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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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外伝~叡智の契約~(2章終了)


~数日後・特務支援課~



「いやはや………スゲエ事件になったな。今頃、市民の大半が大騒ぎしてるんじゃねえか?」

「まあ、アルカンシェルの新作のお披露目中に市長の暗殺未遂ですから………スキャンダル、ここに極まれりといった感じですね。」

「市長に同情的な意見が多いのは不幸中の幸いだったけど……でも、結局アーネストと関係していた帝国派議員の名前は上がってないか……」

ランディとティオの話を聞いたロイドは疲れた表情で溜息を吐いた後、複雑そうな表情で考え込んだ。」

「まあ、規制されてんだろ。それに流石に、あの暗殺未遂は秘書野郎の暴走なんじゃねえのか?」

「ああ………多分ね。帝国派にとって市長を暗殺するほどのメリットなんてそれほど無いし………ただ、ルファ姉が推理したように暗殺者を”銀”に仕立てて”黒月”と関係のある共和国派への攻撃材料にする可能性はあるか。」

「なるほどねぇ……」

「でもあの秘書の人………何だか様子がおかしかったです。正気を失っているというか………歯止めが利かなくなってるというか。」

ロイドの話を聞いたランディは頷き、ティオは考え込みながら呟き

「それと身体能力が凄かったよね?」

「ええ………あれほどの身体能力、闇夜の眷属達と変わりませんよ。」

シャマーラは疑問に思った事を口にし、セティは真剣な表情で頷いた。

「ああ………それらは俺も思った。一課が取り調べをしてるらしいけど結局、どうなったんだろう?」

ティオ達の言葉に頷いたロイドが疑問を口にしたその時

「―――どうやら錯乱しちまって話せる状態じゃないらしいな。」

セルゲイの声が聞こえてき、課長室から現れたセルゲイがソファーに座っているロイド達に近づいた。

「取り調べができる精神状態ではないんですか?」

「ああ、ラチが明かないんで一旦拘置所送りにするそうだ。教会のカウンセラーかウルスラ病院の助けを借りるつもりらしいぜ。」

エリナの疑問を聞いたセルゲイは頷いて答えた。

「そうですか………」

セルゲイの話を聞いたロイドは溜息を吐いた。

「クク、しかしお前らもとんだ大金星じゃねえか?今日本部に行ったら、あのキツネが猫撫で声を出してお前らのことを誉めてたぜ。」

「ええっ!?」

「想像しにくい光景ですね………」

「つうか嬉しくも何ともない情報だな………」

セルゲイの話を聞いたロイドは驚き、ティオは呆れ、ランディは溜息を吐いた。

「キツネだけじゃなくて警察全体の話でもあるがな。ま、ルファディエルの言葉通りまんまと囮に使われた一課は複雑だろうがこれでお前らを見る目が少しは変わるのは確かだろう。素直に喜べよ。」

「そう………ですね。」

「でも、素直には喜べないよね………」

「ええ………傷は浅かったとはいえ、エリィさんのおじいさまが怪我をされたのですから………」

そしてセルゲイに言われたロイドは頷き、シャマーラは複雑そうな表情で呟き、シャマーラの言葉にエリナは静かに頷いた。



~住宅街・マクダエル家~



「そ、そんな………明日から復帰するなんてそんなの早すぎます………!」

一方その頃休暇をとって実家でヘンリーの看病をしていたエリィはヘンリーのある言葉を聞いて心配そうな表情でヘンリーを見つめて言った。

「なに、たかが掠り傷の上、傷自体もルファディエル警部の治癒魔術のお蔭で塞がっている。5日も休んでしまってむしろ英気が養えたくらいだよ。」

心配そうな表情で見つめるエリィにヘンリーは微笑みながら言った。

「じょ、冗談言わないでください!あれほどの事があって第一秘書がいなくなって………今はゆっくりとお休みになるべきです!」

「創立記念祭も近い。仕事は山のようにあるからね。この程度のことで市長としての役割を放棄できんさ。」

「この程度のことって……………おじいさまは………辛く………悔しくないんですか?あれだけ目をかけていたアーネストさんに裏切られて………それなのに、どうして………」

ヘンリーの話を聞いたエリィは信じられない様子で溜息を吐いた後、考え込み、辛そうな表情で尋ねた。

「………今回のことがショックで無かったといえば嘘になる。聞けば、随分前から事務所の資金を使い込んでいたようだ。それで精神的に追い詰められ、暴走してしまったのかもしれない。その意味では、気付いてやれなかった私の責任でもあると思っている。」

「…………おじいさま………」

「―――だが、私は政治家だ。この身をクロスベル自治州の現在(いま)と未来のために奉げると誓った。如何なることがあろうと職務を全うする以外の選択はない。そう、自分に課しているのだよ。」

「……………………」

決意の表情で語るヘンリーをエリィは黙って見つめ続けていた。

「すまない、エリィ。10年前も私は………ライアン君を、お前の父さんを引き止めてやれなかった。そして娘も………お前の母さんも去るがままにしてしまった。そして相変わらず……無力だが必要ではあるクロスベル市長を続けている。さぞ……イリーナ共々私を恨んでいることだろう。」

そしてヘンリーは辛そうな表情でエリィを見つめて話し

「そんな………!おじいさまは私達の誇りです!お父様達は不幸がありましたが……お姉様は今では幸せに生きています。それに……哀しかったけど………きちんと乗り越えています。」

「エリィ……」

「元々私が警察に入ったのは………別の形で、おじいさまの手伝いがしたかったからです。それが、クロスベルのためにもなると信じていたから………でも、こんな事になってアーネストさんが居なくなって……私、やっぱり警察を辞めておじいさまの手伝いを―――」

静かな表情で語ったエリィは決意の表情である事を言いかけようとしたが

「馬鹿な事を言っちゃいかん!」

「お、おじいさま………?」

ヘンリーの一喝で戸惑い、ヘンリーを見つめた。

「………もしお前が、選んだ道を悔やんでいるのならすぐにでも戻ってくるべきだ。だが、そうではないのだろう?なのに道を変えるというのは多くの者に対して失礼だ。同僚にも、私にも………何よりお前自身にも。」

「あ………」

「私の事は心配はいらない。秘書は一人ではないし、いざとなればヘルマーだって助けてくれるだろう。次の市長選を期に引退することは少し難しくなってしまったが………なに、もう5年、楽隠居が遠のくだけのことだ。」

「…………………………」

ヘンリーの話を聞いたエリィは黙ってヘンリーを見つめ続け

「だからお前は………選んだ道を全うしてみなさい。少なくとも………お前自身が納得できるまで。それが私にとっては何よりの励みになるのだから。」

「おじいさま………」

「そもそも、今回の事件もお前達の働きが無かったら私は生きてはいなかったはずだ。誇りなさい。自分達の働きと成長を。そして一層輝けるよう、自分を磨いて行くといいだろう。アルカンシェルの今回の新作のようにね。」

「あ……はい、おじいさま………!」

ヘンリーに微笑まれ、力強く頷いて微笑んだ後立ち上がり

「エリィ・マクダエル―――明日をもって職場復帰し、より一層職務に励みます………!」

姿勢をただして、自分の決意を宣言した。するとその時

「だ、旦那様………!大変でございます。」

一人の老執事が慌てた様子で部屋に入って来た。

「ヘルマー?どうしたんだ。」

「そ、それが……イリーナお嬢様が夫の方や従者の方達と共に旦那様のお見舞いの為にこちらを訪ねてらっしゃいました………!」

「何………!?それは本当か………!?」

「お、お姉様達が………!?」

執事の話を聞いたヘンリーはエリィと共に驚き、尋ねた。

「は、はい。今、広間で待っていただいておりますが………いかがなさいましょう………?」

「通してくれ。はるばるリベールから来たんだ。あの娘と会うのも久しぶりだしな……」

「かしこまりました。」

そして少しの間時間がたつと部屋に執事と共に腰までなびかせる美しい金髪と金色の瞳を持つ淡い緑のドレス姿の女性が入って来た。



「おじいさま………!よくぞ、ご無事で……!暗殺されかけたと聞いて、本当に心配しました………!」

女性はヘンリーの姿を見て安堵の溜息を吐いた後、心配そうな表情でヘンリーを見つめ

「おお、イリーナ………!なに、暗殺されかけたと言ってもただの掠り傷だよ……お前にも心配をかけてすまなかったな………」

女性―――ヘンリーのもう一人の孫娘であり、エリィの姉でもある前メンフィル皇帝にして現メンフィル大使―――リウイ・マーシルンの2代目の正妃であり、”聖皇妃”の異名を持つ女性――――イリーナ・マーシルンに見つめられたヘンリーは嬉しそうな表情をした後、苦笑した。

「そんな!おじいさまは私にとって数少ない血の繋がった家族なのですから、心配して当然です!」

「フフ、そうか………今日はわざわざ、私の見舞いに来たのかね?」

「はい。それもありますが………ようやく産まれた私達の子供達とも会ってもらおうと思って………」

「何………!?それは本当かね………!?そうか……産まれたのか………!」

「お、おめでとうございます、お姉様………」

イリーナの話を聞いたヘンリーは驚いた後嬉しそうな表情をし、エリィは驚きの表情で言った。

「フフ、ありがとう、エリィ。……あなた。入って来ていいですよ。」

エリィの言葉に微笑んだイリーナは扉の方に視線を向けて言った。すると扉は開き、そこから覇気を纏い、外套がついた黒を基調とした高貴な服を身に着け、細剣を帯剣した紫がかかった銀髪の男性、赤ん坊を抱いた白を基調とした修道服を着た夕焼け色の髪を持つ女性、そして修道服の女性のように赤ん坊を抱いた黒を基調とした高貴な服を身に着け、連接剣を帯剣したイリーナと同じ金髪と金色の瞳を持つ女性が部屋に入って来た。

「………久しいな、マクダエル市長。それにエリィも。」

男性は静かな口調でヘンリーとエリィを順番に見回し

「リ、リウイ陛下………それにペテレーネ様やエクリアさんまで………」

「フフ、お久しぶりです。」

「お元気そうで何よりです。」

男性――――前メンフィル皇帝にしてメンフィル帝国を建国し、現在はリベールのロレント市にある大使館で大使として隠居生活を送り、”英雄王”、”剣皇”とさまざまな異名を持つ男性――――リウイ・マーシルンに見つめられたエリィは驚きの表情でリウイと修道服の女性―――ゼムリア大陸のアーライナ教会の最高責任者であると同時にリウイの側室の一人、そして”闇の聖女”の異名を持つ女性―――ペテレーネ・セラと金髪の女性――――イリーナの護衛兼専属侍女にして、リウイとイリーナの子供達の教育係であり、かつては”姫将軍”という異名で畏れられ、さらに”神殺し”セリカ・シルフィルの”第一使徒”でもあったエクリア・フェミリンスを見つめ、見つめられた2人はそれぞれ微笑んだ。

「……お久しぶりです、リウイ陛下。この度は私のせいで遠路はるばるお越し頂き、まことに申し訳ありません。」

「フ……以前にも言ったがそう畏まる必要はないぞ。俺は既に帝位から退いて隠居の身の上、貴方は俺にとって義理の祖父にあたるのだからな。」

会釈をするヘンリーを見たリウイは苦笑しながらヘンリーを見つめて言い

「そうですよ。それにエリィも呼び方がまた、”リウイ陛下”に戻っているわよ?」

リウイの言葉にイリーナが頷き、そしてエリィに視線を向けて言った。

「うっ………そ、その……リウイお義兄(にい)様、来るのなら来るとせめて連絡をしていただけないでしょうか………?事前にカーリアン様からお話を聞いていたとはいえ、急に来られるとこちらも迎える準備ができませんので………」

イリーナの言葉を聞いたエリィは唸った後、気を取り直してリウイを見つめて言った。

「カーリアンだと?どこで奴と出会ったんだ?」

エリィの話を聞いたリウイは眉を顰めて尋ねた。

「はい、実は………」

そしてエリィはリウイ達にカーリアンと出会った事情を説明した。

「全く………何をしているのだ、あのじゃじゃ馬は………」

「フフ、相変わらずのようですね。――――それよりおじいさま、エリィ。この子達が私とリウイの子供達です。―――エクリア、ペテレーネ。」

事情を聞いたリウイは呆れた表情で溜息を吐き、イリーナは微笑んだ後赤ん坊を抱いているエクリアとペテレーネを促し

「「はい。」」

促された2人はそれぞれ抱いている赤ん坊をヘンリーやエリィに見せた。



「おお………2人も産まれたのか……!」

「………2人ともそれぞれお姉様達の髪の色を受け継いでいますね……性別はどちらで、名前は何と言うのですか?」

それぞれが抱いている赤ん坊達を見たヘンリーは嬉しそうな表情をし、エリィはエクリアが抱いている紫が混じった銀髪の赤ん坊とペテレーネが抱いている金髪の赤ん坊を見て呟いた後、イリーナ達に尋ねた。

「………銀髪の男の子の名はレノン。かつて俺に”王”を教えてくれたある男のような者になってほしいとそう名付けた。」

「金髪の女の子の名前はセリーヌ。私がメンフィルから頂いている偽名―――テシュオス家にかつて存在していた3姉妹の中の次女の方の名前を頂いて、その名前にしたわ。」

「おお……まさか、男の子と女の子の曾孫が同時に出来るとは……フフ、長生きはするものだな………」

リウイとイリーナの説明を聞いたヘンリーは嬉しそうな表情で赤ん坊達を見つめた後、微笑んだ。

「2人とも、抱いてみますか?」

「いいのかね?」

「い、いいんですか?」

イリーナの提案を聞いたヘンリーとエリィは驚きの表情で尋ね

「……ああ。その為にはるばる来たのだからな。」

「そうですか……それでしたらお言葉に甘えて……フフ、まさか曾孫を抱ける年まで生きて行けるとは………お蔭で私も曾孫達に元気をわけてもらったよ。」

「2人はお姉様達の子供なのですから、将来は立派な方達に成長するでしょうね………」

リウイが頷くと、エクリアから赤ん坊を受け取り、それぞれ微笑みながら眠っている赤ん坊を見つめた。

「フフ、エリィもついに叔母になっちゃったわね………早く好きな人を見つけて結婚しないと、未婚で”エリィ叔母様”とこの子達に言われるわよ?」

「うっ……わ、私だって好きな人くらいいます!」

一方ペテレーネから受け取った眠っている赤ん坊を抱いて微笑みながら見つめていたエリィはイリーナにからかわれた後、頬を赤らめて言った。

「あら……ついにエリィにも春が来たのね。お相手はどんな方なのかしら?」

「ほお……もしかして同僚のロイド君かね?」

「うっ………ど、どうしてそこでロイドが出てくるんですか!」

そしてイリーナとヘンリーに尋ねられたエリィは焦りだし、その後イリーナ達に色々とからかわれたり尋ねられ、焦ったり顔を赤らめたりしていた。


~港湾区・黒月貿易公司~



「いやはや、助かりました。あのまま事が運ばれていたらどうなっていたことか………危うく、市長暗殺の容疑をこちらにかけられる所でした。」

一方その頃、脅迫状の事件の真相を銀から聞いたツァオは安堵の溜息を吐いた。

「フン……共和国派の議員どもと繋がりを持ったりするからだ。私の名を、あの秘書に囁いたのはハルトマンという帝国派の議長……恐らくルバーチェの会長あたりから聞いたのだろう。」

「ええ、そうでしょうね。秘書が暗殺を企てるとは思っていなかったでしょうが……それでも私達を通じて共和国派にダメージを与えるのが目的だったに違いありません。」

銀の話を聞いたツァオは頷きながら推測した。

「フン、つくづく因果な街だ。それはともかく……『私達』など一緒にするな。こちらはいい迷惑だ。」

「やれやれ、つれないですねぇ。まあ、議員との繋がりなどその気になればいつでも切れます。」

銀が不愉快そうな様子を纏わせて呟いた言葉を聞いたツァオは溜息を吐いて答えた後、立ち上がって窓に近づき、外を見つめた。

「―――お伝えしている通り、こちらの攻勢は記念祭以降………最終日の仕掛けはよろしくお願いしますよ、”銀”殿。」

「フ……いいだろう。時間だ――――行くぞ。」

ツァオの話に口元に笑みを浮かべて答えた銀は空間の中へと歩いて消え、去って行った。

「はは……相変わらず神出鬼没な方だ。しかし『時間』ですか……」

銀が去った後ツァオは苦笑し、そして不敵な笑みを浮かべて眼鏡をかけなおし

「フフ……一体何の『時間』なのやら………」

口元に笑みを浮かべて静かに呟いた。一方銀は黒月の建物の屋上に現れ、目にも止まらぬ速さで次々と建物の屋根に飛び移り、歓楽街の建物まで移動した。



~歓楽街~



「……………………」

アルカンシェルの劇場がよく見える建物の屋上に到着した銀は劇場の周辺を見つめた後、黒衣と仮面を一瞬で外して正体を現した。

「よかった、間に合った…………」

黒衣と仮面を外した銀――――リーシャは安堵の溜息を吐いた。するとその時!

「フフ、ようやく正体を顕わにしたわね………」

女性の声が上から聞こえて来た。

「え…………―――!?ル、ルファディエルさん……」

声を聞いたリーシャは驚いた後、上空から降りて来たルファディエルを見て驚いた。

「フフ、やっぱり貴女が”銀”だったのね、リーシャ。」

「な、何の事でしょうか……?」

口元に笑みを浮かべて自分を見つめるルファディエルにリーシャは一瞬慌てた後、笑顔を見せて言ったが

「とぼけようとしても無駄よ。銀の姿をした貴女が黒月貿易公司の屋上に現れ、ここまで移動して銀から貴女の姿に変わる所は見ているわよ。」

「っ!…………………証拠もないのに、そんな事を言わないで下さい。」

ルファディエルの話を聞いて息を呑んだ後、真剣な表情で言ったが

「あら、証拠ならあるわよ?」

「え…………」

意外そうな表情をしたルファディエルの言葉を聞き、呆けた。

「秀哉達の世界もそうだけど、この世界も色々と便利な物があるわよねぇ………」

「な、何を………」

ルファディエルが呟いた言葉を聞いたリーシャは戸惑った。

「ビデオ………だったかしら?こういう時には特に役立つわね。」

するとその時、ルファディエルは導力ビデオを取り出し、リーシャに見せた。

「――――――――!!クッ………」

それを見て何かに気付いたリーシャは目を見開いた後、剣を取り出してルファディエルに強襲しようとしたが

「おおっと!それ以上動いたら死ぬよ?ククク……」

「!!そ、そんな………!私が気配を感じられないなんて………」

転移魔術で背後に現れたエルンストに首筋に短剣を突き付けられ、その事に気付いたリーシャは信じられない表情をした。するとその時、上空からメヒーシャ、ラグタス、ギレゼルが降り立ち、リーシャを包囲した!

「……まさかお前がティオ達が戦った暗殺者だったとはな……フン。お前が”銀”自身だからこそあの脅迫状が最初から偽物であるとわかっていたのか………」

「かかかっ!これには我輩も驚いたぜ!」

「………脅迫状の事件を終えたのに、何故アルカンシェルや黒月の建物を私達に監視させると思っていましたが…………こういう事だったのですね。」

「ククク……あたいらを使って、何をするかと思ったが………まさかこいつの正体を暴く為だったとはね………ハハハハッ!こりゃ、傑作だね!まさか伝説の暗殺者が光の下に住む人間達に紛れ込んでいたとはね!」

上空から降り立ち、リーシャを包囲したラグタスは警戒した様子でリーシャを睨み、ギレゼルは陽気に笑い、メヒーシャは静かな表情で呟きながらリーシャを見つめ、エルンストはリーシャの首筋に短剣を突き付けながら凶悪な笑みを浮かべて笑い、武器を既に出しているエルンスト以外はそれぞれ武器を構えた!

「さて………まだ悪あがきをするつもりかしら?貴女ほどの手練れなら、自分と私達の力量差ぐらいわかるでしょう?」

そしてルファディエルは杖を異空間から取り出して構え、不敵な笑みを浮かべてリーシャを見つめて言った。

「……………(駄目……後ろを取られている上、5人共強すぎる………私の実力では無理…………)………い、いつから私が銀だと疑っていたのですか……?」

目だけでルファディエル達を見回したリーシャは諦めた表情で手から剣を落とし、地面に両足の膝でついた後、表情を青褪めさせながら両手を地面につけて、ルファディエルを見上げて尋ねた。



「”星見の塔”で貴女がロイド達に依頼した時、疑問に思ったのよね。何故、暗殺者が標的でもない者―――イリアの性格をそこまで熟知しているのか。そして………何故、アルカンシェルの公演の時に限って、今回の事件を防ぐ為に自分は動けないのか。そうなるとアルカンシェルの関係者が怪しくなってくる。………そこに加えてツァオが言ってた銀がクロスベル入りした時期と貴女がアルカンシェルに入団した時期と合わせれば、貴女が一番怪しい事は明白でしょう?で、怪しいと思ってあの市長暗殺未遂事件が終わってから、必ずツァオに今回の事件の真相を説明する為に姿を現すと思ってアルカンシェルと黒月の建物を空から監視させてもらっていたわ。いくら銀とはいえ、まさか空からの監視は予想もしていなかったし、警戒できないでしょう?」

「……………………………私をどうするつもりですか…………?」

ルファディエルの推理を聞いたリーシャは表情を青褪めさせて黙り込んだ後、身体を震わせながら真剣な表情でルファディエルを見つめて尋ねた。

「フフ、安心なさい。少なくともこの場で逮捕するつもりはないから。」

「え…………?」

そしてルファディエルに微笑まれたリーシャは呆けた表情でルファディエルを見つめ

「まず、銀自身がクロスベルで犯罪を犯したという証拠がないから逮捕できないわ。………まあ、事情聴衆という形で警察に連れて行くことは可能だけど……貴女にとっては自分が銀である事は誰にも知られたくないでしょう?………ツァオもそうだけど………イリアやアルカンシェルの関係者には一番知られたくないでしょう?」

見つめられたルファディエルは答えた後、微笑みながらリーシャを見つめた。

「――――!!お、お願いします!何でも………何でもしますから、どうか……どうか私の正体だけはイリアさん達に告げないで下さい……っ!」

ルファディエルに微笑まれたリーシャは表情を青褪めさせた後、悲痛そうな表情で土下座した。

「”何でもする”………その言葉に偽りはないかしら?」

「…………はい………」

ルファディエルに尋ねられたリーシャは重々しく頷いて、嘆願するかのような表情でルファディエルを見上げた。

「そう……………………じゃあ、今後”銀”としてロイド達との利害が一致した時や貴女が助けられる範囲でロイド達が危機に陥ってたりしてたら、ロイド達に力を貸しなさい。後は警察や警備隊とは敵対してもロイド達―――特務支援課とは敵対しない事ね。もし、敵対する事になったら貴女は撤退する事。これらを守ってくれれば、貴女の正体はイリアやアルカンシェルの関係者、黒月やルバーチェ、そしてロイド達や警察、警備隊関係者にも黙っておくわ。」

「え………?」

ルファディエルの話を聞いたリーシャは呆けた声を出してルファディエルを見つめ

「お?黒月とかいう組織から手を引けとか、そんなんじゃないのか?」

「ル、ルファディエル様?」

「クク………何を考えているんだい?」

「………何を考えている、ルファディエル。奴はティオ達の敵対組織が雇っている暗殺者だぞ?そんな奴がティオ達と利害が一致するとは思えないが………」

話を聞いていたギレゼルは意外そうな表情をし、メヒーシャは戸惑い、エルンストは不敵な笑みを浮かべ、ラグタスは目を細めてリーシャを警戒しながらルファディエルに視線を向けた。

「彼女程の戦力………ロイド達の為に利用できるのなら、利用するべきです、将軍。敵対組織は”黒月”だけではないのですし。それに”黒月”最大の戦力が敵にならないのなら、銀はいないも同然です。」

「………なるほどな。」

「あっはははは!さすがはあのシェヒナと知恵比べをしてただけはあるねぇ!勝利の為には味方どころか敵も利用するってか!」

そしてルファディエルの説明を聞いたラグタスは頷き、エルンストは笑った後、口元に笑みを浮かべてルファディエルを見つめ

「さて…………どうするのかしら?正体を黙る条件としては破格の条件だと思うわよ?」

見つめられたルファディエルはリーシャに尋ねた。



「……本当にそれらの条件を守れば、絶対に私の事はイリアさん達に秘密にしてくれるんですよね………?」

尋ねられたリーシャは懇願するような表情でルファディエルに尋ね返した。

「ええ。私は”天使”なのだから、契約は守るわ。ギレゼル、エルンスト。貴方達もいいわね?」

「クク………まあ、いいよ。その女がどこまで光の下に紛れ込めるのかあたいも興味が出て来たしね。」

「クカカカッ!我輩もロイドの為ならいいぜ!」

「メヒーシャ、ラグタス将軍。2人もリーシャの事は黙ってあげて下さい。決して2人が契約している者達に害をなすことをさせませんので。」

「………わかりました。ルファディエル様の判断に従います。」

「………まあ、いいだろう。」

リーシャに尋ねられたルファディエルはギレゼル達を見回して言い、ギレゼル達はそれぞれ頷き、エルンストはリーシャから離れた。

「………これでメヒーシャ達の意思を知れたでしょう。――――行きなさい。稽古の時間に遅れるのでしょう?」

「!!あ、ありがとうございます!必ず条件は守りますので、くれぐれも私の事は内密にお願いします!」

ルファディエルに言われたリーシャは剣を回収して立ち上がった後、頭を深く下げて言った。

「ええ。………これからの”アルカンシェルのリーシャ・マオ”という新人アーティストの活躍……期待しているわ。」

「は、はい。………失礼します。」

そしてリーシャは建物を飛び下りて、アルカンシェルの劇場に向かって走って行った。



「はあ………まさかたったあれだけの言葉で私の正体に勘づくなんて………本当に恐ろしい人…………でも、よかった………黙ってもらう条件が大した事なくて………」

劇場の前に到着したリーシャは疲れた表情で溜息を吐いて身体を震わせた後、安堵の表情になった。

「早いわね、リーシャ。」

するとその時イリアがリーシャに近づいてきた。

「イリアさん……」

「なに、そんなに午後の稽古が楽しみだったの?あたしもいいかげん舞台バカではあるけれど………あんたも十分、素質あるんじゃないかしら?」

「あはは、そんな………イリアさんの域まで達する自信なんてとても………」

イリアに微笑まれたリーシャは苦笑しながら答えた。

「ふふ、そんなこと言ってプレ公演じゃノリノリだったくせに。良かったわよ、あんたの演技。ようやくあたしのライバルの卵くらいにはなってくれたわね。」

「イリアさん……もしそうだとしたら全部、イリアさんのおかげです。受け継いだ道しか知らなかった私に光を示してくれた貴女の……ふふ、それと今回は彼らにも感謝した方がいいかな。」

「へ………」

「ふふっ、何でもないです。今日の稽古は、第三幕の完成度を上げていくんですよね?私、頑張ってお付き合いします。」

「お、やる気満々じゃないの。うーん、あたしもマジで負けてられないわね~。よーし、来月の本公演までに今の百倍は良くしていくわよ~!付いてきなさい、リーシャ!」

「はい、イリアさん………!」

そして笑顔のイリアの言葉に笑顔で頷いたリーシャはイリアと共に劇場の中へと入って行った。


~2時間後・ラギール商会~



イリアとリーシャが劇場の中へと入って、少しの時間がたつと人間の姿をしたルファディエルはラギール商会の店舗に入った。

「いらっしゃい………ませ……」

店に入って来たルファディエルを見たエリザベッタは声をかけ

「こんにちは。クロスベル警察、特務支援課のルファディエルよ。支店長と面会できるかしら?」

ルファディエルはエリザベッタに尋ねた。

「今日は……何の御用でしょうか……?」

「………”黒月”の事で良い情報が手に入ったから、支店長と商談がしたいのだけど。」

「………かしこまりました………少々………お待ちください………」

ルファディエルの言葉を聞いたエリザベッタは階段を昇って姿を消した後、少しの時間がたつと戻って来た。

「おまたせ………しました……ぜひ、話をお聞きしたいとの事ですので………そのままチキ様がいるお部屋に向かって頂いて……構いません。場所は……わかりますか?」

「ええ。それじゃ、お邪魔するわね。」

エリザベッタの言葉を聞いたルファディエルは頷いた後、階段を昇って、チキの部屋に入った。



「いらっしゃいませ。今日は何でも”黒月”の情報で良い情報があるとか………」

部屋に入って来たルファディエルを見たチキは椅子から立ち上がって、ルファディエルに軽く会釈をして尋ねた。

「ええ。”銀”の正体の情報を偶然手に入れましてね。………どうですか?」

「!……わかりました……取引条件に関しての詳しい話をしたいので……どうぞソファーにおかけ下さい。」

ルファディエルの話を聞いたチキは驚いた後、ルファディエルをソファーに座るように促し、自分もソファーに座った。

「それで………本当にあの”銀”の正体がわかったのでしょうか………?私共の方でも探っているのですが………未だにわかっていなくて………」

「ええ、銀が正体を現した時の証拠も今日は持ってきています。」

「!そうですか………それで………何をお望みでしょうか………?」

ルファディエルの話を聞いたチキは驚いた後真剣な表情で尋ねた。

「情報と交換でどうですか?」

「情報………といいますと、何の情報がよろしいでしょうか………?」

「……私がこちらを訪ねる度にエレボニアとカルバードのクロスベルに対する動きの情報を無条件で教えてくれるという交換でどうでしょうか?……勿論、ルバーチェや黒月もその中に入っています。」

「…………………わかりました。今、契約書を作成しますので、少々お待ち下さい………」

ルファディエルの説明を聞いたチキは考え込んだ後、ルファディエルを見つめて言った。

「あら、少しは渋ると思ったのですけど、意外ですね?」

チキの話を聞いたルファディエルは意外そうな表情で尋ね

「…………ルファディエル様がおっしゃった条件と銀の正体の情報と比べれば………安いぐらいですので……」

尋ねられたチキは静かな表情で答えた後、自分の机の引き出しの中にある紙を出して判を押し、ルファディエルの前に持ってきた。

「どうぞ……この契約書と……貴女が持ってきたという銀の正体の証拠と交換すれば………商談成立です………」

「………文章の内容を読ませてもらってもいいですか?」

「構いません………」

そしてルファディエルはチキが持ってきた契約書の文面を読んで、問題ないことを確認し、チキに導力ビデオとさらにリーシャと対峙した時、服の中に隠していた録音器を渡した。

「………まさか………アルカンシェルのリーシャ様が銀だったとは……………今後も何か新たな情報があったら……また、お訪ねください………」

ビデオの内容をその目で見て、さらに録音器に録画されていたリーシャとルファディエルの会話を聞いたチキは驚いた後、ルファディエルに会釈をした。

「ええ。……ああそれと一つ言い含めるのを忘れていました。今回の話はロイド達には黙っておいてくださいね?」

「かしこまりました…………」

その後ルファディエルは店を出た。



「クク……今度は何を企んでいるんだい?さっき支援課のビルに戻って端末で何かやった後こっちに来たようだけど………」

その時、エルンストが転移して現れて不敵な笑みを浮かべてルファディエルに尋ねた。

「………ラギール商会に渡す銀の正体の証拠のコピーをしていただけよ。」

「は………?……あっははは!こりゃ、傑作だ!天使ともあろう者がこうも早く契約を破るなんてね!」

ルファディエルの話を聞いたエルンストは一瞬呆けた後、不敵な笑みを浮かべて笑いながらルファディエルを見つめ

「あら。ラギール商会に話さないなんて私は口にしていないわ。………フフ、今回の脅迫状の事件のおかげで、情報を提供してくれる人との繋がりも手に入れたし、何より”黒月”の最大戦力を対峙しないようにできたのは大きな収穫ね。」

見つめられたルファディエルは意外そうな表情をした後、微笑んだ。

「ククク………よくもまあ、そこまで腹黒い事をして”墜ちない”ものだよ。」

ルファディエルの言葉を聞いたエルンストは口元に笑みを浮かべてルファディエルを見つめ

「………私は守るべき人達の為に行動しているだけ………”堕天”した者達のように決して自らの欲の為に行動しないわ。」

見つめられたルファディエルは静かに答えた後、支援課のビルに戻る為にエルンストと共に中央広場に向かって行った。そして数日後、後にロイド達の運命に大きく関わる少女とロイド達支援課にとって、頼もしき存在となる優しきエルフの娘と出会うきっかけとなる事件が起こるクロスベル市の創立記念祭が始まった………













 
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