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エターナルトラベラー

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番外 リオINフロニャルド編 その5

次の日の朝、朝食にと食堂に行くと、銀髪の女性がアオお兄ちゃんたちと一緒に食事を取っていた。

「リインフォースさん、もう良いんですか?」

「あ、ああ。いつまでも主も休んではいられないようだったからな。ミッドチルダに帰られた」

「…そうなんですね」

「何、今はこうして存在が許されているのだ。また会えるのだから、寂しいが、辛いという事は無いさ」

「そうですか」

さて、そんな感じで朝食を取り終わると午前の訓練だ。

今日のコーチはソラお姉ちゃんだ。

調教された賢いセルクルの背中に乗せてもらい、走る事一時間。

周りには特に何も無い閑散とした大地が広がる場所で下ろされた。

「今日からは応用技の『周』の練習。修行はこれを使って白線内を3メートル掘り下げてもらうわ」

そう言って『勇者の道具袋』から取り出したのは土木作業用のショベルと一輪車。

地表に白線が引かれ、半径が10メートルほどのサークルが幾つもあった。

「しつもーんっ!『周』ってなんですか」

ビっと手を上げて勢い良く質問したヴィヴィオ。

コロナとアインハルトさんもソラお姉ちゃんからの回答を待っている。

ソラお姉ちゃんは近くのショベルを掴むと纏をして、そのオーラでショベルを包み込む。

「纏っているオーラを自分以外に纏わせる技術。当然オーラで覆われた物は強化されるから、簡単に掘り進める事が出来る」

そう言うとショベルをヴィヴィオ達に渡してやってみてと促す。

あたしに渡されたのはショベルではなく、木の棒の先に赤いプラスチックで出来た刃先がついている。

ぶっちゃけ雪かきだ。

「リオはそれね、ヴィヴィオ達だけだと予定までに終わらないかもしれないし、それで頑張って掘ってちょうだい」

えー?

あたしはもはや慣れたものだけど、ヴィヴィオ達にはやはり難しいらしい。

やっとの事で周でショベルを包み込むと早速地面に突き立てた。

「わ、何これ、凄く簡単に地面が掘れるよっ!」

「本当だ」

「本当です」

コロナが感動の声をあげ、ヴィヴィオ、コロナも頷いた。

「リオは練と流を使って掘り進めなさい。けっこう疲れると思うから無理はしない事」

「は、はいっ!」

白線で仕切られた所をあたし達はショベルで掘り進む。

「あ、もしかして、少し前に有った怪奇現象、裏山の坑道ってリオが掘ったの?」

と、ヴィヴィオがあたしに問いかける。

「うっ…」

「聞いた事があります。なんでも学校の裏山に何かでえぐられた様な穴が無数に開いていると」

アインハルトさんも自分の記憶から思い出したように語った。

「ああ、わたしも知ってる。一年の頃噂になったもの…いつの間にか裏山が切り崩されて山が二つになってたんだよね。え?あれってリオの仕業なの?」

好奇の目があたしに集まる。

流石に山を切り崩すまではいかないよー。

せいぜいモグラが地面に穴を掘ったような感じだよ。…人の大きさでだけれど。

「いやー、あの時はあたしも若かった。周の練習をしようとして思いついた適当な場所が裏山だったんだよね。」

ざくざくと掘り進み、二週間が経ち、さて今日もと思ったら管理局の人が来ていたのだもの。

すぐに逃げたけど、犯人不明でその後学校の怪談に加えられたあたしの黒歴史だ。

順調に掘り進むあたし。

「ちょ、リオ、速いよぉ!」

そんなコロナの抗議の声が聞こえる。

あたし達はあたしとヴィヴィオ達で左右に二手に分かれ、掘り進めている。

あたしは1人、向こうは3人居るのにも関わらず、あたしの半分も来ていない。

「それに、簡単に掘れるのですが、なんだか凄く疲れます…」

アインハルトさんが動きを鈍らせながら言った。

「応用技はオーラの消費が大きいから、慣れないと直ぐにオーラが切れてしまうよ」

と、言ってる側からヴィヴィオとコロナは座り込んでしまった。

「も、もうだめ…」

「むりー…」

「くっ…」

アインハルトさん何とか掘り進めようとするが、力尽きて座り込む。

そう言うあたしも結構しんどい。

練でオーラを増幅し、それを周と流で雪かきに注ぎ掘る力を強化する。

掘るたびにオーラが消費されていき、練だけならばまだまだ行けるはずなのに、堅の持続時間の半分以下であたしも力尽きてしまった。

「ほらほらどうした、情けない」

掘り進んだために崖のようになった斜面の上からソラお姉ちゃんが叱咤する。

「そう言われてもー…」

「体が動きません…」

と、口々に力の無い声が漏れた。

それでも小休憩の後、何とか立ち上がり、掘り進めたが、全然先行きが見えないうちに今日の修行は終了したのでした。

とは言え、二日目にはなんとか一日中作業する事にもなれ、三日目には影分身を一体出して修行できるくらいの余裕が出始め、一週間経った頃には予定していた白線内全てを掘り下げる事に成功した。

「お…終わった…」

あたしは何とかそう呟くだけの力を残していたが、残りの三人は精も根も尽きたと言う感じでうずくまっている。

「そっ…そう言えば、わたし達はなんの為にこんな所を掘らされたのでしょうか…」

息も絶え絶えになりながらも何とか復活して今日のコーチであったフェイトお姉ちゃんに問いかけた。

「ここは次の戦のアスレチックバトルフィールドに改造するんだよ。その為に掘り下げる形で少し整地して欲しかったんだ」

どうやらここにこの後水を引いて、落下系のアトラクションになるようだ。

「あとは専門の人達がやってくれるから、皆本当に頑張ったね。周も随分出来るようになったと思うよ。明日からは次のステップかな?」

フェイトお姉ちゃんのその言葉でヴィヴィオ達の周の修行はとりあえずの合格点をいただいた。

次の日からは場所を『神々の箱庭』に移しての修行だった。

「さて、今日はまず、少し講義からはじめるね。
念戦闘における勝敗を分けるのはオーラを操る習熟度があるわけだけど、それを時としてひっくり返す物があるの。なんだか分かる?」

今日のコーチは昨日に引き続いてフェイトお姉ちゃんです。

「『発』…つまり、必殺技ですか?」

「正解」

と、アインハルトさんの答えによく出来ましたとフェイトお姉ちゃん。

「忍術も一種の『発』なんだけど、この場合の『発』とは完全に一人一種の能力の事なの」

ヴィヴィオ達は訳が分からないと疑問顔だ。

「忍術は先人が作曲して譜面通りに歌う演奏なのに対して、念能力の『発』は自分で作曲して歌う鼻歌みたいな物かな。決まった形がある訳じゃ無いし、自分に合っているものならば他の人が予想もつかない能力だって行使できるんだ」

「フェイトさんの念能力ってどんなの何ですか?」

と、ヴィヴィオが問いかけた。

「うーん…あんまり自分の念能力を他人に言ったりはしないんだけど…ヴィヴィオ達ならば別にいいかな」

そう言ってフェイトお姉ちゃんは『発』を行使した。

突き出した右手に青い玉、左手に赤い玉が浮かんでいる。

「それは…?」

「私は変化系だから、オーラを何かに変化させる事が得意な系統なのは知っているね?」

コクリと全員頷いた。

それを確認するとフェイトお姉ちゃんは右手の青い玉をあたしに向かって投げつけた。

「え?」

投げつけられたその青い玉はベチャと音が聞こえるような感じであたしにペイントボールのような感じで付着した。

「は…離れない…」

はがそうとしても容易にははがれそうに無かった。

「私の能力は万有引力(マグネットフォース)。オーラを磁石のような引き合う性質の物に変える力だよ」

そう言ったフェイトおねえちゃんは今度は左手の赤い玉をあたしに向かって突き出した。

「え?きゃあ!?」

いきなり何かに引っ張られるかのように引きずられるあたし。

「あ、なに?」

「リオ?」

突然引かれる様に滑り出したあたしに皆驚いているようだ。

一瞬後、あたしはフェイトお姉ちゃんの突き出した左手にある赤い玉に吸い付いていた。

踏ん張って離脱を試みるも離れる気配が無い。

「違う色同士は引き合い、同じ色同士は…」

今度は右手の赤い玉が一瞬で青い玉に変わる。

「ちょっ!まっ…きゃああああっ!」

「リオーーーっ!?」

今度は弾き飛ばされてしまった。

ズザザザザーーーッ

20メートルほど離れてようやく弾かれる感覚がなくなったために制動を駆ける事に成功した。

「同じ色同士は反発しあう」

こんな感じにね、とフェイトお姉ちゃん。

「正に、磁石ですね」

アインハルトさんが感心した。

「アオさん達も個別能力を持っているって事ですか?」

「うん。だけど、私からは教えられないかな。他人が教えていい物じゃないから。気になったら直接聞いて。運がよければ答えてくれると思うから」

「はい」

「あれ?でも、直接ダメージがある攻撃ではないのですね」

と、コロナ。

「そうですね。ですが、応用次第ではとても恐ろしい能力です…」

そうアインハルトさんが分析した。

「そう言えば身内で直接的な攻撃能力はユカリ母さんだけかも。他は皆直接的な攻撃能力とは別の能力だね」

「そうなんですか?」

「まぁ、これ以上は秘密だけれどね」

ふむ。今度アオお兄ちゃん達に直接聞いてみようかな。

「そう言えばリオは自分だけの念能力って持ってるの?」

と、ヴィヴィオが聞いてきた。

「あたし?」

「うん」

「あたしはまだ作ってないよ」

「どうして?」

「念の応用技や忍術の練習で手一杯だったからね」

「そうなんだ」

「まぁ、すぐにどうだと言うわけじゃないから、頭の片隅にで考えておいて。自分はどう言った能力にしたいか。また、こんなのが合っていそうだとか、ね。イメージが湧けばきっとすぐに自分に合った能力が発現するはずだよ」

と、フェイトお姉ちゃんが纏めた後にヴィヴィオ達は今日からは『流』の練習だ。

フェイトお姉ちゃんも混ざって二人一組になり、オーラの攻防力を移動させながらゆっくりと組み手をしているのが視界の端に見える。

あたしは『堅』の修行をした後に、フェイトお姉ちゃんの影分身を一体つけてもらって忍術の修行を見てもらっている。

夜。

「あー…っ!この温泉も久しぶりだぁ…ふぅ…きもちいー」

いつかの美肌温泉に浸かりまったりとする。

「うんうん、何度入ってもこの温泉は本当にいいよね。擦り傷や肌荒れなんか直ぐに治っちゃうしね」

「だよねー」

コロナの声にあたしも同意した。

「そう言えば、今日の訓練見てて思ったんだけど、リオって火を噴いたり雷を纏ったりしてるけど、他の属性の忍術って使わないよね。どうして?」

と、温泉に浸かりながらヴィヴィオが聞いてきた。

「いや、あのね、使わないんじゃなくて、使えないんだ」

「え、どう言う事?」

聞き返すヴィヴィオだが、あたしに聞いたと言うよりはフェイトお姉ちゃんに聞いたと言う感じだ。

「うーん、忍術にもいろいろな技や系統があるから一概には言えないけど、リオが良く使う火遁や雷遁はどちらかと言えば性質変化系の忍術が多い」

「性質変化?」

コロナが聞き返した。

「オーラを炎や雷、風や水、土などに変化させる事だよ」

と言うとフェイトお姉ちゃんは一拍置いてから続ける。

「この性質変化には自分の属性と言うべき物が有って、ものすごく時間を掛けて修行すれば他の属性も使えない事も無いのだけれど、基本的に自分の属性以外の性質変化は難しい。一生かかっても出来ないかもしれないと言うレベルなの。だから、リオは他の系統を使わないんじゃなくて使えないんだよ」

そうフェイトお姉ちゃんは説明した。

「えっと、得意属性って複数持っている事もあるってことですよね?リオが炎と雷、両方使ってますから」

ヴィヴィオが質問する。

「そうだね。二属性持っている人も居るし、一属性の人も多い。三属性持ってる人は稀らしいよ」

へぇ、と皆頷いた。

「魔力変換資質などにも影響されているような気がするから、先天性の魔力変換資質を持っている人は自分の属性が分かりやすいね」

あたしの魔力変換資質は炎熱と雷。どちらも忍術における自分の得意属性だ。

「じゃ、じゃあ、フェイトさんは雷属性が得意って事ですか?」

と、コロナ。

「そうだね。確かに私は雷の先天性の魔力変換資質を持っている。だけど、私の性質変化の属性は雷と風の二種類だよ」

「風?」

「そう、風。つまり私は雷遁と風遁が得意と言う事だね」

「風遁ですか…」

「やって見せようか?」

と、言ったフェイトお姉ちゃんはすばやく印を組んだ。

「え?ちょっ!」
「まっ!?」
「待ってくださいっ!」

あたし達に前回来たときのなのはお姉ちゃんがやらかしたお茶目が脳裏を掠める。

『風遁・練空弾』

あたしが火遁を使うときみたいに大きく息を吸い込むと、フェイトさんの口から緩やかな風があたし達を吹き抜けた。

逃げ出そうとして湯船から立ち上がった状態のあたし達は風に吹かれて火照ったからだが急激に冷め、寒さで湯船にダイブした。

「本気でやるわけ無いじゃない。本気の練空弾なんて使ったら垣根が吹っ飛んでっちゃうし、直すのも面倒だしね」

「……なのはお姉ちゃんにも言ってください。…前回お茶目で吹き飛ばされました」

「あ、あはは…」

笑って誤魔化すフェイトお姉ちゃんでした。

皆で温泉に浸かりなおす。

「いつかは、私達にも教えてもらえるのでしょうか」

そうアインハルトさんが訪ねる。

「うん?忍術の事?」

「はい」

「そうだね。アインハルトが望むなら」

「…是非」

「だけど、忍術は性質変化だけじゃない。分身系、結界忍術、時空間忍術と多岐に渡るから、全てを覚えるのはそれこそ年単位掛かるよ」

だから、今は一歩一歩進むしかないよとフェイトお姉ちゃんはまとめた。

次の日からは流の練習である模擬戦に加え、オーラのコントロールを正確にする修行も行っている。

森林部に出かけたかと思えば、その日ヴィヴィオ達は一日木登りをさせられていたらしい。

木登りといってもオーラを足の裏に集め、吸着し、歩くように上る修行。木登りの行だ。

あたしはそれを脇に見て、フェイトお姉ちゃんに御神流の修行を付けて貰っていた。

箱庭世界に閉じこもる事一週間。

今日は久しぶりにオフにしようと、箱庭内に流れる川にピクニックにやって来た。

箱庭に入るときに持ち込んだ荷物から水着を取り出して、水遊びだ。

水中で追いかけっこしたり、きれいな石を探したりして遊び、いつもの流れで水切り大会が開かれる。

ばしゃっと飛び散る水柱。

それを見て水上をとことこと歩いてくるフェイトお姉ちゃん。

「ど、どうやって歩いているんですか!?」

と、驚いて質問するヴィヴィオ。

「うん?これは足の裏からオーラを放出して反発で浮いているの。ヴィヴィオ達の次の修行だから、頑張れば出来るようになるよ」

「そ、そうですか…」

「それよりも、今の奴、纏をしてやってみるといいよ。念がどれ程の物か実感できると思うから」

「え?あ、はい」

ヴィヴィオ、コロナ、アインハルトさんは川の真ん中で横並びになると、纏でオーラをまとって水切りをする。

ザバンッ

「え?」
「うそっ」
「凄いですね…」

先ほどよりもすごい勢いで水柱があがり、跳ね上がった水が頬に当たって気持ちが良かった。

「次は流を使って攻防力を右手70まであげてやってみて」

「「「はいっ!」」」

今度はさらに遠くまで水柱が上がる。

「こんなに変わる物なんですね…」

「そうだね、アインハルトさん」

「うん、たしかに凄いね」

自分がやった事に驚いている三人。

「じゃ、次はリオだね。リオが本気でやったらどれくらいになるのか興味があるし」

と、ヴィヴィオがあたしに勧める。

「え?あたし、あたしかー」

リクエストに応えるべく河の中央へと移動する。

「ヴィヴィオ達は危ないから川を上がった方がいいかもよ?」

「え?そんななの?」

「多分…」

あたしの話を訝しがりながらも浮遊魔法で水面に浮上した。

「それじゃぁ…」

練で増幅したオーラを右腕に全て集める。

『硬』だ。

「せーーのっ!」

ザバーーーーン、ドドドドドドッ

「うそぉ!?」

「か、か…かっ」

「川を裂くなんて…」

ヴィヴィオ達が驚きの声を上げる。

「いっ…今のは!?」

コロナがフェイトお姉ちゃんの方を見て、説明を要求した。

「纏と練と絶と発と凝の応用技、『硬』。練で増幅されたオーラを全て一箇所に集めるのだから、その威力は段違いに跳ね上がる」

「コウ…」

説明を受けてもまだ驚愕しているようだ。

「あの、フェイトさんがやるとどの位になるんですか?」

「私?うーん…全力なんて最近やった事ないからなぁ…」

と、言いつつも川の中腹で構えるフェイトお姉ちゃん。

あたしは嫌な予感がしたのでヴィヴィオ達同様浮遊魔法で水面に浮かんでいます。

「それじゃ…」

そう言って行使されたフェイトさんの練。

ビリビリビリっ

空気が振動しているように錯覚するほど、強烈なオーラ。

さらに硬で右拳に集められたオーラの尋常じゃない量に驚愕する。

余りにも凄いプレッシャーに全身が震える。

「せーのっ!」

ドゴーーンッ

繰り出したコブシは川を裂き、さらに川の流れを逆流させていました。

「「「「…………」」」」

あたし達は驚愕し、言葉も出ずにただただ唖然とするばかりだった。

「『硬』の威力は自分の系統にも若干影響される。一番威力が高いのは強化系、六性図で遠いほど同じ威力の攻撃に込めるオーラ量が増えるから…って、皆聞いてる?」

ごめんなさい、フェイトお姉ちゃんのデタラメさに皆放心しているのです…

箱庭滞在二週間目。

「ヴィヴィオ達もどうにか『流』も様になって来たようだし、そろそろ外に戻ろうか」

フェイトお姉ちゃんがそう提案した。

「あ、あの。私達に念の応用技で教えてもらってない物っていくつあるのでしょうか」

アインハルトさんがおずおずと言った感じで問いかけた。

「『凝』『周』『流』は教えたし、『硬』はこの前みせたよね」

コクリとヴィヴィオ達は頷いた。

「『隠』は?」

「『凝』を教えてもらう時に見せてもらいました」

ヴィヴィオが答える。

「それじゃ、後は『堅』と『円』二つかな」

「ケン?」

「エン?」

ヴィヴィオ、コロナが声を漏らした。

「リオっ」

フェイトさんがあたしに振った。

あたしにやって見せろって事だよね。

フェイトさんの声につられるようにしてヴィヴィオ達の視線がこちらに向く。

「それじゃ、『堅』から」

体内のオーラを一気に外へと放出し、留める。

「あれ?それって、『練』だよね?」

と、ヴィヴィオがいぶかしんだ。

「『纏』と『練』の応用技、『堅』。瞬間的にオーラを増強させるのではなく、継続して維持させる技だよ。
纏が使えたからと言って熟練の念能力者相手には薄い膜が覆っているようなもの。簡単に打ち破られて大ダメージを食らう。
相手の強烈な攻撃にはこちらもせめて防具程度の防御力が無いとね」

フェイトさんが説明してくれた。

「やってみて」

フェイトさんに促され、ヴィヴィオ達も『堅』をする。

…しかし。

「あ、あれ?」

「も、もう無理です…」

「練を持続させるのがこんなに辛いなんて…」

二分もしない内にへたり込むヴィヴィオ達。

「『堅』が維持できなければ、熟練者と戦う事は難しい。二分弱じゃ持久戦にもなりはしないよ。攻撃にも防御にもオーラを使うんだから、今のままじゃ30秒でオーラが尽きて終わりだね。最低30分は堅が維持できないとね。それでも少ないけれど」

「は、はい…」

「がんばりまふ…」

もうへろへろだね、ヴィヴィオ、コロナ。

あたしは堅を解き、今度は円を使う。

「これも『纏』と『練』の応用技、『円』」

そう言って広げられたあたしの円は半径6メートルほど。

今のあたしではこれが精一杯。

「『円』は感知能力。このオーラの中でなら自分は相手の動きを肌で感じ取る事が出来る。つまり、この中での死角は存在しない。例え真後ろからの攻撃であろうと察知できるよ」

またもフェイトさんが説明してくれた。

「当然の事だけど、応用技はどれも難しい。日々の反復練習で少しずつ慣れていくしかないよ」

「そうですね…」

「それじゃ、明日からは『堅』の練習も加えていこうか」

「「「はいっ!」」」

「それに、そろそろ時間だしね。帰らないと」

時間ってなんだろう?

フェイトお姉ちゃんの号令で箱庭の外に出ると、丁度お昼時。

厨房からおいしそうな匂いが漂ってくる。

しかし、あたし達を待っていたのは昼ごはんでは無く、メイドさんによる強制連行。

あれよあれよと言う間に身なりを整えられ、城のエントランス付近の着けられているセルクルが引く馬車へと連れてこられた。

そこにはユカリさん以外の皆が居て、あたし達の到着を待っていた。

「えっと…何かありましたっけ?」

「今日はエスナート芸術音楽祭がパスティアージュで開かれる。俺達も誘われているし、朝にリオ達も誘っただろう」

あ、そう言えばと記憶を辿る。

二週間前の事だけど、確かに誘われて、OKの返事もしていた。

「えと、ミルヒオーレさんが出るんですよね?」

ヴィヴィオもどうにか記憶から引っ張り出したらしい。

「ああ。リオ達も貴賓席で呼ばれているから、正装はこちらで用意したけれど、着付けは向こうに行ってからかな」

公演は夜なので、日帰りとはいかない為にその日はクーベルさまの計らいでお城にご厄介になるらしい。

パスティアージュに着くと、街は露天が立ち並び、街を上げてのお祭り騒ぎだ。

城に案内された後、まだ時間が有るからとあたし達は露天を見に城下へと降りていく。

「わぁ、色々な物が売ってるね」

「あ、リオ、あれ見てっ!すごくおいしそう」

「ちょっと、コロナ。まってよっ!」

串焼きの屋台へと走り寄っていくコロナを追いかけるあたし。

「わたしたちも行きましょうか」

「はい」

ヴィヴィオとアインハルトさんも屋台へと駆け、その後ろから付き添いのなのはお姉ちゃんが歩いてくる。

「夕食分のお腹は残しておきなさいね」

「はーいっ!」

とは答えたものの、意識はすでに目の前の串焼きに向いていた。

この前の戦で稼いだお金で串焼きを両手でもてるだけ買うと、ヴィヴィオ達と分けてかぶりつく。

「あ、美味しい」

「ほんとだ」

わいわいしながら串にかぶりついていると、街中に緊急のアナウンスが入る。

どうやら宝石強盗が出たらしい。

強盗は小さな少女で相手を操る術を使うとか。

「ご、強盗!?」

「兵士の皆さんが慌しく動いてますね」

コロナが大声をあげ戸惑い、アインハルトさんは周りの様子を注視した。

すると通りの先からポーンポーンとけものだまが打ちあがり、それを掻き分けるようにして走ってくる女の子が1人。

「だれか捕まえてくれーっ!」

そんな声が聞こえた。

「体を操ると言う事は土地神かな」

「そうなんですか?」

「うん。年若い土地神だとまだものの良し悪しが分からない事が多いかな。体の大きい子供って言うかんじだね」

「へー」

と相槌をうっていると、ヴィヴィオがあわてたように言った。

「そ、そんな事より、捕まえなくて良いんですか!?」

「あ、そうだね」

フェイトお姉ちゃんがそう答えた時、少女は大きく地面を蹴ってジャンプ。

しかし、その瞬間腰のポーチに手をかけていたフェイトお姉ちゃんが何かを投げたポーズで手を振り上げていた。

「え?」

つられるように見上げると、爆発と共にたま化した少女が目を回して振ってくる。

「あ、皆、降って来るのキャッチしてっ!」

「はいっ!」

けものだまと一緒に落ちてくる貴金属類。

「よっ!」

「おっとっ!」

「あ、あぶないっ」

と、ヴィヴィオ達を協力して何とかキャッチする。

「おーいっ」

「いま、こちらに強盗の少女が来なかったか?」

と、駆けつけた勇者シンクさんとエクレが駆け寄ってきてあたし達に問いかけた。

「この子です」

と、フェイトお姉ちゃんは抱きかかえていたけものだまを差し出した。

「ああ、捕まえてくれたのか」

と、エクレが言ったけれど、何故勇者とエクレは当然のように追いかけてきたのでしょうか?

ここはビスコッティじゃ無いのだけれど?

たま化した少女と宝石は遅れてやってきたパスティアージュ兵に受け渡した後、時間も迫った事で城に戻り、音楽堂へ。

ミルヒオーレさんの歌声は相変わらずすばらしかったです。

音楽祭も終われば四国合同戦興行イベント、ユニオンフェスタまでは後三日。

フリーリアに戻ると、戦に向けての準備で大忙し。

あたし達も何か出来る事は無いかと駆け回っているうちにあっという間にユニオンフェスタ当日。

3国の勇者に負けないようにと凝ったデザインの服をメイドさんによって着せられたあたし達は準備をして戦場に向かう。

本陣で準備をしているあたし達。

周りにはアオさん達もスタンバイをしている。

「いよいよだね」

少し緊張気味にヴィヴィオが呟いた。

「でも、楽しみです」

と、アインハルトさん。

「が、頑張ろうね」

「うん」

コロナも気合が入っているようだ。

ミルヒオーレさんの開幕の言葉で始まった四国合同戦興行イベント。

【さあ、始まりました四国合同戦興行。まずはどう言った対戦が行われるのかっ!…っと、なんと、ビスコッティ、ガレット、パスティアージュの軍勢が皆フリーリア目掛けて進軍している!?これは三国ともまずはフリーリアを狙うつもりのようだ!】

などとアナウンサーが現状を報告してくれた。

「うわー…全員でこっち来る?普通」

「前回ビスコッティとガレットの二国で来ても返り討ちにしちゃったから、三国でまずは潰そうと考えてるんじゃないかな」

アオお兄ちゃんの呟きにフェイトお姉ちゃんが答えた。

「一番厄介なのはパスティアージュの空騎士達だね」

と、なのはお姉ちゃんが現状を述べる。

「だけど、その辺は砲術師隊に頑張ってもらうしかないかなぁ。…余りにもウザかったらスターライトっ「ダメだからね」…だよね…」

なのはお姉ちゃんの言葉をぶった切るソラお姉ちゃん。

なのはお姉ちゃん…もしかしていまスターライトブレイカーで吹き飛ばすと言いそうになったのかな…?

いつかの悪夢がよみがえる。

うん…ダメだよね、アレは。

視界がピンクとオレンジで包まれたあの恐怖…あ、振るえが…

「ヴィヴィオ達は細かい事は気にせず楽しんで来たら良いよ。勇者も率先して攻めて来てるし、出来れば蹴散らしてきて」

と、シリカお姉ちゃんが言った。

「はいっ!」

「わかりましたっ!」

「頑張りますっ」

と、それぞれの言葉で返し、あたし達はバラバラに戦場を駆けた。

ようやく走らせることは出来るようになったセルクルに跨り、戦場を行く。

パスティアージュの空騎士に制空権を握られまいと後方から砲術師隊の長距離射撃が空に幾つもの光線を描いた。

目の前にはこの間あたし達が掘った堀が見える。

円形に掘られた地面に両サイドから一本ずつ道が伸び、真ん中は闘技場のようなサークルだ。

堀を挟んで対峙するフリーリア軍とパスティアージュ軍。

地上は二軍に分けもう片方はガレット軍と対峙している。

あたしは掘り架かる一本道を進み出て大きく声を上げる。

「ビスコッティの勇者シンクに一騎打ちを申し込むっ!」

【おおっとっ!リオ選手声高らかに一騎打ちを申し出たっ!】

「ビスコッティの勇者シンク、受けてたちますっ!」

【これは面白い対戦になりましたっ!片や劣勢のビスコッティに降臨し破竹の勢いでビスコッティを勝利に導いた勇者シンクっ!もう片方は勇者帰還後に現れ、ビスコッティ陣営としてガウル殿下と引き分け、その後のフリーリアとの戦ではアイオリア殿下との一騎打ちで健闘したリオ選手の一騎打ちだーーーっ!】

おおおおおおおおっ!

歓声が響き渡る。

さらに続く実況に耳を傾ければ、別の堀ではガレットとにらみ合い、あたしと同じようにアインハルトさんがナナミさんに一騎打ちを申し込んだようだ。

セルクルを降り、道を引き返させると、シンクさんは軽やかな仕草でセルクルからジャンプ。

空中で体を捻りながら現れた白地に黒と金で装飾された棒…もとい、聖剣パラディオンを空中キャッチ。かっこよく着地してみせた。

そう言う所は流石に勇者、似合っている。

相手が聖剣持ちと言う事で、あたしも腰から小太刀を二本抜き放つ。

アオお兄ちゃんから今回の戦のために貰った数打ちの刀だ。

「へぇ、二刀流。宮本武蔵みたいだね」

ミヤモトムサシって誰でしょう?

シンクさんの世界の剣豪かな?

互いに武器を構えると視線が交差した。

「行きますっ!」

「来いっ!」

後ろからこの隊の指揮を任せられていたフェイトお姉ちゃんの声が響く。

「堀を回避して一班、二班は右へ、残りは左からビスコッティ軍を殲滅せよっ!」

おおおおっ!

あたし達の戦闘開始が合図になったのか、両軍が円形の堀を左右に分かれて進軍し、激突した。


あたしは手に持った二刀を振り上げ、一足で距離を詰める。

「御神流、『虎乱』っ!」

まずは様子見と、この二週間で覚えた小太刀の二連撃を打ち込む。

「なんのっ!」

シンクさんはパラディオンを中央にに持つ事によって左右に受ける部分を作り、一撃目を右で、二撃目を受け止めたまま回転させた左側で受け止めた。

「はぁっ!」

そのまま押し出すようにあたしの刃を押し返し、回転しながら舞うようにパラディオンを振り回す。

袈裟切りのように振り下ろされたパラディオン。

受けずに横に体を左にズラしてかわし、反撃に転じようとしたが、そのまま横に薙がれ回避のためにバックステップ。

しかし、そこで地面を蹴って今度こそ反撃。

右手の刀を振り上げて切りかかる。

「うわぁっ!?」

フッ

間一髪でかわすシンクさん。


しかし、あたしはすかさず左手の刀で追撃。

ギィンっ

「ほっ!」

今度はパラディオンを地面に突き刺して空中へと逃げたシンクさん。

あたしの攻撃はパラディオンに当たってしまった。

シンクさんは突き刺したパラディオンの石突きに逆立ち、反動でそのまま棒高跳びのように空中へと飛んだ。

パラディオンは地面に突き刺さっている。

それを見たあたしは追撃を決める…がっ!

走り出したあたしは信じられない物を見た。

なんと、光の粒子に分解されたパラディオンがあたしを追い抜いてシンクさんの手の中で再構成されていたのだから。

「うそっ!?」

と、あたしの戸惑いも何処吹く風。

シンクさんはそのままパラディオンを振り上げ、輝力を乗せて振り下ろした。

「烈空一文字っ!」

飛んでくる衝撃波。

あたしは刀をクロスさせて受ける。

「くっ…」

上空から叩きつけるように放たれた衝撃波はあたしを地面に縫いとめる。

なんとかその衝撃波を受けきったあたしは、今度こそと思い着地するシンクさんに駆け寄ろうとして立ち止まる。

何故か?

パリンっと小気味の良い音を立てて両手の刀が粉々に弾け飛んだからだ。

フロニャルドの不思議現象の一つ。武器破壊だ。

強烈な一撃を貰うと、防ぎきった後時間差で粉々に武器が壊れてしまう。

【おーーーっと!リオ選手、武器破壊だーーーっ!】

「この勝負、僕の勝ちだねっ!」

笑顔で宣言するシンクさん。

「いえ、まだまだですっ!」

そう言ってあたしは肘を上げ、構える。

【まだまだ戦闘続行の意思を見せるリオ選手。勇者シンクは知らないかもしれませんが、リオ選手は前回無手でゴドウィン将軍とガウル殿下と戦ったのが記憶に新しいでしょう。
リオ選手にしてみればまだまだこれからと言った所かっ!】

「えええ!?」

アナウンサーの実況を聞いて驚いているシンクさん。

「行きますっ!」

と宣言し、駆ける。

「木の葉旋風っ!」

まずは様子見と空中回し蹴り。

「なんのっ!」

パラディオンを立ててあたしの回し蹴りを防御するシンクさん。

そのまま上体を屈めあたしの攻撃を受け流したパラディオンを回転させると今度は伸び上がり回転した反動も利用してあたしに叩きつける。

あたしは上体を捻り両手を地面につけるとそのままバク転するように後ろに回避する。

二回三回と後ろにバク転で距離を取りシンクさんを見ると背中に紋章を顕現させ、必殺技の用意だ。

「豪熱炎陣衝っ!」

突き出された右手からバスタークラスの口径の炎が放出されあたしに迫る。

や、やばいっ!

あたしはすばやく印を組む。

『火遁・豪火球の術』

口から大きな炎の玉を出し、シンクさんの紋章砲を裂いた。

【両者の炎による攻撃がぶつかっていますっ!この攻撃を制するのはどちらだ!?】

「うそっ!?口から火を吐いたっ!?ど、どうやって!?」

信じられない物を見たといった感じのシンクさん。

とは言え、今のあたしは火を吐いていて答える事は出来ない。

線での攻撃に点で迎え撃ったあたしの攻撃にシンクさんの炎陣衝はことごとく弾かれ、あたしに届く事は無い。

その内シンクさんの炎陣衝は収束する。

フゥゥーーーッ

それを見てあたしも終息させた。

「これは、本気モードで行かないと勝てないかもしれないっ」

なんて言った次の瞬間ピカっと光ったかと思うと少年だったはずのシンクさんが青年へと姿を変えていた。

「ヒーロータイム!」

周りは驚愕の絶叫を上げる中、大人モードはヴィヴィオやアインハルトさんで見慣れているあたしはそれほど外見での驚きは無い。

しかし…

「いくよっ!」

そう言ってパラディオンを振り回し攻めて来るシンクさんの攻撃は先ほどよりも強く、速い上に輝力が充実している。

全てのパラメーターにブーストされている感じだ。

「よっ…はっ!」

「うっ…くぅ…」

だんだんその重さに押されていくあたし。

『アクセルシューター』

「うわっ!…紋章砲?」

ソルが押されているあたしを気遣ってシューターを三つシンクさんに向かって射出した。

「ありがとうっ!ソルっ!」

『当然ですっ!』

と、今のうちに距離を取るとあたしは再び印を組む。

「雷遁・千鳥、ヴァージョン輝力っ!」

チッチッチッと帯電した電気が音を鳴らす。

「いいっ!?」

雷を四肢に纏ったあたしに驚きの声を上げるシンクさん。

【出たーーーっ!リオ選手の必殺技。千鳥だぁぁあぁぁぁっ!】

地面を蹴ると蹴った地面が焼け焦げている。

あたしの振りかぶった右手の一撃をパラディオンで弾いて防御するシンクさん。

「ちょっ!そんなの食らったら流石にただじゃ済まないんじゃ…」

「何を今更言っているんですかっ!自分だって極太の炎をぶつけて来たじゃないですか。あれだってフロニャルドじゃなかったら死んでますよ?」

「そ、そうだけど…」

「だから、多分大丈夫ですよ。防具破壊くらいで大怪我はしないはずですから」

たぶんあたしが千鳥で突いても何かに守られるようにただ吹き飛ぶだけじゃないかな。

フロニャ力の加護、凄いです。

と、言うわけで試合再開。

あたしは思いっきり手のひらを地面に叩き付けた。

「な、何を…うわぁっ!?」

扇状に地面が砕かれ隆起してシンクさんの足場を乱す。

シンクさんはあわててパラディオンを突き刺すと急いで石突きにのぼりジャンプ。

砕かれた地面から脱出する。

しかし今度は空中のシンクさんに向かって『竜象波(りゅうしょうは)』と名づけた雷撃弾を飛ばすが…

「勇者防御っ!」

なんと、突如現れた大き目の盾により阻まれてしまった。

流石に勇者、一筋縄には行かない。

しかし、その稼いだ時間であたしは輝力を脚部に集中する。

両手の千鳥は既に消した。

イメージするのはミウラさんの抜剣。

そしてこの間見たアインハルトさんの閃衝拳。

極限まで集中させた輝力を纏った足で地面を蹴ると、目にも留まらぬ速さで空中を駆け、落下中のシンクさんに向かって回し蹴りを放った。

「なっ!?」

偶然か、それとも実力か。先ほど顕現させた盾があたしの蹴りを妨げる。

しかし…

盾を砕き、蹴りはシンクさんまで到達し、吹き飛ばした。

ドドーーーンっ

後ろにあった岩壁に打ち付けられるシンクさん。

【リオ選手の強烈な一撃ーーーーっ!?これはさすがに勇者シンクも撃墜か!?】

「つぅー…凄いねっ!全然見えなかったよっ!」

そう言って立ち上がったシンクさん。

「あ、あら?」

戦闘続行か?と思った次の瞬間、シンクさんの防具がバラバラに破け散る。

わあああああああっ!

歓声が響き渡る。

【ここで勇者シンク防具破壊ーーーっ!この一騎打ちはリオ選手の勝利っ!勇者撃破でフリーリアは得点を大量ゲットだっ!】

「勝ったっ!」

けれど、あたしも一時退却。

輝力を結構消費したりして、疲労困憊だ。

陣まで戻ると、アオお兄ちゃんに出迎えられた。

「お疲れ、リオ。リオの試合は見れなかったけれど、ビスコッティの勇者撃破でポイント的にかなり優位にたった。アインハルトもガレットの勇者を倒してくれたし、中々良い感じだね」

「レベッカさんは?」

「ヴィヴィオが出張ったけれど、相手が悪かった」

相手は高機動砲撃方。

インファイターのヴィヴィオでは相性が悪いのは確か。

「結局なのはが砲術隊を率いて押し戻し、パスティアージュは一時撤退。ヴィヴィオは戻ってきてから防具を再装備して今はアスレチックコースの完走に向かってるよ」

なるほど。

「コロナは逆に防衛ラインの守りにその力を発揮しているね。彼女のゴーレムを抜ける一般兵は居ないだろう」

た…確かに。

ゴライアスのコブシでポンポンけものだまに変わっている敵兵が容易に想像できてしまった。

砲撃隊の攻撃もその巨体で受け止め、崩れたら再構成。

うん、本体を叩かない限り何度でも現れる上に、コロナもマイストアーツとか使えるからね。

コロナの防衛ラインはそれこそ勇者や騎士団長クラスじゃないと抜けないだろうね。

「さて、そろそろ俺も出るよ。流石に三国に攻められたら厳しいからね」

そう言ってアオお兄ちゃんは出撃して行った。

一見優勢に見えるフリーリア。

しかし、実際は多勢に無勢。

騎士団長や勇者クラスの無双も容認されているから、一騎当千が5人も居るフリーリアは何とか戦線を保っているに過ぎない。

あたしもミルヒオーレさんやリコッタさんとの戦闘には勝利できたけれど、流石にダルキアン卿には歯が立たず…

パスティアージュ陣営を攻めたヴィヴィオ達の前には英雄仮面と言うヒーローの登場で状況をひっくり返されたり、戦いは熾烈を極め、一日目は何とか僅差でフリーリアの勝利に終わった。
 
 

 
後書き
番外編は後1話くらいですね。長かったら分割するかも知れませんが… 
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