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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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最終項『宝探しーゔぉーぱるのつるぎー』

 
前書き
一話ほぼ戦闘シーンなのでいつも以上にMPを消費しました(マダンテ並)。 

 
 〈ハートの女王(クイーン)〉が統べるお城は、外見も相当派手ながら、内部もかなりゴテゴテして目が痛くなるほどの派手さ加減だった。 どのくらいかと言うと、
 赤の色が強調され過ぎていて、イメージカラーが被ってるシィが保護色になるほど。 「私の存在感がっ!」とシィが涙目で喚いて少し可哀想に思えた。

 そして、現在。 ユーリ達御一行は、見張りのろくにいない城門から鮮やかな赤い薔薇の咲き誇る庭を抜け、城内へと堂々と進入しを果たし、 最後の敵が待ち構えているであろう大広間へと続く回廊を駆けていた。

 ♦︎

「そこを、どけぇぇぇ!!」

 敵を視認するなり、力強く床を蹴ったシィが道を塞ぐように現れたトランプ兵へと単騎突撃すると、勢いを乗せた大鎌が振るわれ、蜘蛛の子を散らす勢いで敵が駆逐されていく。 彼女のバーサークっぷりが功を奏したのか、およそ十数分ほど駆けると廊下の終わりに細かい装飾の施された大扉が見えた。
 迷宮区のボス部屋さながらに異様な雰囲気を漂わせるそれを前にさすがのシィも立ち止まると、不安げな瞳を向けてきた。

「……行くか」
「うん!」

 コクリとシィが頷く。
 短い言葉を交わし、扉を押すと音もなく開かれ、室内の状況を明らかにした。
 大きなホール状の室内には、即席の裁判所らしきものが設置されており、傍聴席には多くの動物達が詰め、被告人と思わしき子ウサギが1匹、裁判官の前に立たされていた。

『汝、女王様のお昼のおやつのタルトをつまみ食いした罪により、罰せられる』
「「おいちょっと待て!!」」

 あまりにも酷すぎる罪状に、つい反射的に声をあげていた。 だが、観衆の数人がチラリと視線を向けただけで不当な裁判は粛々と続けられる。

 朗々と裁判官がうさぎの罪状を読み上げる中、ホールの最奥に位置する場所では背後に煌めく宝飾剣が飾られた玉座に真紅のドレスに身を包み、いかにも感じの悪そうな女性がもたれかかっていた。 そして、それを見たシィが顔を青ざめさせながらグイグイと袖を引っ張って喚いていた。

「ユーリ!ユーリ!? なにあの赤いの!?尋常ないくらい私と色被ってんですけど!アイデンティティクライシスだよ?!」
「……アイデンティティクライシスってなんだよ」
「アイデンティティ(個性)がクライシス(危機)なんだよ! 」

 ハートの女王(クイーン)を指差し、ギャースカと喧しい相方の頭を優しく撫で、穏やかな笑みを浮かべると優しく告げてやる。

「大丈夫。 お前を超えれるアホはいねぇから」
「慰め方が嬉しくないっ?!」

 裁判の厳粛な空気そっちのけでシィと賑やかなやりとりを交わしていると突如、ズダーンと硬い物を勢いよく打ち付ける音がホールいっぱいに響きわたった。
 音源の方向へと視線を向ければ、服装だけでなく顔まで真っ赤にし、ハートの装飾が施された王杖を手にした女王(クイーン)がこちらを物凄い形相で睨んできていた。

「無礼者どもめっ!恥を知れっ!妾の居る場でそのようにギャーギャーと喚き散らしおって……!!」
「おい、シィ。言われてるぞ」
「なんでさ?!」

 だが、この態度が気にくわなかったのか再び王杖が打ち付けられる。

「もういいわっ!そこのうさぎ共々死刑にしてくれる!! ジャバウォーーークッ!!」

 ハートの女王(クイーン)が王杖を掲げ、ヒステリック気味に叫けぶと唐突な揺れと共に天上を突き破り、巨大な影がホール中央へと落下し、砂煙がそいつを覆った。
 皆静まり返り、落ちてきたソレを遠巻きに見ていると砂煙が晴れ、全貌が露わになった。 まず目についたのが、天井から降り注ぐ光を浴びて毒々しいほどの滑らかに光る緑色の皮膚。 そして、前後の脚の先からは鋭い爪が伸び、猫背に沿った背中から薄い飛膜の翼が生えていた。 ドラゴンのような怪物は爛々と光る赤い瞳を震えて動けない哀れな仔ウサギに向けると(アギト)を開きーー

「あっ……!」
「ちょっ?!」

 ーーパクリと、うさぎを丸呑みにした。

 微かな静寂の後、状況に理解が追いつき会場は一瞬で喧騒と混乱に包まれた。 慌てふためく者、恐怖で泣き叫ぶ者、逃げようとする者達が入り乱れる中でジャバウォックと呼ばれた怪物は、赤い双眸を俺達へと向けた。

「さぁ、お兄さん! 最後の物語(ストーリー)よ!」
「さぁ、お姉さん! 最高の結末(エンド)を迎えてね?」

 グッと小さな拳を握り、励ましてくる黒いアリスと心配そうな表情を浮かべた白いありす。 二人の声援を受け取ると、武器を手に取り改めて怪物ジャバウォックへと向き直る。 いざ戦いが始まる瞬間、玉座から高圧的な声が聞こえた。

「ジャバウォックを前に恐れぬ勇気に免じ、妾の前に跪き(こうべ)を垂れるのなら命くらいは助けてやってもよいぞ」

 フッ、と嘲笑するような自らの圧倒的有利を疑わないハートの女王(クイーン)。 そして、女王の優位さを体現するかのように炯々(けいけい)と紅い瞳を光らし、目の前へと立ち塞がるジャバウォック。
 だがしかし、こちらとて幾千もの死地を切り抜けてきた猛者なのだ。 これくらいのことで退くことはない。
 向かい合い。口元に微かな笑みを浮かべると、武力で独裁体制を敷く女王へと言ってやる。

「「だが断る!!」」

 交渉決裂。 ハートの女王(クイーン)はクシャリと顔を歪めると、鋭い視線を俺らへと向けた。 だが同時に加逆的な笑みを浮かべる。恐らく女王(クイーン)が指示を出せば、ジャバウォックはすぐにでも襲いかかってくるであろう。
 一触即発の空気の中、あどけなさの残る会話が響いた。

「ふふっ、やっぱりね!思った通りだわ!あたし(アリス)!」
「そうね、あたし(ありす)。お兄さん達はきっとこの哀れで寂しい物語に素敵な終わりを迎えてくれる!」

 キュッとシルクの手袋に包まれた手を握ると二人は声を揃えて言った。

「「信じてるからっ!!」
「任せて! とりあえずあの赤いの、ぶっ飛ばせばいいんだよね!!」

 殺る気を滾らせたシィが身の丈ほどある大鎌を構えて、ハートの女王(クイーン)へとその刃を向ける。

「頑張ってね、お姉さんたち。 これは餞別よ」
「おお、これは」
「凄いな……」

 黒いアリスはにこやかに微笑むとチュッと音を立てて投げキッスを贈った。 ふわふわと二つのハートが漂い、目の前で弾けると虹色の光が俺らを覆い、やがて消えるとともに二人のHPバーが完全に回復するとともにその下に様々なバフアイコンが並んだ。 それも一つや二つではない。滅多にない光景にたまらず声を上げた。
 だが感動するのも束の間、三たび王杖が叩きつけられた。

「フンッ、別れの挨拶は済んだようだな。ならば死ね。ジャバウォック!!」
『GYaaaaaaa!!!』

 主人(あるじ)の命を受けたジャバウォックが、大気を震わせるほどの咆哮を上げると、頭上へと三段のHPバーを出現させる。
 再び響かせた轟咆が戦闘開始の合図となり、俺と相棒はジャバウォックを正面から迎え討ち、成り行きで力を貸してくれることとなった帽子屋と時計ウサギは様子見のために散開し、距離を取る。

『GYaaaaaaa!!』
「どっ、せいっ!」
『GYaa!?』

 気の抜けるような掛け声とともに大鎌が振るわれ、ジャバウォックの横っ面を殴りつける。 いきなりの奇襲に悲鳴に似た叫びを上げるがそれほど効いていないらしく、微かに上体が揺れたのみでジャバウォックは即座に反撃の爪を振るった。 シィはそれを見事なタクトパリィで受け流すと、ジャバウォックで胴体に一太刀加えながら、後ろに大きく跳躍し、叫んだ。

「ユーリ、スイッチ!」

 両者の間に開いたスペースへと身を躍らせ、ギラつく爪を抜刀で迎え撃った。耳触りな音を響かせながら、ジャバウォックの鋭い前爪を弾き上げると即座に斬り上げ、刃を返して袈裟懸けに斬りつける。 カウンター気味に放たれた二連撃は、ジャバウォックの眉間を捉え、クリティカル判定を出しつつHPを大きく削る。
 よし、と意気込んだのも束の間、鋭爪が正面を薙ぎはらうように振るわれ、それをバックステップで躱すも追撃が放たれ、またそれを躱す。
 息もつかせぬ連続攻撃に曝され、ヒヤリと汗が額を伝う。 だがジャバウォック優勢の状況は別の要因によって覆される。

「ーーハァッ!」
『GAaa!』

 ジャバウォックの死角から〈マッドハッター〉が赤い光芒を引きながら、重単発技〈ヴォーパル・ストライク〉を怪物の横っ面へと叩き込む。 赤いダメージエフェクトを発生させながら、ジャバウォックの胴体が大きく揺らぐ。 発生した決定的なスキに、待機していたシィと〈ウォッチ〉の両名が各々の武器にライトエフェクトを纏わせ、ジャバウォックにダメージを与えていく。

『GYa、Aaaaaa!!』
「退がれっ!」

 早くも1本目の半分が消滅し、ジャバウォックが獣のような雄叫びを上げ、体を大きく捻る。 おそらくは何かの技の予備動作なのだろう。 後退の指示を出し退がった直後に轟ッ、と風が唸りを上げて巨躯を一回転させたジャバウォックは大樹のように太い尻尾で全方位を薙ぎ払った。

 指示出しが功を奏したのか今の一撃による被害はなく、ジャバウォックを囲むように散った四人は油断なく構え、ジャバウォックの挙動を伺っている。
 攻撃の手が一度止んだことで、蓄積された憎悪値もリセットされ、ジャバウォックは近くにいたウォッチへと紅い双眸を向ける。 が、しかしーー

「こっち、向けぇぇ!!」

 事前の取り決めで前衛を受け持った俺へとジャバウォックのヘイトを向けるために、力いっぱい叫んだ。 暫し遅れて、アォォォォォン、と遠吠えのようなサウンドが響き渡り、長い首が自分へと向けられた。

 壁役(タンク)御用達の憎悪値(ヘイト)操作スキル〈挑発〉の言わば、〈人狼〉スキル版。〈ウルフハウル〉により、自身のHPバーの下に〈タゲ集中〉を表すターゲットマーカーとオマケの〈攻撃力上昇〉のバフが並んだ。

『GYaaaa!』
「……よっと」

 床を蹴り、飛びかかってくるのを躱しつつ、ヘイトを持続させるために攻撃を再開させる。 無防備に曝された胴体に〈抜刀術〉の強烈な一打を叩き込むが、それだけでは止まらず、静止したはず刃に新たな輝きが宿る。踏み込み両者の距離を縮めると、斬り上げ、即座に刃を返してもう一度、袈裟懸けに斬りつける。
 ユニークスキル〈抜刀術〉をコンプリートしたことにより、数は少ないが即座に次のソードスキルに繋げられる〈派生技〉。 そのうちのひとつ、〈燕返し〉だ。
  威力もあり、使いがってもいい。 本来のボス戦なら綿密な計画の上で、自分は壁役(タンク)からタゲを移動しないように攻撃に手心を加える必要があったが、今回はその心配は無用だ。 故に思いっきりやれる。 遠慮なんかはなからする気がない。

「ハァァァァァッ!!」

  鉤爪による攻撃を抜刀で弾き返し、カウンターの〈燕返し〉で体力を削る。 ユニークスキル〈抜刀術〉のフル使用により、戦闘開始から間もなく1段目のHPバーが削りきられて消滅する。

『GYa……Araaaaa!!』

 凄まじい咆哮を上げると、折り畳まれていた比翼を広げ、一度力強く羽ばたくと突風を起こし上へと飛んだ。 羽ばたく度に、強い風が頬を打つなか、上空で俺らを猊下するジャバウォックの口内にチラチラっと赤い炎が見てとれた。

「ちっ、ブレスくるぞ!」
「オーライ!」

 いまだ〈タゲ集中〉の状態は続いており、ジャバウォックもこちらを狙う気満々である。 おそらく避けられないだろう。 少し離れた位置にいたシィがこちらに駆け寄ると一つ目配せし、目の前でくるくると大鎌を回し始めた。 ライトエフェクトを帯びて高速回転するそれはさながらシールドのように見える。 女子に庇ってもらう、など男として情けないことこの上ない。 そんな心情を知ってか知らずか、シィが景気よく声を上げた。

「バッチこーい!」
『GYaaaaaaa!』


 放たれた炎のブレスは、上空で津波のように広がり地上にいる俺らへと襲いかかる。 空気をかき混ぜ、高速で回転する大鎌は襲いかかる炎の波を押し返し、熱波を相殺する。
 ジャバウォックの切り札を防ぎきり、「あちち……」と相変わらず危機感のない言葉を洩らすシィのHPバーは全体の二割ほども削れておらず、今も〈戦闘時回復(バトルヒーリング)スキル〉により、減った分を取り戻している。
 レベルの差があるとはいえ、ボス級の敵の一撃を、加えて高火力に定評のある炎ブレスのダメージをここまで抑え込んだのは、やはり彼女お手製の紅い戦闘服の持つスキル〈回復量増加〉と〈耐属性〉による恩恵が大きいのだろう。
 〈お針子シィ〉の偉大さに感服しつつも、今度は自分が守る番だと彼女の前へと出る。

 だが敵もそれなりに賢いのか、制空権の優位を得たままで降りてこようとはしてこない。 さて、どう出るかと構えながら考えていると背中から声がかかった。

「ねぇ、ユーリ。ちょっとあいつ、叩き落とそうよ」
「オーケー。 頼んだ」

「アイアイサー」と了承の意を示すと、スカートの端を靡かせ、肩幅に足を開くと、 再び大鎌が回される。 しかし、今度は頭上で。 〈大鎌〉の固有ソードスキルらしい。
 ライトエフェクトを帯びて高速で回転する刃はさながら光の円盤のようで触れたものを両断しそうなほどの鋭利さを感じさせる。
 回転数が限界まで達すると、愉悦の色の浮かんだ瞳が上空でホバリングを続けるジャバウォックへと向けられ、ぐっと前へと大きく踏み込んだ。

「ーーセェアァァ!!」

 轟ッと唸りを上げてシィの元を離れた大鎌は、緩いカーブを描きながら宙を翔けるとジャバウォックへと見事着弾した。 グラリと大きく体がふらつくが、ダメージが足りないようで墜とすまでには至らない。
 幾分か回転の衰えた大鎌がカーブを描きながら戻ってくる。それを片手で軽々とキャッチしながら、相棒が不満げに呟いた。

「ちぇっ、落ちないか。ユーリ、頼んだ」
「やっぱりそうなるのね……」

 投擲で落とせないなら、直接叩き落とせばいいじゃない。
 ダンッと力強く蹴ると、天井を支える大柱へと向かって駆ける。 柱の根元までくると一瞬だけ身を(かが)め、柱へ向かって思い切り飛び上がった。 期待通り、浮遊するジャバウォックの足元まで到達すると、柱に足をかけそのまま駆ける。 さながらニンジャのような壁走り(ウォールラン)、もとい柱走りでジャバウォックを抜くと斜め上へと思い切り跳び上がる。

 ジャバウォックの背中を眼下に収めると刀を抜き放ち、両手でしっかりと構える。
 一瞬の浮遊感を味わった後、重力に体が引っ張られるのに任せてジャバウォックめがけ落ちていく。 そして、猫背に曲がった背中を間近にして、大上段に構えた刀に鈍色のライトエフェクトが宿る。

「ーーー堕ちろぉぉぉぉ!」

 気合一閃。 重力エネルギーを味方につけ、両翼の根元のちょうど真ん中めがけて振り下ろす。
 刀にしてなぜか打撃判定のある重攻撃〈隕石鉄槌(メテオストライク)〉が炸裂し、重鈍な音とともに骨がひしゃげた音が響き、着弾点から光の波紋が広がる。 体勢を維持できなくなったジャバウォックは引力に引かれて地面へと激しい音を立てて落下する。

「よっこいせ、っと」
「ワーン、ダウ〜ん!」

 衝撃を殺しつつ着地するとダウン状態のジャバウォックへと一斉に畳み掛ける。 物陰に隠れ、ブレス攻撃をやり過ごしていた二人も参加し、1本目よりも早い時間で2本目のHPバーが消失する。

「よし、あと1本目だね!」
「あぁ……」

 シィの元気な声が響く。確かにラスト1本 だが、むしろここからが本番と言ってもいい。 通常HPバーを複数持つエネミーはバーが消失するごとに強化され、最後の1本になると今までを凌ぐほど強化を受けるのがセオリー通りだ。

 故に油断なく、倒れ伏して動かないジャバウォックを見ていると痺れを切らした女王(クイーン)が王杖を叩きつけながら叫んだ。

「なにをしてる、ジャバウォック! 殺せ!さっさとあいつらを血祭りにあげろ!!」
『……g。 Gruuu……』

 主人に一喝されたジャバウォックは緩慢な動作で起き上がった。 だが既に満身創痍で、始めは爛々と輝いた紅い双眸は今では黒く濁っている。
 四肢に力を込め、踏ん張ると吼えた。

『GYa、Aaaaaaaaa!!』

 ジャバウォックから黒いオーラが滲み出る。 瞳を完全な闇色に染めたジャバウォックからは狂気すら感じられるほど。 劇的な変化を遂げた怪物ジャバウォックは狂気の光を帯びた双眸を自分へと向けた。
 ダンッと地面が蹴飛ばされると先ほどよりも格段に速くなった突進で間合いを詰め、ギラリと光るかぎ爪を振り下ろす。咄嗟に刀で受け止めるが俊敏値だけでなく筋力値も大幅な強化を受けているようでジリジリと押される。

「ハァァッ!」

 シィの体重を乗せた重い一撃がジャバウォックへと見舞われるがまったく堪えた様子を見せずに、さらにノーモーションで体を旋回させると周囲を尻尾で薙ぎはらった。

「きゃぁ!?」
「シィ! グッ……はぁ」

 木の幹のように太い尻尾が横腹を強かに打ちつけ、弾かれたように吹き飛ばされる。 ドンっと壁に背中から衝突し、微かに息が漏れる。 数回えづきながらも立ち上がると〈マッドハッター〉と〈ウォッチ〉が狂化ジャバウォックに応戦していた。 だがやはり長くは保たないだろう。

 ありえないほどの超強化を施されたジャバウォックを見据えながら、思考を巡らせる。
 不可解な点は幾つかある。 一つ目は、やはりジャバウォックのありえないほどの強化だろう。 その能力値の振れ幅はゲームとしてのそれを遥かに超えている。 公平さ(フェアネス)を心情するとSAOにあるまじき行為だ。 だが、もう一つ。 この一連のクエスト共通の課題と言っても過言ではない〈謎解き要素〉が絡んでくるとなると話は別だ。

 考えられるのは、ジャバウォックの打倒が真の目的ではない場合、もしくは何かフラグを建てる事でジャバウォックの強化が解除され弱体化する場合。 おそらく前者は違うだろう。 クエストメッセージには、『怪物ジャバウォックの打倒』という意味の文言が含まれている。 ならば、後者だが、これと言ってヒントが見当たらない。

 手詰まりか、と絶望しかけたその時、クイクイと袖を引かれた。ハッと我に返り、顔向ければ、いつの間にか袖を控え目に掴む白のドレスの童女ありすと心配げに上目遣いで見上げてくる黒の童女アリスが側に居た。 アメジストのように澄んだ瞳を向けると幼さの残る声音で恐々と伝えた。

「あぁなったジャバウォックは誰にも止められないわ」
「そうね、あたし(ありす)。 〈ゔぉーぱるのつるぎ〉がなければ止められないの」
「ゔぉーぱるの……つるぎ?」

 聞きなれない単語を耳にし、おうむ返しに聞き返すとアリス達はそろってこくんと頷いた。 そして、互いの手を取り合うと謳い始める。

「そうだわ、あたし(ありす)!あのお詩を謳ってあげましょう!」
「いい考えだわ、あたし(アリス)!そうしましょう!」

 すっと息を吸い込むと、二人の少女による歌詠みが始まる。

「我が息子よ、ジャバウォックに用心あれ!」
「喰らいつく顎あぎと、引き掴む鈎爪!」

「ヴォーパルの剣つるぎぞ手に取りて」
  「尾揃おそろしき物探すこと永きに渉れり」

「かくて暴ぼうなる想いに立ち止まりしその折、
  両の眼まなこを炯々けいけいと燃やしたるジャバウォック!」
  「そよそよとタルジイの森移ろい抜けて、
  怒どめきずりつつもそこに迫り来たらん!」

 物語に引き込まれるような調べが流れるなか、アリスたちの声の迫力が増していく。


「一、二! 一、二! 貫きて尚も貫く」
「 ヴォーパルの剣つるぎが刻み刈り獲らん!」

 謳い終えてふぅ、と息を吐き出すとこちらを伺うような表情を向けた。 今アリスたちが聞かせてくれたのが、ジャバウォック討伐のヒント。 そして、明らかにキーアイテムと思わしき文言も盛り込まれている。

「……ヴォーパルのつるぎ、ね。 一ついいか」
「えぇ、どうぞお兄さん」
「その剣ってここにあるのか?」

 ダメ元の質問だったが、予想に反してアリスはコクリと首肯した。 なら、あとは〈ヴォーパルのつるぎ〉を探し出せばクリアだ。
 ぐるりと周囲を見回す。 あるのは、傍聴席に、ジャバウォックと三人が戦っている中央。 そして、ハートの女王(クイーン)がいる玉座。 果たして剣らしきものは……

「……すっごい簡単に見つかったんだけど」

 呆れを多分に含んだため息が溢れた。
 玉座の上。 壁に一振りの装飾剣が掛けられていた。隠す気など毛頭ないのは、設計者の優しさなのかはたまた罠なのか。 ホール中央で戦闘を行うシィ達を一瞥すると、うまくローテーションを行いながら立ち回っているが徐々に追い込まれている。 なんにせよ時間がない。腹を決めると、即座に行動へと移す。

「シィ、あと1分だけ堪えろ!」
「うぇ?! い、1分だけだかんね!」
「頼んだ!」

 戸惑いながらもしっかりとした声で返事が返ってくる。 なんだかんだ言ってまだ余裕はありそうだ。それに少し安堵しつつ、戦闘の邪魔にならないように中央を迂回しつつ玉座へと走る。
 数十段ある段差を助走をつけて一気に飛び越えると、玉座から猊下していたハートの女王(クイーン)の前へと着地した。 突然の出来事に女王(クイーン)は豪華な椅子の上でのけ反ってこちらを凝視していたが、すぐに声を張り上げ叫ぶ。

「ジャバウォーーック!こいつを今すぐ殺せぇぇ!」
『Gyaaa!!』
「ちっ、厄介な……!」

 女王(クイーン)の命令を受け、狂化ジャバウォックがぎろりとこちらを睨むと、シィたちなどお構いなしに突撃してくる。
 ヘイト関係無しの行動に悪態をつきつつ、刀を一閃させ宝飾剣の留め具を破壊する。 それを手中に収めると、アイテム名を確認するべく剣をタップする。
 目の前に浮かんだウィンドウにはただ一文、〈ヴォーパルの剣〉と。

 気がつけば、瞳を血走らせた怪物がすぐ下まで迫ってきていた。愛刀を鞘へと納め、代わりに宝飾剣を正眼に構える。
  ダンっと軽く揺れを起こし床を蹴ると階段を飛び越えて襲いかかってくるのと、自分が踏み込みのは一緒だった。光を浴び七色に輝く剣と黒く染まった鉤爪が同時に振るわれる。

「ーーハァァァ!!」
『Gruaaaaa!!』

 振り切った剣からは確かな手ごたえを感じ、空中ですれちがった俺らは元いた位置を入れ替え、着地した。
時が止まったかと思うほどの静寂が場を支配する。 しかし、それを破ったのは極々小さな音だった。
 装飾剣〈ヴォーパルの剣〉の刀身にピシリと小さな亀裂が走り、それが全体に達するとともに耐久値が全損した剣はポリゴン片となって自分の手の中から消え去った。 まさかの事態に冷たい汗が背中を伝う。 そうして剣が砕け散った直後耳をつんざく絶叫が響いた。咄嗟に空っぽになった両手で犬耳を抑えこむ。 常人より強化された聴覚にこれは堪えた。

『Gyaaaaaaaaaaa!?』

 振り向けば、身に纏った黒いオーラを霧散させたジャバウォックが喉を裂かんばかりに悲鳴をあげていた。 断末魔の悲鳴だ。 大きく後ろにのけ反った長い巨軀が、不自然な角度でぴたりと静止しーー

 ガラスを砕くような大音響とともに、微細なポリゴンの欠片となり爆発四散する。
  ジャバウォックが居た場所に思わぬものを見つけ、駆け寄った。

「あっ……!」

 戦闘開始直前にジャバウォックに呑み込まれていた子ウサギがそこに居た。 何が起きたかのかわからないと言った体で、首傾げているそいつを抱えあげて優しく撫でていると何処からともなく、白い紙片が宙を舞い、次第に量と勢いを増したそれが視界を覆う。

 ひときわ強く風が吹き、視界が晴れるとそこには豪奢な部屋はなくただただ白い空間が何処までも続いていた。 突然の出来事に呆然としていると聞き慣れた声に名前を呼ばれた。

「ユーリ……?」
「ん、あぁ……シィか」

 彼女も戸惑っているのか首を傾げている。 と、その時目の前にトンっと軽やかな音を立てて着地した白と黒の少女が現れた。 白の少女ありすが両腕を伸ばしてきたので、うさぎを渡してやると目を細め、愛おしそうにうさぎを撫でていた。 うさぎを愛でるありすに変わって、黒の少女アリスが微笑みながら言った。

「お兄さんたちのおかげで罪のないうさぎが死なないで済んだわ、ありがとう。それに意地悪なおば様も少しは頭を冷やしたみたい。 これで全部解決……ハッピーエンドね!!」

 気がつけば、足元から黄金の粒子がひらひらと舞い上がっていた。 なんとなしにもうこの冒険は終わりなのだと悟った。ひらひらと手を振る少女たちに笑みを返し、一言添えてやる。

「楽しかったか?」
「えぇ、とっても!」
「またね、お兄さん!今度はもっと素敵な物語にご招待するわ!」

 ありがとう、とっても楽しいひと時だったわ! 彼女たちのその言葉を最後にひときわ強く輝いた光が視界を覆い、転移特有の浮遊感を感じた。


 ♡♧♢♤

 冷たい風が吹き抜け、思わず体を震わせる。重たい瞼をなんとか上げると青く澄みわたった空が映った。 ゆっくりと上体を起こして周りに視線を配ると〈七色草原〉にいるとわかった。

(ーーあれ、寝てた?)

 その割には、やけにリアルな夢を見た気がする。 頬を掻いていると隣で寝転がっていたシィも起き上がると、眠たいのか瞼を擦り、ふぁ〜と大きく伸びをした。 そして、自分同様、周りを見回すとあれ?と首を傾げた。

「……夢?」

 もやもやしていると指先に固い物が触れた。 大判の絵本だった。 丁寧な装飾の施された絵本の背表紙には、見覚えのある犬耳をつけた少年と、赤い髪をポニーテールに結った少女が手を繋ぎ、笑みを浮かべていた。 そして、金箔文字で『Story for you(貴方の為の物語)』と綴られていた。

「……夢、じゃなかったんだね〜」
「そうだな」

 ふわりと暖かい風が吹き、ぱらぱらとページを捲っていく。そして、白と黒のゴシックドレスに身をつつんだ二人の童女が幸せそうな笑みを浮かべているシーンで止まった。

 ーーーありがとう

 そんな声が聴こえた気がした。

 
 

 
後書き
夢オチじゃないですよ?

vs怪物ジャバウォック戦
HPバーは全三段。一段減る毎に行動パターンが大きく変化する。
第一形態:地上のみ。 主に鉤爪による攻撃と突進、尻尾による薙ぎ払い攻撃。
第二形態:空中。 上空からの奇襲攻撃や、炎ブレス攻撃が主な攻撃。
第三形態:狂化。全ステータスアップ。 いくらレベル差があろうとも、自力での討伐は不可能。


原作で裁判が行われているシーンのオマージュ。 被告人がジャックから子ウサギに変わっている。全部ハートの女王(クイーン)の横暴が原因。
ジャバウォックが狂化状態に移行し、しばらくするとアリス達がヒントをくれるのでそれに従い、〈ヴォーパルの剣〉を探し出してジャバウォックを討伐する。なお〈ヴォーパルの剣〉の一撃で屠ることが可能。
一連のクエスト報酬として、『貴方の為の物語』と名打たれた絵本が貰える。


これにて原典、ディズニー、そして某運命とあらゆる要素をごった煮したなんちゃってアリスinワンダーランド終了です。
次から通常ルートに戻ろうと思います(予定)。

ではまたノシ
 
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