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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第百十二話

「やぁぁぁぁぁっ!」

 迫り来る魔法の火炎弾を高速で飛翔することで通り過ぎながら、ユウキは敵の包囲するただ中へ向かっていく。背後からシリカの警告の言葉が届いたものの、その言葉すらも置き去りにするほどの速度で。

「……援護お願い!」

「ぇ、援護って……リーファさぁん!」

 そんなユウキに触発されたのか、リーファもまた迫る魔法の弾幕をかいくぐり、敵陣に長刀を構え飛翔する。元はといえば、魔法を高速飛翔して接近戦に持ち込む、というのはリーファの得意技でもあり――ユウキと肩を並べていく。

 ……ショウキとリズがPK集団と戦っている最中、こちらのルクス救出部隊も行動を開始していた。救出部隊といっても、かなりの大部隊の中に混じったルクスを救出する、という役目のために、先述の二人以外の戦力は全てこちらにいる。相手は読み通り自称中級者と言ったところか、大した腕前ではなかったようだが、あくまで今回の目的はルクスの救出だ。

 あんまり正面きっての戦闘は得策じゃない――自称リーダー代行のシリカは、そんな旨を相談していた筈だが、どうやらユウキには伝わっていなかったらしく。撃ち込まれる魔法を必死に空中で避けながら、シリカはひとまず前線で暴れる二人に支援魔法をかける。

「おーいシリカよう、今のうちに頼むわ」

「頼むって……」

 ユウキとリーファの突貫を眺めていたクラインも、そんな言葉を問いかけてきたと思えば、またもや敵陣に突撃していく。白兵戦の能力なら仲間うちでもトップクラスな三人だったが、明らかに多勢に無勢でいて――ただし三人の突撃は、まるで無謀で無策な訳ではなく。

「……行くよ、ピナ」

 シリカは肩の上に乗ったピナに声をかけると、地上すれすれまで落下した後、そのすれすれの位置を飛翔していく。近寄らせまいとする魔法の弾幕は、強行突破したユウキのおかげで大分減った。ならばシリカの仕事は、他の三人がわざと目を引きつけながら戦っている最中、ルクスを見つけて助けだすことだ。

 故に、わざと派手に暴れ回るユウキは、敵プレイヤーが殺到してシリカからはよく見えない。それでも――味方であるこちらが引くほどの大立ち回りを見せているのは、何となく敵プレイヤーの反応を見れば分かる。

「さあ! 次は誰!」

 目立たないように飛行するシリカの耳に、そんなユウキの声が聞こえてくる。彼女の強さはよく知っているところであるが、まさか三人で耐えられる筈もない。急いでルクスを見つけようと、シリカは低空で飛行していると、肩に乗ったピナが鳴き声を発した。

「……ルクスさん!」

 シリカからすれば、もう長い付き合いとなった、ピナの鳴き声の意図を察するのは容易い。ピナが見ていた方向に目をやってみれば、フード付きの妖精と囚われたルクスが見てとれる。森の中に逃げようとしているらしく、シリカはすぐさま二人の前に立ちはだかった。

「ルクスさんを離してください!」

 逃がさない、とばかりに愛用の短剣を構え、シリカはフード付きの妖精に向かってそう宣言する。対するルクスを捕らえたフード付き妖精は、突如として現れたシリカに驚いたようではあるが、すぐさま気持ちを切り替えてシリカに向き直った。麻痺毒で捕らえたルクスを近くの木々にもたれかけさせ、フードから覗く口元はニヤリと笑っている。

「シリカ……!」

「…………!」

 絞り出すようなルクスの警告が、シリカの耳元に何とか届く。あの浮遊城をオレンジプレイヤーとして生き抜いたフード付き妖精に対して、シリカはその生来の性格やプレイスタイルから、あまり対人戦は得意ではない――経験がないというのも正しいか。それはルクスにも、構え方からフード付き妖精にも、冷や汗で汗ばむ手で短剣を掴むシリカ自身にも分かっていたことで。

「いきます!」

 それでも、自分だって力になれると。同じく対人戦の経験の少ないリズは、もっと危険な相手と戦っていると。そう自分を鼓舞しながら、短剣の突進系ソードスキルを使い攻撃しようとすると、突如としてシリカの側面から攻撃が加えられた。

「キャッ!?」

 肩に当たった吹き飛ばされたような衝撃に、ゴロゴロと転ばされながらも受け身を取り、反射的に攻撃が来た方向を確認する。しかしそちらには何もなく、側面を確認する隙を突かれて、肩のピナに先の攻撃が炸裂する。

「ピ……ひゃっ!」

 吹き飛ばされたピナの心配をしている暇もなく、正体不明で視認不可な攻撃がまたもやシリカを襲い、別方向に吹き飛んだピナと分断されてしまう。それでも短剣を構えてフード付き妖精の方を睨むが、彼は棒立ちのまま動く気配はなかった。

「っつ!」

 迫る風切り音。四回目ともなれば何とか反応出来るようになり、頭を狙っていた謎の攻撃を短剣で弾く。ビリビリと手に伝わる衝撃に、ソードスキルによるものだと当たりをつけているのも束の間、いつの間にかフード付き妖精がシリカの目の前に来ていて。

「あっ――」

 それからシリカは悲鳴すらあげることも許されず、溜め込んでいた空気が全て吐き出されるような蹴りを腹に受け、言葉すら発せられなくなり。蹴りの衝撃で身体は宙に浮き、翼を展開する間もなく先の正体不明の攻撃が飛来し、シリカの身体を容易く大地に叩き落とす。

「っつ……うぅ……」

 全身に襲いかかる虚脱感に抗いながら、シリカは大地に倒れ伏した状態から、うめき声をあげて何とか立ち上がった。ニヤニヤとした口元が見えるフード付き妖精は、そんなシリカの様子を満足げに眺めていて。

「……やっぱり、適いませんよね」

 ――シリカもまた、ニヤリと笑ってフード付き妖精を見返した。意気込みだけで勝てるならば誰も苦労はしない、と自らの戦力を理解していたシリカは、最初から彼女にしか出来ないことを狙っていた。他のメンバーにはない、シリカにのみ出来ることを。

「ハァッ!」

 裂帛の気合いとともに。シリカを見下ろしていたフード付き妖精の背後から、ルクスの一撃が改心の当たりとして与えられた。そのままルクスの二刀の連撃が加えられ、フード付き妖精のHPゲージを赤く染めると、その姿をポリゴン片と化した。ルクスはそれを一瞥することなく、ボロボロになったシリカに駆け寄った。

「シリカ、大丈夫かい!?」

「えへへ……ちょっと大丈夫じゃないです」

 駆け寄ったルクスの肩に乗っていたピナが、ボロボロのシリカにヒールブレスを放っていく。シリカにしか出来ないこと――シリカの狙いは、麻痺毒を解くブレスが放てるピナに、囚われたルクスを回復してもらうこと。フード付き妖精の一撃で分断されてしまったため、敵の脳内からは消えていたが……わざわざ指示をせずとも、ピナはシリカの考えてることなど分かっている。

「……すまない。こんなことに巻き込んで」

「なに言ってるんですか! どんとこいですよ!」

「そういうこと!」

 ピナをシリカに返すルクスたちを守るように、リーファが長剣を持って降り立った。まだ戦う気力も数も十分に残るまだ数多くの敵プレイヤーを警戒しながら、リーファはあることを伝えていく。

「ルクスはリズさんを助けに行って! 多分、一人であのグウェンって奴と戦ってるの!」

「ええっ!?」

「ピナが案内します! ルクスさん、お願いします!」

 勝ち目があるわけもないそのリズの戦いに、場違いなルクスの驚愕の声が響いて。ヒールブレスによるシリカの回復が終わり、あるテイムスキルを発動したピナが再びルクスの前を飛翔する。そのままついて来いと言わんばかりに、森の中へ飛んでいこうとするピナに、またもや不可視の一撃が加えられる――

「見つけた! そこ!」

 ――と思いきや、ピナを庇うように前に出たリーファの近くで、その不可視の一撃は妨害された。それはリーファの魔法である風の鎧であり、周囲に吹き荒れる疾風が遠距離攻撃を無効とする――あらかじめ発動されていたその魔法に阻まれ、シリカを襲っていた不可視の一撃が正体を表した。

「鞭……!」

 見えなくなるまでギリギリに細くした、鋭くしなる鞭がその正体。それを《隠蔽》スキルで隠れながら、もう一人のフード付き妖精が放っていたようだが、正体が分かった今リーファの敵ではなく。

「ええぃ!」

 鞭が放たれた軌道からプレイヤーの位置を読んだリーファが、あっさりと《隠蔽》スキルを見破ると。その飛翔速度からの高速の一撃が敵を捉え、接近されたために鞭を振るえない敵の運命は決まったようなものだった。

「という訳でここは任せて! リズさんをお願いします!」

「――ありがとう!」

 そうしてピナの案内に伴って、ルクスは森の中に飛翔していく。シリカはそれを見届けることはなく、今もなお戦うメンバーとともに、敵に向かって短剣を構えた。


「お前……誰だ?」

 森の中。カタナを油断なく構えるショウキの前に、四人のフード付き妖精が姿を現していた。こっちから探す手間が省けた、という思いもあったが、それはともかく。ショウキはその質問を男たちにしていた。

 いや、正確には――その四人のフード付き妖精の中にいる、リーダーのような立ち位置に存在する男にだ。彼だけは正体を隠すための簡素なフードではなく、ポンチョと呼べるほどの長さを持った服を着ていた。その手にはナイフが握られており、武器をフード付きの服で隠した他の妖精とは、その点も異彩を発していた。

 ――そう、まるであの殺人ギルドのリーダーのような。

「…………」

 彼からの返答は、ポンチョから覗く笑みを深めるのみで終わり、その周りにいた三人のフード付き妖精が襲いかかってきた。三人同時に別々の方向から、武器を長いコートで隠して――と、対処が難しい理にかなった方法で。

 対するショウキは何も言わずに、ゆっくりと日本刀《銀ノ月》で『突き』の体勢を取る。別方向から襲いかかる三人に対して、明らかに不向きな体勢にフード付き妖精はいぶかしんだが、ともかく同時に襲いかからんとタイミングを合わせていく。

 かの浮遊城の時から何度となく行ってきた同時攻撃、それぞれの武器の特徴も分かっているし、タイミングを合わせるのも一瞬で済む。

「待ってやる義理はない……!」

 ――しかし、そのタイミングを合わせる一瞬を見逃すことはなく、ショウキはフード付き妖精の一人に肉迫した。すぐさま足払いで転ばせると、その突きの体勢から発動する技を見せていく。

 すなわちOSS。ソードスキルを使えないショウキにとって、ある特定の構えから移行する技はそのOSSに限られる。

「せやっ!」

 まずはフード付き妖精の身体を貫く、まるで銃弾のような貫通力を持った突き――とほぼ同時に放たれる、もう一本の突き――いや、さらに放たれるもう一本の突き。まるで日本刀《銀ノ月》が増殖したかのように、ほとんど同時のタイミングで、三回の突きがフード付き妖精を襲った。体勢を崩していたフード付き妖精には、それら三回の突きは的確に急所を貫いた。

 頭、喉、みぞおち。最後に血を払うような横一線により、腹から両断されたフード付き妖精はポリゴン片と化していた。そのままもう一度突きの体勢に移行すると、目に見えて他のフード付き妖精の動きが鈍る――それも当然だ、目の前で仲間が正体不明の技でやられたのだから。

「どうした?」

 わざとらしく挑発してみせるショウキが使ったのは、紛れもなくオリジナル・ソードスキル。この世界に来てもソードスキルを使うことの出来なかったショウキだったが、このALOで新たに作り出されたOSSは、何ら不自由なく作成することが出来た。

 そして作成したOSSがこの《無明剣》。神速での突きと神速での引きをすぐさま行うことで、ソードスキルのシステム補助を加え、三度の突きをほぼ同時に放つソードスキル。かの有名な逸話から再現した一撃は、ショウキの唯一無二のソードスキルとなっていた。

「……来ないならこっちから行く」

 せいぜい怖がれ――と、少々怒っているショウキは心中で呟きながら、突きの体勢を解いて一歩前に出ると。恐怖と焦りに囚われた、フード付き妖精の片割れが無策での突進を行ってきた――そうやって連携を崩すことこそが、ショウキの狙いだとも知らずに。

「このっ!」

 マントから三節坤を取り出して襲いかかるフード付き妖精を、身体を捻って軽く避けてみせると、容赦なくスネに蹴りを入れる。弁慶の泣き所とも呼ばれるそこにダメージを受け、反射的に顔をしかめてしまうフード付き妖精に、今度は腹めがけてヤクザのような蹴りを放ち。後ろから慌てて連携攻撃を仕掛けようとしていた、もう一人のフード付き妖精に向けて、思い切り蹴り飛ばした。

「うわっ!」

 突如として吹き飛んできた仲間を受け止めきれず、二人は武器を取り落としてながら、まとめて驚愕の言葉とともに大地に倒れ込んだ。そこに日本刀《銀ノ月》の刀身を発射すると、片方のフード付き妖精の腹を突き刺さって大地に貫通し、そのまま大地に縫い付けて貫通継続ダメージを与えていく。

「お、おい……」

 幸運にも逃れた片割れは、仲間の腹に突き刺さった刀身を抜こうとするか、武器を拾って反撃しようするか、一瞬だけ迷い動きを止める。その一瞬の迷いはかなりの隙となり、刀身が再生成された日本刀《銀ノ月》の、刀身を振動させ切れ味を増すスイッチを押す。ギィィィィン――と、刀身が振動するノコギリのような音が大地に響き渡り、その音に気づいて防御体勢を取ろうとしていたが――遅い。

「せいっ!」

 短い気合いの言葉を伴って。力強く踏み込んだ一足とともに、上段から放たれた唐竹割りは一刀のもとにフード付き妖精を斬り裂いた。

「……悪いな」

 そしてポリゴン片とともに発生するエンドフレイムを疎ましげに振り払いながら、腹に突き刺さった刀身を抜こうとする、もう一人のフード付き妖精を見て。ふと、そんなことを呟いた後に、その心臓に振動刀を突き刺し、その減り続けていたHPにトドメを刺した。

 二対のエンドフレイムを身体に浴びながら、これで全員か――とショウキは辺りの気配を探りながら、リーファのサーチャーで調べた敵数と、自分が倒したフード付き妖精の数を逆算する。あのリーダーたるグウェンを除けば、まだ三人ほど取りこぼしているようだが、特にそれらしき気配は近くに感じない。逃げたかリーファたちのところにいるか、そのどちらかだろう。

「…………」

 ――だが、その姿を消した敵の一人。今し方三人と戦っている間に、いつの間にか姿を消していた一人のポンチョ付きが、どうしてもショウキには気がかりだった。その格好は元より、フード付き妖精とは違う、本物の殺気だった気配のような――

「ふぃー……」

 ――今は考えるのを止めておこう、とショウキは森の中で気の抜いた息を吐いた。何しろ戦いが戦いだったため、少々気を張ってしまっていたが、髪をガリガリと掻いて普段の雰囲気に戻す。今回も役に立ってくれた、愛刀こと日本刀《銀ノ月》を鞘に締まって撫でながら、気を取り直して翼を展開する。

「……よし」

 自分の仕事は終わったとなれば、ショウキのやることはただ一つ。……どうせ無理をしているだろう、リズを見守ること。



「――いい加減倒れなさいよっ!」

「まだだって言ってんでしょうがぁ!」

 そしてリズとグウェンの戦いは、お互いに譲らない泥試合と化していた――いや、リズが無理やり追いすがろうとしている、といった方が正しいか。普段より多めの装甲を装備してきたリズに、慣れぬ空中戦ではグウェンも装甲と装甲の隙間を突き刺すことは出来ずに、地道に削るしか出来ずに。対してリズの方も重い装備に引きずられ、メイスの一撃をグウェンに掠めることすら出来なかった。

「貰ったぁ!」

「――ッ!」

 どちらも苛立った気合いをぶつけ合っていた戦いは、グウェンがそのスピードを活かして回り込み、リズの空振りを誘発して背後に回る。そして、リズが鎧に包まれていない部分――つまり、翼の根元を狙って忍刀を煌めかせた。

「ひゃ……ぁぁあ!」

 その斬撃は的確にリズの翼を切り裂くことに成功し、空中を自在に飛翔する権利を失ったリズは、ただ重力に従って地面に落下していく。地道にグウェンに削られ続けていたHPゲージは、高所からの落下ダメージには耐えられるものではなかったが――リズは近づいてくる地面を見ながら、メイスの柄をしっかりと握る。

「ええい!」

 着地の瞬間にメイスの重単発ソードスキルを地面に当て、落下の衝撃を相殺する――ものの、空中にいたグウェンの追撃の蹴りが炸裂し、リズの身体は地面に放り投げられた。大地をゴロゴロと回転した後、それでもまだリズは立ち向かう意志を捨てず、空中に飛翔するグウェンを睨みつけて立ち上がる。

「いい気分ね。どう、そっちは」

「……悪くないわね」

 身体や顔に付いた土を払いながら、リズはグウェンに向けてメイスを構えた。このALOにおいて、片方だけ飛翔することが出来ない、というのはハンデ以前の問題だ。にもかかわらず、まだ戦う姿勢を見せるリズに対し、グウェンは苛立たしげに顔を歪めた。

「頭おかしいんじゃないの、アンタ。私とルクスの問題に、もう関わってこないでくれる?」

「ルクスはあたしたちの友達でもある、って言ってんでしょ? あんたがルクスと仲直りするまで、悪いけど関わり続けるわ」

「仲直りぃ?」

 リズに引き裂かれてサイドテールとなった髪の毛を撫でながら、グウェンはリズの少し前に降り立った。リズのメイスはグウェンの視線を捉えて離さないものの、対するグウェンは余裕の表情で鼻を鳴らした。もはや立っているのも不思議なほどにボロボロになった、リズのメイスに当たる要素はまるでないからだ。

「だから、私たちを邪魔しなきゃ仲直り出来るわ。これはルクスと、また一緒に遊ぶための計画なんだから」

「……本当にそうなの?」

「……どういう意味?」

 ニヤリと笑ってのけたリズに、グウェンは舌打ちしながら問い返した。この計画は、今のALOを昔のSAOのような環境に戻しつつ、ルクスを自分たちとしかいられなくする計画だ。それに間違いはないにもかかわらず、リズは自信を持って首を振っていた。

「ホントにその計画とやら、あんたが考えたの?」

「……っ」

 確かにこの計画を考えたのはグウェンではなく、あのポンチョ付きの不気味な男だった。あの浮遊城の攻略の前半に起きたことらしく、ルクスの身も手に入るということで。

「無理よ。この計画とやらじゃ、絶対ルクスは友達にならない」

「……ふん。あんたがルクスの何を知ってるって言うのよ」

 リズとしても、ショウキがボヤいていた『浮遊城前半から最前線にいた連中しか知らないようなことを、中層のオレンジプレイヤーが知ってるのか?』ということから、半ば当てずっぽうで言ってみただけだったが、どうやらグウェンの反応を見る限り正しいらしい。自分たちも浮遊城前半のことは、キリトやアスナのまた聞きでしか知らず。相手にも浮遊城前半を生き抜いた、恐らくはオレンジプレイヤーが手を引いている――ということは、今はリズにとってどうでもいい。

「友達よ」

 グウェンからの『ルクスの何が分かる』という質問に対して、はっきりとグウェンに宣言してみせる。先の質問のような当てずっぽうではなく、今度は確信に満ちた堂々とした返答で。

「友達? 浮遊城の頃のルクスのこと、何にも知らないくせに?」

「でも、今のルクスのことは何でも知ってるわ。……その今のルクスは、アンタらの仲間になんてならない」

 でも――と。グウェンが何かを言い返そうとするより早く、リズはさらに言葉を続けていく。ずっと向けていたメイスをそっと下ろして、代わりに何も持っていない片腕をグウェンに向けて。

「あたしたちと友達になるのが、今のルクスと友達になるのに、一番手っ取り早いと思うけど」

「……はぁ?」

 そのグウェンに向けた空手は握手の代わりで。とはいえ、グウェンは呆気にとられた後、その申し出を鼻で笑った。

「馬鹿じゃないの。私が欲しいのはルクスだけよ。……ルクスがいないなら、今のあの子の友達とやら、全部壊してやるくらい」

 ――やっぱりダメよね、とリズは心中で呟いて。恐らくは、ルクスと一緒に遊びたいだけの彼女とは、今なら一緒に遊べるようになったやもしれないのに。浮遊城時代に起こったことにこだわっている、小粒だがあの浮遊城の亡霊とも言える彼女に、リズは握手ではなくメイスを構え直した。

「まずはその首切って、メイス辺りをルクスのお土産にしてやるわ」

 グウェンが再び翼を展開し直していき、シルフ特有の弦楽器のような翼の音が響く。忍刀を順手に構えると、鎧に包まれていないリズの首筋をニタリと眺めた。すると翼を一度瞬かせて低空に浮かび、高速移動による一撃で決着をつけるつもりらしく。

「それじゃあ……さよなら、ね!」

 翼による高速移動。何の小細工をさせる暇もなく、首をかっ切るだけの単純な動作。弦楽器のような翼の音をはためかせるなか、グウェンは――その音を聞いた。

 魔法の詠唱の声。リズが今までまるで発動してこなかったため、自然とグウェンの思考から外れてしまっていた、この世界における基本戦術こと魔法。とはいえ、グウェンの指輪は相手の発動する魔法を無効化する、という特殊能力があり、どんな魔法だろうと発動以前に水泡に帰す――のが、グウェンにとって仇となった。

 そのまま攻撃するか指輪の特殊能力を使うか、戦いの中で一瞬だけ迷ってしまった為に。当然、この局面において最適解である、指輪の特殊能力で敵の魔法を消しながら攻撃、をグウェンは瞬時に選択してみせるが――その一瞬が、リズの魔法を完成させる隙となった。

『わ!』

 リズの唱えた魔法が、詠唱のごく短いものであったことも手伝った。その魔法は、自らの声を大きくする魔法――要するに、マイクを持ったような状態とする魔法だ。本来は特定の商売の時に使うその魔法は、今このタイミングでは。

「――――ッ!」

 グウェンの鼓膜を破壊しかねない音波兵器となり、猫だましを食らったかのように、グウェンはピタリと静止する。翼は展開されたので空中には浮かんだままで、反射的に耳に手をやってしまった為に攻撃はとても望めず、目の前にはソードスキルの光を伴っていくメイス。

「ヒッ――」

 喉から絞り出したような、かん高い悲鳴がグウェンの口から勝手に漏れる。迫り来るメイスの一撃に目をつぶり、歯を食いしばって来るべき衝撃に備えたが――グウェンは何も感じることはなく。

「あ、れ……?」

 恐る恐る目を開けてみたグウェンの視界に映ったものは、メイスを振りかぶったような体勢のリズ。そして――柄から先がなくなった、自らの愛刀の姿。要するにリズは、グウェンではなく、その得物たる忍刀のみを狙ったのだ。

「……何よそれ……バカにしてんの!?」

「……あんたと決着をつけんのは、あたしの役目じゃないわ」

 ムカつくことは確かだから、一発はぶん殴らせて貰ったけど――と、リズは言葉を続けて。グウェンとはもう戦う気はないとばかりに、適当に距離を取っていく。

「何を意味不明なことばっかり!」

 グウェンは翼をしまい込んで地上に着地すると、太ももに仕込んだクナイを取り出すと、無防備なリズへと高速で射出する。投剣ソードスキルを伴ったその一撃は、吸い込まれるようにリズの頭部に向かっていくものの――突如として、その間に入った片手剣に弾かれた。

「……グウェン」

「ルクス……何でアンタが……ここにいるのよ!」

 リズとグウェンの間に入ったのは、ピナを肩に乗せたルクス。息を切らしていたものの、もう麻痺は残っていないらしく、リズを守るようにその二刀を構えた。そして計画の上でありえないルクスの登場に動揺し、グウェンは子供の癇癪のように残ったクナイを投げていく――そんな破れかぶれの攻撃が、防御に秀でたルクスを突破する訳もなく、それらは全てルクスの二刀によって阻まれて。

「リズ……その、すまな……いや。ありがとう」

「こんぐらいお茶の子さいさい、よ。……ねぇ、あんた」

 謝罪ではなく感謝の言葉を吐いたルクスに、リズは『よろしい』と肩を叩きながら。クナイを投げきって肩で息するグウェンに、ピナを回収しながらルクス越しに話しかけた。

「ルクスと仲直りしたら……またウチの店に来なさい。壊しちゃった武器より、もっと上等な武器を用意してあげるんだから」

「…………」

 その言葉にグウェンが何を思ったかは分からないが、リズはピナを連れてその場から立ち去っていく。あんたと決着をつけるのは、あたしの役目じゃない――という言葉の通りに、二人の関係にリズがこれ以上立ち入る資格はない。

「じゃあルクス、頑張んなさい」

「……ありがとう」

 ルクスもそれは分かっている。グウェンとの決着をつけなければならないのは――あの浮遊城の頃と向き合う必要があるのは、他ならぬ自分だということを。もう一度だけリズに……いや、聞こえないだろうがみんなに礼を言うと。改めてグウェンに向き直った。

「グウェン……」

 メイン武器である忍刀は先程のリズとの戦いで破壊され、サブ武器であるクナイは全て消費されて。ばつの悪そうな表情でそっぽを向くグウェンに話しかけながら、ルクスは自らの二刀を鞘にしまった。

「……話を、しよう」

 鞘にしまった二刀はリズとシリカから貰ったもので、あの水着コンテストのことを思い出し、ルクスの表情は自然とほころんだ。そして何度目になるかわからないその質問は――ようやく、彼女に通じたらしく。



「大丈夫か?」

「そっちこそ……と言いたいところだけど、随分大丈夫そうねぇ」

 ルクスとグウェンを置いて森の中を歩いていったリズは、まるで待っていたかのようなショウキと遭遇した。HPはピナがヒールブレスで回復してくれたものの、血に濡れたような服までは直すことは出来ず。同じく戦いを繰り広げてきた筈のショウキは、対照的にほとんど無事で――いや、大丈夫じゃないところが一つだけ。

「凄い怖い顔してるわ。特に目」

「……直ってないか?」

 殺気立った表情で困ったように笑うショウキの問いに、首を全力で横に振っておく。……あの浮遊城では時折見ていた、殺気を伴った真剣な表情。本人も普段の表情に直そうとしているようだが、久々だからかどうにもこうにも上手くいかないらしく、髪をガリガリと掻く様子にリズはため息を一つ。

「そんなんじゃ店番も出来ないわよ。ほら、直してあげるからちゃっちゃと屈む!」

「直すってどうやっ――へ?」

 疑問を呈しつつも素直に膝を屈ませるショウキの両頬を、リズは思いっきり左右に引っ張った。表情と呼べる表情はなくなっていき、面白くなってきたリズはさらに上下にも動かしていく。

「……ふぉい」

「プッ……ふふ。ごめんごめん、でもいつもの仏頂面に直ったでしょ?」

 両手が塞がっていなければ、記録結晶を使っていたのに――と、もう一度思い出し笑いをした後にショウキの方を見ると、確かに普段の仏頂面に直って頬を撫でていた。そんな様子が面白くて笑みがぶり返し、リズに釣られてショウキも笑みを浮かべると――

 ――どちらからともなく、草原に倒れ伏した。

『疲れた……』

 一字一句同じようなことを呟きながら、隣り合わせで仰向け寝で空を眺める。浮遊城の中でどこまでも青空は広がっており、飛翔するための風が涼しげに顔を撫でていき、草むらがベッドのように反発する。目をつぶってしまえば、容易く意識が刈り取られてしまいそうだ。

「あー……寝る。これは寝る」

「向こう、助けにいかなくていいのか」

「どーせユウキが全員倒してくれんでしょ」

「あとリーファにクラインもな」

「……要するにそれ、シリカ以外全員じゃない」

「…………」

「…………」

 息いっぱい浮遊城の風を吸い込むと、ルクスの成功を祈りつつ、疲労感が吸い取られていく感覚に逆らわずに目を閉じた。
 
 

 
後書き
ユウキ「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀……無明、三段突き!」

三段突きと聞いたらつい
 
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