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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第三十一話 自由惑星同盟は変わります。

帝国歴484年8月28日――。

 自由惑星同盟で、変死者が相次いでいる。もっともその事件は不定期に発生しているが。

 まず、アンドリュー・フォーク中佐が「てんかん」の発作に加え、なぜか肺炎を併発して呼吸困難で死亡。続いてロイヤル・サンフォード、コーネリア・ウィンザー議員も謎の交通事故死を遂げ、ロックウェル少将も休暇中のクレー射撃の事故で死亡。原因は銃の暴発。クリスチアン、ベイ、エベンス、ブロンズ等も軍の演習事故で死亡している。

 世間ではこれらの一見何のつながりもない事故死を単なるニュースとして報道したが、原作を知っているごく少数の者はそうは取らなかった。何故なら彼らは自由惑星同盟にとって悉くマイナスをもたらした者であったからである。つまり、これらマイナス要因を誰かが消し去ったということになる、そう思っていた。

 これらの要因はすべてシャロンであり、彼女が様々な手を尽くして障害となる彼らを死亡させていったのは言うまでもない。


 同盟自体も変わりつつあった。
 まず、イゼルローン級の要塞の建設が首都星ハイネセン付近のヴァーミリオン星域付近で行われ始め、竣工式には各界の有力者が参列して、盛大な式典が催された。既にいくつかの主要部品は各工業惑星にて作られており、それらをいわゆる「パネル方式」にして組み立てるのである。要塞建設要員については、帝国の捕虜を労働者として使用することとした。しかし、労働者と言ってもその実情は正規の労働者と変わらず、きちんと8時間労働、1時間の休憩、そして賃金について通常の労働者の8割減であるが、きちんと支払うと言った待遇を見せていた。この寛大な処置はおおむね自由惑星同盟内部で好感をもって受け入れられていた。

 なぜなら、要塞建設には数百万の人員が必要であり、必要な労働力が圧倒的に不足しており「徴兵」同然の募集を賭けようか否か、というところまで議論が進んでいたからである。要塞建設は歓迎するが、実際にそれを作る作業に従事させられるのはたまらない、というのが同盟市民の正直な感想であった。

 とはいえ、「敵国の人間にそんな重要な要塞を作らせていいのか!?」という声は多かった。そこで、ドーソン以下の要塞建設首脳部は、厳重に従事者をそれぞれの惑星や衛星、基地などに隔離したうえで、上記に述べたパネル方式を徹底させた。

 すなわち、この惑星はAという部品を、この衛星はB回路を、この基地はC研磨を、という形でそれぞれが作るのはあくまで部品のみ。どこに使われるかは全く分からない状況に置いたのだった。組み立てに関しては、1個艦隊の兵員や陸戦隊、地上部隊200万人を動員して、某所衛星軌道上で建設を行っていた。むろん、周囲は厳重警備であり、通行証を持たない艦船は、ネズミ一匹たりとも現場に近づけないようになっていた。

 そして、艦隊の整備においては、現在の第一~第十二艦隊にさらに六個艦隊の増設が議会承認されていた。このような大予算が組まれた背景には、エル・ファシル星域以外にもレアメタルが産出され始めたことが要因である。資源というものは時として紙幣よりも強い力を発揮するものだ。
 兵員については、今までの女性士官登用枠を拡大し、尉官、佐官クラスの枠を拡張したほか、将官への登用枠を設けることで士気の高揚を図った。

 これらは表向きブラッドレー大将他有力者が行ったものであるが、裏からの献策はことごとくシャロンが行ってきたものであった。シャロン自身が父親からのコネクションに加えて、彼女の美貌、そして知性を総動員して政財界にパイプを張り巡らせていたのである。時代の評議会議員有力な候補者であるヨブ・トリューニヒト議員との親密さも彼女の勢いを加速させていた。
 もっとも、シャロン自身は表に出ることを嫌ったため、マスメディアに彼女の名前が載ることはめったになかった。それが良い謙虚さとしてさらに彼女の評判を高めることになっていたのだが。

 カロリーネ・フォン・ゴールデンバウムはこの時士官学校の休暇で家に帰ってきていた。同じく休暇で帰省してきたアルフレートに一連の記事を見せて、

「どう思う?偶然だと思う?」

 ファーレンハイトやシュタインメッツは二人して階下にいるので、今カロリーネ皇女の私室には二人しかいない。ついでながらアルフレートは第八艦隊の第一戦隊に所属して少尉から中尉に昇進したばかりであった。その昇進理由は哨戒部隊同士の戦闘で、敵の包囲網を突破して、いち早く援軍を要請し、味方の合流を掩護したというものである。

「偶然ではないですね。あまりにも出来すぎている。誰かほかに転生者がいるのだと思います。それが自分にとって邪魔な存在をことごとく消し去ろうとしている」

 声はかすかに震えを帯びていた。もし自分がまだ帝国側にいたらどうだっただろう。邪魔だという理由で、貴族たちや皇帝、ラインハルトまでも次々とあっさりと殺すことはできるだろうか。そこまで考えて首を振った。

 できない、そんなことはできない。いくら「原作」において邪魔だといっても他人の命をあっさりと草を刈るように片っ端から刈り取るなんて・・・・。アルフレートはそう思う。

「ええ、私だってできないわよ。一人二人ならやるかもしれないけれど・・・・。こんなこと。常軌を逸しているわ」

 これをシャロンが聞いたらどう思ったろう。だが、彼女はただ微笑を浮かべたままそれに対してあっさりというかもしれない。「だからあなたたちは所詮ただの転生者にすぎないのよ」と。

「よかった。『もしあなたが何人でも殺すことは何の問題もないわ。』などと言われたら、私はあなたを殺してしまったかもしれない」

 物騒なことを本人の前で言うわね、ま、私も人のこと言えないか、とカロリーネ皇女は苦笑した。

「アンドリュー・フォークが死亡して、コーネリア・ウィンザーも死亡したのだから、自由惑星同盟が帝国領に侵攻するということはなくなったのかもしれない。でも、わからないわね。第二のフォーク、第二のコーネリア・ウィンザーが現れれば、結局同じ道をたどることになるんだから」

 カロリーネ皇女殿下はそう言った。その通りだとアルフレートも思う。結局のところ、原作に置いて、帝国領侵攻作戦を思いついたのが、たまたまフォークという人物であり、そしてそれを熱烈に支持したのが、たまたまコーネリア・ウィンザーという人物であっただけのことだ。130億人いる自由惑星同盟のうち、誰かが同じようなことを考えつかないとも限らない。それを、殺人者はわかっているのだろうか・・・・。

 その通りです、とアルフレートは肯定して、話を進める。

「一連の殺人者を便宜上Aと言いますが、つまりこのAは自由惑星同盟を強化することに腐心しているというわけですね。おそらく今回のハイネセン付近での移動要塞建設のニュースもAが動かしたことなのでしょう」

 となると、そのスタッフの中にAがいる可能性があるか、とカロリーネ皇女が端正な顔を曇らせた。

「で、どうするの?」
「どうもしません。今のところはこちら側には手出しをできるコネクションも、実力もないのですから」
「放置しておく、か。でもそれもいいかもしれないわね。原作と違って自由惑星同盟がイゼルローン要塞級の要塞を持ち、18個艦隊を整備し、出来の悪い指揮官も無能な後方の評議会議員も淘汰してしまえば、帝国と充分渡り合える余地があるわ」

 カロリーネ皇女殿下が不敵に笑ったが、それもすぐに引っ込めてしまった。

「とまぁ、戦争好きな人なら考えそうだけれど、私はパスかな。正直ラインハルトに対して特に恨みもないし。向こうがこっちを狙うんなら話は別だけれど、そんなことはないと思うな。原作じゃエルヴィン・ヨーゼフも放置していたほどだしね」
「では、どうして士官学校に入られたのですか?」
「自分の身を守るためよ。護身術くらい身につけておかなくちゃ、この先対処できないでしょ。・・・大丈夫よ。そんな顔をしないで」

 皇女殿下はそっとアルフレートの両肩に手を置いた。

「あなたもそう。私のせいでこんなことになって、ごめんね。対ラインハルトなんて考えはもういいから、あなたはあなたの道を進んでちょうだい。それが前世の『お姉さん』からのアドバイスよ」

 アルフレートは思わず笑っていた。

「大丈夫です。私も士官学校に入り、軍人になったのは、自分の身を、そしてあなたを護りたかったからですよ。皇女殿下」

 はっとカロリーネ皇女殿下が身じろぎし、一瞬だったが頬が赤くなった。

「ば、バカなこと言わないで!さっきも言ったけれど、自分の身は自分で守ります」

 最後はすまし顔で言う、この現世では年下の皇女殿下にアルフレートは苦笑して、

「はいはい。それより下に行きましょう。ファーレンハイトとシュタインメッツとお茶にして、夜は4人でどこか洒落たレストランに食事に行きましょう。久しぶりの再会ですから」

 うん、とうなずいたカロリーネ皇女殿下の顔は、もとのほがらかな顔に戻っていた。



首都星ハイネセン 特務スタッフ 私室 ――。
 シャロン・イーリスは肌身離さず持っている極秘端末にて、リストアップした人名を見て微笑していた。もう一つの傍らには極低周波通信で会話している相手が移っている。目の前には、哨戒艦隊の指揮官で、かつてラインハルトたちを取り逃がしてしまったティファニー・アーセルノ少将がディスプレイ越しだというのに緊張気味にすわっている。

「これで、また邪魔者は片付いたわね。ルビンスキーを殺せなかったのは残念だったけれど」

 フェザーンに幾度か送ったミクロンロボットは長い航海とワープの影響で悉く機能を喪失して通信が途絶してしまっていた。

『閣下、しかしこんなことは強引ではありませんか?もし閣下が行ったことだとばれてしまえば――』

 大佐に対して閣下とは奇妙な呼び方であるが、ティファニーとシャロンの前世での関係を知っている者から見ればその呼び方は至極当然の事ではあった。

「心配ないわ。そもそも殺人だということにすら世間は気が付かない。皆事故なのよ」
『それは、そうかもしれませんが・・・・』
「それより、なぜ私が肝心な人を殺さなかったのか、不審に思わない?」
『トリューニヒトを、そしてロボスをですね。それはどういうわけですか?』
「トリューニヒトはまだまだ使い勝手がありそうだと判断したのよ。今の私は一介の大佐に過ぎない。そうね、私が艦隊司令官として中将に赴任した時点で、政財界には十分なパイプが作れるでしょう。その時点で彼は不要、その時に始末すればいいと思ったのよ。ロボスは今現在宇宙艦隊司令長官でトップ。さすがにそれに手を出すのはまだ早いわ。防衛戦闘であれば彼もそれなりにやるでしょう。もっともこちらが積極的大規模作戦を実施することになれば、私はためらいなく彼を死なせるけれど」

 そううまくいくだろうか、とティファニーは疑問だった。

「それよりも、フェザーン資本からの完全脱却の件は、上手くいきそう?企業などの財界面についてはある程度メドは立ってきそうだけれど」

 とても、というのがティファニーの回答だった。彼女自身シャロンからこの件を任された時に、軍務の傍ら計算してみたが、膨大な負債がここまでだとは想像していなかった。これは数年どころか、数十年帝国との戦争を断念して負債の返還に専念せねば返済できない額だったのである。

「なら仕方がないわね」

 シャロンはあっさりと言った。ちまちまとした返還案を構築していても、とてもうまくいくとは思えません、とティファニーも言った。

「ならば、答えはおのずと出るわ。ティファニー」

 シャロンがあっさりと言ったことと、その次の段階を早くも考えていることにティファニーは戸惑った。

『答えですか?・・・申し訳ありません、私には・・・・』
「フェザーンを消滅させることよ」
『は!?』

 ティファニーは自分の耳が信じられなかった。シャロンは今何と言ったのか。フェザーンを制圧するのではなく、消滅させると言ったのである。

「跡形もなく吹き飛ばすと私は言ったのよ。債権者が全滅すれば、債務は払わなくてもいいのでしょう?」
『し、し、しかし、そんな暴論は――』
「人を一人殺すのも、何十億も殺すのも、そうたいして違いはないでしょう。銀河帝国ができあがった当時に3,000億人いた人口、今何人いると思っているの?それにルドルフ大帝やその子孫が劣悪遺伝子排除法や不満分子排除の名目で殺しつくした人々は数十億人じゃなかった?」
「・・・・・・・」
「自由惑星同盟領内で取引が完遂できれば、わざわざ外部資本を引き入れる必要性などないわ。考えてみなさいティファニー。自由惑星同盟自体が多民族国家と言ってもいいのよ。各星系によって算出できる資源も異なれば、得意とする産業も違っているわ。そして反対にそれらを必要とする星系も当然いる。需要と供給が既に自由惑星同盟内では発生しているのよ」

 シャロンのこの考えにはある原作の動きが絡んでいる。すなわち、自由惑星同盟の帝国領内への大規模な出兵についてだ。地球教徒がバックについているフェザーン側としては、長期間双方を争わせ、弱ったところを漁夫の利を狙うというのが基本構想だったし、だからこそ長年それを取ってきた。それが自由惑星同盟の帝国領内侵攻作戦について、あえて異を唱えなかった。このような空前の大兵力同士がぶつかれば、双方ともに取り返しのつかない損害を受け、戦争どころではない。それ以上に経済は長期間疲弊してしまう。そのダメージは漁夫の利を取ろうとするフェザーンにも跳ね返って来るはずだ。自由惑星同盟への巨額の債権を持つフェザーンの政財界、そして軍部までの発言権は強い。できなかったとは考えられない。

 なぜか。

 それはつまり、パワーオブバランスをもってしても、市場の縮小が食い止められないところまで来ていたということだろう。年々人口は減少する。人口が減少すれば、取引も減る。つまりは、戦乱による人口の減少がフェザーンの政策ではカヴァーしきれないほど経済にマイナスを与えつつあったということだろう。それを解決するには、いずれかに加担して新体制を構築させ、そのうえで経済面で支配するというのが一番理想的なのだ。戦乱によっていつ荒廃するかもしれない今の状態よりも、多少勢いは堕ちるが安定した経済面での支配というのが望ましいのだから・・・・。原作ではルビンスキーが帝国と同盟の戦力バランス崩壊を見て、帝国支援に踏み切っていたが、水面下ではそれよりも早い段階から、統一支配論が出ていたのだろう。

『フェザーンを消滅させてしまえば、帝国との全面戦争はますます過熱します』

 ティファニーの言葉にシャロンは今度は苦笑して、なにも要塞が完成してすぐにフェザーンを消滅させるわけではないわ、と捕捉した。

「フェザーンを消滅させるのは、こちらの戦力が整い、かつフェザーンに頼らない経済システムを、少なくとも概要を構築させてからの話よ。いずれ自由惑星同盟が帝国領へ進行する際にフェザーンは消滅させる」
『閣下はてっきり帝国領侵攻作戦にご反対かと思っていました』
「自由惑星同盟の帝国領侵攻作戦については、私自身は反対していないわ。ただ時期とそれを完遂するだけの戦力がそろわなくてはならないという話なのよ」
『・・・・・・・』
「フェザーン消滅については、それほど難しい話ではないわよ。イゼルローン要塞級の要塞が完成すれば、フェザーン回廊にワープアウトさせ、主砲を惑星の都市部に片っ端から打ち込めば、あるいは最大出力で惑星のコアを破壊してしまえばそれで終了でしょう。簡単なことじゃない」

 と、いうのは最後の最後の手段よ、とシャロンは言った。原作で帝国がやったことを今度は同盟がやるのである。つまりは、フェザーンを武力制圧し、これを橋頭堡とする。フェザーン資本についてはこれを完全に凍結し、同盟の支配下に置く。なおも従わない場合には、惑星フェザーンを吹き飛ばし、宇宙の塵にしてしまう。これが今考えているプランなの、とシャロンは結んだ。

* * * * *
 ティファニーの中では様々な反論がうかんできていた。政財界、軍人、そして在野の有識者、そして民衆。彼らがフェザーンを消滅させることに賛成するか。答えは当然否である。

『艦隊戦で敵方の数百万人を殺すことは善で、20億人の敵方の人間を殺すことは悪だというわけ?』

 シャロンが微笑しながら問いかける。ティファニーの背中に冷や汗が流れ落ちていく。

「そうは言いません。ですが、無抵抗の民間人を武力でもって殺すというのは・・・・」
『無抵抗?無力?違うわよティファニー。彼らは経済という武器と鎖で私たちを縛り付け、搾取しているじゃない。今の私たちは首に縄をかけられてじわじわと引き上げられて、足元をばたつかせている死刑囚と同じ状態なのよ』

 反論は山ほど思いつく。どんなにシャロンが言おうと、皮膚感覚でそれが間違っていることも承知している。だが、ティファニーは今の自分が手も足も縛られてどうしようもなくじわじわと責められている罪人そっくりの心境に陥っていた。

「わかりました。この件については、閣下にお任せします」

 ティファニーはそういうしかなかった。
 通信が切れた後、彼女はなぜか前世の敵を思い出していた。前世で自分の恋人を殺し、かつ自分の命を奪った後輩のことを。だが、それはすべて自分が悪かったのだ。ヴァルハラに赴いて、精算を行い、じっくり向き合った結果、ティファニーはそう思っている。

 だからかもしれない。彼女は初めてその後輩――フィオーナ――に助けを求めたくなったのである。ティファニーはそばかすの散った、けれども端正な顔を両手で覆った。

(フィオーナ、私はどうしたらいいの?どうしたら・・・・助けて・・・!!)

 狭い自室でティファニーは長い事両手に顔を埋めていた。
 
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