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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第55話愛を貫くために槍を向ける

ユイちゃんが手に入れた管理者権限を使い、SAO以来の転移をされたオレ達が目を覚ました場所はーーーどことなく、研究施設の通路のような明るい場所だった。キリトがユイちゃんに聞いてみたところ、マップ情報がないため分からないそうだが、アスナさんと未来の居場所は分かるらしい。しかも二人ともかなり近くにいる。
オレ達は人間サイズの白いワンピース姿と裸足で駆けるユイちゃんを先頭に走り出す。

「未来・・・待っててくれ・・・」

オレの隣を走る弾が少し息を切らしながらも未来の名前を口ずさんでいた。未来という名前は、『幸せな未来が訪れますように』という意味を込めて母さんが付けた名前だ。オレも兄貴として妹の幸せを願ってる。だからーーー弾には未来が笑ってる未来を作ってほしい。
数秒走った所でユイちゃんが通路の壁に穴を空けて、さらにその中の通路を走るーーー管理者権限とはいえ何気にすごいことしてるな。そして通路の突き当たりにある丸い形のドアにユイちゃんが亀裂を入れる。さっきの壁より固いようだからオレとキリトと弾が手伝いーーードアの破壊に成功させた。そこで視界に映ったのはーーー

「ここが、世界樹の頂上・・・」

妖精の国(アルヴヘイム)全域を見渡せるかどうかの大樹ーーー世界樹の頂上だった。ALOの最終目的(グランド・クエスト)の内容は最初に世界樹の頂上に辿り着き、空中都市で待ち構える妖精王に顔合わせした種族を高位種族《光妖精(アルフ)》に転生させるというものだ。だが上を見上げてもーーー

「ないじゃないか。空中都市なんて・・・」

「何がグランド・クエストだ。全部嘘っぱちじゃないか。許されないぞ・・・!」

空中都市なんて見る影もない。多くのALOプレイヤー達が心血注いであのガーディアン軍団を相手に戦いを挑んで、多くのデスペナを払ったんだ。その血の滲むような努力を踏みにじったんだーーー弾の言う通り、絶対に許される事じゃない。
でも全ては二人を取り戻してからだ。オレ達は上を見上げてはダイシー・カフェでエギルから見せられた写真に写っていた鳥籠を探してーーー発見する。ユイちゃんの手を引くキリトを筆頭に床のように細長く上に伸びた枝の上を走る。少しずつ鳥籠に近付き、その中にいる一人の女性の姿を認識出来た所でーーー目の前に飛来してきた”刀”に止められる。

「刀・・・!?」

「まさか・・・」

突然目の前に飛来し、枝に突き刺さった刀を見て驚きながらもユイちゃんを抱きしめて保護したキリトがそう言い、弾が犯人に心当たりを覚える。もちろんオレだって感じてる。このーーー刀を回収しに来た少女の正体を。
かつて黒かったツインテールが銀色になって、かつて纏っていた紫色の巫女装束が変わっていて、胸を大きく露出したミニスカートタイプの白いワンピースを着た少女。そう、オレ達が助けたかったオレの妹ーーー

『未来 (ミラ)!!』

神鳴未来だった。オレと弾は嬉しさのあまり、未来に駆け寄ってーーー

「来ちゃダメ!!」

『!?』

未来に拒否される。それもーーー大きく刀を降り下ろされて。なんとか回避することは出来たけど、未来のとった行動がどうしても信じられなかった。

「身体が・・・言うこと聞かないの・・・!!自由が利かないの!!」

そう言ってもう一度弾に向かって斬りかかる。身体の自由が利かないってーーー操られてるのか?

「未来!俺が分かるか!?」

刀による突きを避けて未来の腕を抑える弾が未来に顔を近付けて問う。未来は目の前の男の顔を数秒見てーーー涙を流す。

「弾、くん・・・!?」

「そうだ!多分死んだと思われていただろうけど・・・生きてたんだ!!」

死んだと思っていた自分の想い人、霧島弾だと気付く。その未来の顔に涙には喜びの感情ーーーの他に、悲しみの念も混じってるように思えた。さっき言ってた『身体の自由が利かない』っていう言葉から察すると、オレ達を斬りたくないのに斬ろうとしちまうって事なのかもしれない。
だったら押さえ付けるなりして、キリトとユイちゃんを先に行かせないとーーー

「竜!キリト!ユイちゃん!先に行け!!」

「!?ミスト!!」

「おい!?弾!!」

弾が未来と一緒に枝から落ちた。道連れとかじゃない。弾はーーー未来が好きだから、自分の力で助けたいって事なのか?だったらオレはーーー

「・・・キリト、行こう。弾の覚悟を無駄にしないために」

「・・・分かった。ユイ、早くママの所に行こう」

「はい!」

弾の覚悟を無駄にしないために、前へ進む。あいつはここぞという時にすげぇ奴なんだ。きっと上手くやってくれるーーー

「未来を頼んだぜ・・・弾」




ミストside

俺はついさっき未来を抱きしめて竜達といた枝から落ちて、多分もっと下の同じような枝に着地ーーーで良いのか?未来は俺に任せて、お前らはアスナさんの所に行けという思いで、俺は未来を連れて落ちたーーーというのは名目、建前に過ぎないだろう。俺は未来が好きだ。そんな浮わついた覚悟でこんな事をした訳じゃない。ただーーーずっと死んだと思わせていた事を謝りたかっただけだったんだろう。

「弾くん避けて!!」

「ッ!」

何かに操られている未来は、刀で俺の左首筋から右脇腹に向けて大きく斬ろうとする。それに対し俺は上半身を左に仰け反らせてなんとか避ける事が出来た。でも俺が避けるのが精一杯なくらいに振りが速い。SAOの時も《リトルギガント》の竜を除いたメンバーの中で一番伸びが良かったし、ずっとSAOにいたんだ。俺なんかよりずっと強くて当たり前だーーー

「未来!もし俺が死んだんだと思って、悲しい思いをさせたならちゃんと謝りたい!」

「そんなこと今はいい!それよりも・・・あたしは!あなたを斬りたくない!!早く逃げて!!」

そういう訳にはいかない。俺を斬ってこの暴走が止まるなら、俺は別に斬られたって構わない。目の前で好きな女の子が泣いてたらーーー背は向けられない。絶対に逃げない。

「お願い!!」

「ッ!!」

ジャンプしてまっすぐに俺に向かって一刀両断しようとする未来の刀を、俺は槍を横に持ち太刀を防ぐ。

「その槍で・・・」

「!?」

槍で未来の刀を止めている状態で、未来が口を開いた。未来の言う『お願い』というのはーーー

「あたしがあなたを斬る前に、その槍で・・・あたしを殺して・・・!!」

ーーー殺す?俺が?未来を?そんなこと、出来る訳がない。未来を助けに来たのに、どうして未来を殺さなきゃならないんだよ?ここはALO。HPが底を尽きても各種族の領地蘇生される。でもーーーだったら未来はどうなる?元々ALOのプレイヤーじゃなかったのに、どの種族でもないのに死んだらーーー現実世界の彼女はどうなるんだ?

「早く!!あたしがあなたを斬り殺す前にーーーあなたがその槍であたしの心臓を貫いてよ!!!」

「ッ!!」

違う。俺は未来をーーーキミを殺すために今ここで槍を構えたんじゃない。俺がSAOで手にした槍は、仲間を守るために敵を貫く武器でしかなかった。でも、今はそんなつもりで槍を握ってるんじゃないーーー

「ダメ・・・ダメ・・・ダメ!!斬っちゃダメ!!イヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」

悲鳴を上げながら再度俺を一刀両断しようとする未来を救うには、方法は一つしか思い付かない。それは、俺がこの太刀をーーー

「ハァァァッ!!!」

砕く事だけしかない。これならきっと、新しい武器を手に取らない限り未来が俺を斬る事は出来ない。

「・・・未来」

「!!」

俺は刀を失い、戦う事が出来なくなった未来を強くーーー強く抱きしめる。

「俺は絶対にキミに向けて槍は向けない。向けるとしても・・・」

俺が槍で貫くのはモンスターでもプレイヤーでもなく、ましてや未来の心臓でもない。それでも俺が未来に対して槍の切っ先を向ける事があったらーーー

「俺は・・・キミへの愛を貫くために槍を向ける」

「ッ!!」

自分で言っておいてすごく恥ずかしいけどーーー俺だって男だ。後悔なんてしたくないから、想いは絶対に伝えたい。
そして今俺の胸に顔を押し付けている未来の顔を見てみたらーーーもう少しで耳まで赤くなるんじゃないかという所まで顔を赤らめていた。俺がその顔をじっと見つめていたらーーー未来が自分の唇と、俺の唇を重ねる。

「・・・ッ!?/////」

「少しだけ・・・身体の自由が利いてきたから、その・・・あなたが・・・弾くんが本当に、あたしの事好きなんだったら・・・いいでしょ?/////」

ヤバイーーー可愛すぎんだろこの娘。
 
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