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艦隊これくしょん【幻の特務艦】

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第九話 南西諸島攻略作戦(後編)その1

南西諸島攻略作戦当日――。

鳳翔は管制室でドッグ内の状況を確認しつつ指示を出していた。
『第七艦隊、各艦娘、ドッグ発進地点にて準備完了しました。』
『鎮守府護衛艦隊、各艦娘、ドッグ発進地点にて準備完了しました。』
『第三艦隊、各艦娘、ドッグ発進地点にて準備完了しました。』
『各艤装装填完了。オールグリーン。ドッグ内部注水開始します。』
「了解です。各管制妖精は所定の手順に従って、順次艦娘を抜錨させてください。赤城さん。」
隣で作業していた赤城が鳳翔を振り返った。
「はい、佐世保鎮守府から極低周波暗号電文を傍受しました。各艦隊、既に抜錨、進発しつつあるとのことです。」
「わかりました。」
その時、スクリーン上に榛名の姿が映し出された。
『第七艦隊、出撃準備完了。榛名以下、抜錨します!!』
第七艦隊の6人は一斉に敬礼した。鳳翔、赤城、そして加賀がスクリーン越しに答礼を送った。
「・・・・・・・。」
加賀はいつの間にか無意識に紀伊を見つめていた。
「気になる?」
赤城が声をかけた。微笑を含んでいた。
「別に。」
加賀は目をそらしたが、頬は少し赤くなっていた。


「皆さん。」
敬礼を終えた榛名が5人を見た。
「今回の作戦、きっとこれまでで一番の正念場になります。敵も必死です。きっと一筋縄ではいかない厳しい戦いが待っています。」
5人はうなずいた。
「でも、私たち第七艦隊は今までのどんな戦いでも助け合って乗り切ってきました。今回も絶対に・・・絶対に、負けません!生きて、帰りましょう!!」
「承知です。」
「はい!」
「必ず、成功させましょう。」
「ええ、絶対に深海棲艦と前線基地を木端微塵に吹き飛ばしてやるわ!!」
紀伊は無言で、だが強くうなずいて見せた。榛名もうなずき返し、前を向いた。ハッチが開けば、そこは広大な大海原である。足元から這い上がってくる緊張感と震えを、紀伊はつばを飲み込んで抑え込んだ。
 ビ~~~~ッ!!と警報が鳴り、重い巨大なハッチが上下に開き始め、やがて大きな音と振動をたてて、止まった。ザアッと大きなうねりと共に海水が入り込み、ドッグ内の水面を揺らしていく。
「行きましょう!!勝利を、提督に!!!」
榛名が叫び、海面をけって滑るようにして出撃していった。その後を各艦娘が追っていく。第七艦隊は次々とドッグを滑るようにして飛び出し、大海原に出撃していった。

鎮守府護衛艦隊のドックでも出撃準備が整っていた。
『第七艦隊、出撃完了しました。続いて、鎮守府護衛艦隊、出撃してください。』
「みんないい?」
ビスマルクが声をかけた。
「鎮守府護衛艦隊はどんな強敵にも負けないわ!!今日の殊勲賞は私たちでいただきましょう!!」
おう!!と力強い返答とともに拳が高く突き上げられた。
「よ~し、皆行くわよ!!戦艦ビスマルク、抜錨!!出撃するわ!!」
ビスマルクが水面を力強くけって、大海原に飛び出した。その後を各艦娘が白波を蹴立てて追っていく。

第三艦隊の待機するドックにも注水が完了していた。
『第七艦隊、鎮守府護衛艦隊、出撃完了しました。続いて、第三艦隊、出撃してください。』
「瑞鶴・・・・。」
艤装を装填完了した翔鶴が目をつぶり、胸に手を当てていた。
「どうか無事で帰ってきて・・・・・。」
「何をしている?」
翔鶴が目を開けると、日向がこちらを見ていた。
「祈っていました。」
「妹の事か?なに、大丈夫だ。」
日向がフッと息を吐いた。
「第七艦隊には榛名がいる。それに・・・・奴もいる。」
「紀伊さんの事ですか?」
「さあな。」
日向は前を向いた。
「私が言えるのは今作戦に動員された艦隊には一人として弱小艦はいないということだ。」
翔鶴はにっこりした。
「それで十分です。」
「日向、翔鶴、皆準備が整った。私たちも出撃するよ!」
伊勢が声をかけた。
「皆!!私たちの任務は海上にノコノコ出てきた敵艦隊の撃滅だからね!!もう、今までの様な受け身の作戦じゃないんだから、思う存分戦っちゃってよ!!」
「積極攻勢、大歓迎よ!!」
足柄がこぶしを握りしめた。
「他の皆様方に後れは取りません。この妙高、全力で敵艦隊を叩きます。」
「伊勢に言われるまでもない。」
「私も頑張ります!!」
「瑞鶴・・・・榛名さん・・・・紀伊さん・・・・・みんな・・・・ええ、必ず成功させましょう。」
「抜錨よ!!航空戦艦伊勢、出撃します!!」
伊勢を先頭に、第三艦隊は白波を蹴立てて大海原に出撃していった。

「壮観じゃな。」
埠頭で見送りながら利根が言った。次々と出撃していく艦隊の士気の高さは遠目に見てもわかるほどのものだった。
「はい。皆さんとても高い士気です。」
「残念ね。こんな時に鎮守府の留守番だなんて。」
暁が口をとんがらせた。
「そういうな。留守の守りも大切なのだからな。」
利根が暁の肩をポンと叩いた。
「そうなのです。それに今回の出撃が最後じゃないのです。次こそは第6駆逐艦の出番なのです!」
「そうそう、真打は最期に登場ってね!」
「そうだ。」
「そっか。そうよね・・・・。紀伊さん、皆・・・・どうか無事に帰ってきますように。」
暁は大海原に向かって手を振った。


執務室にて。提督のモノローグ――。
 前回の南西諸島偵察では予想以上に迎撃を食らった。そのため、呉鎮守府と佐世保鎮守府の艦娘たちに多大なダメージを負わせてしまった。これは提督である俺たちのミスだった。だが、ミスをミスのまま終わらせるわけにはいかない。俺はひそかに佐世保鎮守府の提督と通信会談し、今まで以上に協調して事に当たることを約束した。同時に軍令部に具申し、南西諸島の攻略の重要性を説き、高速修復材他の資源を回してもらった。だいぶコネを使ったけれどな。そのかいあって、急激に艦隊戦力の回復ができた。実を言うと、もしもの時のために、陸軍航空隊にも掩護を要請している。まぁ、万が一の時ってやつだ。作戦が成功しだい、航空隊や陸軍が進発して前線基地を構築することとなっているから、こっちだけじゃなくって奴らにも働いてもらわないとな。
 この戦いが正念場になる。俺が思うに、この戦いを制した側が勢いに乗り、その後の戦いの主導権を握る。そんな気がしている。だが、主役は俺ではない。艦娘たちだ。頼む。今の俺には祈ることしかできない。それがもどかしい。

おや、どうも天候が悪くなってきた。黒い雲か、さっきまであんなに晴れていたのにな。

 全員、無事で帰還せよ。それが命令、いや、俺の願いだ。


南西諸島北東地点――。
 出撃の時には晴れていた空はだんだんと黒い雲が広がり、雨が降り出し、波が高まってきた。
「もう!!ついていない時は本当についていないわね!!」
瑞鶴が叫んだ。
「でも、前もって艦載機を発艦させておいて正解でした。この状況では発艦ができなかったかもしれません。」
と、紀伊。
「波に揺られてね。」
紀伊は赤くなった。初めて第七艦隊で出撃した時のことを思いだしたからだ。
「あ、ごめん、ごめんね!!冗談だから。でも・・・この状況じゃ逆に艦載機の着艦もできないわ。」
「だいたいどれくらい持つと思いますか?」
先頭を行く榛名が振り返って尋ねた。
「各機は増設タンクを付けているけれど、全力戦闘を30分として・・・・それでもだいたい・・・・あと4時間が限度かな。」
「私もそう思います。」
と、紀伊。
「4時間、ですか・・・・。」
榛名は考え込んだ。4時間以内に天候が回復するか、若しくは敵の基地を完全制圧し、そこに着陸させるか、いずれにしても時間との戦いになることは確かのようだった。
「第一次攻撃隊の状況はどうですか?」
「待って・・・・。」
強風の中、瑞鶴はじっと髪留に手を当てていたが、やがてうなずいた。
「あと5分で攻撃地点に到達よ!第二次攻撃隊はその10分後、第三次攻撃隊はそのさらに10分後にそれぞれ到達するわ。」
「わかりました!!本艦隊も後40分後に南西諸島トガラ泊地に到達します。全艦隊、戦闘準備!!」
『はい!!』
5人はうなずいた。

10分後――。

第七艦隊に後続すること約10分。ビスマルク達の鎮守府護衛艦隊は第一報を受け取った。
「瑞鶴からよ。『第一次攻撃隊泊地ニテ敵司令部、飛行場破壊及ビ敵戦艦ノ撃破ニ成功ス。』やったわね!!」
「すごいっぽい!!」
夕立が叫んだ。
「姉様、やりましたね!!あ、でも、ちょと待って・・・なんか変。」
プリンツ・オイゲンが首をかしげた。
「どうしたの?」
「最初の作戦じゃ空母を狙うんじゃなかったっけ?なのにどうして目標を戦艦に切り替えたのかな?」
「空母・・・。」
ビスマルクは首を傾げ、ふと霧島を振り返った。
「どう思う?」
「答えはわかっているはずでは?おそらく・・・・。」
「あなたも同じ考えか。やっぱりね。おそらく敵は前もって空母を逃がしていた。つまり――。」
「私たちの奇襲を向こうは知ってたってことですか?姉様。」
「わからないわ。」
ビスマルクは当惑したように考え込んでいる。
「ならば、迎撃を万全にして待ち構えているはずだし、私たちもとっくに襲撃されていても不思議じゃないもの。」
「ええ。おそらく何かしら情報があったのかもしれません。ただそれは不確実なものだった。だから空母を海上に退避させて様子を見ていた。そんなところでしょうか。」
「あるいは、空母を進発させて、また通商破壊作戦を開始するところだったのかもしれないわね。」
天津風が言った。
「だったら、この近くに空母がいるのですか?」
と、雪風。
「わからないわ。でも、もしかしたら私たちが狙われているのかもしれない。しまったわね。こんなことなら鳳翔さんや赤城、加賀に来てもらうべきだったかしら。」
空母支援のない艦隊は敵の航空隊の餌食になりやすい。そのことをこれまでの戦いでビスマルクは嫌というほど知り尽くしていた。
「こうなれば、一刻も早く榛名姉様と合流しましょう。瑞鶴さんや紀伊さんもいますし、合流したほうが戦力としては大きいです。」
「でも、近づけば敵に発見されちゃうかもっぽい?」
夕立が心配そうに言った。まずは榛名たちが先制攻撃を仕掛け、迎撃してくるであろう敵艦隊を消耗させたのちに、ビスマルク達が艦隊戦でとどめを刺す。これが呉鎮守府のたてた作戦だった。だから、ビスマルク達が榛名たちと合流することはこの作戦を根底から覆してしまうこととなる。
「その時はその時よ。無線封鎖して、まずは現場に急行しましょう。急ぐわよ!!」


20分後――。
第二次、第三次攻撃をもって、トガラ泊地の敵艦隊及び港湾施設、そして敵司令部はほぼ壊滅したとの攻撃隊の報告が入っていた。
「でも、空母は?!どうして空母がいなかったの?」
瑞鶴がいらだたしげに攻撃隊長妖精と通信会話している。特殊な通信波なので、深海棲艦には内容は読み取れない。だが、先ほどから降りしきる雨と雷鳴の中、乱れたった通信を聞き取ることは瑞鶴でさえ困難な様子だった。
「え?なんですって?!よく聞こえないわ。なに?最初からいなかった?話が違う!?あ、コラッ!!ああ、もう!!」
瑞鶴はどうしようもないというように右手を振った。
「勝手に通信を切ったりして!!帰ってきたら、きつ~~くお仕置きしてやるんだから!!」
「まぁまぁ。」
紀伊が宥めた。
「あなたの艦載機の方が優秀かもしれないわね。素直で役に立って。あぁぁ・・・・。」
瑞鶴はツインテールの頭を抱えた。
「あの、それは――。」
「お二人とも、そろそろ戦闘準備に入ってください。泊地の敵艦隊は殲滅しましたが、残存艦隊がこちらに向かってきているようです。電探に反応あり!!」
榛名が叫んだ。
「ようやく、出番ですか。」
不知火が身構えた。
「水雷戦隊として存分に戦います!!」
綾波も主砲を構えた。
「由良さん。駆逐艦のお二人を率いて右翼から敵艦隊をかく乱してください。その後、私と紀伊さんが列を乱した敵艦にとどめを刺します。」
「わかりました。不知火さん、綾波さん。」
うなずいた二人とともに由良は滑るように海面を離れていった。
「こちらの電探にも敵を捕らえました!陣容は重巡1、軽巡2、駆逐艦3です。なお戦艦はいない模様。」
紀伊が叫んだ。
「わかりました。瑞鶴さんは後方に退避して周辺警戒を厳にしてください!!」
「わかったわ。二人とも・・・気を付けて!」
二人はうなずいた。
「紀伊さん!!」
「はい!!」
二人は海面をけって、白波を蹴立てて走り出した。ほどなくして黒光りのする雲の下、右舷に閃光が数度きらめき、水しぶきが上がるのが見えた。由良達が敵と交戦し始めたのだ。その後ろを迂回するようにして接近した榛名と紀伊はそれぞれ位置についた。
「主砲、砲撃開始!!」
榛名の叫びと共に放たれた主砲弾は敵艦隊の先頭付近にいた軽巡を吹き飛ばしたその横合いから紀伊が前進し、主砲を敵に向けた。
「全主砲、斉射!!テ~~~~~~~~~~ッ!!」
左手を前に振りぬきながら紀伊が叫んだ。轟然と41センチ3連主砲が火を噴き、海面を切り割った直後、敵のリ級が粉みじんに消し飛び、駆逐艦一隻を轟沈させた。
「今です!!よくねらって!!て~~~~ぇ!!」
由良が叫び、右翼水雷戦隊の3人は一斉に魚雷を発射した。水面下を走った魚雷は残存駆逐艦と軽巡に命中、轟音と閃光がおさまった時、敵の姿は消えていた。
「やりました!!」
綾波が叫んだ。
「敵艦隊、殲滅完了です。」
「ええ。みんな無事?」
そこに榛名と紀伊が駆けつけた。5人とも傷一つおっていない。
「よかった。みんな無事でよかったです!」
紀伊がほっと胸をなでおろした。
「ええ・・・本当に、よかった。きっと瑞鶴さんと紀伊さんのおかげです。航空隊が敵艦隊に手傷を負わせていたからこそ、スムーズに戦えたんです。」
「いいえ・・・私なんかより瑞鶴さんの、そして皆さんのおかげです。本当に、よかった。」
そこへ瑞鶴が走ってきた。大きく手を振っている。
「みんな!!やったわね!!」
榛名や紀伊たちも手を大きく振り返した。
「瑞鶴さん、本当にお疲れ様でした。」
榛名が、そして紀伊も由良も不知火も綾波もみんな頭を下げた。
「私一人の力じゃないわよ。それに、まだ戦いは終わっていないわ。これからが正念場なんだから。」
「ええ・・・あ、待ってください。」
榛名が髪飾り付近に手を当てた。
「佐世保鎮守府南西諸島攻略部隊から全作戦部隊に入電です。『我ラ激戦ノ末南西諸島本島ヲ攻略セリ』です!!」
5人は安堵と喜びのと息を吐いた。だが、紀伊はすぐに緩みかけた顔を引き締めた。
「おかしい・・・・。」
「何が、ですか?」
不知火が尋ねた。
「こんなにあっさり本島と前線泊地を攻略できるなんて・・・・。あそこは敵の重要拠点のはずです。」
「でも、電文では激戦とありましたけれど・・・・。」
と、綾波。
「言いにくいけれど・・・・。」
瑞鶴が口を開いた。
「勝利の際の報告はちょっと誇大性があるのよね。だから実際には割とスムーズに制圧できたんじゃないかな。まだ1時間程度しかたっていないし。そうね・・・紀伊の言うとおり、確かに変だわ。」
「偵察戦で少なからぬ戦艦や空母を損傷した影響ではないでしょうか?」
由良が言った。
「それもあるかもしれないですが・・・・。」
紀伊は胸騒ぎがした。これまで幾度となく味わってきたもので、これが起こるときは必ずと言っていいほど異変があったのだ。
(よく考えるのよ、敵の狙いは何・・・・・?本島や泊地を敢えてこちらに制圧させるほど敵が後退をつづける理由はいったい何・・・・?敵の狙い・・・狙い・・・?敵の狙いは・・・・狙いは・・・・まさか!?)
紀伊ははっと海上を振り返った。長い銀髪が折から吹きすさんできた強風に乱された。
「伊勢さん!?」
 
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