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大統領 彼の地にて 斯く戦えり

作者:騎士猫
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第二十話 特地説明会

朝起きると、スーツはシワだらけになっていた。ティレーナさんにこっ酷く怒られながらも、代わりのスーツに着替えて迎えの車に乗った。

「おはようございます、閣下」
乗るとハイドリヒが挨拶してきた。だが顔はいつもみたいに真顔だ、こいつ感情あるのか?挨拶ぐらい笑顔でやってほしいもんだ。少し呆れ顔で挨拶を返すと、ハイドリヒの横にシェーンコップが座っているのが見えた。こっちは笑みを浮かべてはいるが何やら不敵な笑みだ。違うそれじゃない、という言葉が最も適する状態だろう。

俺に続いてティレーナさんが乗り込むと、護衛の車両を先頭に10台を超える車両が一斉に動き出した。車両に乗っているのは全員ローゼンカヴァリエの隊員だ、何やらたばこを吸っている者がいたが、いつもの事なので特に何も言わない。シェーンコップ自身たまに飲酒しながら任務をしているのだ。しかし今日はいつもと違って少し真面目な感じだ、ハイドリヒがいるからちゃんとしないといけないと思たんだろう。いつもまじめに取り組んでもらいたいもんだ。

ちなみにテュカ達は後ろの車両に乗っている。この車は運転手を除くと4人乗りなので、テュカ達を乗せるスペースがなかったからだ。
今は亡きアメリカ合衆国では大統領はリムジンに乗ることが多かったそうだが、俺は4人乗りの一般的な車に乗っている。一応これには理由があって、もし襲撃されて逃げることになった場合あんな無駄に長い車に乗っていると移動に支障をきたしてしまう。そもそも細い路地なんかリムジンが入れるわけがなく、他にも色々と制限がかかってしまうのだ。なので移動に制限もかからない6人乗り車両にしたのだ。


20分ほどすると共和国議事堂に着いた。おれを先頭に後ろにハイドリヒ、ティレーナ、シェーンコップの順に続き、周りはローゼンカヴァリエの隊員が囲む。議事堂を入ってもシェーンコップと数人の隊員はついてくる。過去に一度議事堂内でガルメチアス帝国の工作員に襲撃されたことがあるので、それからはどんな場所でも必ずシェーンコップと複数の隊員を護衛としてつかせることになったのだ。

廊下を通って入室すると一斉にフラッシュが襲った。これだけは何回経験しても慣れない。俺が座ると説明会が開始された。説明会とは言っているが、半分は参考人招致みたいなもんだ。

「これより特地説明会を開会いたします。ミースト大統領」
進行役の副大統領であるジャーノ・クロスムがそう言うと、俺は演説台に進んだ。

「では、特地での活動に関する報告を行います」


報告は約20分ほどかかった。内容はアルヌスにて二度の戦闘が行われ、現在は戦闘はなく安定していること。
アルヌス周辺を中心に人心掌握作戦を進めていること。
帝国有数の貿易拠点であり、穀倉地帯でもあるイタリカにて行われた戦闘の後、大統領(自分)に対する非人道的扱いが行われ、その報復としてイタリカを含む周辺地域を領地とするフォルマル伯爵領を外交交渉によって占領下に置いたこと。
上記の件に加えて帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダに帝国の講和派の説得を行わせていること。
帝国の焦土作戦によって発生した難民が多数アルヌスに保護を求めにやって来ていて、増加の一途をたどるであろうということ。

まとめるとこんな感じだ。
説明が終わると次はそれに対する質疑の時間になった。
クロスムが質疑に入らせると、若い男性議員が演説台に進んだ。
「フォルマル伯爵領を占領したとのことですが、これには何か理由はあるのでしょうか?」
言い終わるとクロスムが俺の名前を呼んだ。
「傀儡国と考えていただきたい」
俺は短くそう答えると席に戻った。すると男性議員は半ば納得したような表情で席にどもった。次は女性議員が演説台に歩み寄った。神経質そうで厚化粧をしている近寄りたくない雰囲気を出している。

「単刀直入にお尋ねしますが、避難民に150人以上の犠牲者が出たのは何故でしょうか?」
そう言いながら女性議員は手に持ったフリップを演説台に見せつけるように置いた。
クロスムが俺の方をじっと見ている、やはり俺が答えないと駄目か…。俺は内心嫌だなと思いつつ演説台に進んだ。正面を見ると女性議員のきつい目線が視界に入るので少し視線をずらしながら話した。
「150人以上の犠牲者を出した最大の理由はドラゴンが我が方より強かったからです」
「なっ、何を他人事のように!尊い命が失われたのですよ!?そのことに対して責任は感じないのですか!?」
女性議員はフリップを今にも折りそうな勢いで叩いた。
「戦闘によって犠牲者が発生するのは必然であって、それを失くす事は不可能に近いことです。無理難題を押し付けないでいただきたい」
俺がそう答えると女性議員は押し黙った。
「加えて我が方の火力不足が致命的です。戦車に小銃で立ち向かうようなものですね。これで犠牲者を無しにして勝てと言われるので?私なら御免被りたいですね」
言い終わると解析部の男が手を挙げた。
「ドラゴンの鱗を解析した結果、タングステン並みかそれ以上の強度を誇っていることが判明しております。加えて超高温の火炎を吐く、まさに空を飛ぶ戦車であります。大統領のおっしゃる通り、これを相手に犠牲者をゼロにしろという方が問題ありと思われます」
発言が終わると”全くだな””その通りだ”という声が彼方此方から上がった。女性議員は渋々発言を取り下げた。

やっと終わったかと思うと次はシェーンコップを指名した。シェーンコップは俺と入れ替わるように演説台に進んだ。相変わらず不敵な笑みは健在だ。

「ではお尋ねしますが、避難民を護衛していた部隊は実質的にあなたが指揮を執っていたそうですが、そのことについてどうお考えですか?」
「小官は白兵戦の指揮であれば得意ですが、ドラゴンは流石に専門外ですな。まぁドラゴンがメスであればまた話は別ですがね」
シェーンコップが肩を竦めながら言うと女性議員は顔を真っ赤にした。彼方此方から小さな笑い声が聞こえる。
「逆にこちらからお尋ねしますが、どうやれば犠牲者をゼロに出来るのですか?出来れば小官に御教授頂きたいものですな」
「……分かりました。戻っていただいて結構です」
シェーンコップは戻ってくるときも変わらず不敵な笑みを浮かべていた。こいつ、いつの間に人間を超えてドラゴンにまで守備範囲を広げたんだ?まさか特地でも既に1小隊ぐらい愛人を作っているんだろうか…。

それにしてもあの女性議員は何がしたいんだ?裁判でもやってるつもりなのだろうか。
俺が軽く睨みつけていると先ほど話していた解析部の男がそっと話してくれた。
「あの女性議員は最近噂になってる自由党の幸原とかいう議員ですよ。ことある事に軍を責めてきてるんですよ」
なるほど、今回の事は軍を叩く格好の材料と言う訳か。なにやらハイドリヒが幸原をじっと見つめているが、まさか粛清リストに載せるつもりか?……聞かないでおくか。

その後もレレイ、テュカと続けて幸原による質問を受け、どうやら自分の求める答えが一向に出ないことに苛立っているようだ。テュカのときなんか扱いが酷かった。”結構です”だ。普通はありがとうございましたと言うべきだろうに、それでも議員か?やっぱり日本人の議員って良くないやつが多いな。一度日本人を一掃してみるのもいいかもしれない。どのぐらい改善されるか見てみたいもんだ。
そう考えているうちにもロウリィの番になった。

「では、あなたのお名前をお願い致します」
「ロゥリィ・マーキュリー」
「では、あなたのキャンプでの生活を教えて下さい」
「簡単よぉ。朝、目を覚ましたら生きる、祈る、命を頂く、祈る、夜になったら眠る」
「命を……頂く?」
「そう、食べること、殺すこと、エムロイへの供儀。いろいろよぉ」
「分かりました。……ではあなたは見たところ大事な人を失ったようですが、その原因がロンディバルト軍にあるとは思いませんか?」
こいつまだ諦めてないのか?もうほとんどの議員はあきれ顔になってるぞ、中には端末をいじったり眠ってたりしている。まともに聞いてるのはマスコミと一部の議員、恐らくは自由党の連中だな。
ロゥリィが何やら言うとレレイがすぐさま翻訳した。
「質問の意味がよく分からないと言っている。ロウリィの家族は…」
レレイの言葉を遮るように幸原が話し始めた。
「資料によれば、ドラゴンの襲撃を受けた際、避難民の四分の一を犠牲にしておきながら、軍には死者どころか重傷を負った者すらいません。身を挺して戦うべきだった人間が自身の安全を第一に考え、結果、民間人を危険にさらしたのではありませんか!!?
さぁ!!話してください!!貴方が見た、軍の本当の姿を!!」
……本当にこいつは頭でも逝ってるのか?
流石に俺も堪忍袋の緒が切れたので、立ち上がろうとした。するとロゥリィが大きく口を開くのが見えた。


「あなたお馬鹿ぁあ!!?」
ロゥリィがあまりにも大きな声で言ったせいでマイクから雑音が発せられ、突然のことに驚き全員が耳を塞いだ。寝てたやつは何事かと立ち上がっている。
ようやく雑音が収まると幸原が唖然とした表情で恐る恐る口を開いた。

「今…何と?」
「あなたはお馬鹿さんですかぁ?と尋ねたのよ……お嬢ちゃん」

そう言うとロゥリィはベールをたくし上げた。笑みを浮かべてはいるが目は笑っていない。シェーンコップもそれを見たようで不敵な笑みが真剣な眼差しへと変わった。


「貴方、日本語が……」
幸原はロゥリィが日本語を話せたことに驚いたようでその表情がさらに唖然としたものへと変わった。

「そんなことはどうでも良いわぁ。ミーストたちが炎龍とどう戦ったか、それが知りたいのでしょう?ミーストたちは頑張ってたわぁ、難民を盾にして安全な場所にいたなんてことは……絶対にないわよ」
ロゥリィはそう断言するように答えた。まさかそこまで断言されるとは思わなかった幸原は絶句していた。
「第一、兵士が自分の命を大切にして何が悪いのぉ?彼等が無駄死にしたら貴方たちの様に雨露凌げる駄弁ってるだけの人を、いったい誰が守ってくれるのかしらぁ、お嬢ちゃん」
最後のお嬢ちゃんと言う言葉がまた効いたのか、幸原はこめかみがピクつかせている。
「炎龍を相手にして生きて帰って来た、先ずはその事を褒めるべきでしょうにぃ。それと、避難民の四分の一が亡くなったと言ったけど、それは違う。ミーストたちは四分の三を救ったのよ。そんなことも理解できないなんて、この国の兵士も随分と苦労してるのねぇ」
幸原は議長であるクロスムに目を向けた、発言を注意してほしかったのだろう。だが当のクロスムはそんな視線を一切感じずにロゥリィをじっと見つめていた。

「……大人に対する礼儀がなっていないようね……お嬢ちゃん?」
幸原も負けじと反論するが、特地での戦闘については詳しい情報を得ているようだが現地民についての情報はあまり持っていないようだ。こちらの世界基準で言えばロウリィは精々中学生ぐらいだろう。だが特地では見た目と中身は全く違うことが多いのだ。そのことを幸原は知らないらしい。
「それって私に言ってるのぉ?」
「他に誰がいますか!?特地ではどうか知りませんが、この国では年長者は敬うものですよ!?」
「面白いことを言うわねぇ……たかが………」
その瞬間ロウリィの唇が紫色に変わった。戦闘モードに突入してしまったらしい。まぁ俺は知らん。奴が勝手に怒らせたんだ、精々死んで償うんだな。

ロゥリィはハルバートを覆っている布を取り払うと一瞬で幸原のいた演説台を真っ二つに破壊した。
「……ひっ!?」
幸原は一瞬の出来事で分からなかったようだが、すぐに状況を理解して頭を埋めた。
ロゥリィは未だその怒りを鎮めてはおらず、床に蹲っている幸原に近づいて行った。そろそろ止めさせておくか。あまり暴れられても困る。
俺はロゥリィに近づくと頭をポンポン叩いた。
「何よぉ?」
不服そうな顔をするロウリィを無理やり席に戻させると、俺は演説台に進んだ。

「日系人は昔からその年齢を武器にしているようですが、ここにいるロゥリィ・マーキュリーさんはここにいる誰よりも年長なのです」
流石に先ほどの出来事から完全復帰していない幸原は答えられるはずもなく、代わりにクロスムが尋ねてきた。
「一体幾つなのですか?」
「961歳になるわぁ」
先ほどとは違い平然とした表情でロゥリィが言った言葉に部屋は騒然となった。
「……ちなみに隣のテュカさんは?」
「165歳よ」
テュカも平然と通常ではありえない数字を言う。その言葉にさらに部屋は騒然となった。
「……と言うことは…?」
「……15歳」
見た目は小学生ぐらいに見えるレレイも、と不安になったクロスムだったが、見た目道理の年齢でほっと胸をなでおろした。議員やマスコミもほっとした表情になっている。

年齢紹介が終わるとレレイが演説台に歩み寄ってきた。俺はレレイと入れ替わるように座った。
「私はヒト種、その寿命は60から70年。私たちの世界の住民はほとんどがこれ。
テュカは不老長寿のエルフ、中でも希少な妖精種で、寿命は永遠に近い。
ロゥリィは元々はヒトだけど、亜神になったことにより肉体年齢は固定された。通常は1,000年程で肉体を捨てて霊体の使徒に、やがては神になる。従って寿命という概念はない」
あまりにも突拍子な話だったので部屋にいる全員が唖然とした表情と困惑した表情が混ざったような顔になっている。


「……では質問もないようですので、これにて特地説明会を閉会いたします」

クロスムは何気ない表情で言った。議員やマスコミもぞろぞろと部屋を出ていき、最終的幸原は1時間も座り込んでいたそうだ。

こうして波乱万丈な特地説明会は閉幕した。
 
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