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黄鶴楼 

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第三章

「洪武様、永楽様の頃はね」
「及第して朝廷に入りましても」
「何時どうなるかわからなかったよ」
 それこそというのだ。
「お二方の時は」
「帝のご気分次第で」
「そうなっていたよ」
 洪武帝、そして永楽帝は優れた皇帝だったが猜疑心の塊だった。その為少しでも怪しいと思った者は次から次に一族はおろか三族五族挙句は十族皆殺しにしていた。劉もその話を知っているからこそ言うのだ。
「及第して朝廷に入っても」
「そうでしたね」
「けれど今はね」
「明朝も落ち着いて」
「そこまでは至っていないよ」
「だからですね」
「殿試まで及第して」
 そしてというのだ。
「是非北京に行きたいね」
「お励み下さい」
 辛も若い主に微笑んで言う。
「気分転換もしながら」
「そうだね、しかし歩くと」
「それだけで、ですね」
「かえって学問がはかどるよ」
「学問ばかりでも」 
 それでもとだ、辛は劉に言った。
「何か煮詰まってしまいますから」
「毎日朝から晩まで書を読み書いていてもね」
「気が滅入りますね」
「少し前の私は実際にそうだったからね」
「ですから」
「華陀が言っていた様に身体も動かしてだね」
「やっていくといいと思います」
 こうも言うのだった。
「そして黄鶴楼にも」
「今からね」
「登りましょう」
 こう話してだ、実際にだった。
 二人は黄鶴楼に来た、その時にはもう周りは白くなっていて日が今にも登ろうとしていた。その中の黄鶴楼を見上げてだった。
 劉は感慨を込めてだ、こうしたことを言った。
「いや、はじめて観るけれど」
「如何でしょうか」
「見事なものだね」
 こう言うのだった。
「黄鶴楼は」
「高いですね」
「高いだけじゃなくてね」
 その何層もの壮麗な楼閣を観ての言葉だ。
「奇麗だね」
「はい、屋根もですね」
「五層でしかも色も」
 黄鶴楼のその色もというのだ。
「黄色、金色というか」
「金色にも見えますね」
「この世にあるとはね」
 とてもというのだ。
「思えないところがあるね」
「それがこの黄鶴楼です」
「成程ね、これまで遠間では観ていたけれど」
「傍で観ますと」
「全く違うよ、では今から中に入って」
 そしてというのだ。
「最上階から周りを観るよ」
「それでは」
「辛さんも来てくれるかな」
 微笑んでだ、劉は辛に顔を向けて言った、屋根が五層もある金色にさえ見える美麗な宮殿にさえ見える楼閣の下で。
「一緒に登ってくれるかな」
「いえ、若旦那様だけで」
「僕だけでだね」
「お登り下さい」
「そうすべきなんだ」
「はい、そうした方がいいと思いますので」
「それはどうしてかな」
 劉は辛の今の言葉には首を傾げさせて問い返した。 
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