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とんでもない役立たず

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第一章

                 とんでもない役立たず
 台湾の花蓮に住んでいる李紅玉は主婦である、夫の曹登龍と結婚して三年になるが子供はまだいない。夫の仕事は揚げものの屋台だ。売上はいい。
 登龍は優しく穏やかであり誰にも怒ったり暴力を振るったりはしない。それは妻の紅玉に対しても同じだ。黒髪をいつも清潔にしていて人柄が出ている穏やかな顔立ちで中肉中背だ。清潔な身なりも高印象だ。
 だがその夫にだ、妻はいつも言っていた。
「あなたは家の仕事だけしていてね」
「お料理もかい?」
「そうよ」
 その切れ長の目で言うのだった。黒い切れ長の目は睫毛が長く奥二重になっている、長いさらりとした黒髪を後ろで束ねている。唇は紅く小さい。鼻は高く背は一五四位だ。すらりとした身体はいつもシャツとジーンズという軽装だ。
 その紅玉はだ、夫にはっきりと言った。
「揚げものもいいから」
「僕は揚げものの屋台だし」
「それによね」
「他の料理も作ってるから」
「いいのよ」
 作るなと言うのだった。
「別にね」
「家事はかい?」
「お掃除も洗濯もね」
 とにかく家事の全てはというのだ。
「私に任せてね」
「いいのかい?」
「いいの」
 真剣な顔で言うのだった。
「絶対にね」
「僕は家事をしないで」
「お店に専念していてね」
「それはね」
 そう言われるとだ、登龍は困った顔になって紅玉に言うのだった。
「よくないね」
「男も家事をっていうのね」
「そうしないと駄目なんじゃ」
「よく言われる意見ね」
「最近は台湾でもね」
「亭主関白はね」
 それこそとだ、紅玉も言う。
「これは日本の言葉だけれど」
「男だからって威張っているだけで何もしないことは」
「よくないっていうわね」
「男女同権だってね」
「それでね」
 この考え故にというのだ。
「僕もって思ってるけれど」
「正論だと思うわ」
 はっきりとだ、紅玉は登龍に答えた。その返事は何の澱みもない。
「それはね」
「それじゃあ」
「世の中正論だけじゃ駄目なのよ」
 この摂理を言うのだった。
「厄介なことにね」
「正論だけじゃ駄目って」
「そう、人次第よ」
「人次第?」
「そう、だからね」
「僕は家事をするな」
「一切しなくていいから」
 それこそという言葉だった、ここでも。 
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