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反逆者

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第六章

「それは私にもわからない。しかし総統閣下ならばだ」
「ドイツの為に相応しい人物を任命される」
「そうなるというのですね」
「そうだ、そうなる」
 こう言うのだった。ゲッペルスはゲーリングは総統になる資格がなくまたなれないとは思っていた。しかしその次の総統は誰なのかはだ。わからないのだった。
 その間にも戦局は悪化していきだ。遂にだ。
 連合軍はドイツ本土に迫ってきた。敗北が近いのは明らかだった。その中でだ。
 ゲーリングは独自に連合国と講和の交渉を行おうとした。そのことをヒトラーが知り。
 そのうえで彼を罷免した。ゲーリングはナチス=ドイツでの立場を全て失った。このことを聴いてだ。ゲッペルスは満足した顔でこう述べた。
「いいことだ」
「まさかこうした形で失脚するとは思いませんでした」
「しかしですね」
「これで航空相はいなくなりました」
「この国から」
「そうだ。あの男は次の総統でなくなった」
 防空壕の中の己の部屋でだ。ゲッペルスは側近達に述べた。
「ドイツにもいられなくなった」
「その通りですね。これで」
「航空相はいなくなりました」
「これで完全に」
「今度何があろうとも」
「そうなった。しかしだ」
 ここでだ。ゲッペルスはシニカルな笑みになった。そのうえでこう言ったのである。
「最早このドイツ自体がだ」
「終わりですね」
「これでは」
「そうだ。まさに神々の黄昏だ」
 ワーグナーの楽劇の名前がここで出た。
「今の我が国はだ」
「そうですね。破滅です」
「今全てが終わろうとしています」
「ドイツはその中にあります」
「ヒムラーも姿が見えない」
 ゲッペルスは彼についても言及した。その頑丈なだけが取り柄の己の席に座りだ。蹲り血の気のない顔でだ。彼についても言及したのである。
「おそらくはだ」
「連合軍に走ったのでしょうか」
「航空相と同じく」
「そうしたのだろう。だが、だ」
 それでもだとだ。ゲッペルスはここで言った。
「私は最後までこの国にいる」
「そして総統のお傍にですか」
「おられるのですか」
「こうなれば最後まで残る」 
 覚悟もだ。そこに見せていた。
「君達は好きにしろ。アルゼンチンなり何処にでも逃げることだ」
「しかし閣下はですか」
「ここに残られて」
「総統とドイツに殉じる」
 こう決めているのだった。既にだ。
 こうしてだ。ゲッペルスはヒトラーに最後の最後まで従った。そして彼の遺言を聞き結婚式を見届けて自害までを受けてだ。そのうえでだった。
 ナチスの全ての地位と特権を剥奪されたゲーリングは連合軍の捕虜となった。そのうえでだ。
 彼は裁判にかけられることになった。その被告人が収容された監獄の中でだ。
 彼は己の弁護士にだ。こう言ったのである。
「私は後悔はしていない」
「貴方がされたことについてですか」
「その全てにだ。後悔していない」
 こう言ったのである。
「何一つとしてな」
「御言葉ですが」
 ここでだ。弁護士はそのゲーリングにこう返した。
「貴方は。ナチスでの責任以外にもです」
「ナチスを、総統を裏切ったことについてか」
「そのことについても批判を受けています」
「そうだろうな。当然のことだ」
 わかっている口調だった。自分自身でだ。
「あのことはだ」
「では何故そう言われるのですか」
「それが正しいと思ってしたからだ」
「だからですか」
「そうだ。確かに私はこのままでは決定的な破滅に至ると思いだ」
 そう思いだ。そしてだというのだ。 
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