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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第61話心の矢印が

亜利沙side

3月14日、空港

「とうとう行っちまうのか・・・」

「寂しくなんで・・・」

「また帰ってくるからそんな顔しないで?」

私は今オリンピック出場の夢を叶える第一歩、アメリカ留学に向かうために空港にいる。今日この日のために、私を見送るためにみんなが集まってくれた。翼に弾、かんなに里香さん、桂子ちゃん、和人くんも来てくれた。それにまだ回復しきってないのに、車椅子に座って未来ちゃんや明日奈さんも私のために来てくれた。パパ上は朝から泣き続けてたからお母さんがあやしているため、ここには来ていない。でもお母さんが『ドーンといきなさい!!』って言ってくれたから、それだけで十分。あとはーーー

「それにしても、竜さんが風邪だなんて・・・」

「仕方ないよ・・・」

そう、桂子ちゃんの言う通り、竜くんは風邪をひいてしまって今日ここには来ていない。何でも昨日、ドーピングの効果を消すために龍星さんに治療して貰っていたら急激に体調を崩してしまったらしい。その治療法が《ナーヴギア》と同じような信号素子のマイクロウェーブを竜くんの左腕に投与した新薬の成分に当てて、ドーピングの副作用だけを焼き消したらしい。でも信号素子のマイクロウェーブはとても熱いので左腕に集中すると腕その物を焼いてしまうから、上半身を裸の状態でそれを浴びた結果、その夜発汗作用のせいで寝汗が酷くて風邪をひいてしまったという話を聞いた。最後に顔だけは見たかったけど、残念だなーーー

「亜利沙さぁ~ん!!せっかくまた会えたのにぃ~!!寂しい~!!」

「あぁ~よしよし、泣かないで~」

車椅子に座りながら抱きついてくる未来ちゃんの頭を撫でながらあやす。未来ちゃんや竜くんはあの夜以来、私たちが死んだと思っていた。時期や形が違えどみんな現実に帰還出来たのにまた離ればなれは悲しいし寂しいけどーーー12月中旬には帰国するからあんまり泣かないでほしいな。

「そうだ、アリー」

現実(こっち)じゃ亜利沙ね、桐ヶ谷和人くん。どうしたの?」

仮想世界での名前で私を呼んだキリトくんーーー桐ヶ谷和人くんに注意して、和人くんは『そうだった』と言わんばかりの反応をする。その和人くんは背中に背負ったショルダーバッグから何かを取り出した。これはーーー小箱?

「ライリュウが・・・竜が『バレンタインのお返しなんだけど、オレ行けなくなったから代わりに渡してくれ』って預かったんだよ」

「そういえば今日ホワイトデーじゃない!へぇ~、こんな美少女にバレンタインチョコ貰えたなんて、ライリュウも隅に置けませんなぁ~♪」

「~~~/////」

そうだーーーすっかり忘れてたけど、今日ホワイトデーだった。竜くんはそういう事に結構律儀な人だけど、何も自分が行けないからって他の人に渡してもらわなくても。別に失礼だとは思ってないけど、みんなが変にときめいてるから恥ずかしくて堪らないよ。里香さんのニヤニヤした視線が痛いよーーー

「りゅ、竜くんに・・・お兄さんにありがとうって言っといてくれる・・・?/////」

「お兄さんはよしてやれよ。というかよしてくれよ、俺も恥ずかしいから・・・」

アメリカに着いたらメールすればいいけど、やっぱり和人くんにーーー弟さんに伝言を頼んだ。もしかしたら彼を通して竜に伝える事で、彼を竜くんと重ねてるのかもしれない。双子の兄弟なだけあって、よく見たらそっくりだからーーー

「アリーちゃん・・・亜利沙ちゃん。お礼がまだだったね。キリトくんを世界樹に連れてきてくれて・・・助けてくれてありがとう」

「いえ、私は何も出来てませんよ。彼らがすごいから、本当に・・・」

「そんな事ないよ。あなたたち《リトルギガント》が道を作ってくれた、わたしをキリトくんに会わせてくれた。それは確かよ」

この明日奈さんの言葉は、私にとってとても嬉しかった。私だけじゃない、翼も弾もかんなも嬉しいはず。SAOをイレギュラーな事態とはいえ、途中離脱してみんなを待ってる事しか出来なかった。でもALO事件でーーー初めて本当の意味で仲間になれた気がした。
そう思った時、私の乗る飛行機の乗客を呼ぶアナウンスが鳴った。

「そろそろ行くね・・・」

『うん・・・』

私は搭乗口に向かうために歩きーーー出す前に、後ろに振り向き女子たちみんなを抱き締める。

「世界レベルになって帰ってくるから!!」

そうみんなに宣言して、私は私を応援して送り出してくれるみんなを背に、搭乗口へ歩き出した。




******




みんなと別れて数分、私は今アメリカ行きの飛行機の機内のシートに座っている。今のところ竜くんから連絡はない。そしてフライトの時間になってCAさんから携帯電話の電源を切るように言われて、私はスマホの電源を切ってしまう。やっぱり最後にもう一度だけーーー

「声だけでも聞きたかったよ・・・」

私はそう呟き、さっき和人くんに渡された竜くんからのホワイトデーの贈り物の小箱を開ける。その中にはーーーチョコチップの入ったクッキーが入っていた。確かホワイトデーのお返しって、何のお菓子かで意味が違うんだよね。バレンタインが告白だとしたら、ホワイトデーは返事。飴だったら『OK』、クッキーだったら『友達のままで』、マシュマロだったら『ごめんなさい』だったよね。つまり竜くんはーーー私と友達のままでいたいという事。

「・・・まさかね」

失礼だと思うけど、竜くんがそんな事を知ってるとは思えない。そう考えてクッキーを食べようとしたらーーークッキーの他に、折り畳まれた手紙が入っているのに気付いた。私はそれを開いて読んでみたーーー

【亜利沙へ
オレたちの中で手紙なんて少し照れ臭いけど、思いきって書いてみた】

確かに手紙なんてしたことなかったよね。でも飛行機じゃ携帯が使えないから、結構丁度良い気もする。私は早速このクッキーを一口ーーー

【まず最初に、このクッキー、結構気合い入れて作ったからかなり出来は良いと思う】

「ブフッ!?」

このクッキー手作りなの!?ウソ!?お店で売ってるのと大差ないくらい見た目良いよ!?私も手作りだったけど、竜くん相当料理上手でしょ!?出来が良いなんてレベルじゃないよ!!

【この前バレンタインチョコを貰った後、お前がどんな気持ちでチョコをくれたのか考えてみた】

そう書かれていた事に意識が向いた。私の気持ち、それはもちろん本命のつもりでチョコをあげた。ずっと気持ちを伝えたかったからーーー

【最初は友チョコか買い物のお礼チョコだと思ってたけど、SAOで殺人ギルドに襲われた夜、お前に言われた事をふと思い出した】

殺人ギルドーーーそうだ、あの夜から竜くんや未来ちゃんが私たちの事を死んだと思って、私たちは突然現実世界に帰還したんだ。その夜私は、竜くんにーーー

『大好きだよ、竜くん』

確かにこう言った。竜くんにはーーー届いてたんだ。

【自意識過剰かもしれないけど、オレはあのチョコを本命だと認識した】

ーーーまさにその通りだよ。

【でもオレ、今は友達のままでいたいと思ってる】

ーーーそっか。竜くん、知ってたんだ。ホワイトデーのお返しの意味。

【でも】

これで終わりだと思っていたら、続きがあった。それはーーー

【もしお前が日本に帰ってきた時、オレとお前の心の矢印がお互いを向いていたら】

その時が来たら、もちろん竜くんにはーーー

【オレをお前のなりたい存在にしてくれ】

私の恋人になってもらうからね、神鳴竜くん。




竜side

「へっくし!!うぅ~・・・」

流石に風邪っぴきで外に出るのはまずかったなーーーやたら遠いし、()()。でもしばらく亜利沙の顔見れなくなっちまうし、セーフだな。うん、ギリセーフーーー

「あれー?すごく見覚えのある人がいるよー?」

「確かあの人、今日は風邪で来られないはずではありませんでしたっけー?」

「せやなー、おかしーなー?」

ーーーいや、アウトだな。バリバリアウト。ったく、わざとらしく棒読みで会話しやがってーーーこのSAO時代からの同胞は。
オレは友達を見送りに来ただけだってのーーー負けんなよ、亜利沙。ドーンと行ってこい!!
 
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