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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第59話会えて嬉しいよ

2025年1月26日

ALO内の違法実験という形で未だ続いていたSAO事件は、SAO未生還者が現実に目覚めた事と、須郷伸之が警察に逮捕された事によって完全に終結した。もしあのまま実験が続いていたら、今日この日アスナさんが須郷と望まぬ結婚をする事になっていただろう。本当なら今頃オレは未来やアスナさんーーー結城明日奈さんの所に行っていたのだがーーー

「ライリュウさん・・・じゃなかった。竜さん、あーん♪」

「あーん・・・」

現在オレは病院のベッドに寝かされていて、見舞いに来たSAOで出会ったビーストテイマーの少女シリカにーーー本名、綾野桂子にリンゴのすりおろしを食べさせられている。
でもこの状況は仕方ない事だというのは分かってる。ALOで須郷に《ペインアブソーバ》を現実の肉体に影響が出るレベルまで下げられ、ダメージを受けた事だ。それに加えて現実で仕返しに来た須郷にナイフで腕を斬られたのもあるかな。それにしてもーーーリンゴじゃ糖分が足りねぇな。

「コーヒーゼリーが食いてぇ・・・」

「全く・・・病気で入院だったらそんなの食べられなかったわよ?はい、コーヒーゼリー」

「リズさ・・・里香さん!」

糖分不足をぼやいていたら救世主が降臨。SAOで出会った女鍛冶屋、リズベットこと篠崎里香さんがコーヒーゼリーを買ってきてくれた。しかもオレが好きでよく食べるやつを。

「思ったより元気そうね・・・しっかし意外だわぁ~。あんた、あたしより年下だったのね」

「オレだって里香さんが年上だとは流石に思わなかったよ」

里香さんは17歳、つまりオレより一つ年上だったのだ。少し童顔だからそう思ったけど、一応この人明日奈さんと同い年なんだな。
オレ達の現実が戻ってきて、少しずつ変わりつつもある。未来と弾が正式に恋人同士になったり。二年間をデスゲームで生きてきたオレ達の監視のためとはいえ、政府がオレ達の通う学校を造ってくれたり。雪乃さんのお腹の子が女の子だと分かり、7月前には産まれてくるから家族みんなで名前を決めたりもしている。だが、オレの中で一番変わったら事といえばーーー

「でも、ビックリしましたよね。まさかお二人が・・・」

「似てるとは思ってたけど、流石にそうは思わなかったわ・・・」

「あぁ・・・全く、妙な運命だよ」

オレとキリトーーー和人が生き別れの、双子の兄弟だという事だ。それを向こうも知っているからだろうか、今のところ見舞いにすら来ない。
いや、これが普通なんだ。今まで友達だと思ってた奴が、いきなり兄弟だと発覚したんだ。しかもSAO事件開始まで、面識すらなかったんだ。そう簡単に受け入れられる訳、ないよなーーーそう考えていたら、病室のドアをノックする音が聞こえた。桂子が『どうぞ』と声をかけて、その人物を部屋の中に入れたーーーえ?

『キリト(さん)!?』

「竜と・・・二人だけにさせてくれ」

キリトこと桐ヶ谷和人、つい先日双子の弟だと発覚した親友。和人は里香さんと桂子に『二人にさせろ』と頼み、二人に席を外させた。そしてこの病室にはベッドの上で安静にしているオレと、さっきまで桂子が座ってた椅子に座りだした和人だけになった。
和人は数秒オレの顔を見つめ、口を開いた。何か拒絶されたような事を言われるとオレは思っていたが、現実はーーー

「・・・確かにちょっと似てるな」

「そら双子だからな!?」

自分の顔と比較されていただけだった。何かヒヤヒヤしたぞ、驚かせんなーーー

「竜は・・・いつ知ったんだ?」

「養子だって事は10歳の時に知ったよ。双子の話は須郷がオレを襲ってきた後に、兄貴がな。まあ病院まで乗ってた車の中でオレの生い立ち話になっちまったけど・・・」

そう。オレが全てを知ったのは、龍星がオレの生い立ちを説明した時だった。もしかしたらオレがペチャクチャ喋らなければ、こんな事にはならなかったんじゃないかなーーー

「俺も10歳の時に知ったよ。養子の事・・・それに、双子の兄貴がいるって事」

「・・・そっか」

和人は最初から、全部知ってたのか。でもオレが全く聞いた事がないあたり、何も知らなかったのはオレだけだった訳だーーーいや、父さんや母さんなりの心遣いだったのかもな。一度に自分が養子だって事、それに双子の兄弟がいる事を知ったら当時10歳だったオレは混乱してただろうしな。

「そいつの名字が『神鳴』だって事も聞いてはいたけど・・・顔も知らなかったからな。お前の名字を聞くまでは全然分からなかった」

名字まで聞いてたのか。だったらSAOの中にいた時には分からなかっただろうなーーーあれ?だったら和人はーーー

「『ダイシー・カフェ』で会った時には・・・もう知ってたのか!?」

「いや、それより前だ。龍星さんが《オーバーロード》の事を教えてくれた日、あの時お前が紹介してたろ?」

「あ、そういえば・・・」

そうかーーーオレが龍星のフルネームを言ったその時、オレはすでに名字だけは晒してたんだ。現実の事を言うのはマナー違反なのに、オレって案外バカなんだなーーーそっか、こいつはーーー

「お前はあの時から変わらず、オレと接してくれてたんだな・・・」

「・・・友達には違わなかったからな。人付き合いが苦手だった俺にとってお前は・・・数少ない友達だ」

兄弟だと知っても尚ーーー友達だと思ってくれてたのか。友達少ないって言ってるけど、オレはそんな事ないと思うぞ。アインクラッド第1層攻略会議の時、お前がいなかったら、お前がオレをパーティに誘わなかったらーーー

『よかったら俺達とパーティ組まないか?一人みたいだったから』

オレもずっと独りだったよーーー

「それにしても・・・不思議なモンだな。ユイは分かってたのかもしれないな」

「ユイちゃんが?何を?」

「『おいちゃん』って、伯父さんって事だったんじゃないのか?」

言われてみれば、そう思えなくもない。じゃあユイちゃんはーーーオレとキリトの中にDNAレベルで、本能的に兄弟関係にあると感じたのか?そうだとしたら、オレはすごい子を姪にもっちまったみたいだなーーーあれ?だったら龍星と雪乃さんの子供が産まれる前に、とっくのとうに伯父さんになってんじゃん。

「そういえばアスナが、『ライリュウくんがお兄さんだったんなら、わたしも『お義兄さん』って呼んだ方がいいかな?』って言ってたぞ」

「それはやめさせろ」

何でアスナさんがオレを『お義兄さん』って呼ぶんだよ。確かに消去法じゃオレが彼氏の兄貴な訳だけどーーー弟の彼女オレより年上じゃん。弟の年上の彼女に『お義兄さん』なんて呼ばれたら恥ずかしいわ。

「とにかく、俺は今まで通りでいるよ」

和人はそれだけ言って椅子から立ち上がり、オレの病室から出ようとドアを開けてーーー立ち止まった。

「最後にこれだけ言わせてくれ」

和人はそこでオレに振り返り、こう言い放ったーーー

「竜・・・会えて嬉しいよ」

「!!!」

それだけ言って和人は廊下に出て、ドアを閉めた。
オレ、なんつーかーーー今まで堪えてたモンが、涙が一気に溢れてきちまうよ。オレ、オレもーーー

「会えて・・・ううっ・・・嬉じい゛よ゛・・・!!!」

お前に会えてーーー血の繋がった兄弟に会えてーーー嬉しいよ!
 
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