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偉大な母

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第一章

                 偉大な母
 神聖ローマ皇帝であるフランツ=シュテファン=フォン=ロートリンゲン家はある日親しい友人にこんなことを聞いた。
「ハプスブルク家とはどういったものかわかるかな」
「またそれは奇妙な質問ですね」
 友人は皇帝の質問に眉を曇らせて返した。
「ハプスブルク家とは何かとは」
「うん、どう思うかな」
「そう言われますと」
 友人は一呼吸置いてから皇帝に答えた。
「やはり」
「私とだね」
「皇后陛下、そして」
「子供達だね」
「そう思いますが」
「そう、普通はそうしたものだね」
 皇帝はその整った温和な顔に柔和な笑みを浮かべて応えた。神聖ローマ皇帝らしい気品があるが威厳は今一つだ。
 その顔でだ、友人に言うのだ。
「ハプスブルク家は皇帝である私と皇后、それに」
「お子様達ですが」
「そう、しかしね」
「それが違うというのですね」
「ハプスブルク家は皇后と」
 それにというのだ。
「子供達でありね」
「陛下は、ですか」
「そう、余所者なんだよ」
 それになるというのだ。
「所謂ね」
「そう言われますと」
「私自身のことを思うね、君は」
「確かに陛下はロートリンゲン家から入られました」
 元々彼はロートリンゲン家の出でてある、その家からハプスブルク家の第一皇女であるマリア=テレジアの夫となったのだ。
 そして彼女の夫の立場から神聖ローマ皇帝にもなった、皇帝であり帝国の国家元首であり帝室であるハプスブルク家の主である筈だ。
 しかしだ、その彼が自分から言うのだ。
「それは違っていてね」
「ハプスブルク家は違うんですね」
「そう、私は家の人間ではないからね」
「皇后陛下とですか」
「子供達なんだよ」
「陛下はそうお考えですか」
「私は何をしているか」
 皇帝である彼はというのだ。
「内政を少し、位だからね」
「ですか」
「そう、軍事も外交も国内全体の改革も」
 そうした国家の主として辣腕を振るうべきことはというのだ。
「全て妻がしているからね」
「皇后陛下が」
「そして私は彼女にね」
 皇帝は笑いながらこうも言った。
「子供を授ける」
「陛下が」
「それだけなんだよ」
「そうですか」
「子供を産むのは彼女だよ」
 ハプスブルク家の子供達をというのだ。
「私はそうするだけだから」
「そうも言われますか」
「そうだよ、だからね」
「それでは」
「そう、彼女があっての私なんだよ」
 皇后であるマリア=テレジアがというのだ。
「彼女がハプスブルク家の主なんだよ」
「実質的な」
「私は彼女の夫であるだけだよ」
 皇帝であるがというのだ、そして皇帝の言う通りにだ。
 神聖ローマ帝国、具体的にはオーストリアは皇后であるマリア=テレジアが国の重要な事柄を全て取り仕切っていた、皇帝の言う通りに外交や軍事、それに改革をだ。
 皇帝はある程度領土の財政や内政に関わっていた、だがその殆どは皇后である彼女が女帝として治めていた。その為に。
 実際に廷臣達も民衆を彼女を主と見てだ、皇后ではなく女帝だと思っていて彼女をハプスブルク家と見ていた。その彼女は。 
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