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もてないのがいい

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1部分:第一章


第一章

                          もてないのがいい
 彼はだ。クラスで自分の席に座って漫画を読みながらだ。急にこう言った。
「そうだよ、この展開がいいんだよ」
「御前漫画読んで何言ってんだよ」
「何がどういいんだよ」
 その彼、柴崎達央、黒髪を女の子の様に伸ばし首の付け根の辺りで切り耳は完全に隠しだ。はっきりとした一文字の眉がやや上に向きしっかりとしたやや切れ長の奥二重の目に男性的な大きく厚い唇を持った一七三センチ程で痩せてすらりとしている彼にだ。周囲が問うた。
「っていうか学校で漫画読むなよ」
「先生に怒られるぞ」
「別に見つかってないからいいだろ」
 達央はその周囲にこう反論する。
 そしてだ。こう彼等に言うのだった。
「とにかくな。今読んでる漫画な」
「ああ、その格闘ばかりある週刊のやつな」
「最近友情、努力、勝利じゃなくておかしな無敵主人公ばかりの漫画な」
 前に連載されていたテニス漫画や今の生徒会漫画のことらしい。
「で、看板漫画が絶対にグダグダ展開になる雑誌がどうしたって?」
「久し振りに十週打ち切りでもあったのか?」
「違うよ。恋愛ってのはあれだよな」
 その雑誌では少ない恋愛ものの話だと話す達央だった。
「もどかしいものだよな」
「そうした恋愛もあるな」
「実際にな」
 クラスメイト達もそのことは否定しない。そしてだ。
 達央はだ。こんなことも言った。
「それでだよ。若し相手がもてなかったら」
「好きな相手がフリーならか」
「そこにアタックだな」
「そうだよ。好きな人に恋人がいたら最悪だよ」
 達央はこう力説するのだった。
「三角関係なんて離れて見るにはいいけれど中にいたら最悪だぜ」
「ドラマにしてもアニメにしてもドロドロになるよな」
「どっかの国のドラマみたいにな」
「下手したら刃傷沙汰だぜ」
「刺し殺されて首を切り取られたりとかな」
 一人がかなり物騒なことを言い出した。
「で、首がバッグの中にあるんだよ」
「おい、それ何処のホラーアニメだよ」
 達央もだ。彼のその話にだ。どん引きして突っ込みを入れる。
「そんな怖い展開は流石にないだろ」
「けどよ。恋愛のもつれから刺すとかいう話はあるだろ」
「まあそうだな。だから俺も言うんだけれどな」
「そういうことだよ。で、御前いるのかよ」
 その彼を達央を見ながら問うてきた。
「その好きな相手な」
「い、いやそれはな」
 その問いにはだ。達央はだ。
 急に視線を泳がせてそわそわとなってだ。こう言ったのである。ダークブラウンのブレザーに紅いネクタイの、いささか軍服を思わせる端整な制服も何か不安定な感じに見えてきた。
 その彼はだ。こう言ったのだった。
「特にな。何ていうかな」
「ああ、E組の花村さんな」
「あの娘だよな、テニス部の」
「そうだよな」
「いや、違うけれどな」
 何故か必死になって言う彼だった。
「あの娘。E組の花村未来さんじゃないぞ」
「自分で言ったじゃねえか、今」
「フルネームまでな」
「しっかり言ったな」
「くっ、それは心の錯覚だよ」
 言い逃れになっていない言い逃れだった。
「いや、耳の錯覚だよ」
「錯覚は目だろ?」
 クラスメイト達の突っ込みは実に厳しかった。
「何で心や耳が錯覚なんだよ」
「勘違いとか聞き間違いだろ、その場合」
「何処まで焦ってるんだよ」
「あれだよ。俺は別に花村さんなんかな」
 何故か手にしている雑誌をしきりに慌しくめくり尚且つ顔中から汗を流して言う達央だった。
 
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