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媚薬

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2部分:第二章


第二章

 そうしながらだ。彼女は言うのだった。
「今私が考えているのはだ」
「その研究のことですよね」
「そうだ」
 また言う津波だった。口調は全く変わらない。
「この研究が確かなものになれば」
「何の研究ですか?」
「常温核融合だ」
 脅威の研究だった。まさに世界を変える様な。
 それについて研究してだ。わかっていたことを書いているのだ。
 そうしながらだ。津波はまた話した。
「これで人類は大きく変わる」
「じゃあ脱原発というのは」
「あれは愚か者の責任逃れだ」
 原発を視察という愚劣な、状況を全く考慮しないパフォーマンスで爆発させ大惨事を引き起こした愚劣極まる首相のそれだというのだ。
「それに過ぎない」
「そうなんですか、あれは」
「あいつは自分のことしか考えていない」
 まさにそうだと。容赦なく指摘する。
「エネルギーのことなぞだ」
「一切考えていませんか」
「そこまでの人格も品性も知性もない」
 つまり何もないというのだ。その首相には。
「何ならあの愚か者を始末する薬を今から作るが」
「そんなのしなくてもあれは悲惨な末路を迎えますよ」
 比佐重も何気に容赦のないことを言う。
「お天道様は見てますからね」
「そうだな。ああした人間は確実に破滅する」
 津波もそう見ていることだった。
「そのうえで歴史上最低最悪の愚劣漢として歴史に名を残すだろう」
「まあ自業自得ですね」
「怨むのなら己の無能さと人格の卑しさを怨むことだ」
 全てはそうしたことが招いたことだというのだ。
「そういうことだ」
「そうですね。それでなんですけれど」
 ここで比佐重の言葉が変わった。
「博士もそろそろですね」
「そろそろ。何だ」
「結婚とかは」
 こう言うとだった。いきなりだった。
 津波は白衣に備えてあったスパナを出してだ。比佐重の頭をぐりぐりとしだした。無表情で右手でキーボートを操り左手だけでそうしている。
 それを受けてだ。比佐重は。
「み、みぎゃああああああああああ!」
「その話はするな」
 無表情な声での言葉だった。
「絶対にだ」
「す、すいません」
 これには比佐重も降参だった。何とか逃げ出してから答える。
「以後気をつけます」
「私はまだ二十九歳だ」
「間も無くアラサーですね」
 比佐重がこう言うとだった。
「いよいよですね」
「・・・・・・・・・」
 まただった。津波は。
 今度はそのねじ回しでだ。比佐重の腹を突くのだった。
「す、すいませんすいません!」
「まだ二十九歳だ」
 こう言って引かない津波だった。しかしだった。
 彼女にはそうした相手がいないままだった。そのままだった。
 しかしその彼女の前にだ。ある日。
 背が高く鋭い目をした若者が現れた。豊かな黒髪を耳が隠れる程度で切って波がからせてだ。格好いい感じにさせている。
 その鋭い目のある眉は細く唇は細い。その彼はというと。
 白衣を着ている。その下はスーツだ。その彼を見てだ。
 津波はだ。ぽつりとこう言った。
 
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