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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第32話

~グリムウッド法律事務所~



「―――失礼します。」

「おお、君達か。お疲れさま。頑張っているようだね。」

ロイドの声に気付いたイアンは書物の整理を止め、ロイド達に近づいて笑顔を見せた。

「はは………先生こそ。」

「相変わらずお忙しくしてらっしゃるみたいですね。」

「はは、もう慣れっこだよ。それはそうと………どうかしたのかね?何やら相談事があるような顔つきをしているが。」

「………驚きました。」

「はは、やっぱわかるもんスかね?」

イアンの言葉を聞いたティオは驚き、ランディは苦笑しながら尋ねた。

「まあ、そういった依頼人をそれこそ山ほど見ているからね。仕事も一区切り付いたところだし、相談くらいには乗れると思うよ。」

「先生………ありがとうございます。」

「それではお言葉に甘えさせていただきます。」

そしてロイド達はセティ達をイアンに紹介した後、事情を説明した。



「なるほど………アルカンシェルに脅迫状が。そして”銀”という差出人とルバーチェとの関係か………」

ロイド達の事情を聞いたイアンは考え込み

「何か………心当たりでも?」

イアンの様子を見たロイドは尋ねた。

「いや、あいにくそれらを結びつける情報は知らないが………”銀”という名前ならば心当たりがないわけではない。」

「え………!」

「本当ですか………?」

イアンの話を聞いたロイドは驚き、エリィは真剣な表情で尋ねた。

「ああ、同じ人物を指しているかどうかはわからないが………それでも構わないかね?」

「ええ、もちろんです!」

「今は少しでも手掛かりが欲しいところッスから。」

「ふむ………前に出張で共和国に行った時なんだが。奇妙な都市伝説を現地の人に聞かされてね。”(イン)”と呼ばれている伝説の凶手がいるらしいんだ。」

(イン)………」

「いわゆる東方読みですね………」

「その”凶手”というのは……?」

イアンの話を聞いたロイドとエリィは表情を厳しくし、ティオは疑問に思った事を口にし

「確か刺客とか、暗殺者って意味だったはずだ。主に東の方で使われてる呼び方らしいが。」

「暗殺者………ですか。」

ランディが答え、ランディの話を聞いたエリナは目を細くした。

「ふむ、よく知っているね。まあ、優秀な傭兵のことを”猟兵(イェーガー)”と呼ぶのと似たような習わしなんだろう。」

「しかし………その都市伝説というのは?」

「ああ、どうやら本当に実在しているのかどうかわからないらしくてね。噂では、仮面と黒衣で身を包み決して素顔を見せないという。影のように現れ、影のように消え、狙った獲物は絶対に逃がさない………そんな亡霊のような存在として噂されているみたいだね。」

「亡霊………」

「ずいぶんと荒唐無稽な話だな………」

「なるほど………だから都市伝説ですか。ですが、その伝説の資格がどうしてイリアさんに脅迫状を?」

イアンの説明を聞いたロイドは呆け、ランディは目を細め、ティオは納得した様子で頷いた後尋ねた。

「………そうね。すぐには繋がらないけれど………もしかして………”黒月(ヘイユエ)”?」

一方エリィは考え込んだ後すぐにある事に気付いてロイドに視線を向け

「ああ………俺もそれは思った。」

視線を向けられたロイドは頷いた。

「ふむ………確かに”黒月”はカルバードの東方人街に一大勢力を構えている組織だ。伝説の凶手と何らかの関係があっても不思議ではないが………」

「なるほど………あの若頭が反応した理由が何となく見えて来たな。”ルバーチェ”と”黒月”は現在、この街で対立している………その”黒月”と”銀”ってのが結びついているとしたら………」

「ルバーチェと無関係でありながら彼らが強く意識している存在―――ロイドさんの推測を裏付ける事にはなりそうですね。」

イアンが考え込んでいる中、ランディとティオはそれぞれ考えた事を言った。

「ふむ………興味深いな。しかし―――その”(イン)”がどうしてアルカンシェルの大スター、イリア・プラティエを脅すのかね?」

「それは………確かにそうですね。」

「イリアさんとルバーチェの会長が酒の席でトラブルを起こした件………それが関係している話の可能性は?」

そしてイアンに尋ねられたロイドは考え込みながら頷き、セティは自分の推測を言ったが

「ううん………どうやら大した話ではなかったみたいだし………ルバーチェの対立相手が彼女を脅す理由にはならないわ。」

エリィは首を横に振って答えた後、真剣な表情で言った。

「だな………となると、脅迫状の”銀”ってのは全くの別人って考えた方がいいのかね?」

「いや………これだけ符号が揃っているんだ。全く関係がないと切り捨てるのは早計だろう。―――なあ、みんな。さっきの今で何だけど………一度、”黒月(ヘイユエ)”も訪ねてみないか?」

そしてランディの話を聞いたロイドは答えた後、意外な提案をした。



「ええっ!?」

「おいおい……またしてもいきなりだな。」

「考えてもみてくれ。あの”ルバーチェ”に警戒されているほどの勢力だ。そんな相手がこの街に進出して裏社会の覇権を奪おうとしている………場合によっては、ルバーチェより危険な組織かもしれない。」

驚いているエリィ達にロイドは説明し

「それは………」

「……なるほど。これを機会に確かめるわけですね。」

「けど、いきなり訪ねても大丈夫かな~?さっきのルバーチェと違って相手の事が全然わからないし。」

ロイドの話を聞いたエリィは考え込み、ティオは納得した様子で頷き、シャマーラは首を傾げていた。

「ふむ………”黒月貿易公司”の支社長だが実はこの前、会ったばかりでね。」

するとその時イアンが意外な事を口にし

「え……!?」

「本当ですか……!?」

イアンの言葉を聞いたロイドとエリィは仲間達と共に驚いた。

「クロスベルでの商取引について法的に問題ないか監査を依頼してきたんだ。違法なところは無かったから結局、引き受ける事になったが………その時に、その支社長と会ったんだ。」

「そ、そうだったんですか……」

「……その……どういった人物でしたか?」

「ふむ……一言で言うと『キレ者』だね。まだ若いのに、飄々とした言動で相手を絡め取っていくというか……とにかく一筋縄ではいかない頭脳の持ち主だと感じさせられたよ。」

「頭脳派、ですか。」

「なかなか厄介そうな相手だな。そんなキレ者にわざわざ面会を申し込むのか?いっそここはルファディエル姐さんに任せてみたらどうだ?同じ頭脳派同士、対抗できるかもしれねぇし。」

イアンの話を聞いたティオは呟き、ランディは疲れた表情で溜息を吐いた後提案し

「いや……難しいかもしれないからと言って、ルファ姉を頼りにするのは間違っているよ。それにせっかくの口実もある事だしね。どうかな?」

ランディの提案を聞いたロイドは首を横に振った後、仲間達に尋ねた。

「ハッ……面白そうじゃねぇか。」

「わたしも……少し興味があります。」

「私も”ルバーチェ”についてはある程度は知識があるけど”黒月”はほとんど知らないから……確かにいい機会かもしれないわ。」

「決まりだな。……っと、そうだ。先生、ちなみに確認しておきたいのですけど、”ラギール商会”に”銀”に関する心当たりはありませんか?」

ランディやティオ、エリィの様子を見たロイドはイアンに尋ね

「”ラギール商会”で”銀”に関する事か…………う~む、さすがにそれはありえないとは思うが……」

尋ねられたイアンは考え込み

(ま、まさか……)

(………エリザベッタさんの事……でしょうね。)

(あはは~………あの人の髪の色って、見事な銀色だもんね……)

話を聞いていたセティ、エリナ、シャマーラはそれぞれ冷や汗をかいていた。

「何か心当たりがあるのですか?」

一方セティ達の様子に気付いていないエリィはイアンに尋ねた。



「ああ。……実は”ラギール商会”の店長にもクロスベルでの商取引について法的に問題ないか監査を依頼してきてね……そちらも違法なところは無かったから、引き受けたんだが……その時にいた売り子の髪の色が見事な銀髪だったんだよ。」

「!それは………」

「……どうやら”ラギール商会”も訪ねる必要がありそうですね……」

そしてイアンの話を聞いたロイドは表情を厳しくし、ティオは真剣な表情で呟いた。

「ちなみに”ラギール商会”の方の支店長にも会ったんスか?」

「ああ。……話にあった通りの組織の支店長とはとても思えない人物だったよ、”彼女”は。」

「”彼女”……?」

「ひょっとして女性の方なんですか?」

イアンの説明を聞いたロイドは不思議そうな表情をし、エリィは意外そうな表情で尋ねた。

「ああ。………あくまで私が感じた事になるが……彼女を一言で表すなら”良い人”としか感じられなかったな。」

「……とても裏組織の支店長とは思えない印象ですね……」

「………―――イアン先生、お話ありがとうございました。これで何とか捜査を続けることが出来そうです。」

「そうか……ふふ、そうしていると少しガイ君の事を思い出すな。」

「……あ……」

「相手は一応、真っ当な貿易会社と一般の店舗を装ってはいる。その意味で、訪ねるだけであればそこまで危険はないだろうが……だが、彼らの本体は巨大な勢力を誇る犯罪組織と未だ全貌が見えない謎の組織だ。くれぐれも気を付けたまえ。」

「はい……!」

「ご忠告、感謝します。」



その後法律事務所を後にしたロイド達は最初に”ラギール商会”を訪ねる為に歓楽街にある”ラギール商会”の店舗に向かった。

~歓楽街・ラギール商会~



「ここか……」

「見た目は普通のお店にしか見えないわよね……?」

歓楽街の一角にある”ラギール商会”の店舗兼事務所である2階建ての建物を見上げたロイドは真剣な表情で呟き、エリィは戸惑った表情で建物を見つめた。

「「「………………」」」

一方セティ達はそれぞれ冷や汗をかいてロイド達を見つめていた。

「……”営業中”って事は普通に入れるんじゃねえか。本当にここが異世界のヤバい取引をしている商人の組織なのかね……」

「……まあ、それは中に入らない事にはわからないかと。」

扉の前にかかってある看板を見たランディは不思議そうな表情をし、ティオはランディに言った。

「―――とりあえず入ってみよう。」

そしてロイド達は店の中に入って行った。



「いらっしゃい……ませ……」

ロイド達が店の中に入ると店の中には武器や防具だけでなく、装飾品や薬もさまざまな所に置いてあり、カウンターには銀髪のツインテールの少女が立っていた。

「えっ!?お、女の子……!?」

「しかも銀髪ですね………」

「おいおい。さすがにあの娘は関係ねえじゃねえのか?」

銀髪の売り子を見たエリィは驚き、ティオは売り子の髪の色に注目し、ランディは呆れた表情で溜息を吐いた。

「……クロスベル警察、特務支援課に所属する者です。とある事件に関してこちらの支店長さんの話を聞かせていただきたいと思いまして。」

一方ロイドは捜査手帳を売り子に見せながら言った。

「警察の方が……チキ様に……ですか……?一体どんな……事件………なのでしょう……?」

ロイドの話を聞いた売り子は不思議そうな表情で尋ねたが

「すみません。極秘の事件でして………できれば支店長さん以外の方には耳にしてもらいたくなくて。」

ロイドは申し訳なさそうな表情で言った。

「そう……ですか。ならば……お引き取り………下さい………」

すると売り子はロイド達を見つめて言い

「え……」

「その……何とかお取次ぎをお願いできないでしょうか?」

売り子の返事を聞いたロイドは呆け、エリィは申し訳なさそうな表情で言ったその時

「……お客様でない方達は……お引き取り……下さい……」

売り子は丁寧な口調ながらもすざましい威圧感を纏って、ロイド達を見つめた

「っつ!?」

「な、何なのこの娘……!?」

売り子がさらけ出す威圧感に呑まれたロイドは驚き、エリィは信じられない表情をし

「………あの営業本部長が私達を脅した時以上の雰囲気を感じるのですが……」

「ああ………多分、あっちの嬢ちゃんの方があのオッサンより格上だ………!」

ティオは売り子から視線を逸らして呟き、ランディは目を細めて売り子を睨んでいた。するとその時

「ストップ、ストップ、エリザベッタさん!」

「……アポイントもなくいきなり訪ねてきてしまって、すみません。」

シャマーラとエリナがロイド達の前に出て売り子――ーエリザベッタを宥めた。

「へっ!?」

「まさか……お知り合いなのですか……?」

シャマーラ達の行動を見たロイドは驚き、ティオは目を丸くして、セティ達を見回し

「はい。今の工房で私達が創った商品をこちらで売って貰っているんです。……騒がせてしまってすみません、エリザベッタさん。チキさんと面会したいのですが、よろしいでしょうか?」

セティが説明した後、売り子―――エリザベッタに言った。

「セルヴァンティティ様にシャマーラ様、エリナ様………………その方達は信頼できる……方達なのでしょうか……?」

「はい。それは私達が保障します。」

「……かしこまりました……少々……お待ちください……………」

セティの返事を聞いたエリザベッタは会釈をした後、2階へ続く階段を昇って行った。

「まさかセティちゃん達が”ラギール商会”と関係があったなんて……」

「……なんで黙っていたんだ?」

エリザベッタが階段を上るとエリィは驚きの表情でセティ達を見回し、ロイドは真剣な表情で尋ねた。

「……黙っていてごめんね~。みんなを見ていると、言い出しにくくて。」

「……誤解のないように言っておきますが、私達は”ラギール商会”とは正当な取引しかしていません。それに私達が知る限り、この店舗は違法性のある物は販売していません。」

するとシャマーラが申し訳なさそうな表情でロイド達に謝罪し、エリナは静かな口調で答えた。

「はは……セティ達の事は疑っていないよ。まだ、一緒に行動している時間は少ないけど……3人共、信頼できるって事はわかっているから。」

シャマーラ達の様子を見たロイドは苦笑した後、セティ達に微笑み

「「「!!」」」

ロイドに微笑まれたセティ達はそれぞれ驚き、そして

「あはは~。面と向かって言われると結構照れちゃうね~。」

「フフ、そうですね……」

「…………………」

シャマーラとセティは苦笑し、エリナは頬を僅かに赤く染めて黙り込み

「…………………………」

「セシルさん達だけじゃ飽き足らず、セティちゃん達にまで手を出そうとするなんて……」

ティオとエリィは蔑みの視線でロイドを見つめ

「おのれロイド……まさか美人3姉妹を全員揃って攻略するつもりか………!」

(ハア………ロイドのこの癖だけはどうにかならないのかしら……?)

(クカカカカッ!すかさず好感度を上げるとはさすがはロイドだな!)

ランディは悔しそうな表情でロイドを睨み、ルファディエルは溜息を吐いた後頭をおさえ、ギレゼルは陽気に笑った。

「ちょ、ちょっと待て!?俺、おかしな事言ったか!?3人共同じことを思っているだろう!?」

エリィ達の様子にロイドが慌てて言ったが

「………そうね。」

「…………言っている事は一応、間違ってはいないですけど………」

「そのついでにセティちゃん達の好感度を上げるとか、納得できないっつーの!」

エリィとティオは蔑みの表情を変えずに見つめ続け、ランディは悔しそうな表情で睨んで言った。

(フフ、こういう所がウィルに似ているわね。)

(う~ん………確かにそうかも。)

一方クレアンヌは苦笑し、クレールは考え込んで呟き

「いや、意味がわからないから。」

ランディの言葉にロイドが呆れた様子で答えた。するとその時エリザベッタが2階から降りてきて、再び同じ位置に立った。

「おまたせ……しました……チキ様が皆さんと……会うとの……事です……チキ様がいる……部屋については……階段を昇って……真っ直ぐ行けば……奥の部屋がありますので……そこに……チキ様が……いらっしゃいます……」

「わかりました。それではお邪魔いたします。」

エリザベッタの言葉を聞いたロイドは頭を軽く下げた後、仲間達と共に支店長がいる部屋に向かい、入った。



部屋に入るとそこには一人の商人のような服装を着た少女がソファーの傍にある机に自分とロイド達の分でちょうどの数になる紅茶が入ったカップと魔法瓶を置いていた。

「あ、特務支援課の方達ですね。………いらっしゃいませ。」

ロイド達に気付いた少女は振り返って笑顔で会釈をし

「ま、また女の子……??」

「本当にこの方が……?」

エリィは戸惑い、ティオが驚きの表情でセティ達に視線を向け

「はい、そうですよ。」

「まあ、最初にチキさんと会ったらそういう印象を持つよね~。」

「……本人を目の前に失礼な事を口にするのは止めなさい、シャマーラ。」

視線を向けられたセティは頷き、シャマーラは苦笑しながら呟き、シャマーラの言葉を聞いたエリナはシャマーラを注意した。

「―――初めまして。クロスベル警察・特務支援課のロイド・バニングスといいます。」

「初めまして……”ラギール商会”ゼムリア大陸第一店舗を任されている……チキ・インディスと申します……ロイド・バニングス様にエリィ・マクダエル様、ティオ・プラトー様にランディ・オルランド様でよろしかったですか……?」

ロイドの名乗りを聞いた少女―――チキはロイド達を見回して尋ね

「なっ!?」

「ど、どうして私達の名前を……」

尋ねられたロイドは驚き、エリィは信じられない表情をした。

「……ご主人様から貴方達の情報は頂いて……おりますので…………」

「チキさんの主が私達の事を知っているんですか……?」

「……その方とは誰なんでしょうか?」

チキの話を聞いたティオは不思議そうな表情をし、ロイドは尋ねたが

「……………………どうぞ、お掛けください……お茶もありますので……」

チキは答えず、ロイド達にソファーに座るよう促した。

(おいおい。こっちの嬢ちゃんもさっきの売り子みたいに何か秘密があるっぽいぞ?)

(確かに話した感じでは良い人みたいですが………やはり何か隠していますね。)

チキの様子を見たランディは疲れた表情で溜息を吐き、ティオは真剣な表情でチキを見つめた。その後ソファーに座ったロイド達はチキに事情を話した。



「……なるほど……アルカンシェルで有名な……あのイリア様に脅迫状が届いて……その差出人が”銀”で……”銀”に関係する……銀色の髪のエリザベッタさんを……雇い……”ルバーチェ商会”に”競争相手”として見られている私達に……”ルバーチェ商会”を妨害する為に……脅迫状を送ったかどうかの話を……聞きにきたんですね……」

ロイド達から事情を聞いたチキは頷いた後、静かな表情でロイド達を見回した。

(……この嬢ちゃん……見た目とは裏腹に頭も結構キレるぞ……?)

(さすがは”ルバーチェ”の対抗組織の支店長だけはありますね……)

チキの話を聞いたランディは小声で目を細めてチキを見つめながらティオに呟き、ティオは真剣な表情でチキを見つめていた。

「……あくまで参考にまで話を聞きたくて。それで何か心当たりはありませんか?」

一方ロイドは冷静な表情で尋ねたが

「いえ……エリザベッタさんには……特に不審な動きを感じた事は……ありませんし……私達としては……アルカンシェルやイリア様が存在しているお蔭で……お客様には………困らないので……脅迫状を……送るような事は……絶対に致しません……」

「……そりゃアルカンシェルが人気になればなるほど、歓楽街に人が増えるからな。自然とこの店に来る客も多くなるな。」

チキは首を横に振って答え、ランディは納得した様子で頷いた。

「………一つお聞きしてもよろしいでしょう?」

一方ロイドは考え込んだ後チキに尋ねた。

「はい、何でしょうか……?」

「……何でも話によればこの店はどんな”商品”であろうと”何でも揃う”とか。その中にアルカンシェルの特別公演は入っているのでしょうか?メンフィル領でも特別公演をオファーされたと耳に挟んだのですが。」

「………確かにメンフィル領でその話が出たことの報告は受けていますが………私達は芸能の分野には……触れていませんので……」

「……そうですか。」

そしてチキの答えを聞いたロイドは静かな表情で頷き

「……もう一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

エリィが真剣な表情でチキを見つめて言った。

「どうぞ。」

「……知り合いに話を聞いた事があるのですが、こちらの商会では”商品”の中に”人”を取り扱っていると聞きましたが、それは真実なのでしょうか?」

「……いいえ、”こちらの店舗”ではそのような商品は取り扱っていません。」

「!それは………」

「他の店舗では取り扱っているという事ですね……」

チキの答えを聞いたロイドは表情を厳しくし、ティオは真剣な表情でチキを見つめながら言ったが

「………………………」

チキは微笑みながら何も語らずロイド達を見つめていた。

(チッ。こりゃ絶対やっているぞ。)

(ですが、証拠もないのにこれ以上問い詰める事は無理ですね。)

チキの様子を見たランディは舌打ちをし、ティオは疲れた表情で呟いた。

「………―――ご協力、ありがとうございました。」

一方ロイドは考え込んだ後、立ち上がってチキに頭を軽く下げた。

「ロイドさん?」

「おい、いいのかよ?」

ロイドの行動を見たティオは不思議そうな表情をし、ランディは尋ねたが

「証拠も無しにこれ以上聞く事はできないよ。それに恐らく今回の件にここは関係ないよ。色々と忙しいみたいだし、今日はこれで失礼しよう。」

ロイドは疲れた表情で答えた後、エリィ達を見回して言い

「……そうね。」

エリィは複雑そうな表情で答え

「わざわざお気遣い……ありがとうございます。……今後はこの店で皆さんが何か商品を買って頂く時……皆さんはセルヴァンティティ様達の関係者なので……サービス価格で売らせて頂きますので………今後ともごひいきに……」

「……わざわざご親切にありがとうございます。」

「今日は時間をとって頂いてありがとうございました、チキさん。」

そしてチキの言葉にロイドは静かな表情で頭を軽く下げ、セティは会釈をした。その後ロイド達はラギール商会の建物を出た。



「………何と言うか……色々と謎があって判断が難しい所だったな……」

建物を出たロイドは疲れた表情で溜息を吐いた後、建物を見つめ

「……さすがはルバーチェの対抗組織だけあって、尻尾を全然掴ませてくれませんでしたね。」

ティオはロイドの言葉に頷いた。

「セティちゃん達は彼女達と知り合いのようだけど……何か知っている?」

一方エリィは真剣な表情でセティ達を見回して尋ねた。

「ん~……とは言ってもあたし達が知っているのはチキさんとエリザベッタさんが元奴隷であった事や今の主がそれぞれ誰なのかぐらいだよ?」

「へっ!?」

「あの2人、奴隷だったんですか………」

そして考え込んだ後答えたシャマーラの答えを聞いたロイドは驚き、ティオは意外そうな表情をした。

「で?その主って奴は誰なんだ?特にあのチキって嬢ちゃんの主は俺達の事を調べているし、ただものじゃねえだろ………」

一方ランディは真剣な表情でセティ達を見つめて尋ね

「……メンフィル大使、リウイ・マーシルン様です。」

尋ねられたエリナは静かな表情で答えた。

「へっ!?」

「え……」

「おいおいおいおい……!何でそんな大物が俺達の事を調べてんだよ!?」

(………何で私達の事を調べたんでしょ、あの人?)

エリナの答えを聞いたロイドは驚き、エリィは呆けた表情をし、ランディは信じられない表情で言葉を口にし、ティオは考え込んだ。

「ん~………さすがにそれはあたし達もわからないけど………」

「もしかしたら私達が所属する部署だから調べたんじゃないでしょうか?」

「そうですね……私達は向こうにとって”客人”に値すると思いますし……」

ランディの言葉にシャマーラとエリナ、セティはそれぞれ答えながら意味ありげな視線でエリィを見つめ

「…………?」

(お前が支援課にいたからではないのか、エリィ。)

「!…………………………………」

見つめられたエリィは最初は首を傾げていたが、メヒーシャの念話を聞いて驚いた後複雑そうな表情で考え込んでいた。

「まあ、同盟相手の領主の娘であるセティ達を預ける場所を調べていてもおかしくはないか…………よし、次は”黒月”の方だ。」

「こっちの方では何か掴めるといいな。」

そしてエリィの様子に気付いていないロイドは提案し、ランディは頷いた。



その後ロイド達は”黒月貿易公司”を訪ねる為に港湾区にある”黒月貿易公司”の建物に向かった………




 
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