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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第59話:猫の瞳は深夜に輝く。

(グランバニア城・地下金庫室前)
マオSIDE

私の名はマオ。マオ・イアン……グランバニア城で働く上級メイドだ。
元は別の国で生まれ育ったのだが、メイドとして働く為にグランバニアへと移り住んだ。
その為、マオとしか名前が無かったのだが、国王陛下がイアンと言うFN(ファミリーネーム)を付けてくれた。

この国ではPN(パーソナルネーム)FN(ファミリーネーム)の2つが無いと戸籍登録が出来ない。
城のメイドとして働く為には、戸籍登録が必須だったので、言われるがままに拝命した。
ただ、何故イアンなのかは判ってない。

この名を聞いた時に娘のマリーさんが『何でイアンなの?』と陛下に聞いてくれた。
しかし陛下の答えは『イアンは中国語で目って意味なんだ。じゃぁマオは(ニヤリ)』とだけ……
でもマリーさんは『あぁ、なるほど。レオタード着せたくなるわね』と理解していた。

中国語が何なのかも、何故レオタードを着せたくなるのかも解らないが、私は大人しくマオ・イアンと名乗る事にした。
何故大人しく従うのかというと……目立ちたくないからだ。

そう、私は目立たないように生きてきた。
各地の王家や貴族の館でメイドとして生きてきたが、それは世を忍ぶ仮の姿。
私の本当の姿は、王家や貴族を専門で狙う大泥棒!

これまで私が大泥棒だと事前に気付いた者は居ない。
狙った獲物を奪い、その土地から居なくなって初めて泥棒を身近に置いていたと気が付く。
だから目立ってはいけないのだ。

しかしそれも今日で終わり。
このグランバニア城も私の手に掛かれば攻略可能なのだ!
だが、これまでの仕事に比べれば随分と時間が掛かった事も事実。

最短で1週間。
梃摺った仕事は、ラインハット城での6ヶ月だった。
流石に大国の金庫は破るのが大変だった。

あのラインハットでの仕事が私の自信に繋がった。
更なる大国のグランバニアに挑戦する気持ちになったのだ。
そして3年……

ラインハットと比べて6倍の年月が掛かってしまったが、遂に今夜……私はこの国(グランバニア)の金庫を攻略する!
……長かった。まさかこんなに長期間メイドとして滞在するとは考えても居なかった。

なんせメイドとして働き始めて暫くの間は、金庫室の場所すら判らなかったのだ。
働き始めて半年ほどした頃、やっと金庫室の場所を見つけ出した。
もう諦めて別の国に行こうかと考え出してた矢先の出来事だ。

まぁ諦めず辛抱強く情報収集した成果と言える。
だがしかし、この金庫室の場所がまた厄介だった。
何故ならこの場所へは誰も用事が無いからだ。

金庫室へ行く下り階段の初めには、鍵付きの扉が備わってるのだが、全くもってセキュリティーが低い!
駆け出しの泥棒でも、ヘアピンが有れば簡単に解錠出来る程度の扉。
しかも専属の警備兵なども居らず、無造作に意味不明な扉が佇んでるだけ。

しかし、この扉に辿り着くには、金庫室(ここ)以外を警備してる兵士の目の前を通らなければならない……しかも2人も!
通り過ぎるだけなら簡単だと思えるのだが、この場所へ来る必要性が全然無いのが問題だ。
一介のメイドが、用も無いのに彷徨くのは非常に目立つ!

“金庫室が有る”と知れ渡ってれば、それなりの理由を捏造して彷徨く事も出来るが、金庫室の場所を知ってる人間は王家の中でも少数だ。
何故メイド如きが知ってるのかと言う事になる。

普通、大切な物を保管する場合は、そこの警備を厳重にする。
しかしこれ程までにセキュリティーが低いと、だれもその先に金庫室が有るとは考えなくなる。
なんて性格の悪い人間が思い付いたのだろうか……

折角金庫室の場所を探り当てたのに、近付く事も出来ないなんて……流石に諦めようと考え始めた頃、ロイヤルファミリーの為に奉仕する上級メイドを募りだした。
上級メイドとなれば王家にかなりの信頼を植え付けられる。

そうなれば金庫室周辺の掃除などの仕事も舞い込んでくる……そう考えた私は、完璧なメイドとして振る舞った。
メイドの中でもお給料が最上位に位置する為、倍率はとても高かったが、私に不可能は無い。

170倍の倍率を勝ち抜き、見事上級メイドとして働き出せたのが、メイドになって1年目の事だ。
辛抱強く機会を覗い、上級メイドとして日々の仕事を熟していく。
そして半年が過ぎた頃、更なる転機が訪れる。
何と私に金庫室周辺の清掃任務が回ってきたのだ!

メイド長のブレンダさんに連れられて金庫室へ降りる階段の扉まで来た時『え、この先が金庫室なんですかぁ!?』と驚いて見せた。
既に1年前には場所を知っていた私だが、ブレンダさんは自慢気に『そうよ……グランバニアでも数少ない人間しか場所を知らないのよ』とレクチャーしてくれた。

しかし問題が全て片づいた訳では無い。
金庫室前に初めて来て判ったのは、金庫自体のセキュリティーの高さだ。
当然では有るのだが、解錠方法は簡単では無い。

高さ2.5メートル・幅3メートルが金庫前室の奥に有る壁で、その全てが金庫室への扉になっており、扉の中央には直径50センチメートルの大きなハンドルがあり、その下に1~100のメモリを振った赤・青・黄のダイヤル錠が付いている。

初見でこの金庫の扉は分厚いと感じたので、力業での金庫破りは不可能と判断。
何より私のスタイルとして力業での強奪なんて有り得ない!
だからこれまで通り、メイドとして従順に仕えるフリをしながら、金庫の暗証番号情報を得ようと試みました。

だけど流石はグランバニアでした。
金庫の場所を知る者が少なすぎる上、金庫かを解錠出来る者がもっと少なく、情報を得るのに大変苦労した。
しかし私は諦めない……半年の年月をかけて、金庫解錠資格者を見つける事が出来たのです。

金庫解錠資格者は3人。
国王のリュカ様と、大臣のオジロン殿と、秘書のウルフ殿だ。
私の持つ武器の一つで有る色気を使って、暗証番号を得ようとした……

しかし国王に対して女として迫ると、上級メイドとして不適格者となり、即刻資格取り消しになる。
ベッドで暗証番号を聞き出して、その日のうちに金庫を破り、即日出国出来れば問題ないが、あの国王が簡単に喋るとは思えず、彼をターゲットにすることを諦める。

二人だけの秘密の交わりとして関係を維持することが出来れば、時間をかけて情報を聞き出すことも出来たのだけど、あの男は直ぐに喋るから……
もう自慢するが如く、嫁や息子や部下達に『どこの誰とヤったよ』と言うから……

次に狙ったのは部下の二人のうち若い方だ。
若けりゃ隙も出来るだろうし、四六時中ヤリたがってるだろうから、簡単に落とせると考えた。
しかし……この男、どうにも隙が無い。何より生意気でムカつく。

従って最後の一人、オジロン大臣にターゲットを決定。
真面目で穏健なので扱いやすく、遙か昔に死別した妻のことを何時までも引きずっていたので、そんな心の隙間に入り込んで呆気なく陥落。

根が真面目だから、娘や甥(国王)に対して後ろめたさがあり、私との関係は完全に秘密になり、夜な夜な私が彼のベッドに通っても、噂になることはなかった。
もう私の思うがままに動いてくれた人物だったわ。

それでも金庫の暗証番号は簡単には教えてくれず、半年間セッ○スし続けてやった結果教えて貰えたのは、暗証番号が3つの数字で出来ていることだった。
ダイヤル錠が3つあるのだから、暗証番号も3つなのは判っていた。

これでようやく禿爺とオサラバ出来ると思い、急いで金庫前室に来て暗証番号を試してみたが、ダイヤル一つずつに一つの数字を入れても金庫に変化は無く、ガセを掴まされたと思いヘコんだ。

禿爺に文句を言う訳にも行かず、仕方なくセ○クスし続けててやったとこ、半年ほどして金庫の開け方が特殊である事を知った。
如何特殊なのかはその時は判らなかったが、遂に今日……国王と秘書の会話から、金庫の開け方を聞き出すことに成功!

まさか暗証番号は3つあり、ダイヤル一つ一つ違う番号で、その内の一つの番号だけで解錠出来るとは思ってもなかった。
しかも一緒に国王の番号も知ることが出来たので、腹いせに奴の番号で解錠して盗んでやろうと思っている。

これまで只管(ひたすら)従順に仕えてきたから、完全に信頼しきってベラベラと喋ってくれたわ。
どんなに厳重なシステムで防御しても、結局運用するのは人……
その人が気を抜いてしまえば、厳重なシステムなんて無いと同じだ。

さてそろそろ金庫破りを実行しましょうかね……
折角教えてもらったリュケイロム国王陛下の暗所番号を使ってね(笑)
もうニヤニヤが止まらない私は、強敵だった金庫の扉に近付いて青のダイヤルに手をかける。

そして愛しのビアンカ王妃陛下のスリーサイズを、青のダイヤルで右・左・右と合わせていく。
3つとも合わせ終わると扉から“カチャン”と音がした。
これで解錠成功したらしい。

次に金庫の扉の中央に配置されている大きなハンドルに手をかけた。
どちらに回すのが正解か判らないが、通常は時計回りに回すのが正解だ。
しかしあの国王の性格の悪さから、万が一という可能性も有るので試しに反時計回りにハンドルを回してみる。

しかし動かない。
やはり時計回りが正解のようだ。
これで心置きなくハンドルを回すことが出来るわ。

さて時計回りにハンドルを5回転ほどさせると、それ以上回らなくなり金庫室御開帳の時間がやって参りました!
私は回しきったハンドルを両手で掴むと、全体重をかけて金庫の扉を手前に引き寄せます。
“グググッ”という鈍い音を発しながら、金庫の扉は手前方向に開いて行く。

ある程度開いたので、早速金庫室へと侵入しようと入り口正面に移動した……が、金庫室が無い。
扉を開いて現れたのは奥行き30センチメートルくらいの棚が7段。
その棚には殆ど何も無く、私の胸の高さくらいの段に1万(ゴールド)の札束が一つと、噂で聞いたことが有る“王家の証”の絵が一枚。

絵を取り裏面を見ると……
『はい。残念でした(笑) 金庫破りは大失敗でーす♥ でも3年間の努力に免じて、1万(ゴールド)のお小遣いを恵んであげよう☆ 有難く受け取り、また明日から我が王家にひれ伏しなさい。あははははー』と書いてあった。

そ、そんな馬鹿な……
今夜金庫破りをすることがバレていた!?
いやそれよりも、『3年間の努力』と書かれているって事は、私がこの国に来た時から、私が泥棒である事が判っていたと言うことか!?

そんなこと有る訳無い!
これは何かのハッタリだ……
しかし今回は失敗した以上、この場からは逃げなければならない!

この金は……いや、持って帰ったら足が付くに違いない。
何も盗らず金庫を閉めて逃げた方が良いだろう。
私は慌てて重い金庫の扉を閉め始めた。
すると……

「あれ~、何も盗らずに閉めちゃうのぉ?」
「俺等の掌で踊らされてたことに気付いたから、絶望感でいっぱいなんだよ」
と、背後から何者かの声が聞こえた!?

吃驚して振り返ると、そこには国王と秘書官がニヤニヤしながら佇んでいた。
全然気が付かなかった……
背後をとられてることに全然気が付かなかった!!

私の背後は金庫前室唯一の出入り口……
その出入り口を塞ぐように国王と秘書官が立っている。
逃げられない……力尽くでこの二人に勝てる訳無い。

これで私の人生は終わった……
この後、私は如何なるのだろうか……?
即刻処刑されればまだ良いが、男の慰み者(おもちゃ)にされるのは地獄だろう……

マオSIDE END



 
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