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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第71話

ウルスラ病院に到着したバスから降りたロイド達が病院の受付に向かっていると、聞き覚えのある女性の声が聞こえて来た。



~ウルスラ病院~



「あら………?」

「あ………」

声を聞いたロイドは声がした方向―――セシルを見つけて嬉しそうな表情をした後、セシルに近づいた。

「セシル姉………!」

「………お久しぶりです。」

「ふふっ………2人とも元気そうね。記念祭はお疲れ様。色々忙しかったんでしょう?」

ロイドとティオに見つめられたセシルは微笑みながら言った。

「はは………まあね。正直、とんでもなく密度の濃い5日間だったよ。」

「またその後の1週間が色々とあったんですが………」

「あら、その割には2人とも疲れてはいなさそうだけど………あら、その子は………」

ロイドとティオの話を聞いたセシルは意外そうな表情をした後、キーアに気付いて黙って考え込んだ。

「ねえねえ、ロイド。このおねえちゃんもロイドたちのシリアイ?」

「ああ、そうだよ。セシル姉っていって俺の姉さんみたいな人なんだけど―――」

一方セシルの様子に気付かなくセシルの事を尋ねて来たキーアにロイドが答えかけようとしたその時

「………そ、そんな………ま、まさかロイドが私に内緒で………するなんて………」

セシルはショックを受けた様子で呟き

(………また、始まったわね………)

その様子を見ていたルファディエルは溜息を吐いた。

「へ………」

そしてセシルの呟きを聞いたロイドが呆けた声を出してセシルを見つめたその時

「まさかロイドが私に内緒で結婚しちゃったなんて………!」

セシルは大声でとんでもない事を言った!

「はああっ!?」

一方セシルの叫びを聞いたロイドは大声で驚いた!

「ううん、隠さなくてもいいわ!ねえあなた。お名前は何ていうの!?」

「キーアだよー。」

「キーアちゃん………ふふっ、可愛い名前ね。ロイドには似てないけどお母さん似なのかしら………でも、ティオちゃんに似ているわけでもないし………」

「あの、セシルさん………?」

「だあああっ!落ち着いてくれよ!俺がキーアの父親って………いくらなんでも年齢に無理がありすぎるだろう!?」

キーアと話した後考え込みながら呟いたセシルの言葉を聞いたティオはジト目でセシルを見つめ、ロイドは苦笑しながら突っ込んだ。

「あら………よく考えたらそれもそうかもしれないわね。」

ロイドに突っ込まれたセシルは声をあげた後、微笑みながら言った。

「いや、考えるまでもないと思うんだけど………」

「セシルさん……ここまで天然だったとは。」

「ほえ~?」

セシルの様子を見たロイドは苦笑し、ティオは溜息を吐き、キーアは首を傾げていた。その後ロイド達は一端落ち着いた場所で話をする為にセシルに連れられて寮の食堂にあるソファーで向かい合わせに座った。



「ふふっ、私ったらちょっとあわてんぼうね。18歳のロイドが、9歳くらいのキーアちゃんのパパであるはずないのにね。」

「はあ………当たり前だろ。そもそも、なんで親子なんて突拍子もない考えになるのさ?」

苦笑しながら言ったセシルの言葉に頷いたロイドは指摘した。

「だって、何だかすごく家族って感じがしたから………直感的に、キーアちゃんのパパがロイドって思いこんじゃったのよね。」

「へっ………」

「キーアのパパってロイドだったのー!?キーア、知らなかったー!」

そしてセシルの話を聞いたロイドが呆けたその時、キーアはセシルの言葉を信じて嬉しそうな表情でロイドを見つめ

「いやいや、違うから!」

見つめられたロイドは慌てながら即座に否定した。

「ふふっ………ねえ、ティオちゃん。そうやって2人が並んでるとそんな風に見えないかしら?」

「………言われてみれば確かに。顔の造形は似ていませんが親子という感じがします。」

「そ、そうなのか………?」

「えへへ~………ロイドがパパかぁ。……ロイドじゃなくってパパって呼んだ方がいい?」

「うっ………今まで通りでいいから!」

(フフ、今一瞬『いいな』と思ったわね?)

(お?新たなジャンルに手を出すのか、ロイド!)

キーアに尋ねられ、一瞬迷ったロイドを見ていたルファディエルは微笑み、ギレゼルは興味深そうな表情になった。

「んー、そっか。でもでも、セシルっていいヒトだね!キーア、セシル大好き!」

「ふふっ………私もキーアちゃんが大好きよ。気が合うわね、私達。」

「うん!」

(くす、あっという間に仲良くなりましたね。)

(ハア、それはいいけどなんかどっと疲れたよ………)

キーアと微笑みあっているセシルを見たティオは静かな笑みを浮かべ、ロイドは疲れた表情で溜息を吐いた。

「………それで………キーアちゃんの記憶だったわね。」

「あ、ああ………大体の事情は話した通りさ。この病院にある『神経科』にキーアを見て欲しいんだけど………どの先生に頼めばいいんだ?」

「ふふ、あなた達も面識があったんじゃないかしら?ヨアヒム・ギュンター先生よ。」

「ええっ………あの人が『神経科』の!?」

「そうだったんですか………」

セシルの口から出た意外な人物の名前を聞いたロイドとティオは驚いた。

「ふふっ、普段は釣り好きで呑気そうな人に見えるけど………ああ見えて、外国の医療機関で凄い研究成果を上げた人らしいの。この病院では『薬学』『神経科』の2部門を取り仕切っているわ。」

「そ、そうなんだ………それじゃあ、キーアの事はあの先生に相談すれば………?」

「ええ、きっと力になってくださるはずよ。さっそく受付に行って問い合わせてもらいましょう。」

その後セシルと共に受付に向かったロイド達は事情を受付嬢に説明し、キーアを診て貰えるか受付嬢に尋ね、受付嬢は通信機で件の医師と通信をした。



「………はい、はい。わかりました。それでは研究室へお通しします。ヨアヒム先生なら丁度時間が空いているそうです。研究棟にある研究室まで直接お越しくださいとのことでした。」

通信を終えた受付嬢は受付に戻ってロイド達に説明し

「そうですか………良かった。」

説明を聞いたロイドは安堵の溜息を吐いた。

「ふふ、それじゃあ私はこのあたりで失礼するわね。」

「うん、ありがとう。帰る時にまた声をかけるよ。」

「ふふ、わかったわ。キーアちゃん、また後でね。」

「うんっ!」

ロイドの言葉に頷いた後キーアに微笑んだセシルは階段を昇って去って行った。

「相変わらず忙しそうですね………」

セシルが去った後ティオは呟いた。

「ふふ、この病院でセシルさんほどの働き者はちょっといませんから………サボりがちな先生方にも見習って欲しいくらいです。」

「はは………(あんまり無理をして欲しくはないんだけど…………)」

受付嬢が呟いた言葉を聞いたロイドは苦笑した。

「そういえば………ヨアヒム先生の研究室はご存知でしたか?研究棟の4階ですけど、よかったら案内しましょうか?」

「いや、多分大丈夫だと思います。よし、それじゃあその先生に会いに行こうか?」

「うん、行こうー!」

その後ロイド達はヨアヒムという医師を訪ねる為に研究棟の4階のヨアヒムがいる部屋に向かった。

~ウルスラ病院・研究棟~



「―――失礼します。」

研究棟の4階にある目的の医師の部屋を見つけたロイドはノックをした後、椅子に座って休憩している眼鏡の医師―――ヨアヒムに近づいた。

「やあ、ロイド君。それにティオ君だったかな。記念祭中はどうも。おかげで中々楽しかったよ。」

「………先生も相変わらずですね。」

「その、すみません。アポイント無しに押しかけてしまって………」

「いやいや、ちょうど仕事が一区切り付いた所だったからね。それで、記憶喪失の子を預かったそうだけど………その子が?」

ロイドに謝られたヨアヒムは苦笑した後、真剣な表情でキーアを見つめて尋ねた。

「はい………キーアといいます。」

「ねえねえ、ロイド。このメガネのおじさんがキオクを戻してくれるのー?」

「オ、オジサン!?……はは、これでも若作りなつもりだったが………やっぱりオジサンだよなぁ。」

キーアの言葉を聞いたヨアヒムはショックを受けた後溜息を吐いた。

「い、いや、先生はお若いですよ。」

(キーア………こういう時はお世辞でもお兄さんと呼んだ方がいいです。)

(そうなのー?)

そしてヨアヒムの様子を見たロイドはフォローし、ティオはキーアに小声でささやき

「いや、そういうフォローは余計に切なくなるんだけど………まあいい、とりあえず、こちらの方に座ってくれたまえ。詳しい事情と経緯を聞かせてもらおうじゃないか。」

ティオの言葉が聞こえたヨアヒムは溜息を吐いた後、気を取り直して近くにある椅子に座るように促した。その後ロイド達はヨアヒムに事情を説明した。



「………なるほど。大体の状況は理解したよ。ふむ、七耀教会の法術でも取り戻せない記憶か………となると、そのシスターの指摘通り神経系の問題である可能性は高いな。」

「………そうですか。何とか回復する手段はあるものなんでしょうか?」

「正直、脳神経や脳細胞の研究はまだまだ始まったばかりでね。記憶喪失になる原因はそれこそ無数にあり得るから対処療法が存在しないんだよ。ただまあ………」

ロイドに説明したヨアヒムは医療用ルーペを取り出した。

「―――キーア君。僕の目を見てくれるかい?」

「いいよー………じー………」

そしてヨアヒムは医療用ルーペをキーアの目に向けてじっと見つめた。

「ふむ………瞳孔に異常ナシ。ここ数日、頭痛がしたり、吐き気がしたりしたことは?」

「ズツウ?ハキケ?」

「頭が痛かったり、気持ち悪かったりってことさ。」

ヨアヒムの質問に首を傾げているキーアにロイドは説明した。

「ううん、キーアは元気だよ?」

「ふむ………脳にダメージがあるような感じでもなさそうだ。となると……………」

キーアの診断を止めたヨアヒムは頷いた後、目を閉じて考え込んだ。

「………何か見当でも?」

そしてヨアヒムの様子を見たティオは尋ねた。

「………これは僕のカンなんだが。何らかの薬物が影響している可能性は高いかもしれない。」

「薬物………!?」

「薬で記憶喪失が起きる可能性が………!?」

「ああ、そういう症例も数少ないが過去に存在する。薬の成分が、神経系の伝達を副次的に阻害してしまうんだが………ただ多くの場合、心理喪失を伴うことが殆んどみたいでねぇ。キーア君にはそのまま当てにはまらないかもしれない。」

「確かに………心理喪失には程遠いですね。」

「………はい……………」

「んー?」

ヨアヒムの話を聞いて考え込んでいるロイドとティオを見たキーアは首を傾げていた。

「ただまあ、薬学の分野もまだまだ発展途中と言える。未知の効果を及ぼす薬物が開発された可能性は否定できない。その意味では、神経系の異常と薬物の副作用の両方の可能性から探ってみるべきかもしれないね。」

「なるほど………あの、こちらで検査を依頼することは可能ですか?」

「ああ、もちろん可能だよ?ただし、時間がかかる上に記憶が取り戻せる保証もない。それで良ければになるけどね。」

「そ、そうですか………」

「………検査をするとなると具体的にはどの程度の期間が?」

ヨアヒムの説明を聞いたロイドは溜息を吐き、ティオは尋ねた。

「―――最低でも3日間。できれば1週間ほどは検査入院して欲しい所だね。」

「最低でも3日ですか………」

「薬物に関する検査はそれなりに時間がかかるんだ。体内から排出された成分を化学的方法で調べたりするからね。入院と検査費用に関しては………珍しい症例みたいだからある程度お安くはしておこう。………どうする?」

「………なあ、キーア。3日くらいの間………この病院に泊まらないか?」

ヨアヒムの説明を聞いたロイドは考え込んだ後、キーアを見つめて尋ねた。

「ん~?べつにいいけどー。」

「ほっ………」

「……一安心ですね。」

そしてキーアの答えを聞いたロイドとティオは安堵の溜息を吐いたが

「ふむ、それなら早速、検査入院の手続きをしようか。着替えや私物などがあるなら改めて持ってきてもらった方がいいかもしれないね。」

「ええ、それは後ほど改めて用意して持ってきます。」

「ねえねえ、ロイド。ここに泊まるのはいいけど、またいっしょに寝てもいい?」

「えっと………それは……」

キーアに尋ねられ、答えにくそうな表情をした。

「んー、ダメだったらガマンするけどー…………」

「い、いや………そうじゃないんだ。この病院に泊まるのはキーアだけなんだよ。」

「そーなの?それじゃあロイドたちはどこに泊まるのー?」

「俺達はいつも通り、支援課のオンボロビルだよ。でも、毎日ちゃんとキーアの顔は見に来るから―――」

キーアの質問に答えた後、説明を補足しようとしたが

「ヤダ。」

「………え。」

キーアは説明の途中で否定して説明を中断させ、そして椅子から立ち上がった。

「………ロイドたち、キーアのことをヨソのコにしちゃうつもりなんだ。キーア、いらないコなんだ!」

「そ、そんな訳ないだろ!?」

「少しの間だけここで泊まるだけです。その後は、今まで通りみんなで一緒に暮らせます。」

自分達を睨むキーアにロイドは真剣な表情で答え、ティオは説明したが

「そんなの知らないモン!ぎるども、びょーいんもキーア泊まりたくないモン!」

キーアはロイド達を睨んで言った後、走ってロイド達から離れ

「キ、キーア?」

「ロイドのばか!!」

自分の行動に戸惑っているロイドを睨んで大声で叫んだ後、走って部屋を出て行った。

「ちょっ、キーア!?」

「はぁ………怒らせてしまいました。」

「ああもう………すみません先生。せっかくの話でしたけど………」

キーアが部屋を出て行った後ティオは溜息を吐き、ロイドはヨアヒムに謝罪した。

「ハハ、あの調子だと無理強いはかえって逆効果だね。まあ、結果が出るかどうかもわからない検査入院だ。キーア君が落ち着いてから改めて検討してみたらどうだい?」

「はい………」

ヨアヒムに尋ねられたロイドは頷いた。

(!?何者だ、あの男………!あのアーネストという人間と同じ………いや、それ以上の”魔”を感じる上………あのキーアという少女を見ている間、とてつもない邪悪な気配を感じたぞ………)

(………………そういえば、錯乱したアーネストの精神を落ち着かせるために七耀教会かウルスラ病院を頼るという話が警察に出ていたわね…………………まさか、アーネストとも関わりがあるのかしら………?)

一方ロイド達の会話を見守っていたラグタスは目を見開いた後、ヨアヒムを睨み、ルファディエルは目を細めてヨハヒムを睨み続け、考え込んでいた。

「まあ、記憶が戻るのを気長に待つのもいいだろう。何かあったら相談に乗るからいつでも連絡してくれたまえ。こちらも記憶障害について幾つか症例を調べておくよ。」

「………ありがとうございます。」

「………その時はよろしくお願いします。」

「………後はそうだな………難しいかもしれないがアーライナ教会の最高指導者―――”闇の聖女”様に頼るのも手かもしれないな。」

「え………」

「ペテレーネさんにですか?」

ヨアヒムの提案を聞いたロイドは呆け、ティオは意外そうな表情で尋ねた。

「ああ。何でも話によればアーライナ教会はさまざまな薬品を扱っているという話でね。もしかしたらキーア君の記憶喪失に関わる薬物に関して、何か知っているかもしれないよ?”闇の聖女”様なら普通の信徒では扱えないような薬品も扱っていてもおかしくないだろうし。」

「そうですか……………ただ、知り合いでもない俺達が宗教の最高指導者であり、皇族でもある彼女にアポイントを取れるかどうかもわからないし………第一会いに行く為にはまず、リベールに行かないとな………ティオ。”闇の聖女”と連絡を取る事は可能か?ティオは”闇の聖女”―――ペテレーネさんと知り合いなんだろう?」

ヨハヒムの説明を聞いたロイドは頷いた後考え込み、ティオに視線を向けて尋ね

「………私は直接的な方法でペテレーネさんと連絡をした事はないのですが、ペテレーネさんと頻繁に会える知り合いの方を知っていますから、その方に事情を話して、アポイントを取ってもらう事は可能かもしれませんが………あんまり期待はしないで下さいね?ペテレーネさんはお忙しい方ですから。」

尋ねられたティオは考え込んだ後答えた。

「それでも何もしないよりはマシさ。時間がある時でいいから頼むよ。」

「わかりました。」

その後研究棟を出たロイド達はキーアを捜し始めた……………






 
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