋の不始末を付けてやる」

ゼロはカミーユの機体を見て思い出していた。あの時はサード(ユウ・カジマ)の覚醒で不覚を取った。今回は奴の気配はない。それでもサードに劣る事ない技量を備わっていると自負していた。

その自負は事実、カミーユたちの攻撃を1撃であしらうことで実証された。カミーユらは散開し新たに現れた敵の援軍に対処せざる得なかった。

コウはその敵のプレッシャーを肌で感じていた。こいつは危険だと。

「キース!単機で挑むなよ。連携して追い込んでいくぞ」

「コウ、分かっているさ。離れても分かる奴の強さが」

2人の無線を聞いていたカミーユも頷く。

「離れてるのに分かる圧力(プレッシャー)。普通じゃない。それに・・・」

カミーユは別方向の砲撃を避けていた。サイコアプサラスからの攻撃だった。サイコアプサラスの周囲には無数のビットが浮いていた。エネルギー波を出せば、接触すると機雷にもなっている。厄介な武器だった。

「コウ!キース!主砲の射程内にも入らない様に気を配れ!」

そうダカールを焼いた火の射程に入ることはこの世からの強制退場も意味してた。コウ、キース共に頷き、引き続き戦闘を継続した。

* ダカール上空 ラー・アイム空域

ラー・アイムはダカール上空にて4方向から攻めるゲリラの防衛のための情報中継基地として浮いていた。そこに燃料切れ寸前のデルタプラスがやって来た。

「オーライ!アムロ機が着艦するぞ!」

メカニックチーフがデッキ内で部下に叫ぶ。誘導灯を振る誘導員がアムロの乗るデルタプラスへ合図を送っていた。合図を見たアムロはラー・アイムのモビルスーツデッキへ進入していった。

アムロは無事着艦をし、休憩の為コックピットから出てくるとルセットがアムロへ歩み寄ってきた。

「アムロ中佐」

ルセットが手を振り声を掛ける。アムロはそれに気付き、何か用事があるのかなとルセットへ指差し近場の自販機へと促した。

アムロが栄養ゼリーを自販機から選び、飲み始めた。ようやく傍に来たルセットはアムロへタブレット端末を手渡した。アムロはゼリーを吸いながらその画面を見た。そこには父親のテム・レイからのメッセージとサイコミュの研究の最新情報とそれについての問題点が添えられていた。

「・・・で、サイコミュは危険だと?」

「ええ、<サイコフレーム>は不安定因子があると。中でも人の心に作用するので人自身を支配できる可能性がある。その力に上限がないと・・・」

ルセットは不安そうな顔をしていた。アムロは栄養ゼリーをチューブでギューと吸っていた。

「科学者が研究の先に怖気づいてしまったか」

「笑えません。私も頭ではわかっていてもこのサイコミュによるビットコントロールは異様です」

「そうだな。いくら作用する物質が有っても脳波でそれを刺激できるなど不思議だよな」

ルセットはアムロの言に頷いた。アムロは栄養ゼリーの空容器をゴミ箱へ捨てた。

「この8年間。この時流と共に生きてきた。全てに意味があり今がある。友人との話での受け売りだが、一つはこの技術だと思う」

ルセットはアムロを訝し気に見た。

「・・・それはニュータイプとしての考えですか?」

アムロは微笑した。

「オレはそんな大層なものではないよ。人類がオレが考えるニュータイプへと進化できれば現状になってないさ。皆各々の正義を信じて動いている。ただそれにサイコミュというものが自然と関わってきている」

「中佐が考えとは?」

「人類は宇宙に出た。その事はこの地球と言う小さな鳥かごから無限の可能性のある世界へ飛び出したのさ。宇宙は様々な考え全てを許容できる器だ。しかしまだひよこで帰属意識がこのオレでも根強い」

「地球恋しさですか・・・。普通にそう思いますね。母なる地球ですから」

ルセットがそう言うと、アムロがルセットに指差した。

「それさ。その考え方が現在左派、右派と極端なんだ。それを捨てきって時代に身を委ねていける余裕が有ればいい。それが現状で考えるオレのニュータイプ論だよ。それをやはり左派、右派がサイコミュにもてあそばれている」

ルセットは思案顔をした。アムロも腕を組んで考えていた。ルセットが思いついたように一言。

「・・・人は役立つものを受け入れたがります。商売するものにおいてそれが目的では?」

アムロは頬を抓られた様な感覚だった。

「そうか!カイが喜ぶ。オレの違和感は技術発達。ひいてはサイコミュの異常発達。これをメリットと感じる奴が世界の正体か!」

ルセットはアムロの言葉にキョトンとなった。全く理解していないようだった。
アムロは自分で発した途方もない意見に我に返り、「すまない」と一言詫びを入れて補給について尋ねた。

「あと5分で終わります」

「そうか有難う」

そう言ってアムロは操縦席へと戻っていった。
アムロは操縦席にて無線回線でカイへと連絡を取った。

カイはダカール市街地から離れたホテルでミハルと部屋を取っていた。
通信が入るとその着信名に横たわっていたベッドから起きて、机に座った。ミハルは買い出しの為外出中だった。

「カイだ。どうしたアムロ?」

通信回線が開いたことでコックピット内のモニターにワイプでカイの表情が映し出された。

「ああ、世界の違和感についてだ。オレが知っていることより遥かに技術革新が進んだ。それもサイコミュについてだ」

カイは首を傾げた。

「まあ、お前らにとって便利なものだからな。オレの違和感はそれもある。それで?」

「オレが異常と感じるものがサイコミュだ」

カイはアムロが訴えたいことを直接的に言葉で読んだ。

「その異常は不自然だと?」

「ああ」

「なら人為的だな」

「そうだな」

「それを目的とすることは?」

アムロは父の危機感を伝えた。カイは暫し悩んだ。そして口にした。

「・・・人為的に、人の感性・感情を支配、管理下に置くことができる、その可能性がある。サイコミュが発達し続ける限り・・・」

「ああ。このサイコミュを世に送り出しては好奇心の種を撒き続けているものがいる。そいつが考えているものは・・・」

「人類の意思の強制統一。最早自我などない世界」

アムロはそうだなとカイに言った。カイは首を振った。

「バカな。自我がなくなったら文明は停滞する。人類は滅ぶぞ。それよりもまずどうやって・・・」

アムロは1つ見解を述べた。

「サイコフィールドシステムを地球圏全体に構築する。それを持ってして全員に催眠を掛ける。親父のサイコミュの可能性の仮説が正しいならばそうなるだろう」

カイは唸った。仕掛けている者の仕業でその意味することとは・・・。

「人の可能性に絶望しているとしか」

アムロは前時代のシャア以上の絶望をもって敵は人類に挑もうとしている。そう予想した。
無線音声でメカニックから補給完了の知らせが届いた。それを聞いたアムロは再び出撃をブリッジに申し出た。

「シナプス艦長。出撃許可を」

ブリッジにいるシナプスはモニターに映るアムロを見て頷いた。シモンが発進許可をアムロに伝えた。

「中佐。カミーユたちの援護をお願いします。中佐にお供を付けますので」

シモンの随行員の知らせにアムロが首を傾げた。

「お供?」

するとアムロと並列してZⅡが1機現れた。シモンが説明した。

「ユウ・カジマ大尉です。腕は確かなので力になれると思います」

「そうか、了解だ。頼むぞカジマ大尉」

「・・・」

アムロの問いかけにユウは応えない。シモンが補足した。

「彼は無口なので許してあげてください」

アムロは頷いた。

「人は色々あるからな。発進正面オールクリアで良いか?」

「はい。どうぞ!」

「アムロ、デルタプラス出るぞ!」

アムロは発進したが、未だカイとの通信が生きていたのでカイに通信を終わらす旨を伝えた。

「カイ。取りあえずダカールの始末を付けてくる。話はその後だな」

カイも息を付いて、手元にある資料を見ながら「そうだな」と一言言って通信を切った。

こうして2機のウェイブライダー機体がラー・アイムを飛び立っていった。その後、ラー・アイムの空域にネェル・アーガマがやって来た。というよりも何かから逃れるような慌ただしさでラー・アイムの空域に逃げ込んできた。

ネェル・アーガマからラー・アイムへ緊急通信が入った。シナプスはスコットへ索敵監視を命じた。その結果・・・

「艦長、ネェル・アーガマ後方より反応1機だけです」

シナプスは首を傾げた。取りあえず通信をうけた。

「いかがした?ヘンケン艦長・・・!!」

通信を受けたラー・アイムのメインモニターにネェル・アーガマの艦橋が映し出された。そこには艦長席に座ったままのヘンケンらしき人物が瓦礫に埋もれた残骸となっており、頭から出血しているバニングが映っていた。艦橋は至る所が破壊、破損していた。

「・・・シナプス艦長・・・」

バニングが満身創痍な状態でシナプスに語り掛けた。シナプスは落ち着いて話し掛けた。

「バニング君・・・一体・・・」

「全力で・・・逃げてください・・・北の防衛隊は全滅。モビルスーツ隊は全員行方不明。モンシアが戦死しネェル・アーガマは直接的な攻撃を受けて・・・。ヘンケン艦長が・・・」

シナプスは肉眼望遠でネェル・アーガマを映すように告げた。そのモニターに映し出されたネェル・アーガマを見てパザロフが一言。

「こいつは・・・惨い」

損傷していないところがない程の、飛行しているのが奇蹟とも思えるぐらいの損傷率で飛行を続けていた。その後ろに青白い光の壁が押し寄せていた。それを目の当たりにした直後2機のモビルスーツが更に上空よりラー・アイムに突然張り付いてきた。再びラー・アイムに揺れが走る。当然のことながらシナプスが叫ぶ。

「今度はなんだ!」

するとその答えが直ぐに返ってきた。

「艦長。アレンです」

無線でアレンが知らせてきた。シナプスは安堵し、アレンに状況説明を求めた。

「ネェル・アーガマは一体どうなっている?」

「私と傍のクリスティーナ・マッケンジー中尉はゲタで出撃しておりました。目的はあの光の壁を作るモビルスーツの討伐です。しかしながらとてつもないサイコフィールドの膜ではじかれて、その後ネェル・アーガマに接舷されました。そのモビルスーツの中から別人となったダグラス将軍が出てきたそうです」

「ダグラス将軍だと!あの英雄が何故・・・」

「その辺は不明なので端折りますが、彼が医務室よりある満身創痍な患者を攫いました。傍に居たキキというものの証言です」

すると、バニングの傍に居たキキがモニターに映り出てきた。凄く憔悴していた。

「・・・あたしが守り切れなかった。あの軍人はカレン、エレドア、ミケルをいとも簡単にダウンさせてその場を去ったんだ・・・」

キキが発言し終えるとアレンは再び話し始めた。

「第2波で出撃を控えていたモンシアが将軍を止めようと必死に喰らい付いたのですが、その取り付いた黒いモビルスーツの目の前でモンシアと相打ちになったそうです。傍にいた部下の情報ですが・・・」

シナプスは眉を潜め、当然の質問をした。

「では、何故あのモビルスーツが砂嵐のような状況を起こし、こちらへ迫ってきているのだ。乗り手がいないではないか!」

アレンは口にするにも不可解な出来事をシナプスに説明した。

「将軍が倒れたときその満身創痍な患者も床に倒れました。その後、その黒いモビルスーツはひとりでにその患者を拾い上げ、コックピットへ導いたそうです」

シナプス含め、全ブリッジクルーは目がテンになった。有り得ない。AI機能もそこまでは発達しているとも聞いたことが無い。まず動けるとしても5体満足なダグラスを拾い上げてモンシアを排除する方が道理だ。しかし判断は病人を収容したということだ。

「あとはあの光の壁が起きました。アレが戦場全てをズタズタにした原因です」

シナプスは聞く質問を失った。ブリッジにいる皆解答が不明、これ以上の質問も不明。人智で及ばぬ出来事が起きているという認識で一致していた。ただ押し寄せてくる波はとてつもない斥力の嵐でネェル・アーガマを撃沈寸前にさせるほどの脅威であること。

シナプスは専門家に聞くことにしながらも戦場の移動を部隊に命じていた。ラー・アイムもサイコフィールドの波から逃れる方向へと移動を開始した。それはアムロが向かうサイコアプサラスの戦場でもあった。

「前門の虎、後門の狼か・・・」

シナプスが恨み節で独り言をつぶやくと、モニターにルセットが映った。シナプスは彼女が映ったことにより期待して質問を投げかけた。

「・・・ということなんだ。何か参考意見を聞かせてもらえんか?」

モビルスーツデッキに居たルセットは腕を組み顎に手を当てて考え込んだ。暫くして答え始めた。

「全てサイコミュによる仕業ですね」

「サイコミュだと?」

シナプスが驚きを持って発言するとルセットが頷いた。

「ええ。先日テム・レイ、ナガノ両博士から届いた警鐘が有りまして、その手の力の上限がないと。今回の事象も起こすインターフェイスが有って起きた出来事です。斥力場と青白い光がサイコフィールドの、この場合は暴走というべきか、起きているのです」

シナプスはその返答に打開策の提案をルセットに投げかけた。するとルセットは首を振った。

「分かりません。強いて言えば、天気のようなものです。アレは台風だと思えば」

「ルセットくんの見解はその後威力が弱まり収まると?」

「そうですね。現状知る科学では、サイコミュニケーションシステムも同様、力が無限というものはこの世には存在しません」

シナプスはルセットの意見に頷いた。

「成程。良い処方箋が見つからない限りは逃げるのが得策だな」

「はい。この現象もフォン・ブラウンへ連絡しておきます」

「頼む。貴重な意見を有難う」

ルセットは一礼をして通信を切った。シナプスは操舵手のパザロフに指令した。

「聞いての通りだパザロフ」

「了解です艦長。進路を、戦場をあの巨体の方へ移動します。上手く行けば・・・」

パザロフが言いかけたことをシナプスが付け足した。

「この台風をあの巨体へぶつけることもできるやもしれん。先方のアムロ、カミーユにもその旨伝達しておけ」

スコット、シモン両オペレーターが頷く。シナプスは追加、シャトルをネェル・アーガマへ向かわせ生存者と負傷者の回収をクルーに命じていた。いつ沈没するか不明な、近いうち沈むであろう船に友軍を残したままにしておくわけにはいかなかった。

かくして、宇宙・地上とも時代の舵取りが不在のまま戦いは集束することなく続いていく。
 
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