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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第52話

~歓楽街・カジノハウス”バルカ”~



「おお、来てくれたか!ありがたい!いつ喧嘩が始まるものかと………!」

カジノに入って来たロイド達に気付いた町長は安堵の表情を浮かべた。

「それで、ガンツさんと相手のお客さんは!?」

「ああ………あちらの奥にある特別室で一対一の勝負をしているんだ………早くしないとガンツが相手に暴力を振るうかもしれない………!」

「へ………」

「ガンツさんが相手の逆恨みを買ったんじゃ………」

町長の言葉を聞いたロイドとエリィは戸惑った後、ガンツがいる部屋に向かった。



「おーし、コイツでどうだ!ダイヤの9、10、J、Q、Kのストレートフラッシュ!これ以上の手はねえだろうが!」

ロイド達が部屋に入る少し前レクターとポーカーの対決をしていたガンツは自分の手札を対戦相手―――レクターに見えるように机に置いた。

「ぐはっ、マジかよ!まさか最後の大勝負でそんな手で来るとはなァ………」

ガンツの手札の”役”を確認したレクターは驚いた後溜息を吐き

「ハッ!これが俺様の実力なんだよ!……セコイ手で何度も引き分けに持ち込みやがったがこれでケリを付けてやる………とっとと手を晒して往生しろや!」

ガンツは不敵な笑みを浮かべた後、レクターを睨んで怒鳴った。

「ん、何言ってんだ?負けたなんてオレは一言も言ってないだろうが。」

「フ、フカシこいてんじゃねえ!俺の手に勝てるとしたらロイヤルストレートフラッシュしか残ってねぇんだぞ!?そんなモンがそうそう出るはずが―――」

レクターの言葉に驚いた後、すぐに気を取り直してレクターを睨んだその時

「残念―――ハズレだ。」

レクターは自分の手札を机に置いた。

「…………………………え”。」

レクターの手札の”役”を見たガンツは呆け

「ファイブ・オブ・ア・カインド……しかもA(エース)のファイブカードですか!!いやはや、まさかこの場面でお目にかかれるとは………!」

2人のカード配り役をしていたオーナーは驚いた後滅多にみられない勝負のレベルの高さに興奮していた。



「ロイヤルストレートフラッシュを上回るかはルール次第だが………どっちにしてもアンタの(ストレートフラッシュ)よりは上なのは間違いないだろ。」

「ふ、ふ、ふ、ふ………ふざけんな!イカサマだ!おいオーナー!てめぇグルしてやがったな!?」

レクターの説明を聞いた後、ガンツはソファーから立ち上がって怒鳴った後オーナーを睨み

「と、とんでもない!女神(エイドス)に誓ってありませんとも!それと私が見る限り………レクター様がイカサマを使っていた形跡もありませんでした!」

「るせえっ!!そんなのが信じられるかあッ!!俺は最高のツキとカンを手に入れたんだああッ!!こんなふざけた野郎に負けるはずがないだろうがあッ!!」

説明するオーナーに近づいて、襟元を掴んでオーナーを宙に上げた。

「お、お客様……」

「おいおい、落ち着けよ~。―――ま、勝負は時の運。アンタの運もここまでだったってことサ!(キリッ)」

「……………………………………」

レクターの指摘を聞いたガンツは怒りの表情で黙り込んだ後、掴みあげていたオーナーを壁に突き飛ばし

「ゲホゲホッ………」

突き飛ばされたオーナーは咳をしていた。

「あり得ねぇ……俺が負けるはずねぇんだ………アレを使った俺がギャンブルで負けるはずが………」

そしてガンツが独り言を呟いたその時ロイド達が部屋に入って来た。



「ガンツ………!?」

「いけない………!」

状況を見た町長は驚き、ロイドが声をあげたその時

「負けるはずがねえんだよおお!!」

ガンツがレクターに掴みかかろうとした。しかしロイドと町長がすぐにガンツを取り押さえ

「おおおっ!離せ、離しやがれえええっ!!」

取り押さえられたガンツは叫びながら暴れた。

「お、落ち着いてください!(って、何だこの力は………!?)」

「ガンツ!どうか落ち着きなさい!」

「おお、アンタらか~。どうよ、元気にしてたか?」

ロイドと町長がガンツを必死に取り押さえ宥めようとしていたその時、ロイド達に気付いたレクターは呑気に挨拶した。



「ふう………呑気に挨拶されても。」

「挨拶をするのなら場の空気を読んで挨拶してよね。」

「………相変わらず色々と怪しすぎです。」

「へえ、面白い子ねぇ。あなたたちの知り合いなの?」

レクターの態度にエリィとレンは呆れ、ティオはジト目でレクターを見つめ、グレイスは口元に笑みを浮かべて尋ねた。

「いや、知り合いっつーほど知ってるわけじゃねえが―――」

グレイスの質問にランディが疲れた表情で答えかけようとしたその時

「って、ストレートフラッシュとファイブカードだと!?オイオイオイ!?なんつー勝負してんだよ!?」

机に置かれていたそれぞれの手札の”役”を見て驚いた。



「いや~、危なかったぜェ。負けたら身ぐるみ剥がされる寸前だったんだけどよ~。」

「クスクス、それは残念ね。身ぐるみ剥がされたお兄さんはどんな反応をしてどんな事をするのか興味があるし。」

「よ、よくわからないけど………」

「何とか傷害沙汰だけは回避できたみたいですね。」

「離せ、離しやがれえええっ!!俺は………俺は絶対に負けるはずがないんだあああ!!!」

その後、ガンツはあらん限りの力で暴れ喚いてから不意にぐったりと気絶してしまい、ロイド達はホテルの部屋まで気絶した彼を運んだ。



~ホテル・ミレニアム~



「おお女神よ………一体どうしてこんな事に………だらしないが気のいい、誰からも好かれる男だったのに………」

「町長さん………」

ベッドに寝かされたガンツを嘆きながら見つめている町長をエリィは心配そうな表情で見つめていた。

「しかしまあ、とんでもない暴れっぷりだったよな………まさか俺とロイドの2人がかりで取り押さえる羽目になるとは思わなかったぜ。」

「ああ………正直、物凄い力だった。」

「「………………………………」」

「ねえ………これは率直な印象なんだけど。その人、何か危ないクスリでもやってるんじゃない?」

「な………!?」

「そ、それは………」

「マジかよ!?」

グレイスがふと呟いた推測を聞いた町長とエリィ、ランディは驚いてグレイスを見つめ

「あら、ロイド君とティオちゃん、それにレンちゃんはあたしと同意見かしら?」

見つめられたグレイスはランディ達と違い、何の反応もしていない3人に尋ねた。



「………それは……………」

「フウ……本人や町長さんの為にもその可能性はできれば捨てたかったのだけどね。」

「………あまり滅多な事を言うつもりはないんですが………可能性はあるかもしれません。」

尋ねられたティオは言いよどみ、レンは疲れた表情で溜息を吐き、ロイドは一瞬戸惑ったが真剣な表情で答えた。

「ば、馬鹿な………薬物なんてあり得るものか!ただの普通の鉱員だぞ!?そんな物に手を出すはずが―――」

「でも、こちらに来てから半月近く経ってるんでしょう?相当ミラも儲けていたはずだし、そこに付け込まれた可能性は無いとは言い切れないのでは?」

「い、いい加減にしたまえ!君はクロスベルタイムズの記者という話だったな………憶測で記事を書いたりしたら厳重に抗議させてもらうぞ!?」

「あー、別に記事にするつもりは無いんですが。」

一方グレイスの推測を聞いた町長は信じられない表情をした後グレイスを睨み、睨まれたグレイスは疲れた表情で答えた。



「―――ビクセン町長。念の為、ガンツさんの私物を確かめても構いませんか?」

「ロイド君、君まで!?」

そしてロイドまでガンツが薬物を摂取している事を疑っている事に驚いた町長は信じられない表情でロイドを見つめた。

「決め付けるつもりはありませんが色々と符号する事も多いんです。あの暴れ方、凄まじい力、そして変ってしまった性格………過去、幾つかあった薬物事件と似たような反応が見られるんです。それに、比べものにならないくらいギャンブルの腕が上がったのも………」

「………クスリのせいで知覚が異常に過敏になったせいかもしれねぇな。それで相手の心理を読み取ったり、カンが働いてたのかもしれねぇ。」

「………そうですね。多分、わたしが賭け事をすれば、他の人よりも有利になるはずです。」

「それには同感ね。ティオより”上”のレンがやれば、このお兄さんみたいにほぼ確実に勝てるでしょうね。」

「ティオちゃん………レンちゃん………」

「……悪ぃ。んなつもりじゃ無かったが。」

「いえ、気にしてません。―――町長さん。ガンツさんの名誉のことを気にするのはわかります。でも、もし本当に何らかの薬物だった場合………このまま放置しておいたらどんな危険があるかわかりません。」

「そ、それは………」

ティオの推測を聞いた町長は表情を青褪めさせ

「中毒症状に後遺症………まあ、色々と考えられそうね。」

「ええ、薬物による被害で一番怖いのはそこだと思います。」

「後遺症なんてまだマシで、最悪は”死”に到る可能性も十分にありえるものね。」

「………わかった………思慮が足りなかったようだ。ロイド君、お願いする。」

グレイスとロイド、レンの話を聞いて考え込んだ後、重々しい様子を纏ってロイドを見つめて頭を下げた。



「………はい。」

町長の許可を得たロイドはガンツを起こさないように注意して懐などを探って行った。すると

(………………これは……………)

なんと蒼い錠剤が入った小さなビニール袋がガンツの懐に入っており、それを見たロイドは真剣な表情をし

「そ、それは………」

「おお、女神よ………」

「まさか本当にあったなんて………」

「綺麗な色をしてやがるが………いったい、どんなクスリなんだ?

「「……………………………」」

それを見たエリィは驚き、町長は嘆き、グレイスは信じられない表情をし、ランディは目を細め、ティオとレンは真剣な表情で黙り込んでいた。



「―――まだこの薬が原因と決まったわけじゃない。ひょっとしたら何か持病の薬かもしれないし。町長、ガンツさんに持病は?」

「………知る限り無かったはずだ。もちろん断言はできないが………」

「わかりました。……この薬はいったんこちらで預からせて頂いても?」

「ああ………よろしくお願いする。だが、どうか………!どうか事を大きくするのは………!」

ロイドに尋ねられた町長は頷いた後、ロイドに嘆願し

「ええ、ガンツさんの名誉には配慮させていただきます。ガンツさん自身についてはそちらにお任せしても………?」

嘆願されたロイドは頷いた後町長に尋ね

「ああ………任せてくれたまえ。もし目を覚ましたら改めて話を聞いてみるつもりだ。」

「ええ、よろしくお願いします。」

町長の答えを聞いて頷いた。その後ロイド達は町長をガンツが泊まっている部屋に残して部屋を出た。



「―――ふう、それにしてもクロスベルで薬物疑惑とはねぇ。珍しいこともあるもんだわ。」

「そうなんスか?てっきりマフィアあたりが色々扱ってると思ってたんだが。」

部屋を出た後呟いたグレイスの言葉を聞いたランディは意外そうな表情をした後、目を細めて呟いた。

「ところがどっこい、クロスベルで違法薬物ってのはあんまり出回ることはないのよ。何しろ他の犯罪と違って、周辺諸国にも広がりかねない影響力のある犯罪だからね。帝国や共和国からの圧力もあって捜査一課の手で違法薬物は厳重に取り締まられてるらしいの。そしてルバーチェなんかもその辺の空気は読んでるわけよ。」

「そうだったんですか………」

「そのあたりの事情は俺も警察学校で教えてもらいました。でも、この錠剤は………」

グレイスの説明を聞いたエリィは意外そうな表情をし、ロイドは頷いた後懐から蒼い錠剤が入ったビニール袋を取り出した。

「蒼色の錠剤………見た目は綺麗な感じだけど。」

「なんつーか………やたらと怪しげな感じだな。」

「「……………………………」」

ロイドが取り出したビニール袋をエリィとランディは真剣な表情で見つめ、ティオは辛そうな表情で、レンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。



「ティオ、レン。何か心当たりが?」

二人の様子が気になったロイドは二人に訊ねた。

「……悪いけど、レンには心当たりはないわ。」

「……わたしもです。ただの気のせいだと思います。でも、その錠剤……一体どうするつもりなんですか?」

「そうだな………俺達だけで決めるのはちょっと大事(おおごと)すぎるかもしれない。いったん戻って課長に相談しよう。」

「ええ、それがいいと思うわ。昨夜の襲撃事件についても報告した方がいいでしょうし。」

「薬物が関わってくるとなるとひょっとしたら遊撃士協会にも相談する必要が出てくるかもしれないわね。」

「マフィア同士の抗争に加えてクスリ絡みの事件の可能性か………ったく、とんでもなく忙しくなりそうな気がしてきたぜ。」

「ふふっ………」

ロイド達が話し合っているとグレイスは微笑み、グレイスの様子に気付いたロイド達は振り向いてグレイスを見つめた。



「いや~、あなたたちと知り合って4ヵ月になるけど………ずいぶん成長したな~って、お姉さん感慨に浸かっちゃうなぁ。」

「グレイスさん?」

「い、いきなりどうしたんですか?」

「誉めても何もでませんが………」

グレイスの言葉を聞いたロイドとエリィは戸惑い、ティオはジト目で見つめて先にくぎをさした。

「いやいや、マジな話、あなた達には期待してるのよ。ロイド君のお兄さん………ガイ・バニングスと同じくらいね。」

「そ、そういえば……前にも言ってましたけど。グレイスさんは兄貴と知り合いだったんですか?」

「あたしが新米記者だったころ、色々とお世話になったのよね~。結局、ガイさんの事件については迷宮入りになっちゃったけど………それでも、彼の遺志を継ぐ部署が警察に出来て凄く嬉しかったわ。」

「え……」

「ロイドのお兄さんの遺志を受け継ぐ部署……?」

「………………」

「おっと、これ以上喋ると課長さんに怒られちゃうかな。あたしも取材があるし、今日の所はこれで失礼するわね。あ、クスリの件については勝手に記事にしないから安心して。それじゃあ、バハハーイ。」

ロイド達に対して意味深な言葉を残したグレイスは去って行った。



「…………………………」

「ったく、思わせぶりなことを言うだけ言って行きやがったな。」

「あの様子だと”特務支援課”発足誕生の事についても何か知っているでしょうね。」

「はぁ………ただでさえ考えることが山ほどあるのに。」

「………ですね。」

グレイスが去った後ロイドは考え込み、ランディ達は溜息を吐いた。

「ロイドさん………ガイさんの話、気になります?」

「ああ、いや…………――――確かに気にはなるけどどう考えても今は後回しだ。黒月とミシェラムの襲撃、ルバーチェの状況、そしてこの蒼い錠剤………一通り課長に報告した上でどうするか検討してみよう。」

「………はい。」

「ええ、わかったわ。」

「よし、それじゃあとっとと支援課に戻るとしようぜ!」

その後ロイドは支援課のビルに仲間達と共に戻った。



~特務支援課~



「なんだ、遅かったな。”黒月”の方の聞き込みはそんなに時間がかかったのか?」

「ええ………実はそれとは別に気になる事件に出くわしまして。」

「”黒月”並びにミシェラム襲撃事件と合わせて一通り報告させていただきます。」

そしてロイド達はセルゲイに自分達が手に入れた情報を報告し始めた――――――


 
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