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手の平に書く文字

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第四章

「放課後でも何時でも。二人きりで会って」
「で、そこで告白ね」
「そうするのね」
「そう。今日もう手紙は橋口君の下駄箱に入れたから」 
 それはもうしたというのだ。既にだ。
「後は放課後」
「今日の放課後ね」
「遂になのね」
「告白して」
 そしてだというのだ。
「橋口君と」
「そうそう、その意気よ」
「頑張りなさいよ、ここで」
「度胸出して」
「その度胸の出し方も」 
 どうかとだ。暁美は言った。
「勉強したから」
「えっ、度胸の出し方もなの」
「それも勉強したの」
「そう。それが一番大事だったから」
 こうだ。暁美は切実な顔と声で友人達に話した。クラスの中でだ。彼女達が集っているその席だけ雰囲気が真剣なものになってしまっている。
 その中でだ。彼女達は話すのだった。
「勉強したの」
「ううん、徹底してるわね」
「暁美も本気なのね」
「本気で橋口君と付き合いたいのね」
「ゲットしたいのね」
「好きだから」
 ここでも切実な暁美の言葉だ。
「だから」
「だからこそそこまで勉強してなのね」
「ゲットするのね」
「そう。そしてそのやり方は」
 何かとだ。女の子達に話した。
 自分の右手を出してだ。そして言ったのである。
「この手の平に」
「手の平になの」
「どうするの?」
「字を書くの」
 暁美は今度はそのだ。自分の右手の手の平を見つつ話した。
「人という字を書いて」
「で、それを飲むのね」
「そうするのね」
「そう。そのやり方お母さんに教えてもらったから」
 母親にもだ。尋ねて学んだのである。
「そうしてなの」
「じゃあそれでなのね」
「字を飲んでそうして度胸をつけて」
「そのうえで」
「そうするわ」
 暁美はその顔にだ。決意も見せてだった。そしてだ。
 その日の放課後だ。最後の授業が終わるとすぐにだった。
 その橋口、背が高くすらりとして爽やかな顔の彼が部屋を出たところでだった。
 彼女もそっとだ。教室を後にしようとすうr。その彼女にだ。
 クラスメイト達がだ。そっと声をかけた。
「頑張りなさいよ」
「あれだけ勉強したんだから」
「絶対にね」
「ええ」
 自分の左手を自分の胸のところに置いて。暁美は述べた、
「行って来るわ」
 こう言ってだ。彼女は橋口を呼んだ学校の屋上に向かった。橋口からやや遅れて。
 そしてだ。屋上に向かう扉の前まで来たところでだ。右手をそっと出してだ。
 そのうえでだ。右手の手の平にだ。人という字を書いた。それから。
 そこに顔を近付けてだ。飲み込む動作をした。そこまでしてだ。
「それじゃあ」
 小さく頷き意を決してだ。扉を開けるのだった。
 そして数日後だ。暁美は微笑んでクラスメイト達に話した。
「嬉しい・・・・・・」
「よかったじゃない、告白受け入れてもらって」
「橋口君笑顔で言ったんだって?僕からもって」
「それで付き合うことになって」
「ハッピーエンドじゃない」
「確かに怖かったけれど」
 告白自体はだとだ。頬を赤らめさせて言う暁美だった。
「字を飲み込んだら」
「度胸が出てね」
「それでいけたのね」
「そう」
 その通りだとだ。暁美は言った。
 そうしてだ。彼女はだ。周囲に話した。
「大事なことは。今回勉強したことで」
「何だったの?一番大事だったことは」
「それは一体」
「度胸のこと」
 それだというのだ。
「それが一番大事だった」
「つまり人という字を書く」
「そのことが大事だったの」
「一番大事だったの」
「そう。そのこともわかったわ」
 暁美は静かに言う。
「本当に」
 こう言ってだ。それと共にハッピーエンドも味わうのだった。満ち足りた気持ちの中でだ。彼女は今そのことを深く理解していくのだった。


手の平に書く文字   完


                  2011・10・24 
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