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スライマーン

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第一章

               スライマーン
 ソロモン王はイスラム世界、コーランではスライマーンという。これはそのスライマーンの物語である。
 スライマーンは多くのジンを使役する魔術を持ちかつ多くの知識も備えた非常に聡明な王であった。その統治は善政ものもであり栄華を極めていた。 
 ジン達に金や銀、それに宝石達を世界各地から持ってこさせて宮殿を飾った。それはまさに栄耀栄華そのもだった。
 古今の霊薬も集めそれで己の健康も保っていた、そのスライマーンにだ。
 民達はこぞってだ、こう言ったのだった。
「そこまで霊薬を飲まれていますと」
「王は不老不死になられていますな」
「これからも永遠にこの国におられ」
「我等の国を治められ」
「ジンを自由自在に動かされるのですね」
「いや、そうはならない」
 スライマーンは彼等に穏やかな声で答えた。
「決してな」
「不老不死にはですか」
「ならないのですか」
「王の叡智を以てしても」
「それだけ霊薬を飲まれていても」
「人はこの世では不老不死にはならない」
 決してという口調での言葉だった。
「何があろうとな、不滅の存在は何か」
「アッラーです」
 このことは誰もが答えた。
「この世で絶対にして不滅なのはアッラーだけです」
「アッラーこそが至上の存在では」
「そうだな、不老不死の存在はだ」
 まさにそれはというと。
「絶対の方であるアッラーだけなのだ」
「では王ですらすらですか」
「人であり、ですか」
「不滅ではない」
「不老不死ではないのですね」
「そうなのだ」
 全てを知っている言葉だった、それだけに落ち着いていた。
「だから私も何時かはだ」
「死なれますか」
「そうなるのですか」
「王の様な聡明な方でも」
「強いお力を持たれている方でも」
「人の力なぞはだ」
 所詮はと言うのだった、その様々な宝玉で飾った玉座に座りながら。
「アッラーの前では小さいな」
「はい、確かに」
「人はアッラーの前では実に卑小です」
「所詮人は人です」
「小さなものです」
「だから私もだ、人であるからだ」
 それ故にというのだ。
「小さなもの、幾ら知識があり力があろうとも」
「不老不死ではなく」
「小さい方ですか」
「そうなのですか」
「そうだ、だから私もだ」
 それはというのだ。
「小さい、今の栄華もだ」
 善政とジン達がもたらしているそれもというのだ。
「永遠のものではない、私が死ねばな」
「それで、ですか」
「栄華は終わる」
「そうなりますか」
「後のことは頼む、ただ」
 ここでだ、スライマーンは。
 自分が使役して働かせているジンが宮殿をせっせと飾っているのを見ながらだ、民達に楽しげに笑って言った。 
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