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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第57話鍍金の勇者

キリトside

これは報いなのか。ゲームの世界なら俺は最強の勇者、アスナを自分の力で助け出せると思い込んで。現に俺は地べたに這いつくばってライリュウがーーー親友が痛め付けられる所を見てる事しか出来ていないじゃないか。あいつも妹の命が懸かっているからここに来たんだ。でもこの状況に立たされてるアイツの自業自得だなんて、言える訳がない。あいつは《ビーター》と呼ばれていた俺に、最初から最後まで味方をしてくれた。恩人だ、親友だーーー兄弟みたいに思えた奴だ。でも助けに行けない俺には、何の力もないんだ。こんな無力な自分が許せないーーー

【逃げ出すのか?】

そうじゃない。現実を認識するんだーーー

【屈伏するのか?かつて君や彼が否定したシステムの力に】

仕方ないじゃないか。俺はプレイヤーで、須郷(ヤツ)GM(ゲームマスター)なんだよーーー

【それはあの戦いを汚す言葉だな・・・君がトリガーとなり、私にシステムを上回る人間の意志の力を知らしめ、未来の可能性を悟らせた我々の戦いを】

お前はーーー

【立ちたまえ・・・キリトくん!】




ライリュウside

「じゃあ最後は頭から真っ二つにしてやるよ」

我ながら情けないぜ。こんな身動きの取れない相手の痛覚を強化して、何の努力もしないでシステムに与えられた力で自分は最強だと思い込んでる勘違い野郎に一方的に攻撃されてるなんて。もしかしなくても、須郷は茅場よりもずっと小物だ。あの男はこいつと同じく、非人道的な罪を犯した。でもあいつは須郷とは違ってフェアな奴だ。こんな奴に殺させちまったら龍星に笑われちまうし、未来や亜利沙達にはガッカリされるだろうなーーー今更こんな事言っても仕方ないのにーーー

「死ねェェェェェェェ!!!」

クソッーーー痛みのせいで上手く力が入らねぇ。力を込めたら多分こんな手錠すぐに壊せんのに、オレはこのまま頭から真っ二つにされて死ぬしかねぇのか?今の痛覚じゃ確実に死ぬなーーーもう運命を受け入れよう。あとはーーー須郷が持ってる剣を後ろから握って止めているキリトに任せよう。

「やれやれ・・・そんなに早く死にたいんなら言ってくれれば良いのになぁぁっ!!」

バカが。キリトはそんなつもりで前に出て来ねぇよ。須郷は剣をキリトに向け上から降り下ろそうとしたがーーーキリトが左腕で剣の側面を上手く弾いて、その剣が空中を飛び交いオレの右腕を拘束する手錠付きの鎖を切断する。超ラッキー、でも危ねぇ。
オレはダメージの受けすぎで柄にもなく地面に座り込む。その時聞いたキリトの言葉に、オレやアスナさんは驚く事を余儀なくされるーーー

「システムログイン、ID《Heathcliff》」

「なっ、何!?何だ!?そのIDは!」

ALOはおろか、仮想世界その物を造り出した男の仮の名前。オレがみんなの助けもあって、やっと倒す事が出来た男のーーーあの世界の名前。

「システムコマンド。管理者権限を変更、ID《Oberon》をレベル1に」

「何!?僕より高位のIDだと!?」

キリトは今、あの男の力を手に入れた。その力で、その権限でオベイロンのーーー須郷の権限を一番格下の物にした。あいつーーーこの数秒で何をしてたんだ?

「ありえない!!僕は支配者!!創造者だぞ!!この世界の王!!神!!」

「そうじゃないだろ。お前は盗んだんだ。世界を、そこの住人を!盗み出した玉座の上で、一人踊っていた泥棒の王だ!!」

そうだ、須郷は妖精王でもなければ神様でもないーーーあの男が作った技術(セカイ)を盗み、自分の腐りきった脳ミソが生み出した実験のために、未来やアスナさんを初めとした約300人の元SAOプレイヤーを実験動物(モルモット)にしやがったんだ。こいつは他人の物を全部奪おうとする泥棒の王だ。

「このガキ!この僕に向かって・・・!システムコマンド!!オブジェクトID、《エクスキャリバー》をジェネレート!!」

須郷は右手を前に出し、システムコマンドで武器を呼び出そうとするがーーー何も来ない、何も起きない。そして『言う事聞けこのポンコツ』とか叫んでる須郷を見ると、全く持って哀れに思える。いや、哀れを通り越して滑稽だな。

「システムコマンド!!オブジェクトID、《エクスキャリバー》をジェネレート!!」

それを見てか、キリトは須郷が叫んだようにシステムコマンドを行い、武器を呼び出した。それは黄金に煌めく長い片手剣ーーー伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)《聖剣エクスキャリバー》。性能(スペック)ではサラマンダーのユージーン将軍の持ってる《魔剣グラム》に唯一対抗出来る武器。
それにしてもーーー声で伝説の武器を召喚するとは、GM権限ってのは随分楽出来るように作られてんな。キリトもそれに対して呆れたような口調で、須郷に《聖剣エクスキャリバー》を投げ渡す。だったらーーー

「キリト」

オレはキリトに声をかけ、未だ消えない腹と左腕の痛みを耐えつつ、背中から抜いた剣をキリトに投げ渡す。
それは海賊の刀のような刀身を持ち、鍔が竜の横顔のようになって、《リトルギガント》全員の魂を込めたオレの愛剣ーーー《ドラゴンビート・巨人の信念(ギガントエディション)
お前なら使える、そいつをぶった斬れ。そんな思いを込めたんだ。キリトにもそれは伝わり、重そうにしながら両手で柄を握ってーーー切っ先を須郷に向ける。

「決着を着ける時だ。泥棒の王と・・・鍍金の勇者の!!」

この戦いの最終決戦だ、思いっきりやれ。

「システムコマンド、《ペインアブソーバ》をレベル0に」

「なっ、何!?」

「ッ!!」

キリトが《ペインアブソーバ》による痛覚の遮断を完全に解除した。それによってオレの切断された左腕にさらに激痛が走る。でもーーーこの戦いだけは、絶対に見届ける。

「逃げるなよ。あの男はどんな場面でも臆した事はなかったぞ!!あの・・・茅場晶彦は!!!」

そうだ。須郷はもちろん、オレがここから逃げたら茅場に負けた事になる。少なくとも、茅場を倒したオレとしてはーーー絶対に目の前の戦いから背を向けねぇ。見守る立場だったら、最後まで見守る。

「か、茅・・・茅場ァァァ!!!そうか、あのIDは・・・何で・・・何で死んでまで僕の邪魔をするんだよぉぉ!?アンタはいつもそうだ!!何もかも悟ったような顔しやがって!!僕の欲しいものを端からさらってぇぇ!!!」

須郷は昔、茅場のフルダイブ技術の研究チームに所属していたって龍星が言ってた。毎回茅場と比べられて、いつしかこんな根性の曲がった奴になってしまった。それに関しては茅場にも責任があるんだろう。でもーーー

「須郷。お前の気持ち、分からなくもないぞ。俺もあの男に負けて家来になったからな」

そういやオレは見てなかったけど、キリトは茅場とデュエルして負けて《血盟騎士団》に入ったんだっけ?あいつもある意味、須郷と同じような事されたんだろうな。だけどーーー

「でも、俺はあいつになりたいと思った事はないぞ。お前と違ってな」

「この・・・ガキがァァァァァァ!!!」

須郷はキリトの言葉に怒りを爆発させ、《聖剣エクスキャリバー》を手にキリトに斬りかかる。一発、二発、三発、四発、五発、それをキリトは涼しい顔で弾き返す。むしろ返せない方がおかしい。
須郷の剣はちっとも力が込もってないし、逆に武器に振り回されてるようだ。どうやら本当にGM権限がないと何も出来ないだったみたいだな。素人でももっと良い動きするぞ。
須郷は《聖剣エクスキャリバー》の切っ先をキリトに向け、六発目の突きの攻撃を行うがーーーキリトはそれを避けて、《ドラゴンビート・巨人の信念(ギガントエディション)》で須郷の顔を小さく斬りつける。

「痛ァァッ!!あぁ・・・!!」

「痛いだって?お前がアスナやミラに与えた苦しみは・・・こんなモンじゃない!!!」

オレみたいに肉体的に与えられた痛みは、時間が経てばその内消える。精々傷跡が残るくらいだ。でもアスナさんや未来のように精神的に与えられた痛みや苦しみはどれだけ時間が経っても、簡単には消えないんだ。キリトはそう言って、須郷の右腕を切り落とした。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!手がぁぁ!!!僕の手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

今更何を言ってるんだか。さっきまでオレの左腕を嬉々として切り落とした男は誰だったかな?こちらとしては仇を取ってくれたみたいで気分が良いんだ。全く持って胸が空いたよ。
キリトは痛みに泣き叫ぶ須郷に近付きーーー

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

腰の辺りから出血エフェクトを噴き出させ、上半身と下半身を切り離す。大事な戦いだから本当はこんな事言いたくないんだけどーーーALOって、SAOに比べて出血エフェクトの表現グロいな。
そんなどうでも良い事を考えるのをやめてキリトの戦いに目を向け直すと、決戦が着きそうな場面になっていた。キリトは上半身だけとなった須郷の髪を掴み上げ、空中に投げる。そしてキリトが持つ《ドラゴンビート・巨人の信念(ギガントエディション)》が、降下してくる須郷をーーー貫いた。そして剣に刺され、ダランと垂れた須郷の身体はーーー飛散する出血エフェクトとともに消滅した。

「ライリュウ」

キリトがオレを呼び、《ドラゴンビート・巨人の信念(ギガントエディション)》を投げ返してきた。オレはそれを上手くキャッチし、軽く血を振り払うような動作の後、背中の鞘にしまう。

「ありがとう」

「何を今更。オレ以外に《ドラゴンビート》を使える奴はお前しか思い付かなかった・・・お前に須郷を斬って欲しかったんだよ」

これは正直な気持ちだ。オレはキリトの強さを知ってる。キリトは誰かが傷付いていたら放っておけない奴だ。オレも一応、自分ではそう思ってる。だからーーーオレは愛剣を託したんだ。

「それより、早くログアウトさせてくれよ。左腕やられてウィンドウが開けないんだ。出来るだろ?」

「ああ、そうだったな。アスナ、先にライリュウをログアウトさせる。あいつの兄貴が総務省の役人だから、須郷の処理もやってくれる。何より身体が・・・」

「うん、分かってる。わたしはそれで良いよ。ライリュウくん・・・ありがとう」

左手じゃないとシステムウィンドウが開けないってのはこの状態じゃ致命的だからな。とにかく今ALOで一番偉いキリトにログアウトさせてもらうしかないんだ。身体が痛いってのもあるけどーーーやっぱり、アスナさんの事を考えるとな。やっとキリトに会えたんだ、二人っきりにしてやりたい。未来の事は弾が何とかしてくれたはずだ、あいつに全部任せればオレはお役御免だ。キリトは管理者用システムウィンドウを出し、オレのログアウトをするためにウィンドウを操作してーーー途中で指が止まる。

「ライリュウ。あのさ・・・」

「?」

キリトの奴、どうしたんだ?何だか照れくさそうな顔してーーー

「あのさ、俺・・・お前の事を、兄弟みたいに思ってる」

「!!」

兄弟ーーー確かに自分でも、オレとキリトには共通点が多いと思ってる。育った環境も違うし、服のセンスや味の好みも違う。でもオレは、キリトがオレと似てると思った時がある。オレもーーー

「オレもだよ、キリト」

これでオレとキリトの会話は終わり、オレはキリトとアスナさんに現実世界での再会を誓い、一足先に現実世界へと送り帰してもらったーーー




竜side

現実世界はすでに夜の9時05分。きっとキリトはとっくにアスナさんや未来を現実世界に帰してくれたはずだ。早く、早く行ってやらなきゃーーー

「うっ!!」

身体が痛いーーーやっぱり《ペインアブソーバ》が効いたか。それに加えて、まだ身体がガタガタなのが一番ヤバイ。でも今未来に会わなくちゃいけないんだ。

「竜くん?」

「雪乃さん?」

部屋の外から最近になって聞くようになった女の人の声がした。それはオレの兄貴、神鳴龍星の奥さんーーー雪乃さん。オレは激痛に耐えながら部屋のドアを開けて、痛みで思わず雪乃さんの肩に倒れ込んでしまった。でもお腹じゃなくて良かった、雪乃さん妊娠してるからーーー

「大丈夫なの!?」

「何もされなくて良かったですね・・・オレなんて《ペインアブソーバ》でズタズタですよ」

「大変!!早く病院に「未来の・・・」!?」

「未来のいる病院にお願いします!!」

雪乃さんが病院って言ってくれたから、思わず『未来のいる病院に』って言っちまったけどーーー入院しなきゃいけないレベルだったら絶対にそこがいい。

「・・・分かったわ。未来ちゃんは私の義妹でもあるからね」

分かってくれてた。この人は龍星と結婚するような人だから心配だったけどーーー多分、神鳴家で一番まともな人だな。
『リューセーに車出してもらうね』って言われて、それなら途中で弾達を乗せて行けると思って『後で合流しよう』と弾達にメールを送った。

「ありがとう・・・義姉さん」

オレは無意識に、雪乃さんをそう呼んでいた。
 
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