| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

白衣の天使

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2部分:第二章


第二章

「楽しく騒がないとね」
「って何か横山さんって。いいですか?」
 後輩の一人が藍に少し遠慮しながら言う。
「嫌なこと言っていいですか?」
「いいよ。聞いた傍から忘れるから」
「彼氏とかは」
「一年前に別れたよ」
 とてもあっさりとだ。答える藍だった。
「向こうが浮気してね」
「それでなんですか」
「遊びでな。出会い系やっててそこで知り合った女子大生と付き合っててね」
「で、別れたんですか」
「その時に思いきりぶん殴ってやったよ」
 ひっぱたくどころではなかった。後輩達はそれを聞いてある意味藍らしいと内心思いもした。
「もう頭にきたからね」
「それで今はですか」
「フリーなんですか」
「そうだよ。高校卒業してナースになってもう十年」
 それなりの歳だ。既に。
「もうすぐアラサーのフリーさ」
「ううん、深刻ですよそれって」
「ですよ。相手探さないと」
「本当にアラサーになりますよ」
「元ヤンでアラサーってのも凄いね」
 缶コーヒーを飲み続けながらだ。藍は足を組み笑いながら話す。
「もう人生の負け組だね」
「そこまで誰も言いませんけれど」
「けれど。冗談抜きで」
「結婚かい?」
「そろそろですよ」
「決めないと」
「あたしに勝てる奴ならね」
 今度はこんなことを言う始末だった。しかも笑いながら。
「誰でもいいさ。例えばね」
「例えば?」
「例えばっていいますと?」
「天龍さんみたいな人ならいいね」
 プロレスラーだった。藍の贔屓の。
「ああいう人なら大歓迎だよ。それか矢沢栄吉さんかね」
「レスラーかリーゼントって」
「やっぱりそっちなんですね」
「男はリーゼントだよ」
 かなり古い趣味ではあるがそれでも満面の笑顔で言う藍だった。
「誰か知ってるかい?性格が男前で喧嘩が強くてリーゼントの人ね」
「そんな天然記念物いませんよ」
 後輩達は呆れながら藍に言い返す。
「今時リーゼントって」
「しかも喧嘩が強いって。草食系の時代に」
「性格が男前って。戦前の海軍とかじゃないんですから」
「そんなのいませんよ」
「面白くないね」
 心からだ。愛はこう思った。
「詰まらない時代だよ」
「そもそも藍さん自体がですよ」
「暴走族だったとか何時の時代の人なんですか」
「レディースだったって」
「ヤンキーはわかるにしても」
「あたしのスタイルだからいいじゃないか」
 時代遅れと言われてもだ。藍自身は平気だった。
「これでもいじめとかカツアゲとかシンナーとかは一切してないよ」
「それに煙草も吸いませんね」
「喧嘩とバイクだけだったんですか」
「酒は飲むけれどね」
 だがそれでもだというのだ。
「まあ。身体に悪いこととか下種なことは嫌いだよ」
「そういうところも古典的なんですけれど」
「まんまスカートの長いスケ番って感じで」
「チェーンとか持っててマスクしてる」
「もう三十年前の不良みたいな」
「あたしは十年前だよ」
 流石にそこまで古くはないというのだ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧