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ダンディズム

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4部分:第四章


第四章

 そうしてだ。課長は孝宏にさらに話した。
「さて、ではいよいよだよ」
「いよいよとは」
「今度の日曜辺りかな」
 楽しげに微笑みだ。課長に話す。
「あの娘が真価を見せるよ」
「真価ですか」
「そう。それを君に見せるよ」
「何か話が大きくなってきましたね」
「別に大きくはないさ。ただね」
「ただ、ですか」
「君も私達と同じ道を歩んでいるのだな」
 微笑みはだ。実に優しいものだった。その微笑みで孝宏に言うのである。
「いや、いいことだ」
「無気味に感じるんですけれど」
「無気味だと思うかい?」
「課長の言い方がどうにも」
「今はそう思ってもやがてはだよ」
「そう思わなくなるっていうんですね」
「その通り。まあ君にとって悪いことじゃない」
 それは確かだともいうのだ。ただし課長は多くを話さない。
 そしてだった。実際にその日曜日にだ。孝宏は英美里に連れられてだ。
 八条百貨店の紳士服コーナーに案内された。その落ち着いた気品のある店に連れられてだ。
 彼はだ。妻にこう言われたのである。
「孝宏君の背だとね」
「僕の背だと?」
「それにそのスタイルだと。前から見てたけれど」 
 そのうえでだ。どうかというのである。
「何着かいい服があるから」
「あれっ、スーツも君が」
「そうよ。選ばせてね」
「うん、それじゃあ」
 何が何なのかあまりわからないままだった。彼は妻に言われるままだ。
 彼女の出して来た服を次から次に試着してみる。そうして三着程買ったのだった。
 そしてそれ以外にもだ。英美里は彼にフロックコートや冬用のマフラー、そうしたものまで買った。そうしたものを全て買ってからだ。孝宏は彼女に尋ねた。
「まさかフロックコートまで買うなんて」
「思わなかったのね」
「何かキザじゃないかな」
「今の孝宏君だと別にね」
「キザじゃないんだ」
「むしろフロックコートでないと駄目なのよ」
 英美里は孝宏を見上げて笑顔で話す。
「ああしたのでないとね」
「けれどフロックコートっていうと」
「あれよね。貴族みたいだっていうのよね」
「欧州のね。ああした感じだよね」
「それは当然よ。何故ならね」
 ここでだ。英美里もいう。
「フロックコートは軍服からなのよ」
「軍服からできたんだ」
「スーツ自体がね」
 そうだったというのだ。
「ブレザーだって元はそうなのよ」
「へえ、そうだったんだ」
「そう。ブーツもね」
 英美里は今度はそのブーツに対しても話した。
「そうだったのよ」
「ああ、ブーツはわかるけれど」
「意外だった?ブレザーとかフロックコートは」
「そうよ。トレンチコートは知ってるからし」
「あれね。僕も一着持ってるけれど」
 サラリーマンの鎧と言ってもいい。特に冬は。
「あれもなんだ」
「軍服からなのよ。軍人さん達が塹壕の中で防寒、防水で着ていたのよ」
「トレンチ、そうだね」
 ここで気付いた孝宏だった。その言葉からだ。
 
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