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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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第46話 展望

 
前書き
糖分注意。砂糖吐きたい方は残心無く吶喊しなはれ_:(´ཀ`」∠):_ 

 
 
 電車の外の流れてゆく景色を眺める。あっという間に近づいては流れ去ってゆく景色のわくわくと寂しさが交互に訪れる感覚がなんとなく好きだ。
 しばし、この景色の変化を楽しみたいのだが、相方がどうにも様子がおかしく心から楽しめないという問題を先ずは解決しないといけないようだ。

「なにそわそわしてるんだ?」
「そわそわなんてしてませんよ、子供じゃないんですから。」

 向かいに座る少女が少し剥れて反論する。が、落ち着きがない様子なのは一見して明らか、視線も怪しく動き回ってるし、身じろぎの回数も多い。
 一言でいえば挙動不審だ。

「……隠し事が下手だな。ほれ、素直に吐け、何が落ち着かないんだ?」
「う……その、なんというか。」

 言い淀みながらこちらをチラチラと視線を泳がせている目の前の少女……唯依。

「そんなに己との新婚旅行が嫌か?」
「そんな!嫌じゃありません!それよりもし、し、新婚旅行じゃないですよ!まだ結婚してないですし!」

「些細な違いだ。」
「すっごい大きな違いだと思います。」

 唯依が慌てた様子で否定してくる。少し対応が意地悪かったかと内心若干反省する。
 まぁなぜこんなゆったりと旅行になんぞ興じているかというと―――単純に、欧州に旅立つ日が目前だから、心残りが無いようにという配慮で貰った休暇だからだ。


「その、何というか、何もしていないのは落ち着かないというか―――こんなことをしていていいのだろうか、そんな気分になります。」
「………」

 前々から思っていたが彼女はサバイバーズギルトを患っているのかもしれない。
 自分だけが生き残ってしまった、助けられなかった、見捨てるしかなかったという罪悪感。

 死んでしまった者たちの代わりに自分が何かを成し遂げなくてはならない、そうでなければ死んでしまった人たちに申し訳が立たない―――そんな強迫観念。
 だが、死んでしまった人間に尽くすのは本来不毛だ。

「なるほど、しかし――旅の中でもそんなことに現を抜かすのは無粋極まっている。お前ももう少し小粋に生きてみたらどうだ?」
「小粋って……難しいです。」

 自省癖が始まりそうな唯依に肩をすくめる。

「そう小難しく考えるな、楽しむことを忘れるなという事さ。楽しむことのできない、楽しいという感情を否定してしまった人間はもう人間ではない―――ただの装置だ。」

 装置、確かにその通りなのだろう。自分で言ってそう思う。
 私欲を滅し、理想に徹すれば確かに正しい存在というモノにはなれるだろう。
 だが、それまでだ。一から十までを徹頭徹尾に決めたまま動くだけの存在。

 まるで電子の機械仕掛けのような行動原理だ。
 恐らく、そのような存在はどんな人間的に見えていても―――根本的な所で壊れている。
 必死に人間らしくあろうと、人間を演じる人形(ロボット)の域を出ないだろう。

 逆に、必死に機械であろうとする人間もまた似たような存在だが……そのような半端モノには何を成し遂げることも、何かを勝ち取ることも出来ないだろう。

 何となくだが確信がある―――(おれ)は、ゆいを喪い、唯依に出会うまでの間。
 私心を滅し、より多くを救い少数を切り捨てる機械のような生き方をしていたからだ。

 その末路を何となくだが察することが出来る。
 自分を愛していない人間に、芯のない空虚な木偶人形が何処へ歩いて行けるはずもないのだから。


「……じゃあ、一つ私が楽しみにしていたこと言ってもいいですか?」
「なんだ?」

「お弁当を作ってきたので、その……一緒に食べませんか?」
「ずいぶんと可愛らしい我儘だな。いただくよ。」

 おずおずとバスケットから風呂敷に包んだ弁当箱を取り出す唯依、後生大事に抱えていたから何かと思ってはいたが―――
 割と早い時間にこの列車に乗った。つまり、昨夜のうちから準備して早起きして用意したということだ。

 何を想って、そのおかずを作り詰めていったのか―――そのいじらしさを想像すれば穏やかな多幸感を覚えるのも無理からぬこと。

「あの……お弁当作るのは久しぶりで……その、お口に合わないかも……」
「お前の料理の腕は知っている、心配はしてないよ。それに、お前が(おれ)を想って作ってくれたのだとすれば不味くなんぞなるわけあるまい。」

 そう答えつつ唯依が開いた包みの中にあった弁当箱を受け取り、客席の窓に備え付けられた台に置くとその蓋を開く。

 目に入るのは色とりどりのおかず、そしてご飯が詰まっているだろう段には丁寧に一口サイズの球形のおにぎり……わかめご飯、梅紫蘇など傍目にわかるだけでバリエーションを作って、凝っている。

 甘辛く味付けされたコンニャクと牛蒡の炒め物も丁度いい塩梅によく味が染みている。牛の煮込みも非常に柔らかい。

 心底丁寧な下ごしらえ無くしてあり得ない料理の数々が詰まっていた。
 ここまで真心を感じる弁当は―――本当に久しぶりだ。

「……………」
「あの、どうしたんですか……?やっぱり」

 やっぱり適当な駅で弁当を買ったほうが良かったのだろうか、唯依がそう言おうとしているのが手に取るようにわかる。
 それに対し、首を左右に振る。

「いや、感心していたんだ。準備、大変だっただろ?」
「いえそんなことありません!どれも簡単な料理ばかりですし!」

 簡単だが、其れゆえ極めるは至難。簡単だからこそ、きちんと美味しく作るには繊細な手間暇が必要とされる。真心がなければ此処まではできない。

「じゃあ、せっかくだ。いただきます。」

 不安と期待から胸を高鳴らせる唯依が一部始終を見守る中、まずはと卵焼きに箸を伸ばし口にする。

「―――美味いな。ああ、本当に美味い。」

 口から出たのは素直な感想、一部驚嘆の色を含んでいる。
 本来、出汁巻き卵の出汁は使わない。水を使うモノだ―――理由は単純で、出汁を入れてしまうと卵の風味が出汁に打ち消されてしまうからだ。
 その為、出汁を入れる出汁巻き卵というのは濃い味が好まれる弁当に入れられる物なのだ。

 しかし、この卵焼きは出汁を可能な限り薄く味付けしており卵の風味を可能な限り残す味付けがされている。
 素朴で優しい味付けだ―――しかも、卵焼きによっては中に刻みネギを入れたものや、縮緬じゃこ、刻んだニンジンを入れたものなどがある。
 しかも、その入れたものに応じて微妙に味付けを変えて調整してある。

「良かった、忠亮さんに喜んでもらえて。」

 裏のない率直な感想に胸を撫で下ろす唯依。その様子に安堵する。
 サバイバーズギルトが無いとは言わないが、彼女は彼女なりに惨劇の記憶に向き合い、乗り越え、超克することが出来る人間だ。

 己が心配することなど何もない―――ならば、(おれ)も楽しむとしよう。
 もう、終わったのだから……約束を果たすため、いつか巡り合う(おれ)を救ってくれる誰かが生き残れる確率を上げるために、小を切り捨て大を救う。

 そんな、正義の味方という機械に徹する必要はもうない。
 之からは―――人間として生きていける。

「ああ、こんなに美味い料理は本当に久しぶりだ。」
「それはちょっと大げさです。」

 忌憚のない感想に照れ臭さからか困ったように苦笑いする唯依。大げさなものか、ここまで食べる人を楽しませようとする食事は本当に久しぶりだった。

「これだけでも、来た価値があったよ。―――ありがとう。」
「なんというか、面と向かって言われると……照れ臭いです。でも、嬉しいです。」

 はにかむ唯依の笑顔。―――ああ、今の笑顔はいい。
 唯依が自分のために向けた笑顔、とてもきれいで悲しみの中に見つけた笑顔ではなく―――もっと何気ない、当たり前の笑顔。
「………」

 その笑顔に思わず目を細める、口元が微かに上がっているのを感じる。――彼女の笑顔につられたのか(おれ)もほほ笑んでいたようだ。

「…………!」

 だが、そうすると何故か唯依が行き成り赤面してしまう。

「ん?どうした、(おれ)の顔に何かついているか?」
「いえ!あの、そうじゃなくて……わ、私もお弁当食べますね!」

「変な奴だな。」

 慌てて自分も弁当を食べ始める唯依に肩を竦めると、流れる景色を肴に(おれ)も再び箸を動かすのだった。




「詫び寂びがあって……落ち着くいいところだな。」

 私服に茶色のコートを着込んだ忠亮が景色を眺めながら呟く―――ひらひらと無い右腕の袖が風に舞う。

「はい、お天気がちょっと悪いのが残念ですけど。」
「月に叢雲、花に風……よくあることさ、だがそういうモノの中からも楽しみを見つけ出すのが人間の知恵ってやつじゃないのかな?」

 朗らかにほほ笑む忠亮の傍に寄り添う唯依。さすがに東北は春先だというのに寒い。
 しかし、このように寒い時の温泉は格別。これkら向かう先の旅館の温泉が少し楽しみになってくる。

「さて、そろそろ旅館に行くか。」

 そういって忠亮が駅の改札口から荷物を持って歩き出す。

「あ、私が持ちますよ!」
「構わんよ、女に荷物持ちさせてる男は締まらんだろ?」

 そういって自分が両手でようやく持てるような二人分の荷物を持ちあげてしまう。

「もう、強情なんですから。」

 ちょっと困った表情で苦笑い、篁唯依はずっと見てきた。彼が歩けなくなってからどれほどの苦労をして今こうしているのか。
 右腕だけではなく、右目や右足に内蔵のいくつかを失い。それらの傷が癒えた後の血反吐を吐くリハビリ。

 彼が満足に動けるようになるのに半年掛かった。完ぺきではない技術故に歩けなくなる人も多い中、こうして一緒に歩ける―――ただ、それが嬉しい。

「ん?……たこ焼きか。」

 ふと、漂ってきた香ばしい香り。目線をめぐらした忠亮がそれを見つける。
 小さい屋台だ、だいぶ年期が入っているように見える。

「小腹も空いてきた、丁度いい少し食べて行かないか?旅館の送迎バスもまだみたいだしな。」
「はい、確かにちょっとお腹すきましたね。」

 二人で屋台に足を向ける、屋台ではお爺さんが汗を流しながら丁度たこ焼きを焼いている。

「あの…」
「―――注文は?」

 不愛想、その一言を濃縮したような言葉が声を掛けようとしたら帰ってきた。

「えっと……」
「六個入りを一つ、マヨネーズは端っこにお願いします。ソースはお勧めで。」

「あいよ。青のりはどうする?若い娘さんが歯に付けてたら台無しだろ。」
「じゃあ半分だけ頼みます。」

「あいよ。」

 不愛想どうしで会話のテンポが合うのか、さっさと注文を細かい所まで決めてしまう忠亮とたこ焼き屋の主人。
 自分が何も出来ない―――その無力感は非常に居心地を悪くする。

「ほれ、400円だよ。」
「あ、はい。」

 空かさず財布から代金を取り出すと袋に入ったたこ焼きを受け取る。ソースの香ばしい香りが鼻孔をついて胃袋の虫を刺激する。

「って…あれ、このたこ焼き八個入り…?」

 注文したのより二個多い。

「サービスだよ。若いんだ食えるだろ?」
「あ、ありがとうございます。」

 たこ焼き屋のお爺さんの素っ気ないながらも気を利かせたおまけに礼を言う。

「わぁ……美味しそうですね。」
「そうだな、PXにはあまり置いていないから新鮮だ。」

「私も最後に食べたのはちっちゃい時以来ですから……本当に、懐かしいです。」

 たこ焼きを持って駅近くに設定された旅館のバス乗り場へと移動しながら唯依が懐古に目を細める。

「意外だな、篁のお嬢様がこんなジャンクを口にしていた事があるとは。」
「……忠亮さんは私をどんな箱入りと思ってるんですか。」

「すまんすまん」

 半目で睨む唯依に苦笑しつつも謝る忠亮、実際市政で人気の食べ物とはいえ上流階級出身である唯依に馴染みがあるとはどうしても思えなかった。

 ―――ついでに、箱入りと聞いて段ボールに入っている小さくデフォルメされた唯依を想像したのは内緒。

「小さいころにお父様に連れられてお祭りに行ったとき食べたんです。私、はしゃいじゃって―――いつの間にか疲れて寝ちゃったんです。お父様がそんな私を背負って、お母様がそれを見守っていて。」

 懐かしい、言葉にせずともその気持ちはわかる。唯依にとって掛け替えのない亡き父との思い出。そして理想の家族の在り様なのだろう。

(おれ)達もそんな風に思い出を作っていこう。」
「はい。」

 そうやって道を歩く一緒に、歩道の地面に木漏れ日が揺らいでるのが見えて、空を見上げた―――その時だった。

「……あ」

 ふと、気づいた。今までの自分との内面の明らかな違いに。

「どうした?」
「ううん、何でもありません―――ただ、空ってこんなに綺麗だったんだなって驚いただけです。」

 嘘じゃない、だけど全部ではない。
 自分が何をすべきか、それに反しない限りで自分の欲望を通してきた。今となりを歩いている人との婚約もそうだった。
 だけど、今は違う………自分がどういう風に生きたいのかがはっきりと見えた。

 自分はこの人とずっと一緒に歩んでいきたい―――純粋に、ただそれだけを願う。

「忠亮さん、ちょっとお下品ですけど歩きながら食べちゃいましょうか―――はい、あーん。」
「ん、あぁ……」

 楊枝に刺したたこ焼を忠亮の口に放り込むと、その楊枝で自分もまたたこ焼きを頬張る。

「はふ、はふ…………美味しいです。」

 口の中でとろりと熱々の生地が流れ出てきて、ソースの香ばしさと混じり合い紅ショウガなどのアクセントの効いた深みのあるハーモニーを編み出す。
 二人で一緒にさほど特別でもない物を食べながら歩いているだけ―――たった、其れだけなのにすごく楽しい。

 暖かい気持ちが溢れてどうにかなってしまいそうだ。
 自分はいま、心からこのひと時を楽しんでいる。そして、その先を願っている。
 嘗ての私欲を滅し、ただ役割を最高の効率で成し遂げる機械になろうとしていた篁唯依はどこにも存在しない。

 愛され、愛して―――その先を望んでいる。

「ああ、そうだな。しかし、たこ焼きとは元々はソースを使わないものだったらしい。」
「えっそうなんですか?」
「なんでも小麦粉を出汁で溶いて生地自体に下味を付けていたらしい。まぁ、当時はソースが無かったからそうでもしないと味のない粉ものにしか成らなかっただろうがな。」

 この人と共に歩んでいく未来が欲しい。

「成るほど……じゃあ、今度挑戦してみようかな。」
「上手くいったら(おれ)にも食わせてくれ。」

「なんかトンビが油揚げを浚っていくと宣言してるように聞こえるのですけど?」
「むっ、そう言われると妙に居心地が悪いな。」

 バツの悪い顔をする忠亮、それを見てクスクスと小さな笑いを零す唯依。

「ふふっ、冗談ですよ。いつか一緒に食べましょう。」
「楽しみにしているよ。」

 二人での何気のない会話、暖かな空気が其処にはあった。この穏やかな空気が、この旅行だけではなく―――もっと、ずっと…続いてほしい。
 軍人である自分にはこの時間は非日常に過ぎないのだ―――まるで覚めては消えてしまう夢のようなもの。

 だが、夢ならば―――叶えてしまえばいいだけの話なのだ。

「…………」
「なんだ?(おれ)の顔に何かついているか?」

 具体的にはソースとか青のりとか
 言わんとしている事が言葉にせずともひしひしと伝わってくる。それがまた妙におかしい。

「いえ、ただ私も変わったなって……私が本当にやりたいこと、見つかったかもしれません。」
「……その願いの先でお前は強く笑えるか?」

 真剣な眼差し、その問に篁唯依は本心から答える―――肯と。

「はい」
「そうか、なら(おれ)はそれを全力で応援しよう。」

 力強い言葉、が即座に却ってくる。自分だけが、みんな死んでしまったのに自分だけが幸せになってもいいのか?という一抹に残っていた疑念が、まるで残っていた根雪が解けて消えていくように感じた。

「それがなんなのか聞かないんですか?」
「お前を愛しているからな、幸ある路をお前が選ぶというのなら是非はないさ。」

「あう……忠亮さんは言葉が少し直接的過ぎます。……あむ」

 どストレートな言葉、直接的というより直撃的と言ったほうがむしろ正鵠を得ているのかもしれない。
 愛していると、言われて顔に血流が集まって縮こまってしまうのも無理ないことだろう。

 気恥ずかしさから逃げるように、というか正にそのままたこ焼きを口に放り込んでうつむいていても不自然じゃないように装う―――――が、それは失敗だった。

「あ、唯依そいつは……」

 口の中に広がる青のり特有の香り……そして、指摘されて気づく。
 たこ焼の青のりは地雷だ、即死級のトラップの代名詞。食べたら最後小さな青のりが歯にびっしり……

「………」

 好きな人の前で青のりびっちり、というのはかっこ悪すぎる。わざわざ分けてもらったそれを口にする自分の迂闊さを呪いたい。


「……意外と天然なんだな。ああ!って分かった(おれ)が悪かったから涙目になるな。」

 たこ焼を口に入れたまま、目じりに涙が溜まっている自分を見て焦りだす忠亮。少し、新鮮だと心の隅で場違いに思う。
 だが―――なんか、しょうもないことで泣きそうになるなんて……泣かないと決めた決心はどこ行ったっと自分に問いかけたい。

 本当に、この人の前じゃ自分のちっぽけな仮面なんて剥ぎ取られてしまう。

「ほれ、そっちの青のりの付いたやつ寄越せ。二人とも同じ格好なら少しは紛れるだろ。それに元々、そっちは(おれ)が食いたくて注文した奴だしな。」

 本当に素直じゃない言い訳。この人の知らない一面を見て少しおかしくなる。

「う~…わかりました。死なば諸共です!!はい、あーん……」



 その後、迎えに来た送迎バスの運転手に二人して揶揄われたのは余談である。
 
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