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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第四十四話 仕掛けるよりも収集作業の方が大変なのです。

 ヴァンフリート星域――。

 グリンメルスハウゼン艦隊は猛進していた。ボロ船艦隊、アヒル艦隊、居眠りグリンメルスなど散々に言われたのが嘘のような動きっぷりである。彼らは小惑星帯をものともせず、砲撃で吹き飛ばしていき、たちまちのうちに第5艦隊の側面及び後背に襲い掛かり、猛烈な射撃を浴びせかけた。


 第五艦隊 旗艦 リオ・グランデ艦橋――。

 嵐のような主砲斉射が第五艦隊を襲っていた。旗艦の周りにも被害が及び、護衛艦が爆発四散した衝撃が旗艦にまで届いていた。

「ううむ、予想よりもずっと早くきおったか、敵の援軍が」

 ビュコックは唸り声を上げたが、まだ余裕があると見え、狼狽したり、必要以上に声を上げたりはしなかった。さすがは老練の提督なのねと、この時ばかりはシャロンも感心している様子である。

「いかがいたしましょうか?」
「参謀長、艦隊を後退できるか?」
「わが艦隊から見て、敵は11時から8時方向に展開して攻撃を仕掛けてきております。5時方向への退却が望ましいかと」
「ですが」

 と、シャロンは口を出した。

「そうなれば、正面展開している第十艦隊が突出して孤立してしまいます」
「うむ、敵軍の勢いからして、この第五艦隊を突破後、第十艦隊を襲うか、わが軍の後背に出ようとしておるのじゃろう。そこでじゃ、いったん後退したと見せかけ、なおも突出する敵軍がわが軍全面の射程に入り次第、再び側面攻撃をかけるのじゃ。今の状況では正面の敵を突破できることはできなんだでな」

 正面の敵の守備は硬い。ここに手間取っていれば、横から痛撃を受け、ズタズタにされてしまう。ビュコック中将の言うことはもっともだった。

「わかりました。准将も異存はないかな?」
「ありませんわ」

 では、ただちに、と参謀長は艦隊各指揮官に伝達を行い始めた。

 敵が引いている、とフィオーナは戦況の動きを見ていち早く察知した。しかも引いていると言っても、単なる後退ではなく、わが軍が前進をつづけるのを見越しての事であると見破った。敵はこちらが射程に入り次第側面攻撃をかける様子である。

「参謀長閣下」
「なんだ!?」

 参謀長が形相凄まじく怒鳴る。彼にしてみれば、皇帝陛下自らが声をかけてきたことにより、一刻も早く敵を撃破して見せない事にはおさまらないと焦りまくっていたのであった。何しろ自分の首がかかっているのである。

「敵が後退します。ですがこれは明らかにわが艦隊に対する側面攻撃のためです。いったん攻勢をゆるめるか、敵の後退に合わせ、こちらも敵艦隊に向き合う形で戦闘を継続なさるべきでしょう」
「何を言うか!?それでは敵に余裕を与えてしまうだけではないか!!!」

 いや、敵はまだ全然余裕だと思いますが、とフィオーナは言いたかったが、さすがにそれは失礼だと思って言わなかった。

「進め進め進めェ!!!」

 参謀長はビッテンフェルト並に猛進を指示している。もっともビッテンフェルトの方は視野狭窄に陥ることなく、戦局全体を見渡すことができる力量の持ち主であるが、この参謀長に関しては完全に視線が前へ向きっぱなしなのである。

 その様子をじっと見ていたリューネブルク准将が、そっと姿を消したことを誰も知らなかった。もっとも10分ほどですぐに戻ってきたのだったが。

 他方フィオーナは焦っていた。これは困ったことになったと、泣きたい思いである。下手をすれば逆撃を被って旗艦ごと吹ッ飛ぶことになるだろう。まだ死にたくはないと思うのだが、かといって参謀長をとめるすべをどうしたらいいか・・・・。
 いっそまた『皇帝陛下』の力を借りるか、と思い詰めた時だった。

「司令官閣下、参謀長閣下、皆さま、一つお飲み物を――」

 従卒3人が恐る恐ると言ったようにトレイに乗せた飲み物を運んできた。

「何ッ!!??こんなときに飲み物だと!!??何を言うか!!まだ戦闘中だ!!」

 しかし、10時間以上も何も飲んでいないことに気が付いた一同は、トレイの上の紙コップをあわただしくとると、が~っと流し込むようにして中の液体を口に放り込んだ。
 フィオーナも取ろうとする。彼女は席次が下の方だったから、回ってきたのは遅かった。が、飲み込もうと口に手をもっていったところをとめられた。リューネブルク准将の手である。

「な、何をなさるんですか!?まさかこんなところで――」
「勘違いをせんでもらおう。こう見えても私には妻がいるのでな。違うぞ、フロイレイン・フィオーナ。貴官も正体を失って眠りこけたくはなかろう」
「???」

 ドサッドサッドサッ!!!という音が続いた。
 驚いて見ると、あれほど叫びまくっていた参謀長閣下以下全員が無様に床に倒れ込んで眠っているのである。グリンメルスハウゼン子爵閣下の方はというと、椅子にもたれこんで眠っていた。手に持っていた紙コップは床に落ちて液体をふりまいている。

「睡眠薬だ。こうでもしなくては、あのバカな参謀長以下をとめられないのでな。念のために司令官にもお眠りいただいた。この方が都合よかろう」

 フィオーナは灰色の瞳を見開いて、半ばあきれ、半ば尊敬する眼でリューネブルク准将を見ていた。さっきの機関部のオーバーロードの工作もクレイジー極まりないと思ったが、今回のこの行為はまさに「常軌を逸している」ものである。間違いなく軍法会議ものであり、下手をすれば即刻処刑ものである。クレイジーオブクレイジーな行為に、あきれたらいいか、注意すべきか、はたまた尊敬すべきなのか、フィオーナには判断ができなかった。一つ確実に言えるのは、やはりこの人は肝が太い。自分だったら絶対にこんなことはできない。

「さて、今のこの状況では私が最先任ではあるが、しかし私は貴官にこの艦隊の指揮権をゆだねるとしよう」
「ええっ!?」

 この人は真面目なのか、バカなのか、それとも冗談なのか。フィオーナはあきれ返るばかりだった。

「何をしている?今艦隊は進撃中だ。ぐずぐずしていると貴官の言う通りになるのであろう」
「・・・・・・」
「この睡眠薬の効き目はほぼ丸一日だ。今遮音力場中にいる我々の会話は外の下士官・兵士には聞こえていない。全員が目の前の戦闘に集中しているから、何が起こったのかも気づいていない。早くしなければ、こちらも危ないぞ」

 フィオーナは決断した。早くしなくてはこちらも危ない。その通りである。しかも戦況は刻一刻と推移しているのだ。すぐに動かなくてはならない。

「わかりました。すぐに安全な場所に運び出して下さい」
「承知した。・・・・おい!!」

 リューネブルク准将は遮音力場の外に出て、兵卒たちを呼び寄せた。兵卒たちは司令官、参謀長以下が皆意識を失っているのをみて愕然となった。命令を下していた者たちが急にいなくなったのだ。俺たちはこれからどうすればいいのかと絶望にあふれんばかりの顔をしている。

「司令官、参謀長以下が昏倒した。司令官の命令により、フロイレイン・フィオーナが今からこの艦隊の指揮を執る!!」

 皆一様に驚いた顔をして二人を呆然と見つめている。まだ10代の女性士官が指揮を執るだと!?だが、司令部要員が全滅(?)している今、わらをもすがりたい思いだった。参謀長以下を医療室にお連れしますか?という問いかけには、リューネブルク准将は首を横に振ってこういった。すなわち今は戦闘中なのだ、貴様らはそんなことをしていて死にたいのか、黙って隅の方に寝かせておけ、と。その一言で何事かを薄々察したらしく、黙って兵たちは作業を行うと、元の場所に戻っていった。

「・・・・・・」

 ともかくもやるしかない。フィオーナは艦橋中央にたった。一時の臨時であるとはいえ(それも通常ではありえない方法によって)、今は一個艦隊の司令官である。不意に前世の記憶が戻ってきた。前世では一個師団16000人を指揮し、4倍以上の敵を相手に一歩も引かなかったことを思いだしたのだ。深呼吸一つすると、落ち着きができてきた。あのころの気持ちに戻ってきた。
 規模はまるで違うが、やっていることは一緒である。フィオーナは第一の命令として、司令官以下が昏倒したことを伏せ、艦隊への指令は生の声ではなく、あくまで通信文で行うことを、そして麾下の全艦隊に指示コードに従うことを徹底させた。妨害電波があるとはいっても、艦隊内部の通信ならば艦同士の数珠つなぎ式で可能なのである。そして、次に――。

「全艦隊に告ぎます!!」

 フィオーナの声はそのまま声としてではなく、通信手がそれを文章化していくのである。彼女は司令席のコンソールを操作しながら声を発し続けていた。その声を聴いたリューネブルク准将も、そして艦橋の兵隊たちも不思議な感覚に襲われていた。

 何故かは分らないが、ここにこうしてフィオーナが指揮していることが、当たり前のようなずっと前から指揮を執っていたかのような落ち着きと風格が彼女の全身に漂っていたのである。

「全艦隊に告ぎます!!速度を落とし、正面敵艦隊との距離を保ち、敵艦隊の動きに追尾しつつ艦隊を第一戦隊から順にα1456地点~1598地点に展開してください。指示コードを送ります」

 つまりは半月陣形にするのである。フィオーナの指揮の元、艦隊は半月陣形に展開し、第五艦隊と向き合う格好になった。しかもフィオーナは艦隊運動を展開しながら、正確な砲撃目標座標地点を全艦隊に伝達していた。すなわち後退する第五艦隊に向けて一点集中砲撃を浴びせかけるという離れ業もやってのけたのである。
 如何に老朽艦隊と言っても、艦隊は艦隊である。司令部の命令に迅速に反応するように訓練はできている。フィオーナとしては正確に、そして解釈の間違いようのない、逡巡しようのない命令を下しておけば良かったのだから。


第五艦隊 旗艦 リオ・グランデ 艦橋――。

「敵が前進をやめ、こちらの後退に合わせるかのように陣形を再編しています!!さらに敵艦隊砲撃を開始!!こちらに向けて一点集中砲火を浴びせてきています!!」

 参謀長が発した言葉にシャロンは信じられない思いでいた。あのまま前進をつづけるのが当たり前のような勢いなのだったが、まるで別人である。それどころか陣形を再編しながらの、一点集中砲火とは、現役の提督ですらなしえない技である。
 あのイノシシ艦隊のどこにそんな鮮やかな技を決められる技量があったというのか?

「ほほう、これは・・・」

 ビュコック提督も感心顔である。

「どうやら敵は、こちらよりも上手らしいの」
「いかがいたしましょうか?」
「うむ、そうじゃの。陣形を再編し、こちらも半月陣形を敷く。敵の攻勢を支えればいいのじゃからな」

 敵の動きに対応する形か、とシャロンは思ったが、この場合は正しいだろう。下手に動けば敵の攻勢を誘い出すことになり、かえって危険だからである。

 だが、フィオーナの艦隊運動はビュコックたちの予測を上回った。

「全艦隊、左に転進!!敵の正面艦隊に対し、主砲3連射!!!」

 フィオーナが鮮やかに左腕を振った。敵との距離が開き、敵が後退しつつ半月陣形に再編するそのすきを見逃さなかったのである。

「いかん!!」

 ビュコックは叫び、直ちに艦隊の後進をやめさせ、前進させようとしたが、いったん陣形を再編しつつある今のこの状態からの前進は困難をきわめた。

 その間――。
 鮮やかに反転したグリンメルスハウゼン艦隊は敵の正面部隊の側面に右側から襲い掛かっていた。

 正面第十艦隊のバグダ・アジール中将は帝国軍正面部隊を平押しに押していった。あと一息で、正面展開している帝国軍エーレンベルク大将の艦隊は壊滅するであろう。

「いいぞ!!このまま押し込めば正面部隊は崩れる!!いまだ、一気にたたけ!!」

 勇猛果敢なアラブ系のこの壮年提督にとって悲劇は一瞬のうちに訪れた。

「く、九時方向から、て、敵です!!」
「何ッ!?バカな!!そちらには第五艦隊が!!!」

 いるではないか!!という言葉は自軍の左に展開する主砲砲撃準備完了の帝国軍艦隊を見て口の中で消えていった。無数の光がきらめき、一斉に驟雨の様にビーム砲が叩き付けられてきた。

「砲撃、来ます!!!」

 バグダ中将は何が起こっているかわからないまま、主砲のエネルギーの奔流の中に飲み込まれていった。

第十艦隊の旗艦轟沈!!!

 この知らせを受けた第十艦隊は一瞬で壊乱した。何が起こったのかわからないまま、敵艦隊の側面からの斉射をうけて次々と艦が爆沈していく。

「うろたえるな!!全艦隊散開し、回頭!!撤退しろ!!」

 第十艦隊の副司令官ウランフ提督は全軍を叱咤し、残存艦隊をいち早く再編し、正面の敵に一撃をくれておいて、さっと後退していった。なかなかの手腕である。
 フィオーナも敢えて追わなかった。主砲3連で第十艦隊の戦力は半減している。これ以上戦闘を継続する意義は薄いだろう。それにまだ後方には第五艦隊がいるのである。
 再び回頭したグリンメルスハウゼン艦隊に、一瞬の差で第五艦隊が押し寄せてきた。



巡航艦オルレアン艦上――。

「これはどうしたことだ・・・?」

 ロイエンタールが首をかしげている。

「何かあったの?」

 話しかけるティアナに、

「グリンメルスハウゼン閣下はこういっては何だが、昼行燈と呼ばれるお方だ。その下の参謀長も同様のはず。先ほどのようにアヒルのように座り込んでいることが普通だというのに、今こうして行っている艦隊運動はグリンメルスハウゼン子爵閣下らしからぬ動きだ。そうは思わないか?」
「そう言われれば・・・・」

 自分の艦のことについかまけてしまっていたが、なるほど言われてみればその通りである。先ほどの第五艦隊をいなした手腕、さらに第十艦隊への鮮やかな主砲3連斉射、そして続く背後から強襲してきた第五艦隊への鮮やかな対応。これはまるで別人が指揮を執っているようだ。それも一流の将帥でなくてはこうも鮮やかな艦隊運動が――。
 そこまで考えてティアナははたと気が付いた。何のことはない、旗艦司令部には親友がいるではないか。

「あぁ、そういうことなのね」
「どうかしたか?」
「ううん何でもないわ♪」

 だが、そう言っていても相好を崩しているティアナにロイエンタールは不審顔をしたが、何も言わずに指揮に専念することにした。


 グリンメルスハウゼン艦隊参戦!第十艦隊の旗艦撃沈!!

 これは皮肉にもエル・ファシル星域での会戦でシドニー・シトレがやってのけたことと同じ結果を産んだ。旗艦を失った第十艦隊はその戦力を半減し、後退してしまったからである。


 この報告は主力艦隊3万隻の中核を進むビリデルリング元帥のもとにもたらされた。もっとも通信妨害がひどく、その結果を聞き取れたのがやっとの状態であったが。

「何じゃと!?」

 ビリデルリング元帥は自分の耳が信じられなかった。あのアヒル艦隊がそんな離れ業をやってのけたというのか?!宝くじで一等が当たることよりも信じがたい事である。だが、続いてかろうじて届いた戦況図から、事実であることがはっきりすると、ビリデルリング元帥は思わず大笑いしていた。

「ハッハッハ!!これは良い事じゃ!!吉報じゃぞ!!ミュッケンベルガー!!」

 大笑するビリデルリング元帥とは対照的に、通信スクリーンに写るミュッケンベルガーの顔は疑問符に満ちている。

「御意。ですが、不思議ですな。あの老人のどこにそんな力量が・・・」
「それ以上言わんでもいい。ああ見えてあの老人には本心を韜晦するすべがあるでな。じゃが、ミュッケンベルガー、今は戦場のことに集中せい」
「御意。このまま前進し一気に敵の本隊を直撃しましょう」

 主力艦隊3万隻は、一路敵総司令部本隊に向けてその距離を詰めていたのである。
 
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