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流し目

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4部分:第四章


第四章

「やっぱりそうだったわ」
「新渡戸君からね」
「新渡戸君からの手紙だったのね」
「そうよ。それでね」
 麻衣も声がうわずっていた。そうして言ったのである。
「今日の放課後にね」
「学校の体育館裏ね」
「そこなのね」
「そこで会いたいって」
 まさにだった。彼女達の予想通りだった。
「書いてあったの」
「じゃあそこに行ってね」
「それでなのね」
「そう、行くわ」
 こうしてだった。麻衣はその体育館裏にだ。放課後行った。
 するとそこにはその彼がいた。そうしてだった。
 おずおずとした仕草で何処か怖がっている様な口調でだ。麻衣に言ってきたのだ。
 麻衣から見て右手には体育館の白い壁があり左手には茂みがある。二人はその間にいてそうしてだ。二人で向かい合って話すのだった。
 彼はだ。まずはこう麻衣に言ったのである。
「あの、下駄箱のことだけれど」
「あのお手紙よね」
「うん、それでなんだけれど」
 言葉が中々出ない感じだ。しかしそれでもだった。
 彼はだ。何とかといった感じで言葉を出したのだった。
「僕、雅さんとよかったら」
 そしてだった。ここでも何とかだった。
 言葉を出してだ。こう言ったのである。
「付き合いたいけれど」
「私と」
「駄目かな、その」
 言ってしまってからもだ。彼は何処か怯えていた。
「雅さんと」
「いいよ」
 笑顔でだ。こう答える麻衣だった。
「私も。そのね」
「雅さんも?」
「好き・・・・・・だったから」
 顔を赤らめさせ少し俯いて口元を微笑まさせてだ。
 麻衣はだ。こう彼に答えたのである。
「だからね。私でよかったら」
「えっ、雅さんもなんだ」
「そうだったの」
「相思相愛だったんだ」
 最初は片思いだったことはだ。新渡戸は知らなかった。
 だがそれでもだ。彼の中ではそうでありだ。
 こうだ。笑顔で言うのだった。
「よかった、本当に」
「これからもね」
「うん、宜しくね」
 こうしてだった。麻衣は意中の彼と交際できることになった。次の日このことをだ。
 屋上でお昼御飯を食べながらだ。クラスメイト達に話すのだった。
 麻衣はこの日は唐揚げ弁当、昨日の夜の残りを自分が朝早く弁当箱に入れて作ったそれを食べていた。唐揚げの他にはやはり昨夜のおかずだったほうれん草のおひたしとプチトマト、それに漬物がある。
 それを白い御飯と共に食べながらだ。友人達に笑顔で言うのだ。
「幸せ、今とても」
「そう、やっぱり告白だったのね」
「それ受けたのね」
「そうよ。告白された時は」
 どうかとだ。その笑顔で話すのである。
「夢みたいだったわ」
「言うわね。そこまでなの」
「そんなに幸せなのね」
「幸せよ。だってずっと好きだったし」
「確かにね。その相手と一緒になれるってね」
「やっぱりいいことよね」
「そうよね。これってやっぱり」
 どうしてかとだ。麻衣は言うのだった。
「流し目のお陰よね」
「まさかねえ。こんなに効果があるなんてね」
「思いも寄らなかったわ」
「ここまでなんて」
「私もそう思うわ。けれどね」
 どうかとだ。麻衣自身も言う。
「目って本当にそれだけの力があるのね」
「そうね。流し目を見せるだけでこんなに力があるなんて」
「そのことがよくわかったわ」
「本当にね」
 こう話してだった。彼女達もだ。
 それぞれのお昼御飯を食べながらだ。こう言うのだった。
「じゃあ私達もね」
「やってみようかしら」
「そうしてみる?」
 こう話してだった。彼女達も実際に流し目をしてみるのだった。それからだった。この学校では女の子の間で流し目が流行った。そしてカップルが次々に誕生したのである。


流し目   完


                          2011・11・4
 
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