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英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)

作者:sorano
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インターミッション~束の間の休息~ 第50話

通商会議から2週間後――――クロスベル市は静かな熱気に包まれていた。



他の自治州―――レマン、オルド、ノーザンブリアはアルテリア法国の承認を受けた上で、国家と同等の主権が認められている。



しかしクロスベル自治州には両帝国・共和国から、緩衝地帯としての自治権のみが承認されている状態だった。(ちなみに税収の10%は、”委任統治費”という名目で両帝国・共和国のそれぞれに納められていたが、通商会議の大波乱によってエレボニア、カルバードに納める税収は3%にまで減り、さらにエレボニア、カルバードの外国人が犯した犯罪については厳しく取り締まられる形となっている。)



貿易・金融センターとしての発展と、それに反比例する政治基盤の脆弱さ――――それは結果的に、外国からの干渉とマフィアなどの台頭をもたらした。



その歪んだ状況を打破するため『主権国家として独立する』というディーター市長の思い切った提唱に、多くの市民は共感を覚えたが……3大国の意向を気にする者も多く、『独立』の是非についての議論があちこちで行われるようになっていた。なお、エレボニアとカルバードの両政府は通商会議の件で起こった大波乱の影響によって両国とも混乱の極みに陥っており、クロスベルに目を向ける暇がなかった。

 

~エルム湖~



「………………………はあ…………………」

ミシュラムに行く水上バスの甲板で外を見ているロイドは複雑そうな表情をした後溜息を吐いた。

「駄目だな、あれから半月近くも経つのに……」

「ウォン?」

複雑そうな表情のロイドが呟くと傍にいたツァイトが吠えた。

「ゴメン、溜息なんかついて。……なあ、ツァイト。こんな時にリーダーって何をしてやればいいのかな?ランディはもちろん、エリィやノエルも考えごとをしているみたいだし……キーアにも気を遣わせてるみたいなんだよな。」

「ウォン。グルルルルル……ウォン。」

「えっと……何て言ってるんだ?ハハ、ゴメンな。こちらから振っといて……」

ツァイトの一吠えにロイドが苦笑したその時

「『こういう時は理屈で考えるな。自分から動いて話してみるがいい。』―――だそうです。」

ツァイトの言葉を訳したティオがロイドに近づいてきた。

「ティオ……」

「……いい風ですね。せっかくの休暇(バカンス)ですし晴れて本当によかったです。」

「そうだな……マリアベルさんに招待された時は何事かと思ったけど。」

「ふふ、何かの罠とか思ったとか?エリィさんと恋人になった件でいまだにかなり敵視されているみたいですし。」

「ハハ、実は俺もちょっと思った。………ゴメンな、ティオも。帰ってきたばかりなのにこんな情けない所を見せて。」

「……無理もないと思います。クロスベルを守る為とはいえ、親しい人達が二大国の首脳を罠に嵌めた挙句、二大国を混乱させる原因を創ったのですから。普通の人ならショックを受けますよ。」

申し訳なさそうな表情をしているロイドにティオは複雑そうな表情で言った。

「……本当にこれでよかったのかと未だに思っているよ。……確かにルファ姉や局長達が動いてくれなかったら、テロリスト達は赤い星座に殺され、さらに黒月達に捕えられ、その結果クロスベルは安全保障について二大国から責められる立場となっていただろうけど……だからと言って、自分達が作った冤罪を完全に恐喝としか思えないようなやり方で無理やり認めさせて二大国を混乱させるなんて間違っているとしか思えないんだよな…………」

「………ルファディエルさんも言ってたでしょう?『私達のやり方が間違ったやり方である事は否定しないわ。だから、貴方達は貴方達のやり方で自分達が守りたいものを守っていきなさい』と。だからわたし達はわたし達が目指すものを見極めて目指していけばいいと思います。」

「ティオ……そうだな。確かにそうかもしれない。受けたショックを、自分の力不足と取り違えて動けなくなってたみたいだ。」

「なら、どうか動いてください。滅多にない全員での休暇(バカンス)……それもセティさん達もちょうど戻って来たのですから。みんなに楽しんでもらえるよう、配慮するのはリーダーの役目では?」

「ああ、そうだな。」

ティオの言葉に頷いたロイドはティオに近づいてティオの頭を撫でた。

「……!?」

頭を撫でられたティオは顔を赤らめてロイドを見つめ

「サンキュー、ティオ。ちょっとみんなと軽く話してくるよ。」

見つめられたロイドは笑顔で答えた。

「え、ええ。それがいいかと。………でも……あの……」

「ああ、悪い悪い。」

ティオの言葉を聞いたロイドはティオの頭に乗せていた手をどけ

「……ぁ………」

ロイドの手が離れるとティオは小声で呟いた。

「はは、子供扱いしたわけじゃなくて、感謝のつもりっていうか……」

「いえ、気にしてません……その……むしろもう少し……」

「え?」

「っ……何でもありません!早くみんなの所に行ってきてください。」

「あ、ああ……?」

いきなり声を上げたティオの様子にロイドは戸惑いながら答え

(ルファディエル……いい加減、この男の”この性格”はなんとかならんのか……!)

(ハア…………また後で将軍に苦言を言われそうね………)

(くかかかかっ!相変わらず無意識で女共の好感度を上げるその天然さ……さすがだよ、ロイド!)

その様子を見ていたラグタスは顔に青筋をたて、ルファディエルは溜息を吐き、ギレゼルは陽気に笑い

「グルルルル……(やれやれ)」

ツァイトは呆れていた。その後ロイドは甲板のシートに座って外の景色を見つめているワジに近づいた。



「―――やあ、ロイド。どうやら活をいれてもらったみたいだね?」

「ハハ、まあね。……ワジの方はけっこう平気みたいだな?」

「僕?僕は平気というか、むしろルファディエルさんや局長達の大胆さにシビレたね。何せ首脳を嵌めた挙句、国をも混乱させたんだから。」

「笑いごとじゃないだろう?ルファ姉の身内としては、あの件を考えたのが全てルファ姉だってバレた時の二大国の反応が怖すぎるのに……」

「アハハ、その時はその時でまた新たな策で返り討ちにするんじゃない?なんせ、あの鉄血宰相をも嵌めた人……いや、天使だし。」

「うっ………(洒落になっていない………)」

ワジの言葉を聞いたロイドは表情を引き攣らせ

「………………………」

ワジは複雑そうな表情で黙り込んでいた。

「??平気だって言ってたけどキレがないな…………何かあったのか?」

ワジの様子を不思議そうな表情で見つめたロイドは真剣な表情で尋ねた。

「僕の方は別に。ただ、バイパーの方では色々とあるみたいだね。」

「バイパー……ヴァルド達のことか。」

「ま、さすがにあんな別れ方だったからさすがにちょっと気になるのさ。神秘的なカリスマが売りらしいクールビューティーな僕でもね。」

「自分で言うなって………でも、ヴァルドのことは俺も少し気になってたんだ。時間が空いている時にでもちょっと様子を見に行こうか。」

「フフ、そうしてくれるとこちらも助かるかな。」

その後ロイドは甲板の手すりの近くで3人仲良く会話しているセティ達に近づいた。



「あ、ロイドさん!」

「どうかされたのですか?」

自分達に近づいてきたロイドに気付いたシャマーラとエリナは尋ね

「いや……3人共、本当に久しぶりだから改めて色々と話そうかなと思って。」

「フフ、ありがとうございます。……それにしても戻って来て事情をお聞きしましたけど、クロスベルの状況が大きく変わっている事に本当に驚きましたよ……」

ロイドの言葉にセティは微笑んだ後苦笑し

「まさかクロスベルに再び戻って来たら黒月が完全にクロスベルから追い出された挙句、今ではカルバード政府と完全に対立しているなんてね~。」

「しかも二大国からの干渉が以前と比べて圧倒的に弱くなった上、その二大国は混乱の極み………改めてルファディエルさんの凄さを思い知りましたね………」

シャマーラとエリナもそれぞれ話を続けた。

「うっ………今更言うのもなんだけど、今回はさすがにやり過ぎだと思うんだよな……ハア………」

セティ達の話を聞いたロイドは唸った後疲れた表情で溜息を吐いた。

「もう終わった事なんだから、別にいいじゃない!結果的に二大国の裏組織は追いだせた上、クロスベルは以前より外国人達を厳しく取り締まれるんだし!」

「……二大国の思惑を考えると自業自得とも思えるので、ロイドさんが気にするほどではないかと。」

「………例え”神”であっても全ての人々を幸せにするなんて事は不可能です。他の事にまで目を向けて、自分達が守るべきものを見誤らなければいいと思います。」

ロイドの様子を見たシャマーラたちはそれぞれ元気づける言葉を言った。

「……ありがとう、3人共。そう言ってもらえると気が少し楽になったよ。それより3人共、故郷で本職である”工匠”として修業をしていたんだよな?何か変わった事はあったかい?」

3人の言葉を聞いたロイドは静かな笑みを浮かべた後尋ねた。

「変わった事……ですか。ありましたね。」

尋ねられたエリナは苦笑しながら答え

「うん、とんでもない事があったね♪」

「フフ……確かにそうですね。」

シャマーラは嬉しそうな表情で頷き、セティは微笑んでいた。



「?一体何があったんだい?」

「……私達に双子の弟と妹が産まれ、そして新たな妹か弟が産まれそうなんです。」

「へ!?それってどういう事なんだ!?セティ達のご両親って父親であるウィルさんを除けば全員母親が違うけど……もしかしてセラウィさん達の誰かが?あの中では誰も妊娠しているようには見えなかったんだけど……」

セティの話を聞いたロイドは驚いた後尋ね

「双子を産んだのはあの時は妊婦の身であった為、父様達と同行していなかったエリザ母様で、母様より位階が上である天使―――父様の守護天使となった”主天使”の方なんです。本名はエリザスレインという名前で、もしかしたらですけどロイドさんも知っているかもしれませんね。」

「――――あ。もしかしてリベールの”異変”の解決にウィルさん達と一緒に貢献したっていう天使か……!?」

エリナの話を聞いたロイドはある事を思い出して驚きの表情で尋ね

「そうだよ~……で、あたし達の故郷であるユイドラにある唯一の教会を運営しているシスターのハンナさ……いや、ハンナ母さんが父さんの子供を身籠ったんだ~。」

尋ねられたシャマーラは頷いた後話を続けた。

「ええっ!?……それでどうなったんだ?」

「特に何もありませんが……強いて言うなら私達のハンナさ―――ハンナお母さんに対しての接し方が母親としての接し方になったぐらいですし。」

自分達の話を聞いて驚いて尋ねてきたロイドにセティは答え

「そ、そうなのか……?領主の方なんだから、子供ができたりしたら領民の人達から驚かれたりすると思うんだけどな……?しかもセラウィさん達が産んだり、身籠った訳じゃないんだし。」

「エリザ母さんは元から父さんの愛人の一人としてユイドラのみんなが知っていたし、ハンナ母さんと父さんが親しい事もわりと知られていたし、今更だよ?むしろハンナ母さんが父さんの子供を身籠ったのが遅いぐらいだって言われているよ。」

戸惑っているロイドにシャマーラが答えた。

「ハハ……というか気になったんだけど、そんなに腹違いの子供達がいて後継者とかは大丈夫なのか?」

「ユイドラの領主は世襲制ではなく、公式上最高ランクである”匠貴”の工匠達の中から次代のユイドラ領主を決めるという制度ですから、領主の子供だからと言って私達はユイドラ領主の後継者ではありませんので。」

そしてロイドの疑問にエリナが答え

「それにしてもハンナ母さん、よかったね♪」

シャマーラは嬉しそうに言い

「ええ……『これでやっと教会の後継者ができました』って嬉しそうに言ってましたし………まあ、お父さんの”第四使徒”となって不老不死の身となった今では後継者の意味もないような気もしますが………」

セティは微笑みながら頷いた後苦笑していた。

「ハハ………そちらは平和そうで何よりだよ。――――ちなみに3人共、その”工匠”のランクだったか?もしかして修行して、ランクが上がったのか?」

シャマーラとセティの会話を聞いていたロイドは苦笑しながら言った後3人を見つめて尋ねた。

「うん!あたしは”工匠長”!」

「私はシャマーラと同じ”工匠長”です。」

「私は”匠範”ですね。」

「へ~………その工匠のランクっていうのはよくわからないけど、凄いのか?」

シャマーラ達の話を聞いたロイドは興味深そうな様子で尋ねた。

「……”工匠長”は上から数えて3番目になり、”匠範”は2番目になりますね。」

「ええっ!?そんなに凄いのか!?け、けど10代でそんな凄いランクになるなんて、さすがだな……」

セティの説明を聞いたロイドは驚いた後苦笑していた。

「まあ、父さんの子供だからって言う理由でみんなが納得しているのは微妙に納得できないんだけどね~。」

「……仕方ありませんよ。父様は歴代の工匠として最高の方なのですから。……その代わり父様達は私達を一人前と認めて私達からクレール兄様達の護衛を外したでしょう?」

ロイドの言葉を聞いたシャマーラは頬を膨らませ、エリナは静かな表情で答えた後シャマーラに視線を向けて言った。

「……そうだね。それに”特務支援課”にいられる期間もそんなに残っていないし、アト姉さん達の分も頑張らないと!」

「え………支援課にいられる期間がそんなに残っていないって、どういう事なんだ!?」

そしてシャマーラが呟いた言葉を聞いたロイドは一瞬呆けた後驚きの表情で尋ねた。



「私達は元々”短期間限定”で特務支援課に所属するという話でして……その期間が後数ヵ月ほどなんです。……本当でしたら上級ランクの工匠として昇格したのなら、留学を取りやめて上級工匠の義務を果たすべきなんですけど……お父さん達に無理を言って続けさせてもらっているんです。」

「そうか……そう言えばそうだったな………………………」

セティの説明を聞いたロイドは頷いた後残念そうな表情をし

「もしかして寂しいの?」

ロイドの様子を見たシャマーラは尋ねた。

「勿論。支援課のビルの地下から聞こえて来る物を創る音が聞こえなくなるのも寂しいし、何よりセティ達にもう会えないのは寂しいよ。」

「「「…………………」」」

そしてロイドの言葉を聞いたセティ達はそれぞれ黙り込み

「……?3人共、どうしたんだ?」

セティ達の様子を見たロイドは尋ね

「フフ……成長してもやっぱりロイドさんはロイドさんだなって改めて思いまして……」

「……むしろ以前より強力になっているような気がしますし。」

「そんな事を続けていたらいつかエリィさん、本気に怒るよ~?」

尋ねられたセティは苦笑し、エリナは頬を赤らめて呟き、シャマーラはからかいの表情でロイドを見つめて言った。

「な、何でそこでエリィが出てくるんだよ。―――それより3人共。期間は短いかもしれないけど、改めてよろしくな。」

シャマーラの言葉を聞いたロイドは溜息を吐いた後口元に笑みを浮かべて言い

「「「はい(うん)!!」」」

ロイドの言葉に3人はそれぞれ頷いた。そしてロイドはセティ達から離れて行き

「……ねえ、セティ姉さん。あたし達が考えた”提案”、父さんに話してお願いしてみようよ~。」

「……そうすれば皆さんと一緒にいれるので、いいと思いますが………それにユイドラの発展にも繋がりますし……」

ロイドが去った後シャマーラとエリナはそれぞれセティを見つめて言い

「………その為にはまず、私達全員が”匠貴”にならなければいけません。―――2人とも。”匠貴”になるには並大抵の努力ではなれないのはわかっていますか?」

見つめられたセティは考え込んだ後、真剣な表情で2人を見つめて言い

「勿論!みんなと一緒にいれる為なら頑張れるし、何よりあたし達の初恋を実らせないとね!」

「全く、そんな不謹慎な理由を父様達が知ったら、賛成してくれないかもしれませんよ?………まあ、シャマーラの意見には賛成です。―――”人間”であるロイドさん達と接する事ができる時間は非常に限られていますしね……」

見つめられたシャマーラは力強く頷き、エリナは呆れた後、寂しげな笑みを浮かべて言い

「フフ、そうですね。それじゃあ、”匠貴”を目指して3人一緒に頑張りましょう!」

セティは微笑みながら言い

「うん!」

「はい!」

セティの言葉に2人は力強く頷いた………………… 
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