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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第二十七話 大事なものは敵地に置いてきちゃいけないのです。

 
前書き
エル・ファシル星域での開戦直後、帝国軍は敵地に大切なものを忘れていきました。 

 
 帝国歴484年4月16日――。

 帝国歴484年3月、ヘーシュリッヒ・エンチェンでの単独任務に成功したラインハルト表向き17歳の誕生日の祝いということで大佐に昇進し、新たに戦艦シャルンホルストの艦長になった。

 この戦艦シャルンホルストは艦形こそ標準戦艦艦首を前傾にしてややスマートにしたような形でしかないが、その性能は高速戦艦に匹敵する速度と巡航艦並の巡航能力を有し、さらにワルキューレ搭載数は28機と他の戦艦の倍以上である。さらに電子システムは最新鋭の物を搭載しており、通信、索敵能力については艦隊旗艦並の能力を有している。

 艦自体は帝国の所有物だが、普通大将以上でないと個人の旗艦は与えられない。それ以下の者については、せいぜいのところ標準型戦艦が回されるのでよしとしなければならないのだ。通常の標準戦艦を与えられなかったことに、ラインハルトに対する皇帝の寵愛だという声もなくはなかった。だが当人は全くそのようなことを気にしていない。

 この時期OVAではラインハルトは本来憲兵隊出向扱いであるが、アレーナが四方八方に手をまわして、ラインハルトをイゼルローン要塞にいるように仕向けていた。また、例の幼年学校の事件のフラグをカロリーネ皇女殿下がへし折っていたので、そのような事件はおこらなかったのである。

 そのラインハルトがイゼルローン要塞にいるレンネンカンプ准将に呼ばれたのは、4月半ばの事だった。

「閣下、ご昇進おめでとうございます」

 開口一番ラインハルトは挨拶した。おべっかではない。レンネンカンプは数ある幹部の中でもラインハルトを公平に扱ってくれている数少ない人物であり、能力も低くはない。そのような者に対してはラインハルトは率直な態度でいられるのだ。

「いや、卿の先日の功績のおかげだ。私は何もしておらんよ」

 謙遜ではなかった。本人は心からそう思っているらしい。照れ臭くなったのか、ごまかすように咳払いしたレンネンカンプは、ラインハルトに一つの話を切り出した。前回のヘーシュリッヒ・エンチェンの単独任務の成功を知った上層部のある人物が、極秘裏にラインハルトに任務を依頼したいというのである。

「前回同様特務事項であるから、宣誓書にまたサインしてもらわなくてはならないし、拒否権もある。どうかね?」

 前回同様、乗組員の構成も変わり、まだ忠誠心も掌握できていない状況だったが、ラインハルトはためらわずにサインした。

「うむ。ではついてきたまえ」

 レンネンカンプは宣誓書を受け取ると、執務室を出ていく。どこか別の部屋で説明があるのかとラインハルトも後を追った。
 レンネンカンプとラインハルトが入ってきたのは、要塞内の会議室の一つであった。すでに十人ほどの人間が中にいたが、皆佐官クラスである。だが、異色の人間もいた。驚いたことにそこには技術部門のシャフト大将もいたのである。技術部門のトップが、しかも上級将官が、佐官クラスの会議に出席しているなど普通はありえない。

(どういうことだ?どうして此奴が・・・・。)

 ラインハルトは不信を覚えながらも、指定された席に着いた。

「しばらくぶりね、ラインハルト」

 声をかけられて隣を見たラインハルトはそこにイルーナ・フォン・ヴァンクラフトの姿を見て目を見張った。

「イルーナ姉上もご壮健で――」

 その時、シャフトの傍らにいた人間が立ち上がって注意を集めた。

「卿らには多忙の中集まってもらい、恐縮だ。私は作戦第二課の課長ヴェーデン少将だ。こちらにいらっしゃるのはシャフト技術大将閣下である」

 不審そうな目を向けているのは、ラインハルトだけではないらしい。

「そう、なぜシャフト技術大将閣下がここにいらっしゃるかということについては、卿らの疑問とするところであろう。それについては閣下自らが説明したいとのご意向のためだ。では、閣下お願い致します」

 ヴェーデンから水を向けられたシャフトが立ち上がった。

「卿らには既に宣誓署名をしてもらったが、これから話すことは一切他言無用。特一級の軍事機密条項である。よろしいか?」

 高圧的な口調だったが、当人は怖いくらい真剣である。皆はうなずいた。

「先年、エル・ファシル星域で帝国が反乱軍と会戦し、いったんはエル・ファシルを奪取したことは承知の事であろう。そして、反乱軍に再び奪還されたことも」
「・・・・・・・」
「その過程において、帝国はエル・ファシルから採掘されるレアメタルを使用してある最新鋭戦艦を建造していたのだ。エル・ファシル星域にある極秘の基地においてだ」
「・・・・・・・」
「ところが、エル・ファシル星域が奪還されたことにより、その最新鋭艦が敵中に放置されてしまったのだ。ここまで話せば明敏な卿らのことだ、私が何を言わんとしているか、わかるだろう?」
(なるほど、その最新鋭艦とやらを奪還することが今回の任務というわけか、しかし・・・・)

 ラインハルトは手を上げた。

「質問をよろしいでしょうか?」

 シャフトがじろとラインハルトを見た。

「何か?」
「今回の作戦は隠密行動が前提になると愚考いたしますが、ここにいらっしゃる方々は小官を含め、全員艦の艦長です。数艦単位の行動をせよとそうおっしゃるのですか?敵に発見されるリスクは、大きいと思いますが」
「今回の件は是が非でも最新鋭艦を奪還してほしいということである。私が言いたいのはそれだけだ。具体的な作戦行動・立案についてはヴェーデン少将と協議してほしい」
(なんというやつだ。こいつも他の将官同様、命令するだけして後は実働部隊任せということか)

 ラインハルトはあきれたが、それ以上何も言わずに引き下がった。
 そのヴェーデン少将も頼りにならなかった。目的地地点とパスコード、施設の概要等を説明しただけで、具体的な作戦は各艦で決めるか、もしくは艦長同士で協議して決めろと言い残して姿を消したのである。

 残された10人ほどの艦長は憤懣やるかたない様子だった。だが、ラインハルトはその中に今まで接してきた旧知の人を何人か見ていたのである。
 イルーナ・フォン・ヴァンクラフトは当然のこととして、あのハルトマン・ベルトラムが少佐としてここに来ていたのだ。聞けば今もあのアデナウアー艦長のもとにいると言い、彼は中佐として巡航艦の艦長になっていると言った。例のハーメルン・ツヴァイが先日の哨戒戦闘で大破してしまって使えなくなったため、代わりに新しい巡航艦が与えられ、アデナウアー艦長は中佐に昇進していた。そしてハーメルン・ツヴァイの乗組員はそっくりそのまま新しい巡航艦に移乗したというわけだ。

「あの時は卿に迷惑をかけたな。・・・おっと、今は卿は大佐殿だ。失礼いたしましたな」
「いや、そんなことは・・・・」

 ラインハルトは当惑そうに口ごもった。ベルトラムにはあの時の憎悪に満ちた色は微塵もない。彼は彼なりに反省し、今まで壮健でやってきたということなのだろう。

「時に、艦長はご壮健か?」
「あぁ。相変わらず俺に艦の指揮を任せているが、よく下級兵士たちと会話しているよ。それにいざというときや俺の不在には自分で艦の指揮を買って出ている。あの人も変わったよ。卿に出会ってからな。ザイデル兄弟も皆も相変わらず元気だ。今は艦長は折あしく精密検査でな。俺が代わりに来た。・・・なに、心配するな」

 ラインハルトの顔色を見て取ったベルトラムが捕捉してくれた。

「あの時の古傷について定期的に見てもらう必要があるというだけだよ」

 そこにイルーナ・フォン・ヴァンクラフトがやってきた。ラインハルトはベルトラムに彼女を紹介した。ベルトラムもしっかりした彼女の態度に好感を持ったらしい。二人はすぐに打ち解けたようだった。
 周りを見まわすと、他の艦長たちも三々五々話をし始めている。ある者は不安そうに、ある者は憤りを隠さずに、ある者は当惑そうに考え込んで。

 これで本当に大丈夫なのだろうかと、ラインハルトは思った。

「ところで、今回の作戦、卿らはどうする?」

 ベルトラムが話しかけてきた。

「残念だが、足手まといの艦を連れていけば、リスクが大きいと思わざるを得ない。かといって単独任務で行けるかと言われれば・・・・」
「それは無謀だと言わざるを得ないわね。遭難すればそこで終わりなのだから」

 イルーナが言う。ラインハルトも同感だった。
 前回の際には巡航艦ヘーシュリッヒ・エンチェンは単独任務で潜入したものの、満身創痍となり、約1か月間ドックにて補修を行わなくてはならないほどだった。今回の行程は前回よりもさらに同盟領内に侵入することになるため、先の単独任務よりも長期間・長距離になるだろう。

「数艦単位で任務を実行するのがいいかと思う。だが、他人同士ではなく、できれば気心の知れた人間同士で組みたいものだ」

 ラインハルトの言葉にベルトラムがうなずく。

「俺もそう思っていた。・・・・卿には到底かないそうにないが、俺ではだめだろうか」

 ラインハルトは周りを見まわした。イルーナ・フォン・ヴァンクラフトとベルトラムを除けば、他の艦の艦長はどれも知らない顔ばかりで、その力量は不明だ。

「お願いする」
「ありがとう。こちらこそよろしく頼む」
「よろしくお願いするわね」

 3人はうなずき合った。

 今回のラインハルトのシャルンホルストの艦の副長はレイン・フェリルであり、キルヒアイスは航海長として乗り組んでいた。レイン・フェリルもまた、ラインハルトの志を助ける転生者であった。彼女が自己紹介の際に「フィオーナさんやイルーナさんからよく話を聞かされています。私にも協力させてください。」と率直に話し、好感を持って受け入れられたのであった。

 レイン・フェリルは赤い長い髪をまっすぐに伸ばし、美しく澄んだ青い瞳を持つ知的な顔立ちの女性である。いつも物静かで、窓際に座って、陽光と春風を浴びながら読書をする姿が似合うなどとよく言われている。
 彼女ば、あの第五次イゼルローン要塞攻略作戦に置いて、ヴァルテンベルク大将に並行追撃の危険性を指摘した幕僚だった。だが、それはあっさりと一蹴されてしまい、その後彼女はその先見性を認められつつも、不遇の境地にいたのである。
 だが、イルーナ・フォン・ヴァンクラフトの巡航艦の副長になってから、彼女の立場は明確なものとなった。すなわちラインハルト陣営の一人として戦うこととなったのである。
 なお、彼女は前世に置いても正規軍少将として参謀の立場にいた人なので、人を補佐する立場はよく経験していてそつがなかった。

 そのレイン・フェリルが指揮を執り、シャルンホルストの出航準備が整ったのは、翌日の事である。既にイルーナの艦もアデナウアー艦長の艦も、出発準備を完了していて、イゼルローン要塞の外縁部で待機しているはずだった。表向き、今回の特務に従事する者は全員訓練航海に出ると触れ込まれている。


「艦内オールグリーン、発進準備、完了しました」

 レイン・フェリルは長い赤い髪をなびかせて振り返った。

「出航許可を要塞司令部に」

 ラインハルトが艦長席に座ったまま指示する。

「・・・・要塞司令部より入電『貴艦ノ出航ヲ許可スル』とのことです」
「艦を発進させよ」
「了解しました。シャルンホルスト、発艦」

 キルヒアイスが復唱し、それを操舵士が復唱し、シャルンホルストはゆっくりと動き出した。
要塞内部の景色が後方に動き出す。
 こうしてシャルンホルストは、前回のヘーシュリッヒ・エンチェンの単独任務に負けず劣らず困難な長距離航海に乗り出すことになったのである。
 ほどなくしてシャルンホルストは外周に待機していた巡航艦ザイドリッツ・ドライと戦艦ビスマルク・ツヴァイが加わった。アデナウアー艦長の指揮する艦と、イルーナ・フォン・ヴァンクラフトの指揮する艦である。
 そして、ラインハルトのシャルンホルストにイルーナとアデナウアー艦長、そしてベルトラム少佐が乗り込んできた。これから戦略会議を開くのである。

 アデナウアー艦長は、まずラインハルトとキルヒアイスとに一別以来の久闊を嬉しそうに叙した。

「やぁ。二人とも。また大きくなったなぁ」

 それはラインハルトとキルヒアイスを子ども扱いしているのではなく、まるで久方ぶりにあった息子に対する父親のような感慨深い顔だった。

「艦長も、ご壮健で何よりです」

 ラインハルトもキルヒアイスも口々にそう言った。

「いや、私などはもう役に立たんよ。古傷が時折痛むくらいだからな。この航海が終わったら、私はベルトラム少佐に艦を任せて退役しようと思っている」
「艦長が?いや、しかし――」

 まだやれるではないですか、とラインハルトは言いたかったが、艦長の顔を見て黙った。口には出さないが、艦長の身体は壮健とは言えないようだと感じたのである。
 ともあれ、話している時間をそこそこに、すぐに一同は戦略会議室に入って検討を始めた。

「ここからエル・ファシルまでは回廊を通過し、回廊付近の小惑星帯を通過して、直線で行ける距離だ」

 先任はイルーナであったのだが、彼女はラインハルトに指揮をゆだねた。彼女たちの戦略方針からすれば、当然のことである。ラインハルトは一諾し、議長となって指揮を執ることとなった。彼はそう前置きして、

「だが、回廊出口には間違いなく同盟軍警備艦隊が展開しているだろう」
「それについては、大丈夫だと思うわ」

 イルーナが口を開いた。

「イゼルローン要塞から1000隻単位の艦隊が出撃していくのをこの目で見ました。おそらく回廊出口付近にて小規模戦闘にはいる予定だと思うの。それに紛れて侵入すれば問題はないと思うわ」

 前回のヘーシュリッヒ・エンチェンのとった行動をそのまま繰り返すのであるが、戦闘行動中は各艦とも目の前の敵に専念しがちだ。その間隙をぬって突入するのが最もいいだろう。

「同盟の警備艦隊の数は帝国と同じということであればだいたい1000隻程度。敵艦隊が出現すれば、当然同盟側も増援を繰り出して、対応しようとするだろう。穴が開くな」

 と、ベルトラムもうなずく。

「そのすきに、こちらは穴を突破して同盟領に侵入する。問題はエル・ファシル星域に入ってからの事だが、こればかりは向こうの警備部隊の数、展開などの様相がわからない以上、ここで議論していても始まらないだろう」

 と、ラインハルト。

「それはそうですが、少なくとも基本方針はお決めになった方がよろしいのではないでしょうか?」

 レイン・フェリルが提案した。

「フロイレイン・レインの言うことはもっともだ。まず、確認しておくが・・・・」

 ラインハルトは出席者を見まわした。

「今回の我々には時間がないということだ。いつ最新鋭艦が敵に発見されるかわからない状況であり、かつ、敵の領内に長くとどまることほど危険なことはない。隠密行動をして時間を食うのは割に合わない。そこで、できる限り火急的速やかに最短距離を通って、接近し、目的地にたどり着く。これを基本方針とする」

 一同はうなずいた。

■ 巡航艦ザイドリッツ・ドライに戻るシャトルにて
■ アデナウアー艦長
 いや、ラインハルトとキルヒアイスはまた随分と大きくなったものだ。二人を見ているとまるで自分の息子と接しているような気持になる。これはいささか感傷的であったかな。
 残念ながら、私自身はこのような作戦に従事できる器量も体力もない。にもかかわらず、特務を受けてしまったのは、ここまで本艦がそこそこの武勲を建ててきたためだ。だが、それは私の力ではなく、ベルトラム少佐や艦の乗組員みんなの力によるものだ。乗組員たちは張り切っているが、今回の任務は今までの戦闘とはまた色が違うものだ。
 果たして本艦が無事に戻れるか・・・・はなはだ不安なところではある。それに、私自身あまり健康に自信がなくなってきた。ラインハルトは艦長もご壮健でなどと言っておったが、なに、自分の身体は自分が一番よく知っておるのだよ。
 これが私の最後の任務となるだろう。最新鋭艦というが、私にとってはそのようなものはどうでもいい。帝国が重要視すべき最も価値のある一番のものは、ほかならぬ人の命なのだ。兵士、民間人、女、子供、老人、すべての命なのだ。そう、そして今ここにきている乗組員たちも。
 私の命に代えても全員無事に送り返したい。大神オーディンよ、どうか力を与えたまえ。




 3艦は隊列を整え、単縦陣形を取って一路同盟領エル・ファシルを目指して旅立っていった。


 自由惑星同盟 統合作戦本部――
■ シャロン・イーリス大佐
 前回のヘーシュリッヒ・エンチェンの単独航海の際に、私が前線に不在だったのは、痛かったわ。ハーメルン・ツヴァイの時の様に、自ら指揮を取れればともかく、何の関係もない後方からの、しかも一介の大佐からの指示を前線部隊が聞くはずもない。

 そんなわけで、ヘーシュリッヒ・エンチェンの撃沈は断念したけれど、今回はそうはいかないわよ。

 改革が始まった頃、私はブラッドレー大将に一つの策を献策したわ。自由惑星同盟の情報部員をイゼルローン要塞に潜入させ、情報収集に当たらせるようにすべき、と。過去今までそれを試みなかったわけではないのだけれど、之と言った成果が出てこないのは、要塞の厳重な警備のため。
 だから私は定時連絡をシャットアウトさせ、来るべき時のために、情報連絡手段のみを確保させて、潜入させるように言ったの。つまりは、普段は全くのただの兵士に過ぎないわけだわ。
 ブラッドレー大将はどちらかというとそういう影の策を好まない方だけれど、最終的には承知してくれた。わかっているわ、聡明な方であっても向き不向きがあるというのは。けれど、曲がりなりにも私の策を承知してくれたのだから良しとしましょう。

 先年エル・ファシル星域の会戦の際、拿捕した残存艦隊に、偶然ある技術士官が乗り込んでいた。型どおり尋問が行われる中で、どうやら帝国がエル・ファシル星域に秘密基地を築き上げているとの情報を白状していたの。
 でも、それは欺瞞だった。白状したいくつかの基地は既にもぬけの殻。誰もいなかった至難の痕跡もなかったわ。事前に察知して撤収したというわけね。

 ここまではいいとしましょう。問題はそこからよ。

 イゼルローン要塞に潜入させている同盟軍情報部の一人が独断で通信してきたの。けれど、その判断はこの場合是とすべきだわ。もっともその情報部員はすぐ後で処刑されてしまったらしく、通信は一切できなくなったけれど。
 彼によれば、10隻ほどの艦艇が演習のためと称して同盟領内方面へ出航したとのこと。完全ではないにしろ、編成リストを添付してきていたわ。普通ならば何の問題もないでしょう。ところが、ほぼ同時期に1,000隻の哨戒艦隊が出発しているという情報も彼が報告してきたのよ。これは戦闘を想定した集団ね。

 おかしいでしょう?演習であれば非戦闘区域を選ぶのが普通なのに、なぜ戦闘艦隊と同時刻に、それも同じ方面に出発するのか。

 何かあるに違いないわ。同盟側に。そして少数の編成ということは、ヘーシュリッヒ・エンチェン同様潜入するとのこと。すなわち、この同盟領内に。そして、先年の技術士官の証言が私の中で結びついた。

 すなわち、エル・ファシル星域には、まだ未発見の敵の基地があり、何か重要なものを置き忘れていたということなのだと。

 それだけなら私は動かなかったかもしれない。だけれど、情報部員が最後にもたらした艦隊の編成リストを見て私の気が変わった。口の端に笑みが浮かぶ。

 ラインハルト・フォン・ミューゼル大佐、そしてイルーナ・フォン・ヴァンクラフト大佐の名前が出ていたから。やはり予測通りイルーナは帝国に生まれていたか。好機だわ。

 見ていなさい、二人とも。ハーメルン・ツヴァイの時は失敗したけれど、今度こそ地獄に叩き落としてあげる。
 
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