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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第28話(1章終了)

~深夜・マインツ山道~



「うふふ……やっぱり気付かれてたか。」

「あの狼、ただの狼じゃないね。獣の分際でエヴリーヌ達に気付くなんて。」

一方白い狼が見つめていた方向――――崖の上にいたレンは口元に笑みを浮かべ、銀髪のツインテールの少女は静かに呟いた。

「うふふ………それにしても天使と悪魔達の使いどころをちゃんとわかっていたわね♪」

「けど肝心な所は天使達頼りだから、あの人間達だけの力じゃ、無理だったんじゃない?」

そしてレンと少女がそれぞれロイド達を見つめて呟いたその時

「………まあ、これからだろう。」

男の声が聞こえて来た。

「あら…………」

「?」

声を聞いたレンと少女がそれぞれ驚いたり首を傾げたその時、アリオスがレン達の背後から現れてレン達と並んでロイド達を見つめていた。

「うふふ、貴方も来ていたのね。さしずめ、彼らの手に余ったら手助けするつもりだったのかしら?”風の剣聖”……アリオス・マクレイン。」

「ああ、その名前の遊撃士って確か”影の国”で”神殺し”にボロ負けした遊撃士だっけ?」

アリオスと並んだレンは不敵な笑みを浮かべ、少女はある事を思いだしていた。

「………君達こそな。メンフィル皇女――――”殲滅天使”レンとメンフィル客将”魔弓将”エヴリーヌ。」

一方アリオスは警戒した様子になってレンと銀髪の少女―――エヴリーヌの名前や正体を口にした。

「クスクス……自己紹介をするまでもなかったか。さすがS級への昇格要請を辞退しているだけはあるみたいね?」

そしてレンは興味ありげな様子でエヴリーヌと共にアリオスを見つめて言い

「正直、過ぎた位階(ランク)だからな。カシウス・ブライトの代わりを期待されても荷が重いだけだ。」

レンに言われたアリオスは静かな表情で言った。

「ふふ………どうかしら?レン、カシウス・ブライトと会ったことがあるけど………貴方、剣の腕だったら彼とそれなりに戦えるんじゃないかしら?そうね、プリネお姉様の恋人―――レーヴェに匹敵する感じがするわ。」

「………あいつの名前を口にしないで。ムカついてくるから。」

アリオスの言葉を聞いたレンは口元に笑みを浮かべてアリオスを見つめ、レンの口からある人物の名前を聞いたエヴリーヌは不愉快そうな表情になった。

「フフ………”剣帝”と一緒にされるのは光栄と言うべきか。―――この2ヵ月。君達がクロスベル自治州に滞在していることは掴んでいる。最初はリベールのように『お茶会』とやらを開くつもりかと思ったんだが…………」

「うふふ、わかっていないわね。レン達がお茶会を開かなくてもクロスベルは十分刺激的でしょう?この上、余計な催し物をするのは無粋というものだわ。」

「それを聞いて安心した。どうやら個人的な事情で滞在しているだけのようだが………――――いつまで自らの過去から逃げるつもりだ。」

「!……………………………」

「レン……………」

アリオスの言葉を聞いたレンは驚いた後複雑そうな表情で黙り込み、エヴリーヌは心配そうな表情でレンを見つめていた。

「…………放っておいて。それにレンがここにいるのは”あの人達”の事だけじゃないわ。”彼”の修理もあるし………他にも確かめなくちゃいけない事があるから。」

「確かめなくてはならない事…………?」

「うふふ、貴方には関係ないことよ。大人しくするって約束するからレン達のことは放っておいてちょうだい。もちろん………エステルや支援課のお兄さん達にも余計なことは喋らないでね?」

「………承知した。君達がこの地に仇なさぬ限り、余計な干渉はしないことを誓おう。」

レンの話に頷いたアリオスは静かな笑みを浮かべ

「うふふ、ありがとう。じゃあ、レン達はもう行くわね。ご機嫌よう………”風の剣聖”さん。エヴリーヌお姉様、お願い。」

「ん。転移。」

アリオスの答えを聞いたレンはアリオスに背を向けた状態でスカートを摘み上げて軽くお辞儀をした後、エヴリーヌの転移魔術によってその場から消えた。

「………迷子の子猫、か。しかしこのままでは彼女は迷い続けるだけだ。何か良いきっかけをもたらす第三者でもいれば、あるいは………」

レン達が消えた後アリオスは真剣な表情で呟いた後、ある事に気付き、ロイド達を見つめ

「フッ………まさかな。」

静かな笑みを浮かべ、その場を去って行った。そして警備隊が到着すると、早朝になっていた。



~早朝・鉱山町マインツ~



「―――皆さん、お見事です!」

「ええ………これも全てルファディエル警部の作戦や推理のお蔭ね。見事な策と推理だったけど………あくまで今回の功績のほとんどはルファディエル警部である事を頭に入れておきなさい。でないと今後も彼女無しの貴方達ではやっていけないわよ?」

マフィア達が警備隊の車両に連行されている中、ロイド達と対峙したノエルはロイド達を称賛し、ソーニャはノエルの言葉に頷いた後、忠告し

「はい、わかっています。」

ソーニャの忠告にロイドは真剣な表情で頷いた。

「ふふ………それがわかっているなら構いません。それにしても本当に無事で済ませてくれたわ。それと、私達の代わりに事件を解決してくれて感謝します。」

「副司令………」

「はは………改めて言われるとムズ痒いッスね。」

「ふふ………ところで副司令。ロイドさん達を援護しに来たという、白い狼たちの方はどうしましょう?」

ソーニャの言葉に嬉しそうな表情をしているロイド達を見たノエルは微笑んだ後、ソーニャに尋ね

「そうね……完全に濡れ衣だったみたいだし。様子見してもいいと思うけど………」

尋ねられたソーニャは頷いた後、考え込みながら言った。

「………大丈夫かと思います。無用なトラブルを起こすほど愚かではなさそうでしたから………」

「ええ………どちらかというと私達を見守ってくれる存在のようでした。」

「ふふ、そうみたいね。………しかし、そういう意味では愚かなのは人間の方だったわね。まさか軍用犬の実戦テストをするために各地で騒ぎを起こしていたなんて………いくら後ろ盾があるからといって、舐めた事をしてくれたものだわ………」

ティオとセティの言葉に頷いたソーニャはロイド達から聞かされた事件の真相を思い出して、静かな怒りを纏った。

「………はい。」

そしてソーニャの言葉を聞いたエリィは複雑そうな表情で頷き

「でも、これだけの騒ぎを起こしたわけですし………さすがに今回ばかりは言い逃れはできないですよね?」

ロイドは口元に笑みを浮かべてソーニャ達に尋ねた。しかしソーニャとノエルは黙り込み

「え……」

「やはり………保釈されてしまう可能性が?」

2人の様子を見たロイドは驚き、エリィは厳しい表情で尋ねた。

「………ええ、高いわね。」

「――――今までにも、国境付近でのマフィアの密輸を摘発したことがあったんですが………その都度、圧力がかけられて保釈されてしまっているんです。それどころか適当な名目で密輸品も返還する事になって………」

「なっ……!?」

「グダグダですね……」

「そういや、ベルガード門でも同じようなことがあったな………」

「………………………」

そして2人の答えを聞いたロイドは驚き、ティオは呆れ、ランディは目を細め、エリィは複雑そうな表情で考え込み

「リウイ様達から予めクロスベルの特徴を教わっていましたが、まさかそこまで腐敗しているなんて………」

「む~………そんな事になるのだったら、もっと痛めつけといた方がよかったかな~?」

「……シャマーラ。貴女の気持ちは私もわかりますが過度な暴力はいけませんよ。」

セティは真剣な表情で考え込み、シャマーラは不満げな表情をし、エリナは静かな表情でシャマーラに言った。

「でも……腐ってばかりもいられないわ。この状況で、みんなが諦めたらクロスベルは本当に駄目になる………そう考えて、自分に出来る事をしている人達は少なくないはずよ。貴方たちみたいにね。」

「あ………―――はい。そうでありたいと思っています。」

「ふふ……これからも支援課(あなたたち)の働きに期待させてもらうわね。―――さ、クロスベル市までうちの車両で送って行くわ。ノエル、出発の準備を。」

「了解しました(イエス・マム)!」

その後ロイド達は警備隊の車両によってクロスベル市まで送ってもらった。



~中央広場~



「ふわああああ~……」

「さすがに眠いわね………」

「何やかんやでほぼ完徹に近いからなぁ。」

「……もう限界です。」

「徹夜には慣れているつもりだったのですが………久しぶりにするとキツイですね………」

「大使館にいた頃は規則正しい生活をしていましたから、仕方ありませんよ。」

「早くフカフカのベッドで寝たいよ~。」

中央広場にまで来たロイド達はそれぞれ眠そうな表情をしていた。

「とにかく帰ったらみんな、一眠りしよう。課長への報告はそれからだ。」

「そうね……」

そしてロイド達は支援課のビルまで向かった。

「あら……?」

ビルの近くまで来たエリィはビルの玄関付近でたばこで一服しているセルゲイを見て声を上げた。

「よー、お疲れさん。」

「課長………どうしたんですか?」

「まさか俺達をわざわざ出迎えてくれたのかよ?」

「ハッ、そんな気色悪い事をしたかよ。ただまあ、事件の顛末はソーニャからの通信で聞いたぜ。ルファディエルの作戦通り、問題なく終わらせたようだな?」

「え、ええ。(今度は自分達の力だけでも解決できるように努力しないとな。)」

セルゲイに言われたロイドは心の中で決意しながら頷いた。

「それで………課長はここで一体何を?」

「朝食後の一服にしては変な所にいますね………?」

「いや……無理ねえだろ?あんなのがいきなり訪ねてきたらさすがに落ち着いて一服できねぇよ。」

「あんなの?」

「誰か訪ねてきているんスか?」

セルゲイのぼやきを聞いたロイド達は首を傾げた。

「知らねぇが……お前らの客じゃねえのか?妙に馴れ馴れしいというか、ふてぶてしい態度だったけどよ。」

「???とにかく中にいるんですよね?」

「………入ってみましょうか。」

そしてロイド達はビル内に入った。



~特務支援課~



ビル内に入ると、そこには山道で現れ、ロイド達の作戦を手助けした白い狼が寝そべっていた。

「な……!?」

「「え……!?」」

「ハアッ!?」

「何でここにいるの~!?」

「一体何をしに来たのでしょうか……?」

白い狼を見たロイド、エリィ、セティ、ランディ、シャマーラは驚き、エリナは首を傾げ

「どうして……」

ティオは呆けた表情で狼を見つめた。そこにセルゲイがビルに入ってきて、ロイド達に言った。

「やっぱりお前らの知り合いか。いや、いきなり入ってくるから思わず銃を抜いちまったが………気にした様子もなく、そこに寝そべりやがるからどうにも手を出しづらくてなぁ。」

セルゲイの話を聞いたティオとセティは狼に近づいた。



「あなた、どうしたの……?なんでこんな場所に……」

「もしかしてまだ私達にしてほしい事があるのですか?」

「グルルル……ウォン。グルルルル…………」

「あ………」

「フフ、そうですか。」

狼の意思を感じ取ったティオは声を上げ、セティは微笑んだ。

「……ティオ、セティ。彼は何と言っているんだ?」

「……えっと。『自分の名前は”ツァイト”』『我々への濡れ衣を晴らしたこと、ご苦労だった。』」

「『部下たちの代表として礼を言う』―――そう言っています。」

ロイドに尋ねられたティオは答え、セティが続けた。

「”ツァイト”……」

「お、お礼を言いにきたの……」

「そ、それはともかくやっぱり偉そうなヤツだな………」

(なんかサエラブを見ているみたいに感じるんだけど……)

(フフ、確かにそうね。)

狼――――ツァイトの意思を知ったロイドは口元に笑みを浮かべ、エリィは戸惑い、ランディは苦笑し、クレールは不思議そうな表情でツァイトを見つめ、クレアンヌは微笑みながらクレールの言葉に頷いた。

「グルルルルル……グルルルルル……グルルル……ウォン。」

「え……!?」

「まあ………!」

「ど、どうしたんだ?」

「その……『だが、お前達は若くどうにも頼りない』……」

「『肝心な所は自分達ではなく、異種族任せなのは情けない』………『仕方ないからしばらく、自分も力を貸してやろう。』」

「『気が向いた時に助けてやる』」

「なっ!?」

「えええっ!?」

「オイオイオイオイ!」

ティオとセティからツァイトの意思を伝えられたロイド、エリィ、ランディは驚き

「フフ、心強い仲間が増えましたね。」

「うんうん!」

エリナは微笑み、シャマーラは嬉しそうな様子で頷いた。



「ウルゥ……グルルル……ウォン。」

「『心配はいらない』『群れは部下に任せたから安心するがいい』」

「いや、そんなことを心配してるんじゃなくて!」

そしてティオの言葉にロイドが突っ込んだその時、ツァイトはあくびをした後、地面に寝そべって眠りはじめた。

「クク、伝説の”神狼”か……妙なものに見込まれたもんだな?どんどん支援課が人外魔境化してきたじゃねえか。」

「課長………」

「というか、ルファディエルさん達がいるのですから、支援課の人外魔境化なんて今更ですし。(”影の国”のメンバーを考えれば、こんなの大した事ないです……………)」

「とりあえず上には”警察犬”で通しておいてやる。今後、どう付き合っていくかはお前らで決めるといいだろう。そんじゃ、俺は寝なおすからな。」

「ちょ、ちょっと課長!?」

そしてセルゲイは自室に向かい、その様子を見たロイド達は慌ててセルゲイを呼び止めようとしたが、セルゲイは気にせず階段を登って行った。

「面倒くさくなったな、ありゃ………」

「ふう………大丈夫なのかしら。」

セルゲイが去った後ランディは呟き、エリィは溜息を吐き

「……わたしは賛成です。頼りになってくれそうですし。何よりもこのマフマフした白い毛並みは魅力的かと……」

(ムウ……我の毛並みでは満足しきれていなかったのか?)

ティオは静かな笑みを浮かべて頷いた後、ツァイトを見つめ、ティオの話を聞いていたラグタスは唸った。

「う、うーん………それは否定しないけれど。」

「ま、頼りになる助っ人が増えたと思えばいいのかねぇ?」

「はあ………そうだな。とりあえず、このままじゃマズイからどこかで首輪でも買っておくか……」

ランディの言葉に溜息を吐いて頷いたロイドは苦笑しながらツァイトを見つめていた。



こうして特務支援課に”神狼”ツァイトが仲間に加わった……………


 
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