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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第四十話 接待役は御免こうむります。

 帝国歴485年2月27日――。

 帝国軍襲来!!!


 この報を聞いた自由惑星同盟、特に改革派はせっかくの改革に専念する体制を横やりを入れられて激怒していたし、焦ってもいた。自室で受験勉強に専念する学生が、寒い校庭に引き出されて、

「走れ!!」

 と言われたようなものである。
 他方、武断派は凱歌を上げて踊りまわっていた。

「やった!!ついに帝国軍が攻めてきたぜ!!」
「あ~待ち遠しい。わが恋人帝国軍よ!!!」

 などとアホなことを叫ぶバカ者はさすがにいなかったが、原作のラインハルト的な性格の持ち主は少なくなかった。つまり武勲をたてるために戦争を待ち望んでいた者は確かに自由惑星同盟にも存在したのである。
 第五次イゼルローン要塞攻防戦よりほとんどこれと言っていいほどの戦いすらもなく、
 同盟軍はその怠惰を訓練とシミュレーターによってしか慰めることができなかった。当然武勲を建てる機会もなく、腕を撫してただ耐えている者も多かったと言えばそうなるが。

 一方の改革派からすれば、こんな無駄な戦争に命をさらすこと自体がバカバカしいというのに、彼らにすれば、目の前の武勲に酔いしれることしかできていない。まったく、成功することばかりを夢見るのは人間のどうしようもない性である。
 ヤン・ウェンリーもその一人だった。彼は特務スタッフであったが、戦時下になった以上はそのような改革に専念することはできなかった。元々特務スタッフ、シャロン、キャゼルヌ、ヤンは優秀な人材であり、それらを戦争の際に後方に拘置しておくことを同盟軍上層部がするはずはなかった。

 だから、会戦を決意した軍部が決定を下した同日に、ヤン・ウェンリーが統合作戦本部長に即刻呼びつけられたのは当然と言える。

「おぉヤン、元気そうなわけはないな!」

 いきなりそう言われて、何段にもわたって本部長閣下に思うところをぶつけようとしていたヤン・ウェンリーは出鼻をくじかれた。

「そう思っていらっしゃるなら、私の辞表を受け取ってください」
「却下だ。俺は本部長だぞ。いきなり最高権者に辞表を持っていくのは非常識だ。お前も軍に属する身分なら、まずは段階を踏んで手続きをするんだな。直訴なんていうのは中世の農民が御代官様にやるものだぞ」

 ヤンは深い吐息を吐いた。やはりこうなるか、そうだ、こうなるとは思っていた。だが、こんなにもあっさりと淡い期待を裏切られるのもやるせない。

「ま、すまないとは思っているさ。俺とお前と二人だけの問題であれば俺は即刻お前の辞表を取り付ける」
「だったら簡単でしょう。今この部屋には本部長閣下と私の二人だけしかいないのですから」
「残念だが一歩俺のオフィスの外に出れば、何百人のスタッフが、ハイネセン市街に出れば、何百万人の市民が、バーラト星域に出れば、そこには何千万人もの将兵が待っている。つまりお前と俺とだけの問題ではなくなるというわけだな」

 この本部長閣下にはかなわないとヤンは思った。キャゼルヌ先輩も人を食ったような言い方をする名人だし、シトレ校長・・・・もとい、大将閣下も人を操作する達人であるが、この人はさらにその上を行く。

「さて、ヤン、俺も忙しい身なのでな、単刀直入に言おう。今度の会戦に当たってはお前にはシトレの幕僚となってもらう」
「つまり、古巣の第八艦隊に戻るというわけですか、それは粋な計らいをしてくださることで」
「茶化すな。ここからは真面目な話だぞ。いいか、俺は正直言うとロボスの奴に宇宙艦隊司令長官を任せるのにはいい加減うんざりしている。奴は老人ホームか在郷軍人会で太鼓腹を抱えて座っているべき人材だ。どうしてシトレの奴を抜擢しなかったのか、信じられん。俺は、人事部の脳みそは芽キャベツ並なんじゃないかと思うときがある」

 ヤンは肩をすくめただけだった。

「そこでだ、今度の戦いが終わり次第、俺はシトレの奴を宇宙艦隊司令長官に抜擢したい。ロボスにはご退場願う。俺の言いたいことがわかるか?」
「まさかとは思いますが、ロボス閣下を暗殺なさるのではないでしょうね?それとも、またイゼルローン要塞攻防戦の時のような手品をするわけですか?」
「暗殺など中世のボルジア家の奴らにやらせておけ。あるいはジャック・クレマンのような狂信者共にな。俺はそんなことはせんぞ。お前の言うところの後者に近い意見だ。だが勘違いするな、俺はロボスの奴を降格させるために貴重な軍用艦艇を数千隻失わせることも、もっともっと貴重な将兵を無為に死なせることはせんぞ」
「では、どうしろと?」
「奴が失態するように差し向ける。いや、まぁ、なんだ、放っておいてもエラーをするような奴だからな。こっちが小細工をする必要はないと思うが、一応念のためだ」

 なんだか妙な話になってきた。負けることはさせないが、これではまるでロボスを失脚させるためだけに戦うようなものではないか。そんな戦争に付き合わされる兵士はたまった物ではない。

「そう言う顔をするな、いや、いいんだぞ。お前がロボスを引きずり落とす方法を教えてくれるんなら、俺は奴を宇宙艦隊司令長官にしての作戦を立てずに済むんだからな。無駄な労力を割かなくて済む」

 この人にはかなわない。いつの間にかにっちもさっちもいかなくなり引き受けざるを得ないところに誘い込まれている。

「・・・わかりましたよ、協力します」
「そうかそうか!」

 本部長閣下はご満悦の表情で笑った。

「よしよし、ヤン。なら今から俺が話すことを聞いてくれ。なに、シトレの奴にはもう話してある。後はお前の意見を聞きたいと思っていたんだ」

 本部長閣下が話す内容を聞き終わったヤンは、と息を吐いた。思い付きはいいが、振り回される者、特にロボス閣下などにはたまったものではないだろう。

「お、そのため息は『わかりましたよ。』という解釈でいいんだな?」
「お好きなように」

 ヤンはそう言うしかなかった。


 この時期、帝国軍の陣容はフェザーンを経由して同盟軍にもたらされている。「あれ!?帝国そそのかして同盟に攻め込ませたの、フェザーンじゃね!?」などと裏の事情を知っているフェザーン人などは驚愕していたが、フェザーンにしてみれば、帝国に圧勝されても困るのである。そこで、ほどほどの情報を向こうに提供することで、フェザーンはまたしても蝙蝠に成り下がろうとしているのだった。

 そして、同盟に置いて、帝国への迎撃作戦が正式に発動され、陣容も決まった。
 まず、帝国宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス大将、彼の直属艦隊10000隻。
 第5艦隊司令官ビュコック中将13000隻
 第12艦隊司令官ボロディン中将13000隻
 第9艦隊司令官バール・ビュンシェ中将13000隻
 第10艦隊司令官バグダ・アジール中将13000隻


 総数62000隻である。これとは別に、シドニー・シトレの第八艦隊は万が一に備え、予備隊としてハイネセンを出立することになっていた。表向きはそうなっているし、目的もそうなのだが、これはブラッドレー大将の思惑から出てきたものである。

 他方、帝国軍の遠征艦隊総数は正確なところは分らないが、6万隻以上だと言われている。


 これについて、アレーナは自由惑星同盟に構築している情報網を使用して、フィオーナとティアナに連絡した。フェザーンの情報網よりもよほど正確である。

「62,000隻ね。敵が6万で来ればその同数をもって戦う、か。どうして数倍の兵力で迎撃撃滅しようと思わないのかしらね」
『ティアナ、あんた簡単に言うけれど、艦隊動かすのはあんたがホストクラブに貢いでいる金額のウン乗した金額だっての知ってて言ってる?』
「誰がホストクラブ通いですって!?なんて失礼な!!!そんなことはしていません!!!」
『あんたが私のことをアラサー呼ばわりするお返しだもんね』
「二人とも」

 フィオーナがたしなめた。ティアナはちょっと肩をすくめて、

「わかったわよ、それで、アレーナさん、私たちの方の艦隊指揮官は誰かってもう決まっているんですか?」

 ティアナの質問に、

『知らなかったの?司令長官はビリデルリング元帥、副司令長官はミュッケンベルガー大将、艦隊司令官はグリンメルスハウゼン子爵閣下、シュタインホフ大将、エーレンベルク大将、総参謀長にクラーゼン大将などなどよ』
「シュタインホフ大将、エーレンベルク大将、って統帥本部総長や軍務尚書だった人よね、原作では」
「クラーゼン大将は幕僚総監として元帥の地位を得ていた人だったわね」

 ティアナとフィオーナがこもごもいう。

『ということなので、オールスター勢ぞろいっていう格好ね。そのなかでグリンメルスハウゼン爺様だけちょっとかわいそうな感じかな。まぁ、だからこそ、フィオーナ、ティアナ、爺様の補佐をよろしくね~』

 二人はそろってと息を吐いた。こうしてモニター越しに自分たちを見ているだけだから、そんなお気楽なことが言えるんだとちらっと思う。だが、それは間違っていたし二人ともそれを良く知っていた。アレーナはアレーナで宮廷にたった一人で乗り込んでカロリーネ皇女殿下と渡り合った(かどうかはカロリーネ皇女殿下ご自身には自覚はないだろうが。)のだし、マインホフ元帥をうまくたきつけて、色々な改革や人事を操作しているし、日夜広大な情報網を捜査してラインハルトとキルヒアイスが足元をすくわれないようにも注意し続けている。女性士官学校の設立だって、アレーナがいなかったらどうなっていたかわからない。
 
 それに、何より一番二人がよくわかっているのは、アレーナの性格だった。一見飄々としているけれど、時には「お姉さん」として優しく、そして厳しく、けれどその心は温かいのだということを。

「アレーナお姉様」

 と、思わずフィオーナが優しく話しかければ、アレーナはうろたえて顔を赤くしてそっぽを向いた。

『その言い方は・・・・やめようね、フィオーナ』
「照れてる照れてる」

 ティアナがそっとフィオーナに耳打ちした。

『コラ!聞こえてるわよ!!とにかく、戦場でのことはあんたたちに任せたから。後はよろしくね』

 通信は切れた。フィオーナはちょっと困ったように笑い、ティアナは肩をすくめた。

「いずれにしても」

 フィオーナが親友を見た。

「この戦いは一つの正念場ね。ラインハルトとキルヒアイスも、そして教官もいない中で、私たちが頑張って帝国軍を負けないようにしなくちゃならないわね。もっとも、一少佐であり、まだ若い私たちがどれだけ戦局全体に影響を与えられるかは、未知数だけれど・・・・」
「負けないように?勝つことじゃなくて?」

 ティアナが不思議そうに言う。

「私たちが艦隊司令官であれば、そういうこともできたかもしれないけれど、残念ながら少佐でしかないもの」

 もっとも、自由惑星同盟にも多かれ少なかれ一流の将帥は存在するのだから、私たちが頑張っても難しいかもしれないけれどね、とフィオーナは言った。
 
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