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媚薬

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6部分:第六章


第六章

 そのうえで。彼女に告白した。
「一緒にならないか」
「何っ」
「だからだ。一緒にならないか」
 また言う彼だった。
「そうならないか」
「それはどういう意味だ」
 津波にはわかりかねることだった。そうした経験がないからだ。
 だがその彼女にだ。健一郎はまた言った。
「だからな。交際しないか」
「交際だと」
「俺があんたの彼氏になって」
 そしてだというのだ。
「あんたが俺の彼女になる」
「私がか」
「それでどうする?」
 健一郎は津波の目を見続け。また彼女に問うた。
「そうするか?どうするんだ」
「そ、そうだな」
 津波は表情こそ変えない。眼鏡の向こうの右目もだ。
 だがその顔はだ。赤らみだ。
 何とか言葉を探しながら。たどたどしく。
 一言でだ。こう言った。
「そうさせてもらう」
「いいんだな」
「まさかこうなるとは思わなかった」
 声にも表情はない。しかしだ。
 顔はさらに赤くなりだ。紅潮さえしていた。
「こんなことになるとは」
「そうだったのか」
「そうだ。しかしだ」
「しかし。なんだな」
「嬉しい」
 紅潮した顔はそのままでの言葉だった。
「私もまた」
「この大学に来るまでに話を聞いていてな」
 そこからだというのだ。健一郎が津波のことを意識していたのは。
「それで実際に会って」
「それでか」
「余計に興味を持った。そうだったんだよ」
「そうか」
「じゃあ一緒にな」
 健一郎もだ。ここでだった。
 照れ臭そうな笑顔になって。そのうえでの言葉は。
「幸せになろうな」
「うむ」
 津波は健一郎のその言葉に頷いた。これで全ては決まった。
 告白の後でだ。彼女は。
 研究室に戻りそのうえでだ。比佐重にこのことを話したのだった。
 すると話を聞いた比佐重は驚いた顔でこう言ったのだった。
「何ですか、それじゃあ」
「それでは。何だ」
「完璧なハッピーエンドじゃないですか」
 それだとだ。彼は言うのである。
「これ以上はないまでに」
「そうだな。私も予想していなかった」
「できないですよ、これは」
 そうしたものだとも言う比佐重だった。
 
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