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提督がワンピースの世界に着任しました

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第10話 いざこざと新しい艦娘

 海域偵察をあらかた終えて、今度は付近の島に上陸して調べる事にした妙高と天龍、吹雪の3人の艦娘達は、その地上での調査の途中でちょっとした問題に遭遇していた。


 3人が降り立った島は神威鎮守府がある島よりも大きく、どうやら人も住んでいるという有人島だった。しかも、島の幾つかの場所には村もあって生活が営まれているようで、島の中で一番大きな村になると、二千もの人間が住む中々な大きさの村も有るようだった。

 上陸した3人は、さっそく島民の情報を集める目的で島の中で一番の大きさを誇る村に向かった。


 目的の村に無事到着して、しばらく歩いて見て回っている途中に天龍はある店を発見した。それ店とは、普段は村の人間だけが利用しているだけの店なのか、店先に吊られた酒場を示す看板が無かったら見逃してしまいそうな、ひっそりと佇む小さな酒場だった。

「おっ、あそこに酒場が有るみたいだ。行ってみようぜ」
 天龍はその酒場を指差して、一杯飲もうと仲間に提案した。

「そうですね、聞き込みのついでに、一度休憩しましょうか」
「そうこなくっちゃな!」
「二人共、お仕事中にお酒なんてダメですよ! まだ任務中なんですから」
 天龍の提案を聞いた妙高は、酒場の主人なら情報をいっぱい持っていそうだからと考えて、聞き込みに行こうという理由を盾にして、仕方がないから一杯だけ付き合おうと天龍に賛成しつつ酒場に向かっていった。

 ご機嫌で酒場へ向かう天龍と妙高に向かって、真面目な吹雪は任務中ですよ! と正論で諌めつつ後を追いかけた。


 艦娘たちが巻き込まれたちょっとした問題とは、その酒場の出入り口で起こった。


 天龍は、逸る気分を抑えきれずに妙高と吹雪のを置いてドンドンと早足で進んで、2人よりも先に酒場に入ろうとした。しかし、その反対方向である店の中から、天龍の身長の2倍はありそうな巨漢の男が下品な足音を立てて、既に飲み終えた後なのか酒の匂いを身体から漂わせつつ店を出てこようとしていた。
 
 つまり、天龍と巨漢の男の2人が出入り口で丁度鉢合わせになり、ぶつかりそうになったのだった。


「おっと、スマン」
 天龍は、店から出てきた男を避けて一旦入り口から身を引いてから道を譲り、男にぶつかりそうになった事をすぐに謝った。

「あ゛ぁ。そんなもんで許せるかよ!」
 謝罪した天龍に向かって、いきなり威嚇するように大声を出して因縁をつけてきた男。咄嗟に謝って道を譲ってくれた天龍に対して、巨漢の男は高圧的な態度で返した。

 厄介そうな男に絡まれたとうんざりした天龍だったが、面倒事はゴメンだと思いもう一度謝った。

「だから、スマンって言ってるだろ」
「何だッ! その謝り方は! 俺様を誰だと思っている!」
「……あー、うぜえ」
 天龍は二度も謝ったのに、大声で喚き散らす男の態度にウンザリして、つい本音をこぼしてしまった。

 巨漢の男は、天龍の小さく漏らした声を耳ざとく聞きつけて、額に血管が浮き出るほどに怒りを増幅させていった。
 そして巨漢の男は、いつもの通りに暴力で押さえつけて言うことを聞かせてやろうと反射的に考えて、右手を大きく振りかぶっていた。

 巨漢の男は、振り上げた右手の狙いを目の前に立っている天龍の頭に定めた。

「生意気な女だッ!」
「おっ、と」
 天龍に目掛けて振り下ろされた巨漢の男の右手は、ものすごいスピードとパワーを持っていた。一般人ならば、ましてや女の子ならば頭蓋骨が陥没して意識不明の重体に陥るだろうと容易に予想できるような、そんな暴力だった。

 しかし、天龍の頭に当たったと巨漢の男が確信した次の瞬間、大岩が砕け散ったと思わせるような大きな音がした。
 後は、巨漢の男がうつ伏せになって地面に倒れていた。しかも、気絶して完全に意識を失っている状態で。

「何事だっ!」

 この時になって、ようやく酒場でダラダラと酒を飲んでいた巨漢の男の仲間たち10人が、出入り口に視線を向けた。そして、地面に倒れ伏している仲間である巨漢の男と、その近くで面倒くさそうに巨漢の男を見下ろしている天龍に気づいた。

「何だ、テメェ!?」
 10人の中で、一番厳つい顔をしている男がドスの利いた声で天龍に問いかけた。普通の女子ならば、それだけで泣き出してしまいそうなほどの状況だったけれど、天龍の心には特に動揺は無かった。

 天龍は問いかけられた質問を答えて、無駄だとは思いつつも一応成り行きを説明しようとした。

「オレの名は天龍。で、なんでこうなっているかって説明すると、コイツが殴りかかってきたから、正当防衛しただけだよ」
「あぁ!?」「俺達を舐めてんのか!」「詫び入れろや!」

 天龍の言い様や余裕綽々な仕草に、酒場に居た10人が全員一気にヒートアップして、手に持っていたジョッキを机や床に叩きつけて、全員席から立ち上がった。

 天龍はヤレヤレと思いつつも、どうやって事態を収めようか考えていた。せっかく情報収集の為に寄った酒場で、問題を起こしてしまった上で全員を打ちのめして解決したら、危険人物と見なされて村から追い出されてしまうかも。
 そうなると、情報収集がうまく行えない。じゃあ、一旦ほとぼりが冷めるまで村から逃げてしまおうか。村民に顔を覚えられていたら、当分近寄れないかもしれない。

「天龍! 何やってるの……」
「ち、違うんだって! コレはだな……」
 妙高と吹雪の2人が、先に酒場に向かっていった天龍に追いついた時、酒場の出入り口で男を気絶させていた。面倒事を起こしてしまったと考えた妙高は、呆れた顔をして天龍を見つめた。

「ああああっ!」

 天龍が、妙高と吹雪にどういった理由でこうなったのかを説明しようとした時、出入り口から一番近くで飲んでいた天龍に向かって奇声を上げながら奇襲を仕掛けようと男が飛び出してきた。

 天龍は直ぐに飛び出してきた男に対応した。そして、酒場の出入り口に気絶してしまっている人間が2人に増えた。

「今度は、その腕、切り落としてやるぞ」
「なッ! 山賊である俺達に逆らう気かァ!?」

 山賊のリーダーであった男は、天龍のあまりの早業に愕然とした後、すぐに腰に下げていたサーベルを抜き放って凶暴性を見せつけて天龍を怯ませようと、威嚇するように抜いたサーベルを天龍に向けた。

「フフフ、弱い犬ほどよく吠える。テメェはオレが怖いのか?」
 だが、天龍は刃を向けられても余裕の笑みを浮かべていて、怖がる様子は一切無い。

「ッッ! 野郎ども、一斉に掛かれッ!」
 まだ天龍を戦い慣れした少し強いだけの女性だと侮っていた山賊のリーダーは、残り全員で力を合わせて一気に仕掛ければ、少し強くても勝てるだろうと楽観視していた。

 だが、艦娘である天龍に山賊全員がまとめて掛かってきても、万に一つも勝ち目が無いほど力の差が有った。

 それは当然の事だったのかもしれない。山賊たちは、海に出る勇気も能力も無くて、島の中で山賊になり小さな範囲でしか力を示してこなかった。一方、歴戦をくぐり抜けてきた記憶を持ち、人間とは隔絶した圧倒的な能力を持つ艦娘達に敵うハズがなかった。

 そして、3分も経たないうちに、酒場に居た人たち全員が返り討ちにされて気絶することになった。


***


「アタシは軽巡、北上。まー、よろしく」

 妖精さんの発案で、開発資材を使わず遠征によって手に入れてきた未知の果物を使った建造方法で生まれてきた新しい艦娘。建造されて最初の挨拶なのに気だるげな口調、球磨型3番艦である北上だった。

 彼女は声にやる気が無く、ダルそうな様子からは戦闘には向いて無さそうな印象を受けるけれど、その印象とは裏腹に、練度を上がれば重雷装巡洋艦というとても強力な艦娘に改装できる、という特徴を持った艦娘だというような記憶が有った。

「この神威鎮守府で提督を務めている平賀だ。よろしく頼む、北上さん」
「提督は真面目だねぇ。アタシの事は呼び捨てでいいよ」

 北上は表情をにへらっと和やかな笑顔にしながら、親しみやすい雰囲気を醸し出して呼び捨てで名前を呼ぶようにとの許可をくれた。


 新しく建造された北上にも、神威鎮守府の現状について詳しく説明し情報共有を行った。

「なるほどねぇ。なんだか、とっても面倒な事になってるみたいで大変だねぇ」
 神威鎮守府の現状や、俺達の置かれている状況を聞いてもマイペースさを崩さない北上。良いように捉えれば、余裕を崩さず頼もしいと言えるだろう。逆に悪く捉えれば、北上は現状を他人事のように感じているのだろうか。

 そんなことを考えながら、もう一つの解決しなければならない問題について話す。

「もう一つ、懸念がある」
「うん?」
「北上。君は、通常の建造、開発資源を使った建造ではなくて、遠征で手に入れてきた未知の果物を使って建造されたんだ。通常の建造とは違う方法で生み出された君に、何か不具合が起きていないかが心配だ」
「なるほどねぇ。……今のところは、大丈夫みたいだよ」

 北上は自分の身体のあちこちに手を当てて簡単に調べてみた後、大丈夫だし問題ないと言ってのけた。確かに、見た感じからも不自然な所は見当たらない。天龍や妙高、加賀や長門が建造された時と同じように変わりがなく、本当に問題は無さそうな様子だった。

 ただ、やっぱり何か見逃しているかもしれないと心配が消えなかったので、建造を担当してくれた妖精さんと、秘書官を務めてくれている加賀に手伝ってもらって、2時間使って出来る限り北上の精密検査をしてみた。 

 北上さんは心配し過ぎだよと言っていたけれど、念には念を入れて、そして今後のためにも問題は出来る限り見逃しておきたくなかったから、彼女の検査を強行した。

 結果的には、北上さんには問題が一切無かったようで安心することが出来た。そして、通常の建造と違いなく、未知の果物を使った建造も可能であることが分かった。

「北上、今のところは大丈夫そうだけれど、何か違和感が出てきたり体調が悪くなったと感じたら、すぐに報告してくれ」
「まぁ、わかったよ提督。むしろ、なんだか身体の調子が良いみたいだし、心配しなくて大丈夫だって。記憶と違って、なんだか結構やる気が漲ってる、って感じがするよ」

 北上の声にあまり覇気を感じないけれど、本人曰くいつもよりもテンションが上がっているらしい。

 こうして、神威鎮守府に6人目の艦娘を迎えることが出来た。そして、偵察任務から戻ってきた妙高達から周辺の島に関する情報の報告を受けて、今後の新たな目標が定められる事となった。 
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