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英雄の失態

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第一章

                 英雄の失態
 ナポレオン=ボナパルトが流刑地として送られていたエルバ島から脱出しフランスに戻った、すると彼は瞬く間にだった。
 パリまで一戦も交えることなく、それどころかフランス王が送った討伐軍は次々と彼に投降してその軍に入ってだった。
 堂々と街宣した、その状況を見てそれまでウィーンであれこれとナポレオン後のことを話していた諸国の代表達はまさに仰天してだった。
 慌ててそれぞれの国に戻り対策を講じにかかった、フランス王は自分の国から脱出し国民達は彼を彼が好きな菫の花でパリを飾って出迎えた。
 またナポレオンの時代が来ると殆どの者が思った、しかし。 
 彼の下で外相を務めていたタレーラン、警察相を務めていたフーシェは二人で密談の話を持った、ここでまずはタレーランがこう言った。
「まず一つ言っておく」
「何だね、一体」
「私は君が嫌いだ」
「それはいい、私も君が嫌いだ」
 フーシェも負けじと返す。
「それも心の奥底からな」
「そうか、そこも同じだな」
「そうだな、全く以て気が合う」
「お互いに嫌い合っているということにおいてな」
「その通りだな、もっと言えばだ」
 フーシェはタレーランにこうも言った。
「これから話す人物よりもだ」
「私達はお互いを嫌っているな」
「まず言う、彼は英雄だ」
 フーシェははっきりと言い切った。
「この上ないな、しかしだ」
「今の彼の存在はフランスの利益になるかどうか」
 淡々とさえしてだ、タレーランは言った。
「それが問題だ」
「彼は英雄だが最早フランスの利益にならない」
 フーシェも淡々としている、互いに嫌い合う二人は息は合っていた。少なくともこの密談の時はそうであった。
「おかしくなっていた、しかしだ」
「今の彼は前と比べて」
「さらにおかしくなっている」
「残念なことだ、あれだけの方がフランスの利益にならなくなっているとはな」
「私も残念に思っている」
「そしてだな」
「私はフランス人だ」
 微動、それこそ一ミリたりともそうなっていない口調でだ、フーシェはこうも言い切った。
「フランスの利益を第一に考えている」
「何をしてもだな」
「そうだ、それは君も同じだな」
「誓って言う」
 稀代の謀略家の誓いの言葉である。人妻を寝取り賄賂を取りそのうえで多くの政敵をギロチンに送ったかも知れない男のだ。尚フーシェは女性にも金銭にも清潔だが政敵の抹殺に加えて虐殺も行ったことがある。
「私は確かに女性が好きで賄賂も受けるが」
「しかしだな」
「フランス人だ」
 彼もまた、というのだ。
「断固としてな」
「では、だな」
「そうだ、彼がフランスの為にならないならな」
「君の方法でだな」
「去ってもらう」
 まさにだ、そうなってもらうというのだ。 
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