| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

たった一つの笑顔

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五章

「今はね」
「そうだったの」
「そう、色々と思ったのね」
「わかるんだ」
「だって、私達みたいな年頃で何かあったら」
 沙織は優しいくすりとした微笑みで真礼に話した。
「もうね」
「こうした話になるから」
「だからね」
 それでというのだ。
「わかったのよ」
「そうだったの」
「そう、それでその猫ちゃんだけれど」
「今一緒に住んでる」
「その子と会ってみる?」
「今日沙織の家に行って」
「今日は忙しいのは午前中だけで」
 休憩もなかった位にだ。
「けれど午後はそうでもないから」
「早く帰られそうだから」
「だからね」
 それでというのだ。
「一緒にどう?」
「沙織がそう言うのなら」
 真礼は沙織のその言葉に頷いた、そしてだった。
 この日は実際に沙織の家にお邪魔することにした、そして。
 仕事が終わってだ、それからだった。
 二人で沙織の家に向かった、途中スーパーで買いものをしたが。
「今日の晩御飯の食材に」
「そう、キャットフードにね」
「おやつまで買ったわね」
「やっぱりね」
 それこそとだ、沙織は真礼に話した、その家に向かう帰り道で。
「忘れられないわ」
「絶対になのね」
「だってあの子が食べるから」
「その猫ちゃんがなのね」
「だからね」
「そうなのね、ただね」
 ここでだ、真礼は沙織に尋ねた。
「その猫ちゃんの名前は」
「あっ、名前ね」
「何ていうの?」
「ミミっていうの」
「ミミちゃん?」
「そう、耳が大きいから」
 だからだというのだ。
「この名前にしたの」
「そうなのね」
「ちなみに女の子よ、病院に連れて行ったらまだ三ヶ月って言われたわ」
「拾ってすぐの時よね」
「あれから半年、最初からおトイレも爪研ぎも出来ていてね」
「あら、賢いのね」
「御飯もキャットフードで普通に満足してくれてるから」
「やりやすいの?」
 真礼はこう問うた、だが。
 沙織はその真礼にだ、苦笑いを浮かべてこう言った。
「それが凄く乱暴な子で」
「そうなの」
「いつも噛んだり引っ掻いたりしてくるの」
「猫ってそうよね」
「ええ、その猫ちゃんの中でもね」
「とりわけなのね」
「乱暴でがさつな子なのよ」
 こうだ、沙織は真礼に笑顔で話すのだった。
「折角拾ったのにね」
「凶暴なのね」
「しかも恩はね」
「猫ちゃんって恩はね」
「三年飼ってもね」
 これはよくある言葉だ、それで沙織も言うのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧