| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

恋姫無双~2人の御使い~

作者:デイラミ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

幕間1


 近い位置で雷が落ちる。
 その音に思わず……

 「うおっ!」

 「きゃっ!」

 暢介と久遠は声をあげる。

 ここはある街の宿。
 2人が宿に入った途端、天候が悪化し雨が降り出した。

 宿の中にあった食堂で食事をしている最中に雷が落ち。
 最初の2人の悲鳴に繋がる。




 「結構近かったな今の」

 落ち着いた感じで話す暢介。

 ちなみに、彼は雷だったり台風だったりといった。
 荒れる天気が苦手という訳でない。

 「……」

 逆に久遠の方は、完全に動きを止めていた。
 少し表情に恐怖が浮かんでいる。

 「どうした久遠?」

 「……な、何でもありません」

 「……ひょっとして久遠。雷が駄目な……」

 暢介がそこまで言うと、久遠は席を立ち。

 「そ、そんな訳ないでしょ。ぼ、僕、もう寝るから」

 そう言って食堂から出て行ってしまった。

 「……そんな反応返されたら……バレバレだって」

 苦笑しながら暢介はそう呟いた。




 食堂で聞いた時よりは少し遠いが雷が落ちる音が聞こえる。
 雨足も強まっており、窓に叩きつける雨が勢いを増している。

 「……学生の頃だったら、部活休みだぁって喜んでるな俺」

 そう笑みを浮かべながら呟く暢介。
 
 「そういえば、久遠の奴。雷が駄目な様だったな……真美と同じか」

 暢介の妹、真美も雷が苦手だった。
 幼少期の旅行で、目の前で雷が落ちたのがトラウマとなり。

 今でも雷が落ちると身体が固まってしまう。
 近くに落ちると腰が抜けてしまい、その場にへたりこんでしまう。

 「一人じゃ寝れないからって俺だったり、両親の布団に入りこんだりしてたもんな……」

 そこまでいい、暢介は欠伸をする。
 眠気もきており、この感じならすぐに眠りに入れるようだ。

 「さて寝るとするかな……この様子じゃ雨が続きそうだけど、晴れたら移動しなきゃいけないしな」

 寝台に入り目を閉じる暢介。
 時折聞こえる雷の音も窓に叩きつける雨音も気にならなくなってきた頃。

 ドアが叩かれる音が聞こえた。

 「……ん? 誰だ?」

 丁度眠りに落ちる所での邪魔だったので暢介は少し不機嫌な声を出す。
 この状況下で、暢介の部屋を訪ねる人間は限られているのだが……
 
 「よ、暢介。起きてる?」

 「……久遠?」

 声の主、久遠の声に暢介は寝台から出るとドアに近づく。
 そしてドアを開けると、久遠が少し震えながら立っていた。

 雷が苦手だろうと思っていた暢介であったが、今の久遠の姿は予想外だった。
 
 「だ、大丈夫か? 久遠」

 暢介の言葉に久遠は反応を示せない。
 もしも、久遠が普通に話せるならば。

 『大丈夫じゃないよ!』

 と、返答していた事だろう。

 「と、兎に角、部屋に入って」

 そう言って暢介は久遠を部屋の中に入れた。




 部屋に通した後も、時折落ちる雷にビクッと反応を示す久遠。
 しかし、ある程度観察していると多少の違いが見える。

 (どうやら、久遠が反応を示すのは近い距離か……思えば雷、結構近い位置で落ちてるからな)

 無言のままの久遠をこのままにしておく訳にはいかない。
 そもそも、何とかしないと暢介自身も寝れない訳だが。

 「久遠、正直に言ってくれ。雷が駄目なんだろ」

 暢介の言葉に力無く首を縦に振る久遠。
 
 「どうしてそうなったかは聞かないけど、今日は……」

 そこまで暢介が言ったところで、2人の目の前が明るくなったと思った瞬間。
 雷が落ちる音が響き渡った。

 同時に久遠が椅子から飛びあがって暢介に抱きついてきた。

 「お、おい久遠」

 焦る暢介だったが、怯えの度合いが先ほど以上になっている久遠に焦りは無くなる。
 落ち着かせる為、暢介は久遠の背中を擦る。

 真美が雷で怖がっていた時もやっていた事で、彼女はそれで落ち着いた。

 しかし、久遠にも同様の効果があるかは不明ではあったが。
 しばらくすると久遠の身体の震えが落ち着いてきたのが分かった。

 『これは、雷を怖がっている理由を聞いた方がいいな』

 そう考え、暢介は落ち着いてきている久遠に尋ねる。

 「久遠。雷が駄目な理由を教えてくれないか?」

 もう一度、近い距離で雷が落ちる前にと付け加えて。




 誰かと話をしていて、ごく稀に。
 自らの予想を超える回答が来る場合はある。

 今回の場合、暢介は久遠が雷に恐怖心を持っている理由は。
 妹である真美と同じ様に、目の前で雷が落ちた事によるものだろうと思っていた。

 そして、久遠の話を聞き。
 その考えが半分正解はしていた。

 残りの半分が暢介の予想外の回答であった。

 『まさか……雷が目の前の人を直撃したとはな……そりゃあ、トラウマになるわな』

 幼い子の目の前で例え、知らない人でもその人が雷に打たれて亡くなったのを見てしまえば。
 雷というものへの恐怖心は芽生えるだろう。

 「昔は、雷の音だけでも駄目だったんだけど。今は遠くのは何とか我慢出来るんだけど……」

 近くに落ちる雷には、どうにもならないらしい。
 まぁ、そこまで克服してるのも凄い事なんだろうけども。

 そう思った所で、暢介は欠伸をする。
 どうもここに来て眠気が襲ってきているようだ。

 久遠も同様で少しだが眠たそうな表情を浮かべる時がある。
 ただし、ピカッと光ると身体を震わせるが。

 「寝た方がいいな……」

 そう呟くと、暢介は視線を久遠から寝台の方へ向け、何かを考え始めた。
 やがて、暢介は頷くと久遠の方へ視線を戻した。

 「この手かな、久遠。ちょっとおいで」

 「?」

 首を傾げる久遠を手招きする暢介。




 「これならいいだろ」

 「……」

 そう言った暢介に対して久遠の表情は真っ赤だ。
 2人は同じ寝台で眠っている。

 暢介が泊まっていた部屋の寝台が他の部屋と比べて少し大きく作られていたおかげで。
 並んで寝る事が出来た。

 「よ、よ、暢介」

 「どうした?」

 「こ、これって」

 顔を真っ赤にし、しどろもどろになっている久遠。
 そんな彼女に暢介は特に慌てる様子も無く。

 「誰かが一緒に寝てるって思えば多少は効果があると思ってさ」

 「そ、そうじゃなくて。暢介は大丈夫なの?」

 「俺? 俺は大丈夫だけど」

 「大丈夫って……男女が同じ寝台で寝るって……」

 その言葉に、暢介は「あぁ……」と呟く。

 「妹が久遠と同じで雷が苦手でね。俺の所に来て一緒に寝てたんだ。それで慣れてるんだ」

 その返答に久遠は少し考え、やがて頷いた。

 「まぁ、久遠の寝相が悪くて、朝起きたら顔が痣だらけになるってなら考え直すけど」

 「そんな事しません! 僕は寝相はいいんです」

 そう久遠が返すと暢介は笑みを浮かべて言った。

 「そうか。じゃあ、早く寝よう。いつまでも起きてる訳にもいかないしな」

 「うん……あ、あの暢介」

 「ん? どうした?」

 暢介は視線を久遠に向ける。

 「手を握っててくれませんか?」

 「へ? あっ……りょ、了解」

 真美の時にはそんな展開は無かったなと思いながら。
 暢介は右手で久遠の左手を握る。

 「それじゃあ、お休み久遠」

 「お休みなさい暢介」

 そう言って2人は眠りに落ちた。

 その後も、時折近い距離で雷が落ち。
 久遠がビクッとしていたけれど、暢介と手を繋いでいた事に安心していたのか。

 起きる事は無かった。




 「……あれ? 久遠がいない」

 朝起きた暢介の視線に久遠はおらず。
 既に起きて、部屋から出ていった様だ。

 窓の方へ視線を向けると、依然、雨が叩きつけていた。

 「……これは、今日は足止めか?」

 そう呟く暢介であった。

 事実、暢介と久遠はこの街でもう1泊をする事になった。
 夜には天候が回復したので、久遠が2日連続で暢介の部屋を訪ねる事は無かった。




 時間は暢介が起きるちょっと前に戻る。
 
 「……ん?」

 久遠が目を覚まし、窓を見る。
 未だに雨が降っているのをみて少し表情を曇らせる。

 視線を窓から暢介に向ける。
 すやすやと眠っている暢介に久遠は笑みを浮かべる。

 「本当にありがとう」

 そう言って久遠は暢介が起きない様に慎重に寝台から降りると静かに部屋から出ていった。




 「あっ! 鷺島くんに久遠が雷が苦手って事を言っとくの忘れてたわ……まぁ、いいか」

 と、司馬防が言っていたのは内緒だ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧