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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第34話

~港湾区・黒月貿易公司~



”黒月貿易公司”の建物の前に到着したロイド達が扉を開けようとしたが、扉には鍵がかかっており『”黒月貿易公司・クロスベル支社”※ご用命の方はノックしてください』という事が書かれてあるメッセージプレートが付いていた。

「ここか……」

「どうするの?」

建物を見上げて呟いたロイドにエリィは尋ね、エリィに尋ねられたロイドは扉をノックして言った。

「――――すみません!いらっしゃいますか!?」

「………どちら様でしょうか?」

ロイドが扉に向かって声を上げると少しすると足音が聞こえ、そして扉から男の声が聞こえて来た。

「………クロスベル警察、特務支援課に所属する者です。とある事件に関してこちらの支社長さんの話を聞かせて頂ければと思いまして。」

「………………少々、お待ちください。」

ロイドの話を聞いた男の声は少しの間黙り込んだ後返事をし、そして足音を立ててどこかに向かった。

「さてと……」

「鬼が出るか、蛇が出るか……」

「扉が開いてみてのお楽しみですね……」

そして少しの間待つと扉が開き、東方風の男が出て来た。

「―――お待たせしました。支社長が会われるそうです。どうぞ中へ。」

「ど、どうも。」

「……失礼します。」

男の言葉を聞いたロイド達は会釈をした後、中に入り、入口にいた男の案内によってある部屋に通された。



「やあ、よくいらっしゃいました。」

ロイド達が部屋に入ると眼鏡をかけた東方風の青年がロイド達を見つめた後、椅子から離れてロイド達の前に来た。

「初めまして……クロスベル警察・特務支援課のロイド・バニングスといいます。」

「ふふ……こちらこそ、初めまして。”黒月貿易公司”クロスベル支社を任されているツァオ・リーといいます。ロイドさんにエリィさん、ランディさん、ティオさん、セルヴァンティティさん、シャマーラさん、エリナさんでよろしかったですか?」

ロイドの自己紹介に口元に笑みを浮かべて頷いた青年―――ツァオは自己紹介をした後ロイド達を見回した。

「な……」

「ど、どうしてそちらも私達の名前まで……」

自分達の名前をいい当てられたロイドとエリィは驚いていた。

「ふふ、タネを明かしますとクロスベルタイムズを愛読していまして。あなた方の記事を読んでファンになってしまったんです。それで失礼ながら、色々ツテを使ってお名前を調べさせてもらったんですよ。」

「そ、そうだったんですか……」

(おいおい……いきなり先制パンチかよ……)

(頭脳派のキレ者……納得です。)

(まさかあたし達の事まで知っているなんてね~。)

(ええ……私達はロイドさん達みたいに、新聞や雑誌に載ったことはありませんのに……)

ツァオの話を聞いたロイドは戸惑った様子で頷き、ランディは溜息を吐き、ティオは真剣な表情をし、シャマーラとエリナは小声で話し合っていた。

「いや~、私としては皆さんにお会いできて光栄なんですが……本日はどのようなご用件で?もしや、当社の営業活動に何か問題でもあったのでしょうか?」

「……いえ、そういう訳ではないんです。実は、自分達は現在、”アルカンシェル”に関係する事件を調べていまして……」

「”アルカンシェル”………ああ、あの有名な劇団の事ですね!いや~、クロスベルに来たからには私も一度は見ておきたいんですが忙しくてなかなか時間が取れなくて。そういえば今度、新作が発表されるそうですね?」

「え、ええ……」

「……実は、その新作の公演についてちょっとした問題が起きていまして。その捜査の一環としてこちらに伺わせてもらったんです。」

「ふむふむ……何か事情がおありのようですね。わかりました、詳しい話を聞かせていただきましょう。」

エリィの話を聞いて頷いたツァオはロイド達にソファーに座るよう促し、ロイド達は事情を話した。



「ふむ………”(イン)”ですか。」

事情を聞き終えたツァオは考え込み

「こちらの貿易会社は、カルバード共和国の東方人街に本社がおありだとか………もしかしたら、名前くらいご存知ではないかと思いまして。」

「ふふ……なるほど。まるで私達がその”銀”なる犯罪者と関わりがあるかのような仰られようですね?」

ロイドの話を聞き、口元に笑みを浮かべて尋ねた。

「いえ、とんでもない。正直情報が少なくて………こうして藁にもすがる思いでお訪ねしたというだけなんです。」

「ふふ、いいでしょう。あくまで一般的な情報ですが………”銀”についての、もう少し詳しい伝説についてご披露しましょうか。」

「………お願いします。」

「―――”銀”という名前は、共和国の東方人街では非常に有名です。仮面と黒衣で身を包み素顔を見せない凶手……影のように現れ、影のように消え、狙った獲物は決して逃がさない………そして……ここが肝心ですが、どうやら不老不死という話なのです。」

「ふ、不老不死?」

「それはどういう……」

ツァオの話を聞いたロイドは戸惑い、エリィは真剣な表情でツァオを見つめた。

「どうやら”銀”は、百年以上前から凶手として活動を続けているそうです。百年前といえば、カルバード共和国が民主化された直後くらいの事ですね。そして、その時の記録を調べると確かに”銀”の名前が頻出するそうです。動乱期の最中、要人を次々と葬った黒衣に身を包んだ謎の魔人としてね。」

(まさか………”銀”は”神格者”なのでしょうか?)

(けど”神格者”はお父さんみたいにどこかの神様から”神核”をもらわないと無理って話だよ?)

(ええ………それに百年前という事は私達の世界とも繋がっていませんから、”神格者”ではないでしょう………)

ツァオの話を聞いたエリナは考え込み、シャマーラは不思議そうな表情で呟き、セティは頷いた後考え込み

(確か異世界には不老不死の存在である”神格者”なる存在がいるらしいけど………百年前から活動していたという事だから恐らく関係はないわね。世代交代で同じ姿をして活動をしていた……という可能性が高そうね。)

ルファディエルは考え込んでいた。

「……ますますもって荒唐無稽な話ですね。」

「やっぱり、ただの言い伝えで実在はしてないんじゃねえのか?」

「いえ――――実在しますよ。」

そしてツァオはロイドとランディの疑問に笑顔で答え

「っ……!?」

「なにぃ……!?」

ロイドとランディは表情を厳しくした。



「東方人街の裏側において”銀”はただの伝説ではありません。正体不明ではありますが条件さえ合えばミラで雇える最高の刺客にして暗殺者……あらゆる暗器と符術を使いこなす、神速の迅さを秘めた闇の武術家………そんな存在として認知されています。噂では、とある組織に重宝され、よく仕事を任されているのだとか………」

「………………………」

「……その組織というのは………」

ツァオの説明を聞いたエリィはツァオを睨み、ティオは尋ねたが

「ああ、そうそう。その”銀”ですが………噂では最近、東方人街から姿を消してしまったそうですねぇ。何でも、その組織から大きな仕事が入ったらしく………とある自治州に向かったのだとか。」

ツァオは答えず、不敵な笑みを浮かべて説明を続けた。

「あんた………」

「ふふ、どうしました?その組織が何という名前なのか、私はまだ申し上げていませんよ?その自治州が何処なのかもね。」

「くっ……」

「……どうやら貴方方も”ルバーチェ”と同じようですね。」

(フン、白々しい……!)

挑戦的な笑みを浮かべて語ったツァオをロイドは悔しそうな表情で睨み、エリィは静かな怒りを纏って呟き、メヒーシャは不愉快そうな表情をしていた。

「ふふ、たかが地方組織ごときと同じにしないで頂きたい……と言いたいところですが。彼らは彼らで、この特異な街に抜け目なく適応しているだけはある。なかなか手強く、私も手こずらせてもらっています。」

「おいおい………」

「………ぶっちゃけましたね。」

「ふふ、あくまで”ビジネス”の競争相手としての話ですよ。クロスベルは自由な競争が法によって保障されている場所……何か問題でもありますか?」

自分の話を聞いて目を細めているランディやジト目のティオにツァオは笑顔で答えた後、尋ねた。

「………………………一つ、聞かせてください。そのルバーチェとの競争の中にアルカンシェルは入っていますか?」

「ほう……?」

そしてロイドの質問を聞き、意外そうな表情をした。



「以前、ルバーチェの会長は、アルカンシェルに対して帝都興行を持ちかけたそうです。同じようなことをお考えになってらっしゃるとか?」

「ふふ、確かに共和国の方ではそういった動きもあるようですが………あいにく、私どもの会社は芸能方面には関わっておりません。―――私としても不思議なのですよ。どうして、その脅迫状の最後にそんな名前が書かれていたのかがね。」

「………なるほど。」

ツァオの答えを聞いたロイドは頷いた後立ち上がった。

「―――色々と参考になりました。どうも、ありがとうございました。」

「ロイドさん……?」

「よいのですか?」

ロイドの行動を見たシャマーラは首を傾げ、エリナは尋ねた。

「これ以上、ここにいても得られるものは無さそうだ。色々と忙しいみたいだし、そろそろ失礼させてもらおう。」

「……そうね。」

そしてロイドの話を聞いたエリィは複雑そうな表情で頷いた。

「ふふ、お気遣い感謝します。―――ああそう、セルヴァンティティさん。」

「………私に何か?」

一方ツァオは口元に笑みを浮かべた後、セティに視線を向け、視線を向けられたセティは警戒した表情でツァオを見つめ

「フフ、そんな警戒しないで下さいよ。実は貴女に商談がございまして。」

「…………それは私への”依頼”でしょうか?」

ツァオの話を聞き、静かな表情で尋ねた。

「はい。実は異世界の品々を取り扱う事も考えておりまして………中でもユイドラ製の品々は数ある異世界の品々の中でも貴重でどれも価値が他の異世界の品々と比べ、高いとか。」

「……そうですね。メンフィル帝国との取り決めにより、出荷する品々は上級の工匠達が創った品々の上、数は決めていますから、どうしても数が少なく値段が高くなってしまいます。その事と私への”依頼”がどう関係するのでしょうか?」

「ええ。ここからが本題なのですが………下級や中級の工匠達が創った品々で構いませんので、私達にそちらを売って頂く交渉をしたいのです。勿論、そちらの世界の原価より高めに買い取らせて頂きますので良い取引ができるかと。なのでユイドラの領主である貴女のお父様に取り次いで頂きたいのです。」

「………輸送の関係でどうしてもメンフィル帝国を経由しなければなりません。例え父が貴方が提案した交渉を受けた所で、メンフィル帝国が認可しなければ白紙となるでしょう。それでもよろしいのですか?」

「ええ、勿論承知しております。それでいかがでしょうか?」

「……一つお聞きしてもいいですか?何故私に頼むのですか?同じ父の娘のシャマーラやエリナには頼まず。」

ツァオの話を聞いたセティは考え込んだ後、静かな表情で尋ねた。

「フフ……先程申しました通り、私は貴女達特務支援課のファンなんです。勿論、支援課のメンバーである貴女達も。ツテを使って調べた所、ウィルフレド様の長女であり、彼の正妻のセラヴァルウィ様のご息女は貴女との事なので、貴女に話を持っていくのが筋かと思いまして。」

「!………………………そう、ですか………」

(セティ姉さん………)

(セティ姉様………)

そしてツァオの説明を聞き目を見開いて驚いた後、静かな怒りを纏って呟き、その様子を見ていたシャマーラとエリナは心配そうな表情でセティを見つめていた。

(あの人、酷いです!よくもセティが一番気にしている事を……!)

(何よ!?正妻の娘でない2人には用はないって事!?)

一方話を召喚石を通して聞いていた水那やクレアンヌは怒りの表情でツァオを睨んでいた。

「………お話はわかりました。今日こうして捜査に協力して頂いたのですから無下に断る訳にもいきませんし、一応父に話は通しておきます。―――ただし、そちらに返事ができるのがかなり遅い事を覚悟して頂く必要がありますが。」

「おお………ありがとうございます。いつまでもお待ちしておりますので、ご連絡をお待ちしております。」

「それとご存知かと思いますが歓楽街にあるラギール商会の店舗には私や妹達が創った品々もあるので、そちらでもよければどうぞ。」

「ふふ、わざわざ教えて頂きありがとうございます。お言葉に甘えて時間がある時にどのような品々なのか見せて頂きます。―――ああそれと、ロイドさん。」

セティの話を聞いたツァオは口元に笑みを浮かべながら頷いた後、ロイドに視線を向け

「……なんでしょうか?」

視線を向けられたロイドは表情を厳しくしてツァオを睨んだ。

「ふふ……そう恐い顔をしないでください。先程も言ったように……私があなた方のファンというのは本当のことなんですから。」

「え……」

「今回の一件……なかなかに興味深い。いちファンとして、あなた方がどのように解決してくれるか………楽しみにさせていただきますよ。」

その後ロイド達は”黒月貿易公司”のビルを東方風の男と共に出た。



「……お疲れ様でした。また何かあればいつでもいらっしゃって下さいとの支社長からの伝言です。」

「……どうもご親切に。」

ロイド達に伝言をした男は建物の中に入り、扉に鍵をかけた。

「ルバーチェに続いてこちらもだったか………」

「ま、あっちよりは遥かに友好的だったが………逆に舐められてたのかもな。」

「その可能性は否定できないかと……」

その様子を見守っていたロイドとランディは溜息を吐き、ティオは静かな表情で頷き

「腹が立つ~!あたし達の事を馬鹿にして!」

「あの時は黙っていましたが……私達が一番気にしている事をよくも口にしましたね……!」

「2人とも。私は気にしていないから、怒らないで。」

シャマーラとエリナは怒りを顕わにし、その様子を見たセティは苦笑しながら2人を諌めた

「………………」

一方エリィは”黒月貿易公司”の建物を見つめて考え込んでいた。

「エリィ……?」

「ひょっとして……具合が悪いんですか?」

「ううん、大丈夫。……それよりも、”(イン)”という凄腕の刺客がクロスベルに潜入している………その情報は確かみたいね。」

そしてロイドとティオに心配されたエリィは首を横に振って答えた後、真剣な表情でロイド達を見回して言った。

「ああ……あの調子だと間違いないだろう。ただ、あの支社長がアルカンシェルやイリアさんを脅迫したとは思えないんだよな。」

「ああ、そんな感じはしたな。もしそうだったら、そもそも”銀”との関係を仄めかしたりはしねぇだろ。」

「……という事は……”銀”という暗殺者が、雇い主である”黒月”に関係なく勝手にやった事なのでしょうか?」

「そうだとしたら……正直、手詰まりになりそうだ。さっきの話が本当なら……あの支社長も”銀”の素性を知ってるわけじゃないんだろう。」

「となると、本人を捕まえるしか聞き出す方法が無いってわけか?」

「そうね……もし、その”銀”という刺客がイリアさんを狙っているなら………これはもう、私達の仕事では無いかもしれない……」

「え………」

自分達が話し合っている中呟いたエリィの言葉を聞いたロイドは驚いて仲間達と共にエリィを見つめた。

「どうやら相当な凄腕みたいだし私達どころかルファディエルさん達でも捕まえられる保証もない。だったら今回は、警察本部に任せた方がいいんじゃないかしら?

「それは………」

「また旧市街の時のように知らぬ顔をされるのでは………?」

エリィの提案を聞いたロイドは驚き、ティオは疑問に思った事を口にして尋ねた。

「ううん、アルカンシェルやイリア・プラティエという存在はクロスベル市にとって非常に重要よ。その身に危険が迫っているなら警察本部だって絶対に動くはず………それこそ警察の威信にかけてね。」

ティオの疑問にエリィが答えたその時

「―――その通りだ。」

聞き覚えのある声が聞こえた後、以前法律事務所の前で出会った眼鏡をかけた刑事がロイド達に近づいてきた。

「あ、あなたは……!」

「知っている人なの?」

「たしか捜査一課の……」

刑事を見たロイドは驚き、シャマーラは首を傾げ、エリィは驚きの表情で刑事を見つめ

「一課のダドリーだ。来い。」

刑事―――ダドリーは名乗った後、促した。

「へ……」

「……こんな場所で悠長に話をする馬鹿がどこにいる。いいから付いてこい。」

「わ、わかりました。」

「おいおい、何だってんだ………」

そしてロイド達はダドリーに付いて行き、”黒月貿易公司”の建物から離れ、ダドリーは公園の傍に駐車してある車の近くまで移動した………


 
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