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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第59話

~ルバーチェ商会~



「豪奢な部屋ね……さすがにハルトマン議長の部屋ほどではないけれど………」

マルコーニ会長の私室と思われる部屋を見たエリィは思わず自身の感想を口にし

「まあ、あれと比べたらなぁ。って……!」

ロイドは苦笑しながら答えた後ダドリーの目の前で自分達が”黒の競売会(シュバルツオークション)”に潜入した事を遠回しな言い方で口にしてしまった事に気付き

「あ……」

エリィも仲間達と共に焦った様子でダドリーに視線を向けた。

「お嬢……迂闊だろ。」

「クス、エリィお姉さんにしては珍しいミスね。」

ランディは呆れ、レンはからかいの表情で呟いた。

「フン……何を今更焦っている?”黒の競売会(シュバルツオークション)”についての経緯などとっくに聞いている。一課としては長年狙っていた獲物を横取りされた気分だがな。」

一方焦った様子のロイド達に視線を向けられたダドリーは不敵な笑みを浮かべてロイド達を見回した。

「はは……そ、それはともく、やはりここが会長室みたいですね。どうやらルバーチェ商会の中は一通り調べつくしたようですが………」

「ああ………結局マフィアは一人も残っていなかったし、失踪者もここにはいないようだ。何か手がかりがあるとしたらこの部屋以外にはありえん………時間が惜しい―――全員で手分けをして調べるぞ。」

「はい!」

「さぞ色々なものが見つかりそうですね……」

そしてロイド達は手分けして部屋を調べ始め、鍵がかかった宝箱に気付いたロイドは周辺を捜して鍵を見つけ、その鍵を使って宝箱の鍵を開けて、宝箱を開けた。



(よし………開いたか。幾つかファイルがあるけど……どれどれ………あった!やはりマフィアが薬物を……そして”グノーシス”……例の教団が造った薬物か……いったいどういう関係が………あれ、宝箱の隅に何か……これは、警察の………)

宝箱の中身を調べていたロイドはファイルの他に傷ついた警察徽章を見つけた。

(………え……………)

自分にとって見覚えがある傷ついた警察徽章を見たロイドは呆けた表情をした。その後ロイドはエリィ達にファイルや警察徽章の存在を知らせ、ファイルの中身を調べた。



「―――失踪した市民達は全てリストに記載されていた。これでマフィアが薬物を広めた裏付けは取れたわけだ。そして例の教団が造ったという”グノーシス”とやらか………」

「………………………」

ファイルの中身を読み終えたダドリーは机に置いたファイルを睨みつけ、ティオは辛そうな表情で黙り込んでいた。

「一体どうしてマフィアがそんなものを………入荷リストによると何者かの提供を受けているのは間違いなさそうだけど……やはりその人物が教団関係者なのかしら……?」

「………………」

「―――間違いないだろう。書類によると、数年前から付き合いのある人物みたいだな。軍用犬に薬物を投与して簡単にコントロールする技術なんかも提供していたらしい。」

エリィの推測を聞いたレンは厳しい表情で黙り込んでいる中ロイドはエリィの推測に同意して更なる推測をし

「なるほど、軍用犬を訓練するのは猟兵団でもかなりの手間がかかる。あれだけ大量に使ってたのはちょいと違和感があったんだが…………」

ロイドの推測を聞いたランディは納得した様子で頷いた。



「全てはその教団関係者が協力していたというわけか。しかし一体、何者だ……?やり取りの頻度から見てクロスベルの人間であるのは間違いないようだが……」

「………わかりません。ですが、失踪者たちの行方もマフィアたちの不在の理由も………全てはその人物が握っているのではないかと思います。」

「………わたしも同感です。おそらく、あの蒼色の錠剤は数年前に使われていた”グノーシス”の改良版………その人物が完成させて……マフィアに提供したのでしょう。」

「そして追い詰められたマフィア達が戦力強化に自分達に”グノーシス”を使い、更に市民達に広めた……という最悪の展開になったって事ね。」

ロイドの推測に続くようにティオとレンはそれぞれ自身の推測を口にし、ティオは一瞬身体を震わせた。

「ティオちゃん………レンちゃん………」

「大丈夫だ……俺達がついてる。もう二度と―――ティオに……そしてレンに悪夢は見させない。」

「ロイドさん………」

「うふふ、さり気なくレンも入れるなんてロイドお兄さんらしいわね。」

ロイドの心強い言葉を聞いたティオとレンはそれぞれ心の中にロイドに対して感謝を秘めてロイドを見つめた。

「ま、どうやらブチのめす事、確定の外道みてぇだしな。しかしそうなると……どう炙り出すかが問題か。」

「そうね………人手が圧倒的に足りないわ。消えたマフィアへの対処と失踪者の捜索に加えて、空港の爆破予告もあるし……上層部の圧力がなかったら何とかなったんでしょうけど……」

ランディの意見に同意したエリィは複雑そうな表情で今後の方針を考え込んでいた。



「クッ………まさか警察局長までもが完全に取り込まれていたとはな。そうでなければ全警察を挙げた対策本部を設立できたものを…………恥を知るがいい……!警察のツラ汚しが……!」

「ダドリーさん……」

悔しそうな表情をしているダドリーを見つめていたロイドは考え込み

「―――提案があります。遊撃士協会に協力を要請しませんか?」

意外な提案をした。

「あ……」

「おお……!その手があるじゃねえか!」

「うふふ、民間人の失踪が関わっているから間違いなく力を貸してくれるでしょうね。」

「ば、馬鹿な事を言うな!そんな事をしたら、警察内部の恥をギルドに暴露することにも―――――」

ロイドの提案にエリィ達が表情を明るくしている中、ダドリーは反論したが

「仕方ないでしょう……警察全体のツケなんですから。見てみぬフリをしていた俺達全員の責任です。恥くらい、甘んじて受けるべきではありませんか?」

「警察のプライドに拘ってその結果ルバーチェはともかく民間人から死者を出してしまったら本末転倒じゃないかしら?」

「ぐっ……………」

ロイドとレンの正論を聞くと苦々しい表情で黙り込んだ。



「確かに、こうしている内に失踪者たちがどんな目に遭っているかわかりませんし……」

「消えたマフィアどもが何をしでかすかもわからねぇよな。」

「もう、体面を気にしている場合ではないと思います。」

「………………………………

そしてティオ達の話を聞いたダドリーはしばらくの間考え込み

「フン……セルゲイさんもとんだ部下どもを集めたものだ。いいだろう―――ギルドとの交渉はお前達に任せた。私は私で、上層部の目を盗んで動ける人間を一課から確保しよう。場合によっては二課からの協力も得られるかもしれない。」

静かな笑みを浮かべた後、ロイドの提案を受け入れた。



「ダドリーさん……感謝します。聞き入れてくださって。」

「フン……勘違いするな。現状ではそうする以外、選択肢がないというだけだ。それよりも―――バニングス。そのバッジの事はいいのか?」

「あ………」

ダドリーの指摘にロイドは声をあげて手に持っている警察徽章を見つめた。

「傷ついた警察徽章………」

「本当にお前の兄貴のバッジなのか……?」

「ああ、多分そうだと思う。ティオも見覚えがあるんじゃないか……?」

エリィとランディの言葉に頷いたロイドはティオに訊ね

「はい……多分、例のロッジ制圧の時に付いた傷だと思います………勲章だって言ってました。」

「フン、なるほどな………道理でうるさく言っても新品と交換しなかったわけだ。」

ティオの話を聞いたダドリーは呆れた表情をしていたがすぐに複雑そうな表情になって納得した。



「ダドリーさんは……兄貴と同僚だったんですよね?兄貴が捜査一課に移ってから。」

「まあな………正直、一課の水にはまったく合わない男だった。強引かつ無鉄砲、独断専行ばかり目立って………私とは特にソリが合わずに、事件を巡って衝突ばかりしていた。だが――――優秀な捜査官だったのは一課の誰もが認めていた。もちろん私も含めてな。」

「ダドリーさん……」

(クスクス、ガイお兄さんが今の言葉を聞いたらどんな反応をするでしょうね♪)

兄に対するダドリーの評価を聞いたロイドは驚き、レンは小悪魔な笑みを浮かべていた。

「……ヤツが殉職した時、私達一課の人間の喪失感は予想以上のものだった。ソリは合わなかったが………どこかヤツの破天荒な行動力に期待していた所もあったんだろう。必死になって犯人を捜したが、結局、手掛かりを見つける事ができなかった所か奴の遺体を見つける事もできず………―――すまない。お前には辛い想いをさせたな。」

「よ、よしてくださいよ。単独捜査をしていた兄貴にも問題はあったみたいだし……それに”兄貴は今も生きていますし。”」

ダドリーに謝罪されたロイドは謙遜した様子で答えた後ダドリーにとって驚愕の事実を伝えた。



「何………!?奴が今も生きているとはどういう事なのだ……!?」

「……その、誰にも他言無用と言う事でお願いします―――――」

そしてロイドはダドリーに死亡したはずのガイ・バニングスが今も生きている経緯を説明した。

「…………フン、相変わらず悪運の強い男だ。しかもそんな目にあったにも関わらず独断専行も相変わらずのようだな………そんな事になったのならばせめて私達一課の人物にだけ生存とその理由を知らせてくれていれば、内密でその”犯人”とやらの”目的”の調査くらいはしてやるものを………」

事情を聞き終えたダドリーは驚きの表情で絶句していたがやがて静かな笑みを浮かべてガイに対する皮肉の言葉を口にした後呆れた表情で溜息を吐いた。

「す、すみません。兄貴が散々心配と迷惑をかけてしまって………」

「お前が謝罪する必要はない。………まあ、奴が姿を現した時に説教は当然として一発は殴らせてもらうがな。」

ロイドに謝罪されたダドリーは静かな表情で答えた後口元に笑みを浮かべ

「ハハ…………まあ、今まで心配や迷惑をかけた挙句連絡一つすらも寄越さなかったのですからそのくらいは仕方ないかと。」

「クスクス、一発でもダドリーおじさんの拳はかなり痛いでしょうね♪」

「それには同感です。何せS(スペシャル)クラフトでも拳を使っているくらいですしね。」

ダドリーの言葉を聞いたロイドは冷や汗をかいて苦笑し、小悪魔な笑みを浮かべているレンの推測にティオは静かな表情で頷いた。



「私はまだそんな呼ばれ方をする年齢ではない!…………ブライト。先程のバニングスの話によれば、お前とお前の兄―――”焔の剣聖”はガイを殺しかけた”犯人”を知っているとの事だな?」

レンとティオの会話を聞いて顔に青筋を立てたダドリーはレンを睨んで反論した後気を取り直して真剣な表情で問いかけた。

「ええ、知っているわよ。でもそれを教えられない理由もロイドお兄さんがさっき話したでしょう?」

「事情が事情だし、奴の考えも一理あるからその事について聞くつもりはない………だがこれだけは答えろ。奴を殺害しかけた”犯人”も含めてその”計画”に関わっている者達は全員で何人いる?」

「あ…………」

「その”計画”とやらに関わっている奴等の人数を聞いて何か意味があるのか?」

「ああ………”計画”に関わっている人物の人数を絞る事でその人物の人間関係とかから”容疑者”を更に割り出す事ができる。」

ダドリーのレンへの質問を聞いたエリィは呆けた声を出し、ランディの疑問にロイドは静かな表情で頷いて答えた。



「……ま、そのくらいなら別にいいわよ。――――ガイお兄さんが調べた限りの情報になるけど、”計画”に関わっている人数は4人でその内2人は親類関係の間柄よ。」

「4人………たったそれだけの人数でどんな”計画”を………」

「しかも4人の内2人が親類関係で残りの2人と繋がりがあるような知り合いって私達の中にいたかしら………?」

「そしてその中の一人が兄貴を直接殺害しかけた”犯人”か………」

レンの答えを聞いたティオとエリィは不安そうな表情で考え込み、ロイドは真剣な表情で呟いた。

「……………情報提供、感謝する。それと今度奴に会ったらこう伝えておけ――――『手掛かりを探すのにいつまでかかっている。手掛かりを見つけて戻ってくるのがあまりにも遅いと私自ら貴様に会いに行って、今持っている情報を全て吐き出してもらうぞ』とな。」

「ダドリーさん………」

「ハハ、相変わらず素直じゃないねぇ。」

「うふふ、一言一句間違えずに伝えておくわ♪」

口元に笑みを浮かべたダドリーのガイへの伝言を聞いたロイドは口元に笑みを浮かべ、ランディは苦笑していた。



「――――ガイの事も気になるが、今はお互い、やるべき事をやるとしよう。あの癪にさわるくらい破天荒で前向きだった男に負けないためにもな。」

「はい……!」

そしてダドリーの言葉にロイドは力強く頷いた。その後ロイド達はダドリーと別れて、遊撃士協会に向かった―――――




 
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