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英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)

作者:sorano
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第二章~緋の帝都 ~夏至祭~  外伝~波乱の鼓動~

七耀暦1204年、七月某日―――



~帝都ヘイムダル・皇城バルフレイム宮・帝国政府・宰相執務室~



「―――共和国政府との交渉は完了。ノルド高原における戦闘状況は完全に回避されたとのことです。代わりに実行犯である傭兵団を先方に引き渡す事になりましたが……」

「……………………――まあ、仕方あるまい。元より帝国側(こちら)の事情で起きた事件だ。”通商会議”を前に、ロックスミスに貸しを作ってやったと思えばいい。」

窓から見える景色を見つめながらクレア大尉の報告を聞いていた黒髪の男性は振り向いて不敵な笑みを浮かべた。

「はい。ですが、実行犯はともかく”彼ら”の一人は取り逃がしたままです。おそらく幹部クラスであったのは間違いないのではないかと……」

「フフ、そうだな。ここまでの仕掛けをされては我々も慎重にならざるをえまい。まずは帝都の”夏至祭”……”子供たち”をどう動かすべきかな?」

クレア大尉の意見に頷いた男性は考え込む仕草をしてクレア大尉に問いかけた。

「……………………―――恐らく本命は来月の”通商会議”と思われます。レクターさんは”東”に、ミリアムちゃんは”西”に。帝都はわたくしが受け持つのが最善の対応ではないかと。」

「フフ、同感だ。ならばそれで行こう。よろしく手配してくれたまえ。」

「了解しました。…………ふふっ。閣下はわたくしに甘すぎます。この程度の状況分析と配置、お試しになるには簡単すぎるかと。」

男性の指示に頷いたクレア大尉は静かな笑みを浮かべて男性を見つめた。



「なに、君の能力に助けられているのは事実だ。”夏至祭”の方は全て任せよう。何だったら”彼ら”も試しに使ってみてはどうかね?」

「それは…………」

男性の提案にクレア大尉が答えに詰まったその時、扉にノックの音が聞こえてきた。

「――閣下、失礼します。レーグニッツ閣下がお見えになっておりますが……」

「ああ、入って頂きたまえ。」

「かしこまりました。」

「―――失礼します。」

男性の許可が出ると扉が開かれ、スーツ姿の眼鏡の男性がクレア大尉と黒髪の男性に近づいてきた。

「おや、先客でしたか。」

「いえ、閣下に報告をしていただけですので……ご無沙汰しております。レーグニッツ閣下。」

「ああ、2ヶ月ぶりくらいかな。先月の帝都庁での記念行事、警備を回してくれて助かった。改めて礼を言わせてもらうよ。」

「お役に立てて光栄です。担当者にも伝えておきますね。―――わたくしはこれで。それでは失礼いたします。」

「ああ、ご苦労だった。」

そしてクレア大尉は二人に敬礼をした後部屋を出た。



「”子供たち”の筆頭……領邦軍から”氷の乙女(アイスメイデン)”と恐れられているとは思えませんね。」

「フ……筆頭は彼女ではないがね。だが、彼女も含め全員よくやってくれている。老獪なる大貴族ども……”四大名門”の古狸を相手に。」

眼鏡の男性の言葉に苦笑した男性は真剣な表情になった。

「……そうですな。我々も我々で、肚を括って事に当たる必要がありそうです。」

「フフ……そう言ってくれるとありがたい。帝都ヘイムダル知事―――カール・レーグニッツ閣下。」

「こちらこそ……エレボニア帝国政府宰相、ギリアス・オズボーン閣下。」

男性――――オズボーン宰相の言葉に力強く頷いた眼鏡の男性――――レーグニッツ知事はオズボーン宰相を見つめた。



~同時刻・アルノール家の私室~



一方その頃皇家の私室でオリビエ――――オリヴァルト皇子はある人物と会話をしていた。

「――ああ、だからこそ私も出向くというわけなのさ。来月クロスベルで開かれる”西ゼムリア通商会議”……”通商”とはいいながら、実質、西ゼムリアにおける初の国際会議と言ってもいい。経済だけでなく、安全保障を含めた統合的な議論が交わされるはずだ。」

「なるほど……だから、元首クラスの方々が各国から参加されるんですね?」

オリヴァルト皇子の話を聞いた金髪の少年は頷いて尋ねた。

「ああ、カルバード共和国からはロックスミス大統領。レミフェリア公国からは国家元首であるアルバート公。リベール王国からは女王代理のクローディア王太女。主催地、クロスベル自治州からはクロイス市長とマクダエル議長。いずれも各国のトップか、それに準じる人間が参加する予定さ。」

「その点、エレボニアからは帝国政府代表のオズボーン宰相……ですがエレボニアの国家元首は皇帝である父上ですよね?」

「ああ、だからこそ私のような一応皇族に連なる人間がついでに付いていくわけだ。参加者の釣り合いを取る為にね。」

金髪の少年の疑問に頷いたオリヴァルト皇子は説明をした。

「一応だなんて……でも、やっと納得が行きました。……面目ないです。兄上に教えていただくまでそんな事情も知らないなんて。」

「ふむ……?」

肩を落としている少年の様子にオリヴァルト皇子は不思議そうな表情をした。

「……最近、このままでいいのかと思ってしまうことがあるんです。兄上に比べたらまるで勉強不足で力も、機転も全然足りなくて………………こんな僕が、いずれ父上の跡を継いでもいいのかって……」

「……フフ。同じようなことを、リベールのクローディア殿下も仰っていたよ。」

不安そうな表情をしている少年を元気づけるかのようにオリヴァルト皇子は静かな笑みを浮かべてある事を口にした。



「え…………」

「彼女も王太女という、次期女王の立場を継ぐにあたり相当迷い、悩まれたそうだ。しかし己の力不足を受け止めた上でそれでも前に進む決断をなさった。我が弟にも、それと同じ事が出来ないとは決して思わない。」

「兄上…………ありがとうございます。何よりも心強い言葉です。」

「まあ君は、もう少し自分のやりたい事をすべきとは思うがね。少しくらいワガママを言ってもバチは当たらないんじゃないか?」

「あはは……どうも性分みたいで。兄上が羨ましいです。天衣無縫、自由間達に振舞えて。」

「うーん、あまり私のような人間を見習ってほしくはないんだが……」

少年の言葉を聞いたオリヴァルト皇子は苦笑したが

「あとは、そうですね……オズボーン宰相の力強さにもちょっと憧れてしまいますね。」

「ふむ…………」

「昨年の”帝国交通法”の導入も反対勢力を押し切って強引に踏み切ったそうですが……それ以来、導力車の事故が激減したと聞いています。父上の信頼が高いのも頷けますよね。」

「……ああ、実際あれは素晴らしい施策だったとは思う。帝都庁と協力してのキャンペーンなども見事だった。だが―――」

笑顔である人物の事を嬉しそうに語る少年を真剣な表情で見つめた。



「―――もう、兄様もセドリックもこんな昼間から政治談義なんて!」

するとその時金髪の可憐な少女が部屋に入って来て不満げな表情で二人に近づいて見つめた。

「アルフィン……」

「おや、女学院の授業はもう終わりなのかい?」

「ええ、夏至祭の準備のため午前中で終わりました。―――それよりも、セドリック。ちょっと生真面目すぎるわ。わたくしたちの歳で政治なんて背伸びもいいところじゃない。」

「いや、僕達も15歳なんだから早すぎるってことはないんじゃ……」

「そんな事より、宮殿のパーティでもうちょっと大胆に振舞いなさい。ダンスに誘われたくらいで真っ赤になるなんて情けないわ。」

「うう……それを言わないでよ。」

「フフ、あの時のセドリックはある意味、大人気だったようだが。母性本能をくすぐられたと令嬢がたが騒いでいたようだし。」

少女の指摘に少年は肩を落とし、オリヴァルト皇子は笑顔で答えた。



「ま、それは否定しませんけど。姉のわたくしより可憐だったと殿方も噂していたくらいですし。」

「さすがにそれは嘘だよね!?」

そして呆れた表情で呟いた少女の言葉を聞いた少年は驚きの表情で声を上げて指摘した。

「そんな嘘を私の口から言って欲しくないなら、もっと堂々としなさい!」

「いやいやいや!それは絶対無理だって!」

「はは……―――そういえば、アルフィン。君の方こそ、今度の園遊会で一緒に踊る相手は決まったのかい?」

少女と少年のやり取りを微笑ましそうに見つめていたオリヴァルト皇子はある事に気付いて尋ねた。



「そ、そうだよ……自分だって公式行事でのダンスはずっと避け続けてるくせに……」

「ふふ、それですか?うーん、アテはあるのですけど上手く誘えるかどうか…………」

「ええっ!?」

「これは驚いた……そんな相手がいたのかい?これは”帝国時報”あたりが色々と騒ぎ立てそうだな。」

少女の口から出た予想外の答えに少年は驚き、オリヴァルト皇子は目を丸くした。

「ア、アルフィンが公式行事でダンスなんて…………やっぱり”四大名門”あたりの子息だったりするの……!?」

「ふふっ、まだ秘密です。まあ、貴族の方であるのは間違いないのだけど。―――そうそう、兄様。実は、このアルフィンから提案したい事があるのですが……」

少年の反応に苦笑した少女はオリヴァルト皇子を見つめて誰もが見惚れるようは笑顔を浮かべた。



~同時刻・帝都サンクト地区・聖アストライア女学院~



同じ頃清楚な雰囲気を纏った黒髪の少女が女学院の中庭にあるベンチに座ってある人物から届いた手紙を読み始めた。

「今朝届いた手紙……ふう、姫様に見つかったら大変なことになっていたかも。『拝啓―――初夏の候。いかがお過ごしでしょうか。ふふっ、相変わらず身内相手に堅いんですから……………………え…………………」

手紙の内容を読んで苦笑していた少女だったがある部分を読んで呆け

「…………っ!!リィン兄様、どうして………」

辛そうな表情で唇を噛みしめ、悲しそうな表情になって呟いた。

「……………………」

そして少しの間考え込んだ少女は立ち上がって決意の表情でトリスタがある方向を見つめた―――――




 
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