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孤立無援

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9部分:第九章


第九章

 マニエルは後ろを振り向いた。そして言うことは。
「来てるんだろうな」
「追っ手か」
「それか」
「ああ、来てるよな」
 このことをだ。不安になりながら言ったのである。
「やっぱりな」
「絶対に来てるだろうな」
「俺達が奥に逃げたとわかったらな」
「当然追ってきてるだろうな」
「だろうな」
 仲間達の言葉にだ。マニエルも暗い顔で頷いた。
 そしてそれからだ。こう言ったのである。
「じゃあ。止まる訳にはいかないな」
「止まったらよくて捕虜、悪くて蜂の巣だぜ」
「そうなるぜ」
 すぐにだ。ジョーンズとバルボンがマニエルに答える。
「だから先に進もうぜ」
「幸か不幸か一本道だしな」
「このまま進むか。それにしてもな」
 マニエルは二人の話を聞きながらだ。今度はこう言ったのだった。
「この洞穴何処まで続くんだろうな」
「ああ、それな」
「思った以上に長いよな」
「っていうか何処まであるんだ?」
 四人の誰もがこの洞穴の終わりはすぐだと思っていた。しかしだ。
 もう十二時間以上休まず歩いている。だがそれでもだ。
 終わりは見えない。何処までも続く感じだ。足元に虫や小動物がいるのがちらちら見える。天井には蝙蝠だ。そうした如何にもといった感じの洞穴を進みながらだ。
 かれこれ十二時間以上だ。ここでだった。
 マニエルは妙に思ってた。仲間達に言ったのである。
「何十キロもある。どうなってるんだろうな」
「ちょっと。訳がわからないな」
「こんな洞穴あるのか?」
「本当にここは何処に続いてるんだろうな」
 三人共首を傾げさせざるを得なかった。だが、だ。
 立ち止まればベトコンに追いつかれる、その恐怖心があり立ち止まることができなかった。それでだ。
 さらに進む。しかしなのだ。
 進んでも進んでも先が見えずだ。遂にだった。
「もうすぐ丸一日になるぜ」
 バルボンが己の腕時計を見ながら仲間達に述べた。
「なあ、俺の時計がおかしいとかじゃないよな」
「ああ、違うぜ」
「俺の時計もそう俺に教えてるぜ」
「俺のもだぜ」
 他の三人もだ。バルボンにこう返してきた。
「丸一日。ここを歩いてるんだよ」
「で、まだ辿り着けないんだよ」
「何処にもな」
「おかしな洞穴だよな」
 バルボンも他の面々もだ。遂にだ。こう言った。
 そしてだ。一旦思えばだった。
 四人共奇妙な感覚がさらに増していった。そしてだ。
 バルボンはまた、だ。仲間達に話したのだった。
「なあ。行き着く先があるとするぜ」
「ああ、その場合は」
「ゴールがあればか」
「何処なんだ、そこは」
 バルボンはいよいよだ。首を捻って言った。
「俺達のゴールはな」
「アメリカ軍の陣地だといいんだけれどな」
 ジョーンズは彼等にとって最高のゴールを話に出した。
「本当にな。けれどな」
「いや、ホーおじさんの部屋の扉かも知れないぜ」
 バーグマンは彼等にとって最悪のゴールを話に出した。
「それで俺達はその場で護衛の兵士達に蜂の巣だよ」
「それはある意味嬉しい結末だな」
 マニエルはバーグマンの言ったバッドエンドに突っ込みを入れた。
「ホーチミンにあと一歩まで迫った悲劇のヒーローだな」
「そうなるよな」
「ヒーローになって死ぬ、か」
「悪い結末じゃないかもな」
「生きたいけれどな」
 生きることは絶対だった。今の彼等にとっては。
 一度は諦めかけてもそれでもだ。生きられるならだ。
 彼等も必死だった。だから歩き続けていた。そしてだ。
 遂に丸一日歩いたところで先に光が見えてきた。豆粒程の光だが。
 
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