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蒼き夢の果てに

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第6章 流されて異界
  第145話 星に願いを?

 
前書き
 第145話を更新します。

 次回更新は、
 7月13日。『蒼き夢の果てに』第146話。
 タイトルは、『牛郎織女伝説』です。
 

 
 氷空は何時もと同じように、深く、果てしなく広がって居た。
 手を伸ばせば其処は大宇宙。このままただじっと見つめて居るだけで、遙か彼方へと永遠に落ちて行く。そのような錯覚さえももたらせる広大無辺の世界。その深蒼に覆われたビロードの如き天穹には、今宵、雲ひとつ存在する事もなく、月光はその寒々とした光輝を地上へと投げ掛け続けて居た。
 蒼く冷たい空気が肺を凍り付かせ、逆に吐き出す吐息が口元だけを白く温める。そんな、至極ありふれた仲冬(ちゅうとう)の夜。

 ………………。
 ……いや、今宵は少しばかり違ったかも知れない。まるですべての穢れが洗い流されたように大気は清み、ふたりの頭上……三十八万キロほど上空に存在する月は、ゆらり、ゆらりと揺れている。
 今宵はまるで、二夜ばかり早く訪れて仕舞った聖なる夜。そう感じさせるに相応しい夜であった。

 まるですべてのモノが眠りに落ちたかのように、密やかに深々(しんしん)()けて行く冷たい冬の夜。
 その世界の中心。

 その世界の中心を神韻縹渺(しんいんひょうびょう)と広がり行く歌声。
 たおやかに、しかし、時に強く。それはまるで、二人の身体に絡み付くかのように後方へ向かって嫋々(じょうじょう)と流れ行く。
 強い郷愁を誘う歌声。夜の闇に包まれた……月明かりと、そして彼女の歌だけが頼りの儚い世界。

 しかし……。しかし、何故か怖くはない。例えここが、足元には何も存在せず、ただ深い重力の底に光る小さな明かりだけしか見えない場所であったとしても。
 それは自らの腕の中に……。

「何?」

 しかし、魔法に掛けられた時間は長くは続かないのが定め。地が裂け、山が崩れ、海に流れ出すその前に、たったひとつの言葉だけで、俺は現実と言う時間(せかい)へと戻されて仕舞った。
 ……成るほど。どうにも、コイツとの関係は下世話で、至極散文的だと言う事なのでしょうか。

 蒼穹と大地の丁度中間点。足元……。重力の底には人々の生活を示す小さな色彩が、其処、そしてあそこと言うように煌めき、
 仰ぎ視れば、其処には降るような……と表現される大宇宙のパノラマが広がる。

 正直この場所。様々な色や光を見渡せる人ならざる者の視点で、それもやや不機嫌な声で問い掛けられるよりも、あなたは何時も私の味方で居てね、……と言われた方が、よほど気分が出ると思うのですが。
 もっとも、その台詞自体が俺の腕の中に居る少女には似合わないことこの上ない、と言う事も同時に理解しているのですが……。

 ただ――

「――寒くはないか?」

 ただ、月明かりに照らされた彼女の横顔と、その紡ぎ出した歌声の世界に心を彷徨(さまよ)わせていた、などと言う事を気付かれるのも少々癪に障る。コイツが散文的に対処するのなら、こちらも同じように対処するだけ。
 二人の微妙な距離感は、例え彼女が、今現在自らの腕の中に居たとしても変わらないし、変えてもいけない。

「普通に考えたのなら、こんなに高い位置で寒くないはずはないでしょ」

 ほら、あの半島は牡鹿半島で、その傍にあるのが金華山でしょ。それから、それから……。
 いちいち指差しながら日本地図、東北地方の太平洋岸の地名を挙げて行くハルヒ。何にしてもコイツの頭が良い事は理解出来た。少なくとも、中一、一学期の期末試験で牡鹿半島が答えられずに予定の得点を叩き出せなかった俺よりは。

「そうか……」

 それは良かった。
 この状態。二人の距離感が微妙な均衡の上に成り立っているのなら、下手に刺激をするとすべて崩壊して仕舞う危険性すら存在する。そう考え、当たり障りのない答えを口にする俺。
 もっとも、彼女の答えも当たり前。ここはおそらく上空三千メートル以上。大気は薄く、気温もマイナス二十度ほど……だと思う。このような場所に居るのに、今の彼女は紅いニットのセーターにフレアのスカート。黒のレギンスとふわふわのファーに包まれたショートブーツ。せめてコートぐらい着てくれても良かったのに、手袋やマフラーすら付けず。
 どう考えても見た目重視で、極寒の場所にこれから向かう人間の出で立ちとは思えない状態で旅館を出て来て仕舞ったので……。

 結局、普段通りに仙術で造り出した温かな空気の球体で身を包む事により寒さを退け、薄い酸素濃度による高山病などを防ぐ事となったのですが。
 有希やタバサの時だってやっている事に大きな違いはないのに、何故かハルヒに関してだと少し愚痴めいた感情が強くなる。これも、コヤツの普段の態度に問題がある所為なのですが……。

 自然と会話が途絶えた。その瞬間、北から吹き付けて来る強い風が、普段よりもはっきりと聞こえる。東北地方に相応しい強い冷気と、乾と言う属性を得たソレが俺と腕の中のハルヒに纏わり付き、二人分の髪の毛と、俺の羽織ったコートの裾を揺らしてから後方へと過ぎ去って行った。
 ここは上空。地表部分では冬の夜に相応しくないぐらい、風のない……冷たいけれど、穏やかな夜だったのですが、流石にここはそう言う訳にも行かなかったと言う事なのでしょう。

「ねぇ、今回は一体何時ま――」

 冬に属する月の眼差しと風の声。そして、互いの温もりにのみ支配された時間に慣れなかったのか、何かを問い掛けようとして、しかし――
 彼女から発せられた言葉は明確な意味を持つ前に、口元のみを白くけぶらせるだけに留まる。

 ただ、成るほど……。

「なぁ、ハルヒ――」

 彼女が何か言い掛けた事は軽く無視。先ほどの彼女の言葉の続きを想像すると、おそらく、その内容は今の俺には答えられない内容に成るのが確実。確かに、彼女の疑問すべてに明確な答えを返さなければならない謂れはない、とは思うのですが……。しかし、自分が何時、元の世界に帰る事が出来るのか、実はさっぱり分かっていない。……などと答えるのは流石に風が悪い。
 おそらく、呆れるか、非常に残念な子を見る瞳で見つめられ、最悪、慰められる可能性すら存在していると思われるので……。

「すまんけど、コートの右のポケットの中に入っている物を取り出して貰えるかな」

 俺の両手は、ほれこの通り塞がっているから。
 取って付けたような理由で一度話を逸らそうとする俺。もっとも、俺が片腕だけでハルヒを抱えながら、犬神使いの青年を相手に大立ち回りを演じられる能力が有る事を彼女は知っているので、この程度の小細工など本来は意味をなさないのですが……。

 ただ、

「――これね」

 俺の首に回していた両腕を外し、羽織って居るだけのチェスターコートの右側のポケットを探るハルヒ。ただ、その際にそれまで以上に密着する事となった身体が……。
 確かに、元々の体勢が俺に抱き上げられ、首に両腕を回す形。其処から左腕を右のポケット……腰の高さにあるポケットに突っ込もうとすると、どうしても右腕を俺の左肩から首の後ろに回し、身体は俺の方に向ける事となるので……。

 それまで以上に彼女の温もりを。そして、その長い髪の毛が揺れる度に強い花の香りを感じる事となる俺。
 この状態をもし誰かが見たと仮定すると、今の形は彼女を抱き上げる、と言うよりも、既に抱き合っている。そう言う形にしか見えないような気もするのだが……。

 急接近した後、視界から消えた――月の明かりに照らし出されたハルヒの横顔には疲れに因る綻びを一切感じる事はなかった。
 ……何にしても、無駄に元気な何時ものコイツだと言う事か。

 この俺に取っては平穏で穏やかな夜。しかし、彼女に取っては夜空の散歩と言う非日常の夜。こう言う時間が後どれぐらい残されているのか。柄にもなく、少しセンチメンタルな事を考えた瞬間、目当ての物を探し当てたハルヒが元の体勢へと復帰する。
 もっとも、彼女の手の中には十センチ程の……大体の人がその青い箱を見れば、その中には某かの宝飾品が入っているんだな、と分かる箱を手にしているので、完全に元の形に納まったと言う訳ではないのですが。

 まぁ、何と言うか……(てんてんてん)と言う、少し煮え切らない、如何にも場馴れしていない感を醸し出しながらも、

「二日ばかり早いけど、メリークリスマス」

 用意していた台詞を口にする俺。
 自らの取り出したその箱を訝しげに見つめるハルヒ。ただ、どうにも反応が鈍いのだが、それでも、その辺りもある程度は想定済み。
 青い箱と俺の横顔の間で一瞬、視線を彷徨わせる彼女。しかし、結局はその手の中の箱を開くしか話を先に進める術がない事を理解したのか……。
 ゆっくりと箱を開くハルヒ。その開かれた箱の中に存在した真珠と銀で花を象ったブローチが、冴えた月の光を反射した。

 しかし……。

「でも、流石にコレは受け取れないわよ」

 あんたとあたしの関係は、そう言う関係じゃないでしょ。
 最初にありがとうと言った後に、少し……いや、かなり迷惑そうな口調で、そうはっきりと言って来るハルヒ。但し、感情の方は微妙。口調では完全に拒絶しているが、心の方は、どうもそう簡単に割り切れている訳ではない雰囲気。ただ、そうかと言って、簡単に受け入れて良いか、と言うとそうでもない。
 常識人らしい遠慮。迷い……と言う感覚が一番強く流れて来ている。

 表面上は迷惑そうに。しかし、心の奥深くでは迷いながらも、更に言葉を続ける。

「大粒の真珠がひとつに、その脇にふたつの真珠。その周りを銀……だと思うけど、銀色の金属で花びらを象っている。あんた、これ、一体、幾らしたのよ?」

 どう考えても数万円はしたんじゃないの?
 高校生が友達にクリスマスにプレゼントをするには少し高価すぎるわよ。そう言いながら、俺の鼻先に青の箱に入ったままで突き返してくるハルヒ。
 まぁ、一般的な男子高校生では手に入れられるレベルの装飾品ではないのは事実ですよ。
 ……と言うか、成るほど、そう来るか、と言う気分。

「なぁ、ハルヒ。オマエさん、少し常識に囚われ過ぎていないか?」

 確か、俺はオマエの目の前で、懐から紫水晶を取り出して見せたと記憶しているのだが。アレはパチモンやクズ石とは違う、ホンマモンのアメジストやで。
 この旅行に来てから、一般的な高校生とは違う、俺の裏の顔を見続けて来たオマエさんにしては、エラく常識人っぽい台詞ですな。

 少し皮肉混じりでそう言う俺。コイツは何故か自分が常識人だと思われるのを嫌うので、この言葉は効果がある。
 そして、少し彼女から視線を逸らし、自らの足元から、遙か頭上へと視線を動かして見せた。

 彼女が俺の視線の動きをトレースし易いように、敢えてゆっくりと。

「ここは地上から三千メートルほどの場所。其処で宙に浮いた状態で夜の闇に沈む街と蒼穹を見つめている人間が、その程度の宝飾品を真っ当な人間のように金を出して買ったと思うのか?」

 それは流石に俺の事を馬鹿にし過ぎて居ると思うぞ。
 そのブローチは俺の式神が材料を集めて来て、ゼロから作り上げた一品物。当然、そこに俺の術を籠めた護符(タリスマン)としての機能も持たせてある。

「もし、それを市場に流せば、オマエの考えている値段の最低三倍。おそらく、十倍の値段を付けても手に入れたいと言うヤツが出て来る。そう言う代物や」

 別に隠す必要もないので、すべてを包み隠す事なく話して仕舞う俺。まして、市販されている物を買って来たにしても、自分で作成したにしても、どちらでも価値は、それほど変わりはしない……と思う。要は労働の対価として得られた現金で購入したか、自分自身の時間を費やしたのか、この差でしかない。

「正味、それを作るのに掛かったのは夕食一回分程度かな」

 あんた、一体、何処の大富豪様よ。さしずめあたしは無学でガサツな花売り娘と言う役割よね。来週辺りには競馬場にでも連れて行ってくれるのかしら? ……などと言う軽いツッコミは無視。ただ、彼女が言う花売り娘が実は正統なる魔女の家系、挿針術と言う珍しい呪詛を行使出来るウィッチだと言う説があるぐらいなので、アンチキリストの存在。バビロンの大淫婦に成り損ねた彼女には相応しい比喩かも知れないが。

 そもそも、掛かった夕食一回分は費用ではなく龍気。確かに純金を消費して手に入れる方法も存在するが、それは流石に現金を消費して手に入れた方が安いぐらいの状態となるので、普通は龍気を消費して手に入れる。ここに表の世界の常識など入り込む余地はない。
 更に、今、ハルヒが手にしているのはかなり特殊なアイテム。人間の宝飾デザイナー如きが、ノームの技術や意匠を真似る事は難しい。それこそ悪魔に魂を売り渡して、その技術を手に入れるしか方法がないぐらいに。まして、真珠はすべて水の精霊が海から獲って来た天然もの。
 其処に呪詛を無効化する呪を籠めてある。こんな物、市場に出回る事はまずあり得ない。何処ぞのインチキ教祖が売りさばく、幸運を呼ぶ○×とは訳が違う。

「流石にオマエが攫われた時は胆を冷やした。あんな思いは二度とゴメンやからな」

 何度言っても危険な場所に首を突っ込もうとする性格が変わる事はない。これはおそらく、涼宮ハルヒと言う少女のアイデンティティに関わる問題なのでしょう。
 確かに今、彼女が首に架けている十字架だけでも雑魚は追い払う事は出来るのですが、それが通用するのはおそらく雑魚だけ。コイツが涼宮ハルヒで、その後ろに俺や水晶宮の住人が居ると言う事を知って居て尚、コイツにチョッカイを掛けて来る連中に対して、この十字架だけでは流石に心許ない。
 ならば、防御を固めるしかないでしょう。少なくとも、ハルヒに対しての監視――這い寄る混沌に代表されるクトゥルフ神族などではなく、地球出身の神族による監視が緩む可能性は低い。おそらく長くても最初の数分を持ち堪えられさえすれば、必ず誰かが助けに現われるはずですから。

「まぁ、オマエの事は必ず守ってやる、そう断言出来るのならこんなモンは渡さずとも良いんやけどな」

 それでも、俺は何時までこの世界に居られるのか分からないから。
 本当は口にしたくなかった内容。これで受け取って貰えなければ、それはそれで仕方がない。そう諦められる……と思う。

 普段は纏めている長い黒髪が風に流れる。……聡い彼女の事だから気付いたのでしょう。髪を纏めるよりも、自然な形で流す方が俺の好みに近いと言う事を。
 この旅行の間で何度目の事だろうか。ふたりの間に硬い静寂が流れる瞬間は。風に流れる彼女の髪。そして、流れて来る花の香りを感じながら、少し呑気にそう考える俺。

 鼻先に突き返されていた青い箱が彼女の前へと引き戻され――
 紅いニットのセーターの胸に飾られる真珠のブローチ。
 しかし……。

「う~ん、どうもニットのセーターに似合うとは言い難いかな」

 矢張り、ネックレスとしての十字架が有る以上、常に身に付けるのなら指輪かブレスレットの方が良かったか。……そう言う後悔が如実に分かる台詞。
 ただ、指輪だと少し重い意味になるのは有希の時に経験済み。ブレスレットの場合も腕時計との絡みが出て来るので……。

「次の時は、もっと汎用性を重視して考えてみるか」

 何時も身に付けて居ても違和感のないアクセサリー。こりゃ難問だわ。
 アンクレット? ……などとかなり呑気な口調で締めくくる俺。本来ならば素直に身を守る為の技や術を教えた上で、護衛用の式神を付けてやる方が簡単なのですが……。この方法はハルヒに関しては無理。
 俺としてはそう警戒しなければならない相手、……とも思えないのですが、それは俺がそう感じたと言うだけの事。他人が同じ感想を持つとは限らない。矢張り、名づけざられし者を異界より召喚して、回避したはずの黙示録を再現しようとした過去は大き過ぎた。
 他の人間なら。いや、多分、朝倉さんや朝比奈さんでも術を学ぶ事に問題はないと思いますが、ハルヒだけは流石に……。

 次の時は……ね。小さく、まるで安堵の如きため息と共に呟かれる独り言。そんな小さな囁きさえも、彼女の口元を僅かに白くけぶらせ、囁きなりの自己主張をした。
 そして、

「ねぇ、ひとつ聞いて良い?」

 少し心ここに在らず。そう言う雰囲気を発し始めた俺。その顔を右側から見つめて居た少女が話し掛けて来る。
 雰囲気としては至極真面目な気配。それに、小さな決意のような雰囲気も同時に発し始めている。

「あんたを示す星ってないの?」

 ほら、仙人の中には破軍星とか、天殺星とか、死兆星とか。星に関係した連中が居るでしょう?
 いきなり意味不明な事を聞いて来るハルヒ。ただ、何となくだが、その質問の意味は理解出来る……、様な気もする。

 もっとも、俺を示す星か……。氷空を仰ぎ視、そう小さくため息をひとつ。

「かなり遠いけど、ない事もない」

 俺の星座に関しては誕生日を知っている以上、わざわざ聞かずとも知っているはず。おそらく、そんな物を聞きたい訳ではない。
 そして、後付け。……ハルケギニアに召喚されてから色々と後付けされて行った設定。例えば身体に刻まれた聖痕や、オーディンの神話に繋がるオッドアイなどではない、俺の前世。それもかなり古い部分だと思われる記憶と、それに関係している星に関する伝承ならば、少し遠いけどない事もない。
 ただ、その記憶が確実にその伝承に関係しているのかは不明だし、その記憶自体が俺の妄想から生まれた物の可能性もあるので……。

 え、本当にそんな物があるの、とか、何処にあるのよ、それは。とか言いながら、蒼穹を仰ぎ見る腕の中の少女。
 ……って、自分から聞いておいて、その癖、本当にあるのって、流石にそれはあまりにも失礼やないか、このオンナ。

「ただ、今は見えない」

 もっとも、俺の方も彼女のツッコミ待ちの答えしか返せないのが実情。
 案の定……。

「まぁ、そりゃそうよね。所詮はその程度」

 あんたでは見た目三等星以下がお似合い、と言う感じだし。
 さも納得した、と言わんばかりに首肯くハルヒ。何と言うか、俺の曖昧な答えに対したとしても、これはかなり酷い言われ様だと思うのですが。そもそも、個人の見た目で示す星の等級が決まるようなシステムなのか?
 それに、

「いや、俺が見えないと言った理由はソッチやなくて、季節が合わない、と言う方」

 そもそも、俺を示す星は夏の星座に属する星。故に、真冬。それも冬至の頃は昼間の氷空にあるはずなので、この時間帯では見えない。

「星自体は真夏の夜空を探せば必ず見つかる。それぐらい有名な星やで」

 オマエ、今年の夏に、その星に向かって何かを願った……と言う話を聞いたけど。
 もっとも、俺の場合は誰かから聞いた訳ではなく、資料を読んだ、と言う方が正しいのですが。

「……って、あんたが彦星だって言うの?」

 そんな馬鹿な話はないじゃない。あんたなんか天蓬元帥(てんぽうげんすい)捲簾大将(けんれんたいしょう)で十分でしょ。
 ……おいおい、コイツ、ドサクサに紛れて何を口走っているんだ、と、そう聞き返したくなるような彼女の言葉。ただ、その内容は兎も角、彼女自身が驚いているのは間違いない。

「ひとつ教えて置いてやるが、天界的に言うとその二人は俺よりもずっと位が高い二人やぞ。その関連で言うのなら、俺は三蔵法師がまたがっているお馬ちゃんや」

 但し、残念な事に俺はその二人との直接の面識はないのだが。お馬ちゃんの方も、白龍王に息子が居た……と言う話は記憶にはないので、未だインストールされていない部分の記憶に存在するのか、俺が当時の水晶宮を去ってから後に誕生したのか、そもそも、その存在自体が創作の部分なのかはっきりはしない。

 ただ……。

「良かったな、ハルヒ。布団越しとは言え、俺に馬乗りになった事で、神話や伝承的に言うと三蔵法師や龍の子太郎と同格になったぞ」

 何が良かったのかさっぱり分からないが、次から次へとぶっちゃけ話が跳び出して来る俺の話。これでは他人に話したとしても絶対に信用はされないでしょう。
 そもそも、三蔵法師の方だけなら未だしも、龍の子太郎と同格となって嬉しいのか、と言う真っ当な疑問は封殺。

 それなら、証拠を……って、それは流石に無理よね。
 独り言のように俺の腕の中で呟くハルヒ。既に俺の首に回して居た腕は自らの胸の前で組み、考える者のポーズ。
 もっとも、本当は彼女を支えている俺の両腕すら必要としていないのですが……。

「そうよ、織姫の事を話しなさい」

 
 

 
後書き
 I still love you
 ……愛してる、に聞こえるよねぇ。などと意味不明な事を言ってみる。ちなみにコレはい抜き言葉なので、地の文には使えません。
 真面な日本語で書かれた小説ならばね。

 季節的に七月七日の夜の部分は触れないので。
 ……と言うか、色々と伏線は仕込んでいたから分かっていた可能性はあると思うけど。

 それでは次回タイトルは『牛郎織女伝説』です。
 笹の葉がある時期はハルケギニアにいたので。……って、オイオイ。
 その頃なら文化祭の代わりに何処かで歌っていたよね、確か。

 ちなみに、ハルヒの鼻歌の内容は、この後書きの枕とは関係はあまりありません。
 まったくない、とも言わないけれども。

 最後。指輪を贈ると言うのは少し重い意味になる……と書きましたが、アンクレットは更に重い意味になるんだよねぇ。
 そもそも、足首に何を付けるのか想像するとその意味は分かると思う。
 まぁ、魔術的な意味を補強する事となるとも思うから、主人公からハルヒに贈るアイテムとして相応しいかも知れないけど……。
 
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