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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第58話

~夕方・特務支援課~



「……帰ったよ。もう、出てきても大丈夫だ。」

「…………………………………」

レンが隠れているクローゼットにロイドが声をかけると、涙を流して黙り込んでいるレンが出て来た。

「あ………」

「レン、さん………」

「………よかったのか?追いかければまだ間に合うと思うけど………」

「……ううん………いいの……レンがこの街に来た理由……その一つが無くなったから……だから………これでいいの。」

ロイドに尋ねられたレンは涙を流した後、優しげな微笑みを浮かべた。

「そう、か………」

「そんな………本当にそれでいいの……!?レンちゃん、どう考えてもあなたは………!」

レンの答えを聞いたロイドは辛そうな表情になり、エリィは真剣な表情で言いかけたが

「やめとけや、お嬢。世の中には、真っ当な人間には想像もつかない事情だってある。他人が口出せることじゃねぇ。」

「そ、それは………」

ランディに忠告され、黙り込んだ。

「………わたしも同感です。」

「…………………………………」

「ふふっ……そんな顔をしないで。それに今のレンにもちゃんと両親や家族がいるわ………レンはあの人達から離れる事なんてできないし、今の生活は変えられないし………何より血に染まったこの手であんな幸せそうな”家族”の手は握れないわ………」

「で、でも!”あの方達”なら事情を話せばきっと………!」

レンの話を聞いたエリィは真剣な表情で言おうとしたが

「エリィお姉さん、いいのよ。レンは”今の両親や家族”もとっても大好きだから、レン自身離れたくないもの………」

「レンちゃん………」

微笑みながら言ったレンの言葉を聞いて複雑そうな表情で黙り込んだ。

「―――ありがとう、お兄さん。レンの帰り道を邪魔している幾つもの大きな岩………その一つを取り除いてくれて。」

「そっか………力になれたのなら光栄だよ。」

「ふふっ………エリィお姉さん達も感謝しているわ。……今日のお礼はいずれ、ちゃんとさせてもらうから……だから……レンはこれで失礼するわね。」

そしてレンは上品な仕草でロイド達に会釈をした後、去って行った。

「あ………………」

レンの行動に声をあげたロイドは仲間達と共にレンがビルから出て行く様子を見守った。

「…………………………………」

「………本当によかったの?追いかけて保護しなくて……」

「ああ……もちろんそれは考えたけど。でも、それは俺達の役目じゃない気がしたんだ。」

「へぇ……?」

「ロイドさんお得意の推理ですか………?」

「いや、推理というか―――」

ティオに尋ねられたロイドが答えかけたその時

「あの~、ごめんくださーい!」

「誰かいませんか~?」

聞き覚えのある女性達の声が聞こえてきた。

「今のは………」

「1階からみたいね。」

声に気付いたロイド達は1階に降りた。



「あら………」

「君達は……」

ロイド達が1階に降りるとそこにはエステルとヨシュア、ミントがいた。

「えへへ……こんにちは。いきなりゴメンね?連絡も無しに訪ねちゃって………」

「お邪魔かと思ったんですけど至急、確認したいことがあって………少しだけお時間を頂けませんか?」

「それは構わないけど………」

「一体全体、なんの話だよ?」

「”黒の競売会(シュバルツオークション)”の件についてでしょうか……?」

ヨシュアの話を聞いたロイドとランディは不思議そうな表情をし、ティオは尋ねた。

「うーん、あれはちょっと保留中っていうか………そ、それよりも………今日の午後、ロイド君がある人物と一緒に歩いたって目撃情報を聞いたんだけど………」

「ある人物………?」

「………スミレ色の髪の女の子だよ。確か、白いドレスを着ていたと思うんだけど………」

エステルの話を聞いて不思議そうな表情をしているロイドにミントは言った。

「えっと、それって………」

「レンちゃんの事、よね?」

「っ!!!」

「やっぱりレンちゃんだったんだ………!」

そしてエリィが答えるとエステルは息を呑み、ミントは真剣な表情で言った。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あの子………君達の関係者だったのか?」

「ううん、違うわ。あの子の関係者は聖女様やプリネ達――――メンフィル皇室関係者なんだから。」

「ええっ!?」

「おいおいおい、マジかよ………!?というかエステルちゃん、今メンフィルのお姫さんの事を呼び捨てにしていなかったか………?」

「「…………………………………」」

エステルの話を聞いたロイドは驚き、ランディは驚いた後尋ね、エリィとティオは黙り込んでいた。

「ええ。だって、プリネとは友達だもん!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!レンの関係者がメンフィル皇室関係者って事はまさかあの子………!」

尋ねられたエステルは力強く頷き、ある事に気付いたロイドは驚きの表情でエステル達を見つめ

「うん、そうだよ~。レンちゃん、メンフィル帝国のお姫様なんだ。それもレンちゃんの”今”の両親はみんなも知っている人達だよ?」

「…………………」

「………一体、誰なんだ?」

ロイドの疑問にミントは微笑みながら答え、それを聞いたロイドは口をパクパクさせ、ある事が気になったランディは尋ねた。

「―――メンフィル前皇帝であり、現メンフィル大使”剣皇”リウイ・マーシルン陛下とゼムリア大陸のアーライナ教会の最高指導者”闇の聖女”ペテレーネ・セラさんだよ。」

「「……………………」」

そしてヨシュアの答えを聞いたロイドとランディは固まり

「えええええええええっ!?」

「おいおいおいおい………!貿易商の娘だったあのお嬢ちゃんが一体どういう経緯でそんな事になったんだよ………!?」

それぞれ大声で驚きの表情で叫んだ。

「え………という事はロイド君達、レンの”本当”の両親の事、知っているの?」

ロイド達の様子を見たエステルはある事に気付いて尋ね

「あ、ああ。貿易商のヘイワーズ夫妻だろ?エステル達もハロルドさん達の事、知っているのかい?」

尋ねられたロイドは頷いた後尋ね返した。

「うん………クロスベルに来てからはあの子の本当の両親の事を一通り知っちゃって………どうやったらあの子に本当の両親には捨てられていなく、愛されていた事を教えてあげればいいのか、悩んでいて………あの子、ハロルドさん達の事、心から嫌っている上憎んでいるし………」

(相変わらずお人好しですわね。………まあ、そのお人好しに救われた私が言う台詞ではありませんが……)

ロイドの疑問にエステルは答えた後、辛そうな表情になり、それをエステルの棒を通して見ていたフェミリンスは溜息を吐いた後、苦笑していた。

「いや………あの子の事情はよく知らないけど………レンはもう、ハロルドさん達の事を許していると思うよ。」

「えっ!?」

「一体それってどういう事!?」

そしてロイドの話を聞いたミントは驚き、エステルは血相を変えて尋ねた。

「………どうやら今日の出来事を一通り説明した方が良さそうね。」

その後ロイド達はエステル達にハロルド達に依頼されたコリンの捜索の事件の流れを説明した。



「―――そういうわけで、ちょうど君達と入れ違いであの子は帰って行ったんだけど………ちょ、エステル!?」

事情を説明し終えたロイドは涙を流し始めているエステルを見て驚いた。

「あ………や、やだな………どうしてこんな………うぐっ………ひく……うっ………ああああああっ………!」

「エステル………」

「よかった………レンちゃんが本当のパパたちに愛されていた事を知ってよかった………」

そして大声で泣き始めたエステルを見たヨシュアは優しげな微笑みを浮かべてエステルの肩に手をのせ、ミントは涙を流して微笑んだ。

「ご、ごめんねヨシュア………それにロイド君達も………でもあたし………何て言ったらいいのかわからなくて………捨てられたんじゃないって………ちゃんと愛されていたんだって………あの子がやっと………辛くて哀しくて……優しい真実に………ちゃんと向き合うことができて………うううっ………」

「辛くて哀しくて、優しい真実………」

「ハロルドさん達の話か……」

「―――幾つもの哀しい偶然と誤解があったんだ。その結果………とても過酷な道を歩いてきたあの子は自分自身を騙すことにしてしまった。リウイ陛下とペテレーネさんを本当の両親だと思い込むことで真実を突き止めることを放棄したんだ。でも……それは無理もない話だった。」

「………なるほど。幼いがゆえに自己防衛か。」

「ですが………それでは前に進めません。それどころか………本当の意味で”今の家族”と”本当の家族”同様に接する事もできない。」

ヨシュアの説明を聞いたランディは重々しい様子を纏って頷き、ティオは辛そうな表情で言った。

「うん………だからこそミント達は、レンちゃんが真実に向かい合える勇気を持てるように手助けするつもりだったんだ。調べた限り、真実は哀しかったけれどそこには確かな愛情もあったから……だからきっと………今のレンちゃんなら乗り越えられると思ったんだ。でも………もうその必要はないみたいだね?」

「………ああ。少なくとも彼女は全て理解したみたいだったよ。」

「そっか……ありがとう、ロイドさん。それにティオちゃんや支援課のみんなも。何てお礼を言えばいいか……」

ロイドの答えを聞いたミントは頷いた後、ロイド達に微笑んだ。

「はは………気にしないでくれよ。成り行きみたいなものだったし、あの子には世話になったからさ。」

「ふふ………確かにそうね。」

「ぐすっ………うん。―――ロイド君、エリィさん、ティオちゃんにランディさんも。改めて、あたしからもお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。」

そして気を取り直したエステルはロイド達を見つめた後、頭を深々と下げた。

「エステル………」

「………エステルさん………」

エステルの行動を見たロイド達は微笑ましそうに見つめていた。

「今後、僕達の力が必要ならいつでも遠慮なく言って欲しい。もうお互い、警察とか遊撃士とかわだかまりなんて無いだろうしね。」

「うんうん!全力で協力させてもらうわ!」

「ミントも一杯協力するね!」

「はは………わかった。いざという時は、本気でアテにさせてもらうよ。」

その後、ロイドはそれぞれの支援要請を終えて戻って来たセティ達やルファディエル達と合流して、エステル達と東通りにある”龍老飯店”へと向かい、夕食を共にして互いに親睦を深めた。3人の故郷”リベール王国”で起こった『異変』の真相とその顛末や『異変』を起こした”結社”という謎の組織について………レンがメンフィル皇女になった経緯の中にある”D∴G教団”事件について………そして『異変』の後に起こった”影の国”という場所に巻き込まれた出来事………驚きに満ちた様々な情報を聞きながら記念祭4日目の夜は更けていくのだった………
 
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