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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第3話 ドイツより

 「ふ~む。嘆かわしい、実に嘆かわしいな!」

 翌日の朝。
 衛宮邸では住人が新たに2人増えた事により、騒がしくも賑やかに光景が出来ていた。
 特に今日は土曜日で、何時もの様に3人が泊まりに来ていたのだ。
 正直士郎としては不安だった。冬馬達3人・・・特にユキは、自分の家での集まりを大切にしていたからだ。しかし――――。

 「何が嘆かわしいの?」

 エジソンが見ている新聞を横からのぞき込むユキの姿が有った。
 これなら大丈夫そうだなと、一応の安堵の息を零した。
 一方、シーマの方は何故か冬馬にあ~んをされていた。

 「私は自分で食べられるぞ?だから汝はは自分の食事に集中するがいい」
 「いえいえ、良いんですよ。ですからはいあ~ん」

 冬馬のシーマを見る目には力がこもっていた。
 これほどの美少年にベッドイン(お近づき)にならなければと即座に行動に移したらしい。
 それを横目で準がシーマに合掌した。

 (若、即効喰いに行こうとしているな。――――気付け少年、若はお前さんを既に射程圏へ入れているぞ)

 ちょっとしたカオスだが、そんな周りを気にせずに平常運転しているのは勿論この人――――藤村大河である。

 「士郎ー、おかわりー!」
 「ハイハイ」

 だが士郎にとっては、この光景が何よりもかけがえのないモノだと感じるのだった。


 -Interlude-


 あれから暫くして、エジソンとシーマは3人からの外出を丁重に断った上で、それぞれ私室として与えられた自室で現代における知識を学ぶための勉強中だ。
 どれ程異質であろうが本来であれば召喚される時点で、必要不可欠となる現代の知識などを与えられるのだが、2人はトラブルによりそれを与えられていないのだ。

 「・・・・・・・・・・・・」

 それでもまだエジソンは良い方だ。
 少なくとも生前の知識は覚えているのだから。

 「・・・・・・・・・・・・」

 だがシーマはそうはいかない。
 彼は生前すらも覚えていないのだから。
 これはエジソンもそうだが、唯一の救いとして知識の吸引力が尋常ではないほどの速さであると言う事だ。
 エジソンは生前の若かりし頃に身に着けた勉強法だ。
 何所までも合理性を突き付けたモノだが、この勉強法はあくまでもエジソン独自のものでしかないので、他の者がまねても効果を絶対期待できると言うワケでは無い。
 そしてシーマは文字通り天才と言う奴だ。
 たった一度見るだけで全ての知識を完全に取り込めるのだから。
 2人が優先して勉強しているのは日本人が学院に通って身に着けて行く常識だ。
 エジソンは既に大学院レベルで、シーマは中学生の前半に入っている。
 特にシーマは急がなければならない。
 召喚された日の夜中に、こんな話になったのだ。

 『日中は余たちをこの屋敷に残していくだと!正気かマスター!?』

 通常であれ異常であれ、聖杯戦争が始まったと言うのならサーヴァントとマスターは共に行動するのが基本。
 それにも拘らず置いて行くとは如何いう了見なのだと、シーマは士郎に食い掛ったのだ。
 だがそれを士郎が魔術師としてでは無く、一般人視点としての正論を言う。

 『霊体化できないだろ?だから付いて来させる訳にはいかないぞ?』
 『ならば余をそのガッコウとやらに通えるように手配してくれ。それなら問題あるまい!』

 この主張に士郎はシーマに現代の知識が無いと通えないと反対するが、ならば勉強して知識を身に着けば良かろう?と、それまで他の者達と話していたエジソンの提案に乗る事になったのだ。
 だから今、シーマは凄まじい勢いで知識を取り込み続けている。
 急きょの事とは言え、このまま行けば約束通り明後日の月曜からシーマも川神学園に通えるようになるだろう。
 だが当人は知らなかった。
 編入試験の結果次第だが、予定ではシーマが入るクラスは()ーSでは無く、()ーSだと言う事に。
 そんなシーマをよそにエジソンはちょうど歴史の勉強をしていた。
 床には現代社会の本が滅茶苦茶に散乱しており、特にひどい所に自分の死後の誹謗中傷の補足が書かれていたり、電気博士の発明による世界の貢献度の重要性などもあった。
 なるほど。これは確かにエジソンからすれば、不愉快極まりないモノだろう。
 そんな苛立たしく不機嫌極まりない発明王は、気分を変える為にある外国の時事を学んでいた。
 そこはこの冬木市の隣の川神市の姉妹都市である場所だった。
 そこは――――。


 -Interlude-


 此処はドイツ連邦共和国のハンザ都市リューベック。
 その都市の一角に、川神に留学中のクリスの家が有った。
 客観的に言わせてもらうなら、最早城と言っても過言では無い。
 その城の一室に、城主が指揮する直属部隊である猟犬部隊の隊長マルギッテ・エーベルバッハと、副隊長であるフィーネ・ベルクマンの姿が有った。

 「すまないフィーネ。書類整理を手伝ってもらって」
 「構わん。そもそもマルは明後日からクリスお嬢様の護衛任務だろう。ならば猟犬部隊の補佐は副隊長である私の務め、気にする理由など何所にもない」
 「確かにそうだが・・・・・・クリスお嬢様の護衛だけならばここまで意気高揚していない」
 「・・・・・・・・・」

 マルギッテの言葉にフィーネが思い当る節は一つしかない。
 クリスお嬢様が日本で作ったご友人達との小旅行への視察。
 その時に少しばかりやりあった男の事だろうという位だった。

 「男にそこまで執心するとは珍しいな」
 「ええ、それは自覚しています。しかしあの時受けた衝撃は忘れられるモノではありません」

 その時の事を思い出したのか、マルギッテは不敵な笑みを作った。
 そのマルギッテをフィーネは気に掛ける。

 「確認を取るが、まさかその時の件を蒸し返す訳では無いのだろうな?」
 「当然です。あの時は私欲を抑えきれなかった私に非があると自覚しています。何より中将が彼、衛宮士郎をサムライと認めて気に入っているのです。そこに私の是非が入る余地など有りません。――――まさか信じていなかったんですか?」
 「少しな。なにせマルは、ご両親や上官やクリスお嬢様以外には高圧的だからな。心配にもなる」

 むぅと、マルギッテが言い返せずに唸る。

 「ともあれ自覚しているのなら、ある程度の自制と自戒もして欲しいがな」
 「・・・・・・・・・・・・善処します」

 何とも言えない顔のままでのマルギッテの返答に、何時もの事と理解しながらも心の底で溜息をつく。

 「ではな、マル。私も仕事があるから明後日は見送れないと思うが・・・」
 「子供じゃなければ、死地に向かう訳でもない。ですから一々見送りなど不要です」
 「そうか。ではな、マル。おやすみ」

 そう、フィーネはマルギッテの返事を聞く事なく部屋から退出したが、態とすべて閉めずにおいた僅かな隙間から見たのだ。
 先程の不敵な笑みなど可愛い位に口先を吊り上げて獰猛に嗤う様を。
 口元を読んで、また溜息をつく。

 『待っていなさい、衛宮士郎。お前は私の獲物だ・・・!』


 -Interlude-


 フィーネはこれから就寝――――するのではなく、今現在猟犬部隊の自分とマルギッテ以外の主要メンバー4人が確実に集まっているだろう部屋に向かった。
 その部屋の前に着き、ノックをしてから入室すると、重装な鎧が憤っていた。

 「おっのれ~!男風情がっ!隊長を足蹴にするとは・・・・・・その傲慢さいずれ思い知らせてくれるわ!!」
 「落ち着いてテル~。気持ちは・・・・・分からないけど~。興奮し過ぎると、中の温度がめっちゃ高くなっちゃうよ~?」
 「そうだぞテル。こないだそれで熱中症になりかけたじゃないか。コジマはそれよく覚えてるぞ~」

 重装な鎧に身を包んだ?テルマ・ミュラーに、女性にしては確実に長身すぎる背丈を持つジークルーン・コールシュライバーと逆に小さすぎるコジマ・ロルバッハの2人が協力して落ち着かせていた。
 しかしその興奮を逆に煽る者も居る。

 「だがテルの言いたい事も解るな~。日本人は確か礼節と謙虚さを大切にする人種だろ?なのにソイツ、中将やマルに対する目上の敬いとかまるで成って無いじゃないか・・・!」

 テルマの憤りを煽る色気誘う銀髪の美人。
 リザ・ブリンカー。
 忍者をリスペクとしているセイヨウニンジャで、偵察や潜入任務を担当するマルギッテとフィーネと同期の花形。
 そんな彼女の意見にテルマが同意する。
 その光景にフィーネが一度嘆息してから制止に入る。

 「そこまでにしておけよ2人とも」
 『副長!』
 「来てたのかフィーネ」

 フィーネの声にほぼ全員同時で振り返った。
 しかし彼女はリザのみに冷たい目で見やる。

 「気づいていたくせによく言う。――――それよりもリザとテルマ、その件では最初に中将と隊長が最初に礼を失したからに他ならない」
 「ですが――――」
 「それにその件には自分たちの方にこそが非あったと、中将と隊長も認めている。にも拘らずお前たち部下がその件を蒸し返せば、御2人の顔に泥を塗る事になるぞ?それはお前たちの本意ではあるまい」
 「むぅ・・・」
 「チッ」

 フィーネの言葉に理解は出来るので黙ったが、未だ納得まではし切れていない様子だった。
 それは予想済みだったようで、フィーネがある提案をする。

 「とは言えこのままではお前達も収まりがつかないだろう。だから直とはいかないが、来週の中頃に私とリザで衛宮士郎の情報収集をして来よう。今回はそれで我慢しろ」
 「えっ?いいのか、フィーネ!お前バックアップとして、マルの分の書類仕事とかあるんだろ?」
 「それをお前にも手伝ってもらうんだ。当然だろ?」
 「えー」

 それに露骨に嫌そうにするリザを、フィーネは敢えて無視して取り合わない。
 そのフィーネにテルマたちが喰いつく。

 「副長!でしたら私達も――――」
 「テルマ!お前はとコジマとジークは、来週に西欧財閥の盟主のハーウェイ家との会談に向かう中将の護衛があるだろう?それを疎かにする気か・・・」
 「う゛」

 フィーネのジト目に思わずテルマは後ずさりをする。
 マルギッテは猟犬部隊の部下たちを心から信頼しているからこそ、ここの留守や中将の指揮下の別任務を任せられるのだ。
 つまりそれを疎かにすると言う事は、マルギッテへの信頼の裏切りと言う事になる。
 テルマもそうだがコジマやジークを始め、他の猟犬部隊の部下達もそこまで血迷ってはいなかった。

 「・・・・・・了解しました副長。正直口惜しいですが、どちらにしろその手の任務をは得意では無いと言う自覚もあるので、副長の提案通り今回は大人しく引き下がります」
 「コジマも了解した!」
 「頑張って下さいね~」

 やっと理解を得られたので、その後も少し話をしてから自室に戻るのだった。
 最後まで書類仕事を否応事無く突き付けられたリザの露骨な不快さを無視し続けた上で。 
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