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ダンデライオン

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第三章

「夢を掴むさ」
「アメリカンドリームな」
「それをな」
「そうする為にもな」
 こう自分でも言う、だが。
 スティーブの身体は徐々に倦怠感を強めていっていた、その中で彼は仲間達に彼にしては珍しく深刻な顔で言った。
「やっぱりどうもな」
「壊血病か」
「その病気になってるんだな」
「どうにも」
「ああ、そうみたいだな」
 こう言うのだった。
「最近口の中の調子もおかしくなってきた気がする」
「それはまずいな」
「洒落になってないな」
「今のうちに何とかならないか」
「歯茎が腫れたらまずいぞ」
「どうにかしないとな」
 自分の身体だけにとだ、彼も言う。
「本当にな」
「ああ、どうすればいい?」
「壊血病で死ぬ奴ここじゃ結構多いがな」
「何かいい手はないか」
「薬とかな」
「薬か」
 そう聞いてだ、スティーブは。
 ふと思い出してだ、こんなことを言った。
「そういえばカンサスにいた時だけれどな」
「御前の故郷だよな」
「そこでずっと畑仕事していたって言ってたな」」
「そこで何かあったのか?」
「いや、そこで一回行商人のおっさんが蒲公英を見てな」
 この花をというのだ。
「薬になるとか言ってたな」
「へえ、蒲公英がか」
「あの花薬になるのか」
「そうなんだな」
「だからな」
 それでというのだ。
「ここは一度食ってみるか」
「ひょっとしたら壊血病に効くかも知れないか」
「だからか」
「蒲公英食ってみるか」
「そうするんだな」
「花も茎も葉もな」
 その全部をというのだ。
「そうしようか」
「まあそれで壊血病が治ったら有り難いしな」
「死ぬよりずっといいのは確かだな」
「じゃあここは蒲公英食ってみるか」
「そうするか」
「ああ、そうしようか」
 また言ったスティーブだった。
「この状況から逃げる為にも」
「ああ、そうしろ」
「死なない為にもな」
「それで治ったら儲けものだ」
「食ってみろ、蒲公英」
「それにずっと肉と硬いパンばかりだ」
 食生活のこともだ、スティーブは言った。
「緑のものを食うのもいいな」
「そうだな、ここじゃ野菜も果物もない」
「そうしたものも食わないと口飽きするからな」
「実際になってきているし」
「それならな」
「蒲公英も食え」
「口直しの意味にもな」
 仲間達も彼に口々に言う、この意味でも。こうしてスティーブは街の中の家や道の端のところに生えている蒲公英をだ。
 見付ければ生のまま食べたり茹でて火を通したりしてだ。食べてみた。味は彼の好みとは違っていたが薬や肉の合間の添えものとしてだ。
 食べてみた、多く採ったので塩漬けにもした。
 そうして食べているとだ、次第にだ。
 身体の疲れが取れて口の中の調子も戻った、そしてすっかり元気になってだ。 
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