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ブブ

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第一章

                 ブブ
 ジブチと聞いてだ、タンカーの船員をしている車田雄太郎は先輩の秋本幸四郎に首を傾げさせてこんなことを言った。
「大変な状況ですよね」
「ああ、まだな」
 実際にとだ、秋本も車田に答えた。二人は今そのタンカーの中にいる。何十万トンもある巨大なタンカーで日本と中東を行き来して石油を運んでいる。
「相変わらずだよ」
「それでそのジブチにですか」
「一旦停泊することになった」
 目的地であるクウェートに行くまでにだ。
「ちょっとエンジンの調子が悪くてな」
「チェック、それでですね」
「修理するかも知れない」
 そのエンジンをというのだ。
「まあそれでもな」
「少しの間ですね」
「あくまで一時だ」
「ジブチに停泊ですね」
「あそこも今は海賊も減ったしだ」
「国連のPKOもいて」
「俺達のタンカーの安全は保障してくれる」
 このことは安心していいというのだ。
「だからな」
「心配無用ですね」
「そうだ、怖がることはないさ」
「だといいですけれどね」
 車田は首を傾げさせつつ言った、今二人は非番で二人で日本から持ち込んだ酒とつまみを口にしている。二人共長い船旅の中で無精髭が生えている。痩せた車田の顔にも四角い秋本の顔にもだ。
 車田はその丸い目でだ、秋本の細い目を見つつ言った。二人共髪も結構伸びてきていて無精な感じは髭だけではない。
「いや、ジブチとかソマリアは」
「どうしてもだよな」
「そうした物騒な印象があるのだ」
「実際内戦してたからな」
「はい、何かあるんじゃないかって」
「思うな」
「エチオピアは静かになったらしいですけれど」
 悪名高きメンギスツ政権が倒れてからだ、この政権がエチオピアにもたらしたものは破壊と飢餓と貧困と絶望だけだった。
「ジブチとかは」
「ソマリアが大きいな」
「そのイメージが、ですね」
 内戦、海賊のそれがだ。
「どうしても」
「それは仕方ないがな」
「それでもですね」
「それだけじゃないからな」
 そのジブチにしてもだ。
「安心しろ」
「それじゃあ」
「あとな」
 缶ビールを飲みつつだ、秋本は車田に言った。車田は柿ピーナッツを食べながらそのうえで応えている。
「御前アフリカの娘は好きか」
「アフリカの」
「ああ、好きか?」
「俺的には日本の娘が一番ですけれど」
 好みを聞かれると、というのだ。
「渡辺麻友ちゃんみたいな」
「御前はまゆゆ推しか」
「はい、そうです」
「俺はゆきりんだ」
 柏木由紀さんだというのだ。
「ゆきりん推しだがな」
「あっ、そうなんですか」
「まあアフリカの娘もな」
「嫌いじゃないですか」
「別に偏見はないつもりだ」
「それは俺もですよ」
 車田もこう返した。
「別に嫌いじゃないです」
「そうか」
「まあそうした店に行くつもりはないですけれど」
「行くのなら注意しろよ」
「病気とかにですか」
「船乗りにはそうした話が多いからな」
 昔からだ、梅毒を世界に瞬く間に流行させたのは船乗り達だと言われている。 
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