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夢値とあれと遊戯王 太陽は絶交日和

作者:臣杖特
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レベル5 奇妙な累加をした悪魔

(あー、まったく)
  哀手(アイデ) (モク)は確保した地下鉄の席で、こっそりため息をついた。
 樢は友人達と遊びに、少し遠出をしているのだが、しょっぱなから面倒ごとが起きていた。
 ついてくると言って聞かない老伍路(オイゴロ) 夢値(ムチ)についてこないよう何回も言い聞かせたら、約束の時間ぎりぎりになってしまったのだ。
(確かにサンサーヴは大事だけど……)
 と、心の中でぶつぶつ呟いていると、
「!?」
 ふと、何かの気配を感じた。こっそりと、潜むような気配。五感のどこにどれだけ触れたかは分からないが、確かに樢の精神は異常を探知していた。
(気のせいだといいんだけど……)
「サンサーヴ。間違い無い」
 気のせいではなかった。
 地下鉄が停まった。ここは目的の駅ではないが、突然誰かに腕を掴まれる。
「えっ、」
 顔を上げると、男が、きつい目で樢を見つめていた。
「え、えっと……」
「君はサンサーヴを持っているな。降りてもらう」
 仕方が無いので彼の言うまま、地下鉄の扉をくぐった。
 初めて降りた駅だった。照明が弱く、人の為の駅ではないのではと一瞬錯覚してしまう。
「……すまない。強引な手をとってしまった」
 そのハンターらしき青年がまず初めに行ったのは、謝罪だった。
「えっ、……そっ、そうですよね。まず」
 あまりにもまっとうなハンターらしき人の謝罪に、つい失礼な返し方をしてしまった。
「俺は沓査(クツサ) (ケン)。君にも予定はあっただろうが、時間を少し頂く」
「えっと、私は哀……」
「いや、君の名前はいい。覚えたまま、帰りたくない」
「ご、ごめんなさい」
「いや、無理をさせたのは俺だ」
 歳は成人をしているかどうかといったところか。長身で細身寄りの中肉、しっかりとした物言い、とても人から物を強奪するような人には見えなかった。
「それで、サンサーヴを渡してくれないか」
「それは……」
 まず何よりハイと渡すことが出来ない。
「君にも何かしら事情はあるのだろう。サンサーヴは、簡単に手に入る物じゃないからね。だが、力ずくで奪わせてもらう」
 そう言って、研はデッキを構えた。
(この人……わりとまともだ!!)
 樢は少し感動した。
 まともな人間は遊戯王カードを構えながら人の物を強奪しようとはしないのだが、それらを差し引いても、床から突然現れたり窓ガラスを割りながら現れたりしないだけで随分まともに見えた。まともじゃないハンターなら、場所を変えようと言って地下鉄の上で決闘ぐらいさせるだろう。
「と言っても、そのことなのですが、私デッキ持ってなくて……」
「そうか……なら仕方無い」
「そうですよねー。デュエル出来ないなら仕方無いですよねー」
 樢なりに、ハンター対策を考えていたのだ。そもそも決闘しなければ負けることは無い。
 そう安堵していた樢がふと研の方を見ると、研の左手の周りに灰色の靄が漂っていた。
「え?」
 照明が暗いだとか、埃が照らされているとか、そんなよくあることでは片付かない程それは異様だった。
「決闘出来ないのなら、即座に強行手段に移させてもらう」
(もしかして、逆効果だった?)
 研はゆっくりと左拳を引いた。その左手に灰色の靄が、まるで動物の足か何かを形作るように集まる。
(え、待ってちょとこれなんか来るのグーと届かない避け、避けるてもそれじゃまた、また殴るの?ずっと殴るの?)
 樢は明らかに腕1本以上ある間合いからでもパニックになっていた。
「シュ!」
 研が拳を突き出すと、灰色の靄は明らかに目的を持たされて飛び出してきた。
「ひぃやっ!」
 樢は思わず持っていた物で顔を庇った。
 ……
 それから、何も起こらなかった。起こらなかったのだ。
「……え?」
 ゆっくりとかばんを降ろすと、目の前には、
「間に合いました」
 デッキを構えた夢値がいた。
「夢値!」
 樢は思わず叫んだ。
「大丈夫ですか?」
 夢値は振り返って樢と顔を合わすと、にっこりと微笑んだ。
「う、うん!」
「こっそりつけていた甲斐がありました」
「……」
 樢の表情が固まった。
「大丈夫ですよ、いざという時には、樢さんがぼくと縁の薄い一介のストーカーの被害者になるように、スーパー不審者変身コスチュームを用意しておきましたから。これで樢さんがサンサーヴを持っていると勘ぐられる危険性を減らせます。更に究極の手段として、樢さんが樢さんと見せかけて樢さんじゃなくなるように偽樢さんの等身大ポスター等もありましてそれから……」
「………………助かったことには、感謝しなきゃね。ありがとう」
「どういたしまして」
 夢値は晴れやかな表情をしている。
「……そうか」
 地下鉄のホームに、驚く程落ち着いた声が渡っていく。
「次は、君と戦うのか」
「はい」
 夢値は振り返って、研と対峙した。
「「決闘(デュエル)!!」」


「後攻を頂きます」
「そうか。ならば先攻をもらう。俺は《終末(しゅうまつ)騎士(きし)》を召喚」

終末の騎士 攻1400

「召喚に成功したので、効果発動。デッキから闇属性の、《トリック・デーモン》を墓地に送る。そして《トリック・デーモン》の効果発動。効果で墓地に送られたことにより、デッキからデーモンと名の付く、《ナイトメア・デーモンズ》を手札に加える。更に、《おろかな埋葬(まいそう)》を発動。デッキから再び《トリック・デーモン》を墓地に送る。そして再び《トリック・デーモン》の効果を発動。デッキから《戦慄(せんりつ)凶皇(きょうこう)-ジェネシス・デーモン》を手札に加える」
「《ナイトメア・デーモンズ》と《ジェネシス・デーモン》……」
「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「……ぼくのターン、ドロー。デッキの上から10枚をゲームから除外して、魔法カード、《強欲(ごうよく)貪欲(どんよく)な壺》を発動します。2枚ドロー。そして、《エキセントリック・デーモン》を、(ペンデュラム)ゾーンに置きます。そして、《エキセントリック・デーモン》のP効果を発動します。このカードとあなたの、ぼくから見て右側のセットカードを破壊します」
「そういえば、名前を名乗っていなかったな」
「どんな決闘するかで識別するので大丈夫です。ぼくの名前は、」
「君の名前はいい。思い出にしたくない。《エキセントリック・デーモン》の効果にチェーン」
 チェーンで発動されたのは、標的となっていた右側のカードだった。
「罠カード、《デーモンの雄叫び》。500ライフポイントを支払い、墓地のデーモンと名の付く、《トリック・デーモン》を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズに破壊される。勿論、それによって破壊された《トリック・デーモン》の効果で、デーモンと名の付くカードをサーチすることは出来る」

研 LP8000→7500
トリック・デーモン 守1000

(デーモンと名の付いた?カードを何枚も手札に加えてるけど、何か企んでるのかしら?)
 樢は遊戯王に明るくないが、複数枚のカードが噛み合えばとてつもないことになることは、夢値の決闘で分かっていた。
「……次にサーチするのは、《デーモンとの()()き》ですか?」
「いや、それはもう持っている。サーチするのは、《デーモンの(おの)》だ」
「成る程。そこまで徹底しているのですね」
(……?)
 樢には何が何やらだった。

「まず、妥協召喚した《ジェネシス・デーモン》を《ナイトメア・デーモンズ》のコストに充てることで、《デーモンとの駆け引き》の発動条件を満たしつつ《デーモンの駆け引き》によって現れる《バーサーク・デッド・ドラゴン》の攻撃対象を確保します」
 夢値の、恐らく樢に向けた解説が始まった。
「そして《ナイトメア・デーモン・トークン》3体を《デーモンの斧》を装備した《バーサーク・デッド・ドラゴン》で1回ずつ攻撃すれば、9900のダメージを与えることが出来るのです」
「…………えっと、ごめん」
 妥協召喚の時点で分からなかった。
「要は、『デーモン』カードが4枚揃うとぼくが負けます」
「え?」
「それで今3枚揃ってるそうです」
「え!?」
「ぼくのターンの終わりに、もう1枚手札に揃います」
「えぇ!?」
 樢が思っていたより、一刻を争う事態だった。
「妹の、芽里(めり)の為に、サンサーヴは渡してもらう」
 研の目には闘気がこもっている。
「サンサーヴを、どう使うつもりですか?」
 夢値は尋ねた。
「芽里はサンサーヴを求めて、南極をさまよっている。俺がサンサーヴを手に入れれば、芽里も家に帰る気になるだろう」
「な、南極?」
 樢は突然の巨大なスケールについていけなかった。
「南極の広さを恨むわけにはいかない。悪いが君達には、俺の復讐の捌け口になってもらう」
「それは南極に返すとして。《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚します」

EMドクロバット・ジョーカー 攻1800

「そして、効果を発動します。デッキから『EM』モンスターを手札に加える事が出来るので、《EMパートナーガ》を手札に加えます。フィールド魔法、《ブラック・ガーデン》を発動します。そしてぼくは、スケール3の《EMパートナーガ》とスケール8の《EMオッドアイズ・ユニコーン》で、ペンデュラムスケールをセッティングします。これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能。ぼくは、レベル4《魔神アーク・マキナ》とレベル6《EMカレイドスコーピオン》をP召喚します」

魔神アーク・マキナ 攻100
EMカレイドスコーピオン 守2300

「モンスターが特殊召喚されたので、《ブラック・ガーデン》の効果が発動します。特殊召喚したモンスターの攻撃力を半分にして、《ローズ・トークン》を特殊召喚します」

ローズ・トークン 攻800
魔神アーク・マキナ 攻100→50
EMカレイドスコーピオン 攻100→50/守2300 

「《パートナーガ》のP効果を、《アーク・マキナ》を対象に発動します。《アーク・マキナ》の攻撃力を、ぼくのフィールドの『EM』カードの枚数×300、つまり1200ポイントアップさせます」

魔神アーク・マキナ 攻50→1250

「そして、《カレイドスコーピオン》のモンスター効果を、《アーク・マキナ》を対象に発動します。これで、《アーク・マキナ》は全てのモンスターに1回ずつ攻撃出来ます」
「……《アーク・マキナ》で《ローズ・トークン》を戦闘破壊してダメージを与えることで、通常モンスターを特殊召喚する。通常モンスターを特殊召喚したことにより、《ローズ・トークン》が特殊召喚される。《アーク・マキナ》は《カレイドスコーピオン》の効果によって全てのモンスターに1回ずつ攻撃出来るようになっているから、新しく特殊召喚された《ローズ・トークン》に《アーク・マキナ》は《ローズ・トークン》を戦闘で破壊してダメージを与えることが出来る。これで最初に戻るというわけか」
「その通りです」
 夢値は大きく頷いた。
「そして《アーク・マキナ》の効果で特殊召喚される通常モンスターですが……安定したスケールの生成には、レベル5以上の通常モンスターならなんでもサーチ出来る《召喚師(しょうかんし)のスキル》は欲しいです。更にこのデッキには必然的に闇属性のモンスターが多くなるので、《(やみ)誘惑(ゆうわく)》は入れたいところ。そしてなにより、ぼくが受ける戦闘ダメージを抑える為に、攻撃力1600未満でありながら限りなく攻撃力の高いモンスターが好ましいです」
「……」
「バトルフェイズ。《アーク・マキナ》で、《ローズ・トークン》を攻撃します」

魔神アーク・マキナVSローズ・トークン
      攻1250VS攻800
研 LP7500→7050

「そして、《アーク・マキナ》のモンスター効果を発動します。手札から特殊召喚するのは……」

モリンフェン 攻 1 5 5 0

「これから先は、沓査さんの言った通りです。《モリンフェン》が特殊召喚されたので、《ブラック・ガーデン》の効果が発動します。《モリンフェン》の攻撃力が半分になり、ローズ・トークンが特殊召喚されます」

モリンフェン 攻1550→775
ローズ・トークン 攻800

「そして、《モリンフェン》で、ローズ・トークンに攻撃します。戦闘に負けて、《モリンフェン》は破壊されます」

モリンフェンVSローズ・トークン
    攻775VS攻800
夢値 LP8000→7975

「そして、《アーク・マキナ》で新たなローズ・トークンに攻撃します」

魔神アーク・マキナVSローズ・トークン
      攻1250VS攻800
研 LP7050→6600

「戦闘ダメージを与えたので、墓地から《モリンフェン》を特殊召喚します」

モリンフェン 攻1550

 夢値と研のライフポイントは少しずつだが確実に削れていった。だが、ライフポイントが減る早さは、研の方が明らかに早い。ループ1回で、夢値がライフポイントが25削れるのに対し、研のライフポイントは450削れるのだから当然である。
「これで最後です、《アーク・マキナ》で《ローズ・トークン》を攻撃します!」

魔神アーク・マキナVSローズ・トークン
     攻1250VS攻800
研 LP300→-150


「サンサーヴは日本にある。そう芽里に伝えれば、あいつも帰ってくるだろう」
 カードを片付けながらそう言う研は、闘いに負けながらも曇っていなかった。
「……老伍路 夢値です」
 夢値が唐突に名乗り出した。
「え!?」
「ほら、樢さんも自己紹介して下さい」
「ぇぇ、えっと、哀手 樢です」
「またいつか、遊びに来て下さい。いつでも歓迎しますよ」
 夢値はにっこりと微笑んだ。
「……あぁ。その時は、芽里と2人だ」
 研も、口許を緩めた。
「タッグデュエルですか?いいですね。というわけで、頑張って下さいね、樢さん」
 夢値は樢の肩をポンと叩いた。
「え?私?」 
 

 
後書き
ちなみに後で考え直すと、《モリンフェン》より《邪剣伯爵》の方が良かったかもしれない。
※追記。モリンフェンは孵化でカレイドスコーピオンになれるので、邪剣伯爵とは差別化を図れました。おめでとう!いやマジでそれなら邪剣伯爵よりモリンフェンの方が良いわ。
1話にまとめる為に茶番バッサりカットしたせいでいつにも増して整合性が取れてないかもしれないので、暇だったら修正点とか探してみて指摘して下さい。 
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