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魔法少女リリカルなのは ~彼の者は大きなものを託される~

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第二羽 翼が折れた日

 ――――高町 結城。

 高町一家の四人兄妹の次男であり、兄妹の中でも特に才能に溢れているような人だった。

 勉強、スポーツ、家事やその他の娯楽など。

 何をやらせても卒なくこなすことから、家族からの評価も周りからの評価も高い存在だった。

 本人に自覚がなかったが、見た目も女子の好み似合いやすかったのかモテていた。

 誰からも好かれ、誰からも頼られるような存在が特に大切にしていたのが、二つ下の妹であった高町 なのはと彼女の友人だった。

 家族間で自分より年下だったのも要因の一つだったが、特に挙げれる理由があるとすれば、彼らの父である高町 士郎が大きな事故で意識不明の重体になったことだろう。

 当時、長男の恭介と長女の美由希、そして母の桃子が士郎の分まで家族のために必死になっていた。

 喫茶店である翠屋の経営に必死だった。

 そうしてまだ幼かったなのはは取り残される形になり、小学生になってまだ日が浅かった彼女は多くの我慢を強いられた。

 そんななのはの寂しさにいち早く気づけたのが結城で、気づいてからはずっとそばに居続けた。

 特別何かをしたわけじゃない。

 ただ傍にいて、なのはが遊びを求めれば遊んで、お腹が空けば料理を作って、お風呂に入りたければ一緒に入って、寝たければ一緒に寝た……ただ、それだけだった。

 ただそれだけのことがあったおかげで、なのはは荒れずに済んだ。

 絶望に染まらず、孤独で凍え死ぬこともなく、感情を抑えることもなく済んだ。

 士郎の様態が回復し、家族が再び元の形に戻れたのは結城の存在が大きな要因だと、高町家の誰もが思っていることである。

 そんな結城は、寂しそうにしていたなのはを見ていたが故に、彼女の友達というのをなのは以上に大切にするようにしていた。

 また、なのはが孤独に苛まれてしまわないように、繋ぎ留めておくように。

 ある日、なのはにアリサ・バニングスと月村 すずかと言う同い年の友達ができた。

 登下校を共にするようになって、休みの日は翠屋に客として来たりと、なのはと一緒にいる時間を充実しているように過ごしていた。

 それを見た勇気は、陰ながら心の底からホッとした。

 ああ、なのはは寂しくならなくて済む、そんな居場所を見つけられたんだって安心していた。

 そんな彼がアリサとすずかと仲良くなったのは、なのは自慢の兄だと言って紹介したのがきっかけ。

 高町 結城は学校でも名が知れていたため、なのはの兄だったことに驚きつつも二人はすぐに彼を受け入れた。

 有名人と知り合えた、というのが二人の抱いた最初の感想だったが、段々自分たちの抱いていた結城像が違うのだと理解する。

 ある日、アリサとすずかは結城が今の地位になるまでにしてきた努力を目の当たりにした。

 放課後の教室で一人、誰にも教わらずに一人で勉強している所。

 高町宅の裏手にある道場で父と兄、姉に木刀一本で立ち向かい、傷だらけになりながらも挑む続ける姿。

 極めつけに驚いたのは、早朝にマラソン選手に迫るほどの距離にプラスして登下校を全力疾走で駆け抜けていたことだ。

 これが彼にとって普通なのだとなのはに聞かされて二人は自分たちの普通を疑いかけてしまった。

 それほどまでに彼は自分に対してストイックだったのだ。

 彼の努力を知った二人は、なのはに内緒で聞いた。

 ――――なぜそこまで努力をするのか?

 その問いに彼は、自分には夢があるのだと答えた。

 ――――俺は将来、人を助けたり守ったりできる……ヒーローみたいな存在になりたいんだ。

 迷いなく答えた彼に、二人は驚きつつも納得した。

 彼がどうして人に好かれ、信頼されているのか。

 それは彼がそうありたいと願って、叶えるだけの努力を積んでいたからだ。

 そんなこと分かっていたはずなのに、改めてそうなのだと強く納得させられた。

 そしてそれを理解した二人は、他人に優しく自分に厳しい彼に心惹かれていく。

 自然と目で追うようになり、彼の仕草の一つ一つが印象的になってしまうほどに惚れていった。

 それが二人にとっての初恋だった。

 ――――なのは達が小学三年生になった頃、なのはと結城は自らが持つもう一つの才能と出会う。

 それは地球では全く役に立たない才能。

 しかし別の世界では天才とまで言えるほどの才能。

 ――――魔法に出会った。

 デバイスと言う兵器を用いた激しい戦いに、二人は身を投じることになった。

 そこで出会った魔法世界出身の少女、フェイト・テスタロッサ。

 現在、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと苗字が追加された彼女は当時、なのはと結城と敵対していた。

 求めるものが同じだが、目的が別だったから。

 相容れない三人は、何度もぶつかった。

 その度に見せるフェイトの心の片鱗。

 そして魔法世界の組織まで介入する事態になるに連れ知ることとなる、フェイトの核となるもの。

 何度も争って、何度も話し合って、事件が解決した頃には三人は『友達』になっていた。

 友達に世界や魔法も関係ないと思えるほど、三人の絆は深いものとなった。

 その後、フェイトは海鳴で過ごすこととなり、右も左も分からないフェイトのサポート役として年上の結城がフェイトの側についた。

 魔法のことや、フェイトの事情を誰よりも知っていると言うこともあって、フェイトと結城が親しくなるのに時間はかからなかった。

 家族を失って間もないフェイトにとって結城は兄のような存在になっていき、そして兄と思う気持ちよりももっと強くて大きな想いへと変化していった。

 結城自身、フェイトと出会うきっかけとなった事件で自らが魔法を使えると知り、将来の方向性を考えていただけに魔法世界出身のフェイトから聞く、その世界の話しはどれもこれもが新鮮なものだった。

 なのはとは別の感情を抱くけど、なのはに似て妹のように愛らしい存在だと思っていた。

 ――――八神 はやてと出会ったのは、そんな年の冬のこと。

 勉強のために訪れた図書館で、本棚に並ぶ多くの本から求める一冊に向けて手を伸ばす、車椅子の少女。

 届かなかった本を取ってあげたのが結城であり、それが当時、闇の書の影響で足が不自由だったはやてとの出会いだった。

 結城とはやては本の趣味が合い、更にはやてがすずかと友人関係にあっただけに二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。

 なのはと過ごす日々、フェイトと過ごす日々、はやてと過ごす日々。

 どこか違うけど楽しく充実した日々の中で発生した新たな事件。

 八神 はやてを中心として巻き起こった闇の書事件。

 そこで知る、自らの弱さ。

 そして求められる、新たな強さ。

 多くの仲間と共に乗り越え、解決させることができた後、彼らの日々は劇的に変化した。

 それまで夢について悩んでいたなのはは、少しずつであれど確かな夢を描き始めた。

 フェイトは新たな家族と過ごす日々で、自分の進むべき道に気づき始める。

 はやては大切な家族、そして大切な別れを乗り越えた先にある未来を想像しだした。

 それぞれが確かな先を思い描き、大人を目指し出していた。

 結城も同じく、魔導師として誰かを守り、救える側になれる道を求めて努力していた。

 ――――そんな彼が亡くなったのは、突然のことだった。

 任務で異世界にいた時のことだった。

 なのはとヴィータが一緒にいた任務。

 いつもの三人ならばなんの問題もなく解決したであろう、突然の襲撃。

 問題が発生したのは、なのはの方だった。

 当時までのなのはもまた、ストイックな日々を過ごしていた。

 まだ幼かった彼女が習得した魔法の多くが、肉体への負担が大きかったがために、少しずつ蓄積されていた疲労や傷がその時、一気に襲ってきたのだ。

 後に魔導師生命を脅かすほどの重体に陥ることとなるその時、なのはを庇うために身を呈した結城の身体を、機械兵器の砲撃が襲いかかった。

 咄嗟になのはを庇った彼は防御を一切できず、その攻撃をダイレクトに受けてしまったがために――――命を失ってしまった。

 なのはとヴィータ、他の隊員の全てが助かったその戦いで唯一の死者が高町 結城。

 誰もが悲しみに暮れた。

 誰もが絶望した。

 誰もが、今の現実を受け入れられなかった。

 誰がきっかけだったかは、誰も覚えていないけれど、誰かをきっかけに立ち直るのに2年を要した。

 ……いや、二年が経過した今もなお、彼のことを思い出せば泣きたくなるくらいに、傷は癒えていない。

 それでも過ぎていく日々を必死に生きて、必死に努力してなのはたちは中学生になった。

 ――――悲しみに耐え忍ぶ少女達の前に、山本 湊飛は現れた。

 懐かしい風と、懐かしい想いを連れて――――。 
 

 
後書き
何ヶ月も投稿停止してしまい、大変申し訳ございませんでした!!!!

本日から再開します……予定です!

今回のお話は回想ですが、無印編から現在までの総集をざっくりとやった感じです。

次回から本編に戻り、オリジナルのお話しを進めていきたいと思います。

今後共よろしくお願いいたします。 
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